iNTERNET magazine Reboot

木曜コラム2 #6

暗号通貨(仮想通貨)、世界各国の対応事情

国家政策、金融先進性、経済状況、宗教などが要因か

昨年11月に「iNTERNET magazine Reboot」を発刊したのに引き続き、かつてINTERNET Watchで週間で連載していた「木曜コラム」をRebootしました。改めて、よろしくお付き合いください。

 コインチェックの不正流出問題をきっかけに、暗号通貨(仮想通貨)の運用ルールや規制に関する話題が一段と多くなっている。新しい技術革新を前にして、それを利用する人間側の技量や運用ノウハウが追いつかない状況なのだと思う。そこで今回は、世界の主要な国の暗号通貨への取り組みについて、ネットニュースから分かる範囲で調べてみた。米国から東まわりに日本まで、地球を1周しながら、それぞれの事情を概観してみよう。

米国

 IT革命ではこれまで世界をリードしてきた米国だが、今回はかならずしも積極派ではなく様相が違う。金融大国としての葛藤があるのかもしれない。

ベネズエラ

 経済危機中のベネズエラだが、国家による原油と連動した暗号通貨ペテロの発行を大統領が発表していた。しかし、議会は違法と否定するなど葛藤している状況のようだ。

スイス

 金融先進国のスイスは暗号通貨でも積極派だ。

ドイツ

 ドイツはEUの経済主軸国だが、暗号通貨に期待を示しているように見える。適正な規制を模索中か。

エストニア

 世界一のIT立国として名を上げてきたエストニアはブロックチェーン利用でも世界をリードしている。暗号通貨も当然、推進派だ。

エジプト

 イスラム教の教義との問題が浮上しているが、トルコでも同様の発表がされている。

ロシア

 ロシアは、かならずしも規制一辺倒ではないようだ。

中国

 暗号通貨ブームの火付け役ともいえる中国だが、ここに来て国の規制が一気に強化され、暗号通貨排除の動きに。

韓国

 韓国も中国に続き暗号通貨の人気が高く、特にICOは世界一の市場と聞いていた。しかし、それに逆行する形で国の規制が強化され、利用者からの反発を受けている。激しい葛藤の中にあるようだ。

日本

 暗号通貨への取り組みは早く、2016年に貨幣としての認定が行われた。続けて、税処理、取引所の認定など、国としての法整備が進んでいる。現在、暗号通貨取引所を審査し国として認定しているのは日本だけ(コインチェックは審査中だった)。


 以上、お国柄によって対応がずいぶん違うが、その国が民主主義か社会主義か、経済状況の良し悪し、既存の金融システムが成熟しているかなどの要素が影響しているようだ。さらに、イスラム教圏では宗教との問題にまで及んでいる。これらの状況はこれまでのIT革命では見られかった現象だが、暗号通貨が金融・経済という国家運営の根幹に触れていることから起こっていると思われる。

 また今回は、歴代のIT革命(パソコン、インターネット)と比べてみても違う様相を呈している。1つは、これまでのIT革命はすべて米国主導だったが、今回は中国・韓国・日本というアジア勢から盛り上がっていることだ。そしてもう1つの大きな違いは、これまでIT革命への対応に遅れることはあっても先進することのなかった日本政府および行政が、世界に先駆けて法整備を行っていることだ。この状況は初めて見る光景である。

(今回から「仮想通貨」ではなく、原語“crypt currency”に準じて「暗号通貨」とした)

井芹 昌信(いせり まさのぶ)

株式会社インプレスR&D 代表取締役社長。株式会社インプレスホールディングス主幹。1994年創刊のインターネット情報誌『iNTERNET magazine』や1996年創刊の電子メール新聞『INTERNET Watch』の初代編集長を務める。