iNTERNET magazine Reboot

Pickup from「iNTERNET magazine Reboot」その13

インターネットが起こし続ける革新~誌面連動企画最終回

デジタルテクノロジーは道具を超えて人の能力を支援するまでに

1994年のiNTERNET magazine創刊号で語られたビジョンの多くはすでに現実のものとなった。これからは、メディアよりコミュニティーを重視して活動するデジタルテクノロジーネイティブな世代が、また新しいビジョンを掲げて次の時代を切り拓くに違いない。iNTERNET magazine Reboot本誌では、AI、ブロックチェーン、ICO、地域IoT、シェアリングエコノミーなど、今生まれつつある長期トレンドとその課題を中心に構成したが、そこに至るまでの25年の流れを独自の視点で整理し、付録特大ポスター「インターネットキーワード進化マップ」にまとめている。雑誌連動企画の最終回は、この進化マップと連動した「インターネットが起こし続ける革新」(創刊時副編集長・中島由弘氏の寄稿)を全文公開。これから事業を創られる方々に役立てていただければ幸いである。(iNTERNET magazine Reboot編集長・錦戸 陽子)

 インターネットの発明とその普及は、世界の社会や産業に大きな革新を起こした。歴史的に見れば、人類にとっては蒸気機関の発明が推進力となった産業革命にも匹敵するような変化をもたらしたといえる。

 図1に、1980年代のインターネット前夜から2020年以降の将来のインターネットへの進化の過程を見取り図にした「インターネットキーワード進化マップ」を示す。(なお、これは簡易版であり、詳細版は図2または本誌の付録参照)。ここでは、その見取り図を参照しながら、これまでのインターネットの歩みと将来への展望を見ていこう。

図1:インターネットキーワード進化マップの簡易版

縦糸と横糸が織りなす革新の歴史

 最初に、インターネットキーワード進化マップの見方を説明する。横軸は年代、縦軸はインターネットを構成する複数の層(レイヤー)に分かれている。一番下は要素技術で、上に向かって順にソフトウェアやサービス、そして社会産業を表している。

 各レイヤーを横軸に沿って見ていくと、時代ごとの象徴的なトピックとその関連キーワードが並び、変化や変遷がわかるようになっている。トピックの囲みは、時期を厳密に表しているわけではなく、その当時にもっとも競争が激しかったか、注目されていたトピックなどを示している。製品やサービスが次々と発表され、メディアで大きく取り上げられていたという意味だ。年代が進むにしたがって特定企業のシェアが拡大して独占が進んだり、他のテーマやレイヤーへと興味が移行したりして、中心となるトピックが変わっていったことが表されている。

 上下の関係で見ていくと、同時代に他のレイヤーでは何が起きていたのか、あるいはあるレイヤーで起きたことが別のレイヤーにどのような影響を及ぼしたのかがわかる。

 なお、記載されている具体的な製品名や企業名は代表的なものであり、それらがすべてというわけではない。他にも数多くの製品や企業があったことに留意してほしい。

第1世代~スタンドアロンからワイヤードへ

 1980年代初頭に発明されたパーソナルコンピューターは、ワープロ、表計算、データベース、ゲーム、そして業務では各種の計算や制御などの用途で利用されてきた。当時のパーソナルコンピューターは人間の演算的な作業を支援したり、ドキュメントを清書したりする道具の域を出なかった。

 1980年代半ばになると、音響カプラやモデムといった機器を経由して、アナログの電話回線でセンターにある大型コンピューターと接続する「パソコン通信」という使い方が広まった。センターからはさまざまなニュースなどが配信され、郵便よりも便利な電子メール、電子掲示板(BBS)やフォーラムと呼ばれるコミュニティーシステム、さらにはマルチユーザーゲームなどが利用できるようになり、ユーザー間のコミュニケーションの方法が劇的に変化した。これによって、パーソナルコンピューターは人間のコミュニケーション能力を拡大する道具として認識されるようになってきた。

 そして、1990年代初頭にインターネットの商用利用が開始されたことにより、本格的にコンピューターを使ったコミュニケーションの時代へと突入する。インターネットが注目されたのは、同じ時期にワールドワイドウェブ(WWW)という情報共有の仕組みが発明されたことが大きい。また、マイクロソフトからWindows 3.1やWindows 95というグラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)のオペレーティングシステムがリリースされ、パソコンの表示能力が格段に向上した時期とも重なる。WWWとGUIのどちらかが欠けても、インターネットの大ブレークには結びつかなかっただろう。

 初めてWWWを見たとき、われわれメディアに携わる者だけでなく、多くの人が将来のメディアの変化を感じ取ったことだろう。すなわち、出版物、テレビやラジオの放送などは、いずれインターネット上で実現されると確信したのだ。そして、多くの人が個人ホームページというパーソナルなメディアを持つようになり、メディアのダウンサイジング=民主化を確信するに至った。それまでは放送免許や放送機材、印刷機器や流通チャンネルを持ちあわせていなければメディアのビジネスはできない、そういう有形無形の資産を持つことがメディアビジネスである、と認識されていた。しかし、インターネットの登場によって、誰もが世界に向けた情報流通のチャンネルを安価に持てるようになったのだ。

 それにより、これまで日常生活ではあまり耳にしたこともなった「著作権」や「知的財産権」という単語や考え方が広く浸透し、インターネット上で何度もあつれきを起こしながらも、社会的な理解が進んできた。また、広告やマーケティングという手法の理解や運用も、一部の専門家が携わるものとされていたが、デジタル化によって個人にも広がり、そこから十分な利益を得る人も増えている。1人ひとりがメディアプロデューサーとなったわけだ。

 通信環境に目を向けると、当初はモデムによる数十キロビット/秒の時代から、ISDN、ADSLなどの通信技術を経て、いまや各家庭に光ファイバーが配線される時代となった。当時、光ファイバーが自宅で使えるようになるなど夢のまた夢で、電話一本で申し込める時代になるとは到底考えられなかった。なにしろ、メタルケーブルを使ったデジタル専用線の利用料が1か月あたり数万円、プロバイダー料金が十数万円という時代だったのだ。

 そして、こうした高価なインフラを使いながらも、まさに「ワイヤード(つながっていること)=デジタル通信技術によるメディア」の可能性に興奮してきた歴史でもある。

図2:「インターネットキーワード進化マップ」の全体画像

第2世代~デスクトップからモバイルへ

 パソコンでのインターネット利用が当たり前になり、あまりにも便利で手放せなくなると、今度はどこにいても使いたいと思うようになってきた。ノートパソコンを持ち歩いてもいいが、ポケットに入るようなより手軽なインターネット端末を望んでいたのだ。それを実現したのが、NTTドコモのiモードという端末機器と配信の仕組みだった。しかも、コンテンツやサービスに対する少額課金の仕組みも用意されていて、電話の通話料金とともに請求されるという画期的なプラットフォームだった。

 しかし、人々の依存度が高まり、コンテンツやサービスのリッチ化が進むと、それまでの端末の表示能力や処理能力に対する消費者の不満が生まれてきた。そのころに、アップルはiPhoneを、グーグルはAndroidというモバイル向けオペレーティングシステムとスマートフォンを、それぞれ発表した。ここから、一気にスマートフォン時代の本格的モバイルへと関心が移っていった。

 また、スマートフォンにはカメラ、緯度経度、方位、加速度などのさまざまな情報を取得できるセンサーが内蔵され、これまでにないアプリケーションが開発されるようになった。まさに、先人たちが夢見ていたパーソナルコンピューターの夢が一気に実現されたといってもよいだろう。その後も、高密度化、高性能化は進み、今日に至っている。

 このころの通信環境は無線が当たり前となり、しかもブロードバンド化が進んだ。画面が大きくなり、表現力が上がるということは、通信データ量も大幅に増加することを意味する。理論的には4G LTEでは数百メガビット/秒、いま実験中の5Gではなんと10ギガビット/秒の通信も可能だとされている。

仮想化による処理能力向上とデータ指向から始まる革新

 複数のCPU、複数のストレージなどの計算資源を仮想化して1つに見せる技術が登場したあたりから、進化の様相が変化してきた。この仕組みのアイデアを実際に取り入れたのはグーグルが最初だといわれているが、オープンソースで広く利用可能になったことは大きい。大きなデータを分析する、というニーズから生まれた仕組みだが、結果として単体のCPUの設計性能を大きく上回る処理能力を得られるようになった。それまで信仰されていたムーアの法則をある意味では超越したわけだ。

 また、WWWという仕組みにより、人々のさまざまなデータが知らぬ間にデジタル化され、蓄積されてきたという背景も大きい。自然言語で文章を書いただけで、大量に集まればコーパスとして利用可能になり、翻訳に利用できるようになるのはわかりやすい事例だ。

 大量のデータと大容量の処理能力、そして経済的な資金がそろったとき、人工知能と呼ばれている機械学習の手法が華々しくよみがえってきた。それまで、理論はあってもデータが足りなかったり、データ処理能力が十分ではなかったりしたために日の目を見なかったこの技術が、一気に稼働できる時代になったのだ。これをきっかけに、教師データに象徴される「データ」が重要だということがわかると、次々とデジタル化のためのデバイスやそれを取得することを前提とするアプリの開発が加速していくことになる。

 仮想化にしても、大量データの蓄積にしても、ネットワーク技術の上に成り立っている。つまり、ネットワーク技術の革新の上に次世代のソフトウェア技術が花開きつつあるといえよう。これは機械学習に限らず、VR/AR、IoTなどでも本質的には同じもので、これらが同時期に花開くのは、インターネットの発展という観点で見れば必然といえるのではないだろうか。

クライアントサーバーモデルから分散処理へ

 このように、処理能力の爆発的な向上と大量に生成されたデータがインターネットの次のイノベーションを引き起こしている。これもある意味では、ムーアの法則をディスラプト(創造的破壊)したといえるだろう。

 そして、今後はネットワークのアーキテクチャにも変化の兆しが見える。いままでのインターネットは良くも悪くもWWWというクライアントサーバーモデルのお手本ともいうべきアーキテクチャの上に成り立っている。本来、TCP/IPはホスト間で対等な通信ができる仕組みなのに、ソフトウェアやデータは論理的に特定サーバーに配置されている。そのため、ひとたびサーバーが停止したり、サーバーへの経路が閉ざされたりすると、まったく機能しなくなってしまう。また、そのサーバーを管理する特定組織が決めた運営ポリシーの影響を受けたり、経営の継続性が求められたり、さらにはそれが不正に改ざんされたりする可能性もある。そうしたリスクもますます重視されるようになってきた。

 そのようななかで、分散環境として注目されるのがブロックチェーンである。かつて、ピアツーピアと呼ばれていた仕組みはサーバーを経由しないでファイルを共有しようとしたが、トラフィックが爆発的に増加することから、広く採用されなかった。ブロックチェーンはサーバーの負荷がそれなりにかかるが、通信経路にはそれほどの負荷がかからないといわれている。ブロックチェーンは、ビットコインのような仮想通貨や改変を防止したい書類のやり取り(スマートコントラクト)などですでに利用され、特定サーバーを経由せずに情報が交換、共有、保持されるということを達成した。

 また、ブロックチェーンほどの大掛かりな仕組みではないが、2017年春に突如としてマストドンというSNSの仕組みが話題となったのも、こうした分散環境に対する関心が高まっていることの現れといえる。マストドンは、大国に属する巨大ベンダーが一元的に運用管理するサービスとは対照的に、運用を分散させ、相互に連携することで自治を実現する仕組みでもある。つまりインターネットジャイアント(巨大企業)の支配下にとどまらざるを得ない現状へのアンチテーゼといえるだろう。

 また、もう1つ下のレイヤーで考えれば、各サービスが内部のデータやソフトウェアへアクセスするためのAPIを公開することにより、情報の塊のコピーを生成しなくても、いつでも必要に応じてアクセスできる連携の仕組みも普及しつつある。かつて、ソフトウェアやデータはリムーバブルメディアにコピーして販売していたが、それがネットワークからのダウンロードになり、さらにAPIによるアクセスに変わりつつある。変化の過程では、プログラムの実態が手元にないことに対して対価を支払うことに抵抗もあったが、いまでは経済モデルとしてすっかり受け入れられている。

いま、リブートする理由~新世紀に向けて

 こうした進化を遂げてきた情報通信技術は、いまや多くの分野で利用されつつある。一般的に「xTech」などともいわれるが、工場・生産、医療・介護、土木・建築、農業、教育、メディアなどでの活用が目立つ。もちろん、これまでも各産業で使われてはきたが、ウェブ、メール、CRM、ERPなどの業務システムとしてであって、専門分野における検知、制御、判断、分析などにはあまり使われていなかった。その分野の現場に従事するベテランや専門家の知見が勝っていたからである。

 しかし、今後、日本には間違いなく超少子高齢化社会がやってくる。このまま行くと生産労働人口が大幅に減少する。そのような厳しい条件下で、この社会を安定的に維持してくためには、情報通信技術を活用して労働生産性を高めていく必要がある。そして、重要なのは経済成長だけではない。いわゆる人工知能と呼ばれている機械学習という手法は、これまで長期にわたって蓄積されてきたベテランの経験や専門家の知見をデジタイズして、後世に残していくという役割も担っている。国としても政策として、これらを推進するスローガンを掲げ、予算配分を行っているが、将来を楽観視できるほどの結果が生まれているわけではない。それでも、さまざまな産業では取り組みを加速させていて、徐々にその成果も見えてきているところである。

 つまり、これまでのパソコン、モバイル、インターネットの発展の歴史は、紙、ペン、そろばんなど、既存の道具をデジタル化して置き換えることによる利便性の追求だとするならば、これからの革新は人間の能力の支援、作業の代替といったところへと移っていくだろう。

 このように、われわれがリブートする理由は、明らかに従来のパソコンが担ってきた役割を超え、大きな革新の波を起こしつつあるからなのである。

図3:本誌の付録ポスター、裏面はインターネット接続プロバイダーマップ(インプレスグループの受付で撮影)

中島 由弘(なかじま よしひろ)

ビジネス&テクノロジーコンサルタント。元『iNTERNET magazine』編集長(1996年4月~1999年3月)。