インタビュー

バッファローがWi-Fi標準メッシュをサポートするのはどうしてか?なぜ「Wi-Fi 6全機種対応」なのか?聞いてみた

 バッファローから同社製Wi-Fi 6ルーターのフルラインナップ「EasyMesh」対応が発表された。

 これで、バッファローの製品は、新機種はもちろんのこと、既存機種もWi-Fi 6対応製品なら、すべてがメッシュ対応、しかも、Wi-Fi Alliance主導の標準メッシュ技術「Wi-Fi EasyMesh」に対応する。EasyMeshはまだ課題がある新しい規格ではあるが、そこへと大きく舵を切った意図を同社に聞いてみた。

「Wi-Fi EasyMesh」対応予定製品を手にしたバッファロー製品の開発・マーケティング関係者の方々

既存のWi-Fi 6ルーターも全て「EasyMesh対応」に

 もちろん、これからリリースする新製品だけを「EasyMesh」対応とするのも1つの選択肢だろう。

 しかし、バッファローはそう考えなかった。

 どうせやるなら、既存製品も含めたWi-Fi 6モデル全てで対応。

 しかも、単につながるだけでなく日本の住宅事情に合わせて最適にチューニングして。

 こうした経緯で誕生したのが、今回のバッファローのWi-Fi 6フルラインナップ「EasyMesh」対応だ。

バッファローのWi-Fi 6対応製品であれば、ルーターと中継機のいずれも、ファームウェアアップデートでEasyMeshに対応するという

EasyMeshとは

 EasyMeshは、Wi-Fi Allianceが策定したメッシュWi-Fiの相互接続規格だ。

 複数台のアクセスポイントを連携させることで、通信エリアを拡大できるほか、移動しながらのシームレスな接続も可能にする「メッシュ」技術が注目されている。だが、これまでのメッシュは、メーカーもしくはチップベンダー独自の規格で、規格が異なる製品同士の接続はサポートされていなかった。

 これに対してEasyMeshは、規格上はモデルの壁、メーカーの壁、チップの壁を越えて、相互接続が可能になる新しいメッシュ技術となる。

 現状、NETGEARやLinksysブランドのベルキン、NECプラットフォームズなどから、EasyMesh対応製品が数機種発売されているが、Wi-Fi 6対応モデルのみとは言え、メーカーのフルラインナップを「EasyMesh」に対応させるなどというのは、かなり思い切った戦略だ。

 その根底にあるのは、同社の「顧客のため」という考え方だ。インタビュー中、どのメンバーからも、この言葉がたびたび自然と口に上るのに驚いた。

自宅Wi-Fiの改善需要が急増、「広い家」ニーズも

 まずは、EasyMesh導入の経緯について、株式会社バッファローの志村太郎氏(事業本部販売企画室室長)が概要を語ってくれた。

 「現状、市場ではWi-Fi 6のシェアが確実に拡大しつつありますが、さらに昨年からの社会環境の変化により、テレワークでの自宅Wi-Fi環境の改善需要が増え、Wi-Fi中継機の需要が急拡大し、現在もその傾向が続いています」という。

 そして、「テレワークの普及で、以前よりも広い住環境へと引っ越す人が増えてきたことで、中継機などのWi-Fiもすみずみまで届く、かつ手に取りやすい製品が求められるようになってきました。そこで今回、実現したのが弊社のWi-Fi 6対応ルーター、および中継機フルラインナップの『EasyMesh』対応です」とのことだ。

株式会社バッファロー事業本部販売企画室室長の志村太郎氏

 より詳しくは6月3日の発表内容(こちらの記事)も参照して欲しいが、標準化仕様の採用によって市場に相互接続可能な機器を増やし、結果的にそれがユーザーの選びやすさ、接続しやすさにつながることを目指した戦略と言える。

 しかしながら、なぜ今、EasyMeshなのだろうか?

 同社では、Wi-Fi 5対応製品として独自メッシュ技術を採用した製品を従来から販売している。これを継続するという選択肢も当然あったはずだ。

 株式会社バッファローの中村智仁氏(事業本部コンシューママーケティング部長)は、この点について次のように語った。

 「EasyMeshには、初期のR1と、その後継のR2という2つのリリースバージョンがあります。R1は、とりあえずメーカー間の相互接続が可能というもので、今回、弊社製品でも採用したR2は、より多くの機能が実装されています。R2の仕様を拝見して、これなら実用的で、お客様が購入してもメリットがある製品を提供できるとの判断ができたので、今回、フルラインナップでの導入を決めたのです」という。

「Wi-Fi EasyMesh」のR1、R2の機能比較

 しかし、従来の独自規格とEasyMeshの2つの規格が存在するのは悩ましい。メーカーによっては、EasyMeshではなく、自社で開発した独自規格を主軸として、市場で戦い続けるという選択肢もあっただろう。

 この点について中村氏は、「まずは『世に広める』ことを優先しました」と語る。

株式会社バッファロー事業本部コンシューママーケティング部長の中村智仁氏

 「どのメーカーの製品を選ぶかはお客様次第です。弊社はこの点をとても重視しています。独自規格で選択肢の幅を狭めるのではなく、EasyMeshというオープンな規格の中で勝負することで、広い選択肢を持ったまま弊社製品を選んでもらえるように努力する。こうすることで、『メッシュ』という技術が特別な、限られた技術ではなくなることを目指しています」という。

 これまでメーカー独自の特別な存在だった技術を標準規格として一般化する――。この図式は、かつてのある技術を思い起こさせる。

 そう、「AOSS」と「WPS」の関係だ。

メーカー独自メッシュとEasyMeshは「AOSS」と「WPS」のように

 かつてバッファローは世界に先駆けてプッシュボタン式のWi-Fi自動設定技術「AOSS」を世に送り出した(2003年)。

 これがきっかけとなり、後にWi-Fi Allianceは「WPS」というWi-Fi自動設定の標準仕様を策定することになったという経緯がある。そして、その後バッファローは、AOSSとWPSの両方の技術を自社製品に搭載することで、「どの製品ともつながる」という状況を作り、WPSを世に広めることに貢献したのだ。

 今回、EasyMeshをフルラインナップで採用するということは、まさにAOSS/WPSの状況の再来とも言える。Wi-Fi市場を牽引するバッファローがEasyMeshを採用することで、ユーザーがメッシュ規格の違いを意識することなく、「家中すみずみでWi-Fiにつながる」という状況を作り出せるようにしたというわけだ。

標準規格の「EasyMesh」、他社との相互接続はどうなるのか?

 とは言え、こうした状況は同社にとっても負担が大きくなる可能性がある。

 なぜなら、冒頭でも触れた通り、EasyMeshは自社製品だけでなく、他社製品との接続も可能とする規格だからだ。相互接続について、他社製品をからめた問い合わせがサポートに届く可能性があるからだ。

 志村氏は「難しい面はあるが、できるかぎりサポートはする」という。また、同社は製品に「EasyMesh」の接続方法を記載した取扱説明書を同梱するなどの取り組みによって、ユーザーが迷うことなくEasyMeshを使える工夫もするとのことだ。

 理想を言えば、サポートページでの相互接続可能な機種を公表してくれればありがたいが、相互接続であれば相手メーカー側の意向もある。このため、自社のみの検証で互換性を公表する面もありそうだ。

 株式会社バッファローの田村信弘氏(事業本部ネットワーク開発部長)によると、「今回の弊社の製品群は、Wi-Fi EasyMesh(R2)の認証を取得予定です。このため、相互接続可能かどうかは、相手側の機器も同じくR2の認証を取得しているかどうかが、1つの目安になります」という。

株式会社バッファローの田村信弘氏(事業本部ネットワーク開発部長)

 「Wi-Fi EasyMesh」の認証が取得されている場合は、Wi-Fi Allianceが定めた方法での接続テストが実施されているはずなので、安心して使えるということになる。

 しかし、現実には、なかなかそうもいかないケースもありそうだ。

 実際、筆者はいくつかのEasyMesh製品、しかもすべてWi-Fi Allianceの「Wi-Fi EasyMesh」に対応した製品で、異なるメーカー間での相互接続を試してみたが、残念ながら、現状は相互接続できないケースの方が目立つ結果となっている。

 将来的には相互接続がより完璧にできるようになる可能性が高いが、現状、確実に相互接続が可能な製品を選びたいのであれば、やはり同じメーカーの製品を選ぶことを強くおすすめしたい。

 こうした現状を踏まえると、フルラインナップをEasyMeshに対応させることで、「Wi-Fi 6対応製品であればどのモデルを選んでも構わない」という今回のバッファローの戦略は、非常に生きてくる。

 他社製品の動作については、Wi-Fi CERTIFIED EasyMeshという共通ルールの上でしか語れない以上、メーカーとしてできることは、少なくとも自社モデル内での互換性を完全にし、その上でラインナップを広げることで、ユーザーに対して多くの選択肢と安心を提供することしかないだろう。

「EasyMesh」を、日本の住宅事情にチューニングバックホールに最適なのは2.4GHz帯? 5GHz帯?

 そして筆者が最も感心したのは、そもそもEasyMeshを実装したり、CERTIFIEDの認証を受けたり、サポート体制を整えるだけでも大変なのに、同社がそれだけで満足しなかったことだ。

 具体的には、同じEasyMeshでも、バッファローのEasyMeshは、日本国内の無線環境や住宅環境に向けてチューニングされている。

 まず、前述したようにバッファローの製品はWi-Fi EasyMeshのR2仕様に準拠しているが、R2でもオプション扱いとなっている機能が標準でオンになっている。具体的には「IEEE 802.11r」の高速ローミングがそうだ。

 この機能は、移動しながら通信した際に、接続先のアクセスポイントを切り替える操作を高速に実行するためのものだ。例えば、3階の自室から動画を再生したまま1階の浴室などに移動した場合、高速ローミングが可能になっていれば、途中で動画が途切れるなどの通信不良を最小限に抑えることができる。

 つまり、同じEasyMeshでもバッファローのEasyMeshはR2で、しかもオプション扱いの機能までがしっかり標準でサポートされていることになる。

 今回、製品の開発に携わった株式会社バッファローの日向淳氏(事業本部ネットワーク開発部ODM第四開発課長)によると、「メッシュではバックホール(アクセスポイント間をつなぐ無線)の帯域を2.4GHz帯と5GHz帯で選択できますが、どういう基準で、どちらを選択するかという仕組みについて、弊社独自の仕様でチューニングしています」という。

 「具体的には、2.4GHz帯と5GHz帯のどちらの電波状況がいいかをチェックしたり、複数のエージェント(メッシュを構成する子機)があるかどうかを確認したりと、定期的にコントローラー(メッシュを構成する親機)側で状況をチェックして、常に最適な環境でつながるように工夫しています」とのことだ。

株式会社バッファロー事業本部ネットワーク開発部ODM第四開発課長の日向淳氏は名古屋本社からリモートでの参加となった

 筆者は、これまでメッシュ製品をいくつか評価してきたが、実はここで挙げられているのは、メッシュ製品ではとても重要なポイントだ。

 例えば、筆者宅では2.4GHz帯が近隣のアパートで多数使われているため、2.4GHz帯がバックホールに使われてしまうとメッシュの威力が発揮できず、ひどい場合は単体のルーターに速度が負けてしまうことがある。

 このため、今までのメッシュでは、バックホールを5GHz帯に固定するのが筆者のベストプラクティスだった。

 しかし、今回のバッファローのEasyMesh対応製品を実際に使ってみたところ、最初は2.4GHz帯がバックホールとして選択されるものの、しばらく経つと5GHz帯へ自動的に変更された。

 株式会社バッファローの下村洋平氏(事業本部コンシューママーケティング部BBS マーケティング課課長)によると、検証用として同社が実際に借りている住宅を使って、間取りや建物の構造の違いに対し、どのように振る舞えば最適な通信ができるのか、しっかりと検証しているという。

株式会社バッファロー事業本部コンシューママーケティング部BBS マーケティング課課長の下村洋平氏

 最近では、各部屋が有線LANがあらかじめ配線され、壁にはLANコネクタが用意されている住宅やマンションもみられる。こうした環境でEasyMeshを利用する場合は、バックホールに有線を使った方が効果的だ。このような日本の住宅環境も想定して、バッファローのEasyMesh対応機では、有線バックホールの機能も搭載している。

バッファローのEasyMeshでは、機器同士を有線LAN接続するだけでコントローラーとエージェントの設定ができる
有線LAN接続後に20秒ほど待つだけで、LEDの点灯状況が変化し、EasyMeshの構成が完了するという

 海外メーカーの製品などには、バックホールを5GHz帯に固定した割り切った仕様の製品も存在するが、バッファローのEasyMesh製品では、2.4GHz帯も5GHz帯も有線も、バックホールとして利用できる。非常に複雑な構成であっても、住宅環境や周辺の電波環境、EasyMeshの構成台数、接続するWi-Fi子機の数などを判断し、最適な構成を自動的に選択できるようになっているとのことだ。

想像を絶するフルラインナップ対応の苦労

 しかも、こうしたチューニングを、搭載チップやアンテナ構成(外付け、内蔵、本数)などの違いを考慮しつつ、複数のモデルで行っているというのだから、驚きだ。

 田村氏によると、プロジェクト自体は2020年から1年以上を要しているとのことで、かなりの準備期間が必要だったことが伺える。

 EasyMeshは、2018年のリリースで、当初はコントローラーやエージェント用のプログラムをアクセスポイントに組み込むだけなので、ファームウェアのアップデートだけで簡単に適用できるという触れ込みだった。

 もちろん今でも、そうすることで簡単に対応させることもできるのだろう。

 しかし、同社は、こうした単純な実装ではなく、きちんとモデルごとに最適化された状態でEasyMeshを実装してきた。中には、同社が望む仕様とチップベンダーの仕様に合わない部分もあり、チップベンダーと相談しながら、新たに実装した部分もあるという。

 この点については、今回のメンバーの誰もが、言葉を替えながらも「複雑にはなるが、ユーザーのメリットがあるのでやった」と発言していた。しかし、フルラインナップでの対応ともなれば、その組み合わせは膨大であり、「複雑」さのレベルが普通ではないことを容易に想像できる。

 素人考えでは、そこまで時間とコストをかけるなら、独自仕様でやってしまった方が楽なのではないかと思うが、同社は、きっちりとEasyMeshという規格の中で、独自色を出せる部分のみチューニングしている。

 正直、メーカー間での互換性という意味では、EasyMeshはまだ未完成と言う面も多く、今後の課題は大きい。しかし、バッファローのようなフルラインナップ対応を実現することで、少なくとも同一メーカー間でのメッシュの互換性については、今後、ユーザーが気にする必要がなくなる。

 EasyMeshという規格の普及への大きな第一歩を踏み出したという点では、同社の試みは高く評価されるべきだろう。