iNTERNET magazine Reboot
木曜コラム2 #6
暗号通貨(仮想通貨)、世界各国の対応事情
国家政策、金融先進性、経済状況、宗教などが要因か
2018年2月8日 11:00
昨年11月に「iNTERNET magazine Reboot」を発刊したのに引き続き、かつてINTERNET Watchで週間で連載していた「木曜コラム」をRebootしました。改めて、よろしくお付き合いください。
コインチェックの不正流出問題をきっかけに、暗号通貨(仮想通貨)の運用ルールや規制に関する話題が一段と多くなっている。新しい技術革新を前にして、それを利用する人間側の技量や運用ノウハウが追いつかない状況なのだと思う。そこで今回は、世界の主要な国の暗号通貨への取り組みについて、ネットニュースから分かる範囲で調べてみた。米国から東まわりに日本まで、地球を1周しながら、それぞれの事情を概観してみよう。
米国
- 米財務長官:ビットコイン、「スイスの銀行口座」にしてはならない[2018/1/13、ブルームバーグ]
- フェイスブック、仮想通貨とICOの広告を禁止[2018/1/31、ロイター]
- 米国で仮想通貨購入目的のクレジットカード使用禁止の動き広がる[2018/2/5、ブルームバーグ]
IT革命ではこれまで世界をリードしてきた米国だが、今回はかならずしも積極派ではなく様相が違う。金融大国としての葛藤があるのかもしれない。
ベネズエラ
- ベネズエラ議会は、自国の仮想通貨「El Petro」の発行は国の憲法に反するため違法であると発表した[2018/1/10、スプートニク日本]
- ベネズエラの仮想通貨ペトロ、2月20日から先行販売 初期値60ドル[2018/2/1、AFPBB News]
経済危機中のベネズエラだが、国家による原油と連動した暗号通貨ペテロの発行を大統領が発表していた。しかし、議会は違法と否定するなど葛藤している状況のようだ。
スイス
- ビットコインに門戸を開くスイス金融業界[2017/8/8、swissinfo.ch]
- スイス南部キアッソでビットコイン納税が可能に[2017/9/8、swissinfo.ch]
金融先進国のスイスは暗号通貨でも積極派だ。
ドイツ
- ドイツ連邦銀行取締役、国際的な仮想通貨規制を求める[2018/1/16、フィスコ]
- ビットコインの意外な中心地、現金大国ドイツ[2018/1/18、WALL STREET JOURNAL]
- ドイツ銀行「仮想通貨投資を正規化するガバナンスの仕組み5~10年以内に」[2018/1/30、COINTETEGRAPH]
ドイツはEUの経済主軸国だが、暗号通貨に期待を示しているように見える。適正な規制を模索中か。
エストニア
- エストニアの電子通貨「エストコイン」構想を担当大臣が明かす[2017/12/26、ASCII]
- ブロックチェーン先進国エストニアでブロックチェーンに関する国際会議が開催へ[2017/12/27、TECHABLE]
世界一のIT立国として名を上げてきたエストニアはブロックチェーン利用でも世界をリードしている。暗号通貨も当然、推進派だ。
ロシア
- ロシア副財相「認可された仮想通貨取引所における仮想通貨売買を合法化へ」[2018/1/13、COINTETEGRAPH]
- ロシア、仮想通貨の禁止ではなく規制へ[2018/1/26、フィスコ]
- ロシア連邦財務省が仮想通貨売買等の規制法案を公開[2018/1/28、COINTETEGRAPH]
ロシアは、かならずしも規制一辺倒ではないようだ。
中国
- 中国、ビットコインのマイニング規制へ[2018/1/12、フィスコ]
- 中国、仮想通貨取引への取り締まりを強化-関係者[2018/1/15、ブルームバーグ]
- 中国政府が仮想通貨取引規制強化へ 取引所海外拠点や仮想通貨間取引にも触手か[2018/2/5、COINTETEGRAPH]
暗号通貨ブームの火付け役ともいえる中国だが、ここに来て国の規制が一気に強化され、暗号通貨排除の動きに。
韓国
- 韓国、ICOを禁止--仮想通貨の規制を強化[2017/10/2、CNET JAPAN]
- 韓国、仮想通貨の取引に無記名口座の使用を禁止[2018/1/23、BBC]
- 韓国、仮想通貨規制に本腰 若者自殺も、社会問題に[2018/2/5、産経ニュース]
韓国も中国に続き暗号通貨の人気が高く、特にICOは世界一の市場と聞いていた。しかし、それに逆行する形で国の規制が強化され、利用者からの反発を受けている。激しい葛藤の中にあるようだ。
日本
- ビットコイン、「貨幣」に認定 法規制案を閣議決定[2016/3/4、日本経済新聞]
- 仮想通貨は「雑所得」、換金売りの引き金か[2017/9/12、日本経済新聞]
- 仮想通貨、透明化へ一歩 金融庁が11社を取引所登録[2017/9/29、日本経済新聞]
暗号通貨への取り組みは早く、2016年に貨幣としての認定が行われた。続けて、税処理、取引所の認定など、国としての法整備が進んでいる。現在、暗号通貨取引所を審査し国として認定しているのは日本だけ(コインチェックは審査中だった)。
以上、お国柄によって対応がずいぶん違うが、その国が民主主義か社会主義か、経済状況の良し悪し、既存の金融システムが成熟しているかなどの要素が影響しているようだ。さらに、イスラム教圏では宗教との問題にまで及んでいる。これらの状況はこれまでのIT革命では見られかった現象だが、暗号通貨が金融・経済という国家運営の根幹に触れていることから起こっていると思われる。
また今回は、歴代のIT革命(パソコン、インターネット)と比べてみても違う様相を呈している。1つは、これまでのIT革命はすべて米国主導だったが、今回は中国・韓国・日本というアジア勢から盛り上がっていることだ。そしてもう1つの大きな違いは、これまでIT革命への対応に遅れることはあっても先進することのなかった日本政府および行政が、世界に先駆けて法整備を行っていることだ。この状況は初めて見る光景である。
(今回から「仮想通貨」ではなく、原語“crypt currency”に準じて「暗号通貨」とした)
井芹 昌信(いせり まさのぶ)
株式会社インプレスR&D 代表取締役社長。株式会社インプレスホールディングス主幹。1994年創刊のインターネット情報誌『iNTERNET magazine』や1996年創刊の電子メール新聞『INTERNET Watch』の初代編集長を務める。