イベントレポート
Slack Frontiers
Slackは「イベント・ドリブン・エンタープライズの基盤となる」バターフィールドCEOが開発方針を表明
非同期のビデオ/オーディオでコミュニケーションする新しいツールも予告
2020年10月8日 12:55
コラボレーションツール「Slack」を展開する米Slack Technologiesは、同社の年次イベント「Slack Frontiers 2020」を、米国時間の10月7日~8日(日本時間の10月8日~9日)に開催している。例年は米国のサンフランシスコで行なわれ、その後、他の地域でも開催されるというリアルイベントとして開催されていたSlack Frontiersだが、今年はオンラインで開催されることになり、米国時間で最初に行なわれたあと、豪州時間や欧州時間といった他のタイムゾーンでも開催するスケジュールになっている。
米国時間の7日9時(日本時間の8日1時)からは、Slackの創始者でCEOのスチュワート・バターフィールド氏による基調講演が行なわれた。この中でバターフィールド氏は「Slackの次世代のプラットフォームはイベント・ドリブン・エンタープライズとでも呼ぶべき考え方に基づいて設計されていく。Slackの中でさまざまなことができるようになり、Slackを媒介にしてそれらのソフトウェアから多くのことを引き出すことが可能になる。Slackは2%のソフトウェア投資で、残りの98%の乗数の価値を引き出すことができる」と述べ、Slackが企業活動で発生するさまざまなイベントを、自動だったり、効率よく処理していくプラットフォームを目指して今後の開発を行なっていくと表明した。
オンライン開催になった「Slack Frontiers 2020」、参加者は約10倍に
Frontiersは、Slackが毎年開催している年次イベントで、同社の顧客や開発者などを対象として開催されている。例年、Slackの新しい機能を発表する場としても利用されており、基調講演やそのほかのセッションなどでそうした新機能などが説明される(なお、今回のFrontiersで発表された新機能に関しては、10月7日付関連記事『Slack、「従業員の頑張りを見える化」できる新機能などを発表』にまとめているので、そちらをご参照いただきたい)。
例年のFrontiersは、同社の本社がある米サンフランシスコでまず開催され、その後、日本や欧州など他の地域で開催されるという仕組みになっていた。しかし、今年に関しては新型コロナウイル感染症(COVID-19)の感染拡大により、グローバルにそうしたリアルイベントを行なうことが難しくなっており、オンラインイベントに変更して開催されることになった。
ただし、ご存じの通り、米国と日本は時差があり、同社CEOのスチュワート・バターフィールド氏の基調講演が行なわれたサンフランシスコ時間の7日9時は、日本時間の8日1時で、日本時間で働いている社会人にはなかなか参加しづらい時間だ。そこで、同じ内容のイベントが時間をずらして行なわれるようになっており、例えばバターフィールド氏の基調講演は、日本時間の8日7時からも行なわれた(もちろん、いずれの回も事前に録画された内容が流されるということだ)。
なお、多くの講演やセッションは、1日後などにオンデマンドでも公開される予定だ。Slackによれば、今回事前に登録した参加予定者は1万5000人を超えており、昨年のリアルイベントの約10倍になっているという。
Slackの今後は「イベント・ドリブン・エンタープライズを実現するプラットフォーム」
バターフィールド氏の基調講演では、Slackの基本的な方針などが説明された。バターフィールド氏は「Slackの次世代のプラットフォームはイベント・ドリブン・エンタープライズとでも呼ぶべき考え方に基づいて設計されていく。Slackの中でさまざまなことができるようになり、Slackを媒介にしてそれらのソフトウェアから多くのことを引き出すことが可能になる」と述べ、Slackの今後の開発の方向性は「イベント・ドリブン・エンタープライズを実現するプラットフォーム」だと説明した。
Slackは、元々はグループウェアやチャットツールなどを統合したコラボレーションツールとしてスタートしている。Slackは「チャンネル」という考え方を導入し、企業や組織の中に部や課のような細分化された組織があるのと同じような仕組みを、デジタルの世界で実現していることがユーザーに評価されている。また、従来のそうした部や課では実現できなかったような、そういう縦割りの組織を超えたつながりを実現したりすることができるため、企業内でのコミュニケーションが活発化するのだ。
しかし、現在のSlackはそうしたコラボレーションツールを超えて、エンタープライズで使われる他のITツールとITツールを結ぶハブのような役割を果たしている。例えば、Microsoft 365や(G Suiteからブランドが変更された)Google Workspaceとの連携ツールをSlackでは標準で提供している。これらを利用すると、それぞれのカレンダー機能をSlackから閲覧したり、編集したりすることが可能になる。
実際、基調講演の後半にゲストとして参加した米ViacomCBS上級副社長兼CTOのフィル・ウィザー氏は「ViacomとCBSの合併にあたり、両社、しかも部門レベルでも使っていたITツールは違っていた。ある部門はMicrosoft 365を使っていたのに、別の部門はGoogle Workspaceを使っているなどという状況だった。しかし、Slackを使うことで、それらの異なるツールの統合に大いに役立った」と説明しており、そうした部門ごとに基本のITツールが異なっていたも、Slackがある種のプラットフォームとして使われるようになってきているのだ。
バターフィールド氏は「Slackはこれまでもそうだったが、決断や議論、何かを解決する場として活用されてきた。そしてそれを実現したい外部のアプリと連携しても解決してきた。そうして発生したイベントを解決するために、軽量で低コストのプラットフォームでシステムを統合していくことで、そうしたソフトウェアから多くのことを引き出せるようになる。我々はこれを2%のソフトウェア投資で、残りの98%の乗数の価値を引き出すことができる、と言っている」と述べ、Slackを企業のITツールとITツールをつなぐプラットフォームとして活用することで、企業のITはもっと効率を改善し、かつ、高いROI(Return On Investment:投資利益率)を実現することが可能になると強調した。
非同期のビデオ/オーディオをチャンネル内でシェア、新しいコミュニケーションの形を実現
また、バターフィールド氏は講演の中で、同社が開発しているSlackに将来実装する機能についても説明を行なった。
1つ目として紹介されたのは、ライブではない録画された短いビデオや、SNSなどで最近流行のストーリー(文字と画像や動画などを組み合わせたコンテンツのこと)をチャンネルで共有できる機能。こうした機能は、InstagramやFacebookなどのSNSでも最近流行している機能だが、それをチャンネルのコンテンツとして文字の代わりに利用することができる。
こうしたライブではない非同期な動画の可能性に関しては、豪AtlassianのCEOであるマイク・キャノンブルックス氏とバターフィールド氏が8月に行った対談(9月10付関連記事『アトラシアン、Slackの両CEOが「新しい働き方」について語りまくる。危機への対処、両社の提携にも言及』参照)でも効果があると触れられているなど注目されており、今回、そのプロトタイプとなるイメージが公開された。機能としてはまさにSNSで短い動画をシェアするのと同じような機能と言える。
また、同じような機能としてオーディオのみの共有機能も紹介された。チャンネルに文字で共有する代わりに簡単なボイスメッセージを共有するというイメージになるだろう。それにより、ビデオ会議疲れといったリモートワークならではの課題を解決する狙いがあるとSlackでは説明している。
今回紹介されたこれらの機能は「スニークピーク(予告)」とされており、今すぐSlackに実装されるという機能ではないが、今後開発が続けられ、将来のバージョンで搭載される可能性があるだけに期待したいところだ。