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小学校でのプログラミング必修化、どの教科でどう教えるかは学校・教員の裁量、細部はこれから議論

専門家が解説する次期「学習指導要領」の中身

 学習・教育プラットフォームの普及活動を手がける団体「ICT CONNECT 21」が4月11日に開催したセミナー「プログラミング教育の世界での取り組み」では、米Microsoftの教育部門担当副社長であるアンソニー・サルシト氏の講演(2017年4月14日関連記事『マイクロソフト副社長が語るプログラミング教育、「導入期には失敗もあり得る」』参照)に続いて、 株式会社CA Tech Kids代表取締役社長の上野朝大氏より、日本の中学・高校におけるプログラミング教育の現状説明と、小学校におけるプログラミング教育必修化などを盛り込んだ次期「学習指導要領」の解説が行われた。CA Tech Kidsはサイバーエージェントのグループ会社で、プログラミング教室の運営などを手掛ける会社だ。

株式会社CA Tech Kids代表取締役社長の上野朝大氏

小学校での必修化だけではない、中学・高校でプログラミングの扱いが増える

 現在の日本の教育体制では、文部科学省が定める「学習指導要領」の役割が大きい。全国どこの地域でも一定の水準の教育が受けられるよう設けられた基準であり、小学校・中学校・高校における教育内容がおおまかに定められている(これに関連して学校教育法施行規則というものがまた別途存在する)。

 学習指導要領は約10年に1回のペースで改定が行われる。例えば、1989年(平成元年)の改定では小学校低学年向けの「生活科」の新設、1998~1999年(平成10~11年)の改定では「総合的な学習の時間」に関する規定が設けられた。

 現行の学習指導要領は2008年に公示され、2011年ごろから実際の運用がスタートした。そして今回、2017年3月公示の新しい学習指導要領において、プログラミング必修化が盛り込まれた。必修化の実際の導入は2020年となる予定だ。

 実は、2008年に公示された(2017年時点における現行の)学習指導要領でも、中学・高校ではプログラミングに関する授業がすでに設けられている。中学では「技術・家庭」科目の「情報に関する技術」という単元の中で、プログラムによる計測・制御を学習する。高校では「情報(情報の科学)」科目において情報通信ネットワークなどについて学ぶ。

 しかし、課題もあった。中学の場合、このプログラム関連学習に費やせる授業時間は3年間で10時間未満。上野氏は「統計によれば2時間という学校もある。プログラミングに関する学習はほぼ実行されていないのが実情のようだ」と説明する。また、高校では科目自体がそもそも選択制で、履修率は2割程度だったという。

2008年に公示された現行の学習指導要領でも、中学・高校ではプログラミング教育がある

 これに対し、次期学習指導要領では「小学生向けのプログラミング教育」が完全に新規となるかたちで設定された。世間的に注目を浴びている部分はここだが、それだけではなく、中学におけるプログラミング学習の内容が倍増となり、高校では「情報I」という科目を新設し、これが全生徒必修となる。よって、小・中・高のすべてでプログラミング教育の比重が高くなる。

2017年公示(2020年から適用予定)の次期「学習指導要領」では、小学校でプログラミング教育が新たに行われるようになる
中学・高校でもプログラミング教育の扱いは増える

プログラミングは新教科には非ず、小学校の既存の教科の中で実施

 次期学習指導要領が発表されたものの、具体的にどう教えるか、授業にどう組み込むかといった細部については、これから議論が進められる。

 上野氏の解説によれば、学習指導要領におけるプログラミング教育の目的は「情報活用能力の育成」。狙いは「コンピューターに意図した処理を行うように指示することができる、ということを体験させる」ことだという。

 もう1つ注意したいのが、プログラミングに関する新教科は設けられない点。あくまで既存の教科の中で、プログラミングを教育する。「具体的にどうすればいい? 国語・算数・理科・社会どこで教えるか? これは各学校・教員が決めていい仕組みになっている。フレキシブルとは言えるが、先生方にとっては悩みの種が1つ増えるかもしれない」(上野氏)。

 文部科学省ではいくつかの指導例も出しており、例えば理科では電気製品とプログラムの関係を学んだり、図画工作では表現物をプログラミングで動かすといったことが考えられるという。

 このほかに特徴的なのは、コーディング技術の習得が必ずしも目的ではないこと。上野氏は「英国におけるプログラミング教育必修化では『Computing』という科目が新設されたが(中略)日本ではテクノロジー自体の習得を目的としておらず、諸外国と比べて発想・方針がやや異なるようだ」と解説した。

上野氏がまとめた小学生プログラミング教育必修化のポイント
プログラミング教育といっても、コーディングを覚えることが目的ではないとされる

 学習方針が明確化した一方で、インフラ面では課題が多い。学校施設そのもののIT化はまだまだ遅れており、Wi-Fi環境やPCの導入を進めなければならない。また、都市部では民間企業などを巻き込んだプログラミング教育が比較的容易とみられるが、地方部での取り組みは相対的に弱くなる。

 2020年の新学習指導要領導入に向け、文部科学省のほか、総務省、経済産業省もそれぞれ取り組みを進めている。今後は、教育委員会などの現場関係者も参画する「未来の学びコンソーシアム」を通じて、ノウハウ共有などが進められる予定だ。

悩ましい予算問題……児童・生徒のBYODもありえる?

 トークセッションでは、サルシト氏、上野氏に加え、セミナー開会のあいさつを行った文部科学省の佐藤安紀氏(生涯学習政策局生涯学習総括官)が再び登壇し、聴講者からの質問などに応じた。

文部科学省の佐藤安紀氏(生涯学習政策局生涯学習総括官)

 会場で講演を聴いていた佐賀県多久市の横尾俊彦市長は「プログラミング教育の目的のさらなる明確化」「環境整備のための予算」「指導人材の確保」を今後の課題に挙げた。

 これに対し佐藤氏は「プログラミング教育の議論を学校のためだけにするのはもったいない。英国での事例からも分かるように、社会における子ども達の『Computing』の力をまず考えてあげたい」とコメント。その目的を実現するために、学校としてできることは何か、民間ができることはないか、あらゆる点から考えることが重要だと指摘する。

 また、インフラ整備については予算措置を着実に進めるとともに、BYODの概念を取り込むこともまた1つのあり方ではないかと述べた。現に社会には多くのスマートデバイスが出回り、個人によって活用されている。これらを学校教育に取り込めるかどうか、十分考えていくべきだとした。

 上野氏からは、地域の自治体と協力してプログラミング教育を行っている事例がすでにいくつかあることが紹介された。長崎県島原市では、公民館の女性職員が指導者となって、子ども達にプログラミングを教えているという。「この女性職員はプログラミングの専門家ではないが、小さな子ども達に接するのは慣れている。子ども達に超ハイレベルなプログラミングを教える必要はないので、これでも十分指導はできる」(上野氏)。

 別の聴講者からは、学習にあたって「プログラミング教育(Programming Education)」という用語が果たして適切なのか、問題提起もなされた。直前の講演(英語)でサルシト氏は「Computing」「Computer Sciense」という言葉を多用する一方、「Programming Education」の語はほとんど使わなかったという。このため、プログラミング教育よりもさらに上位の概念を示す「Computing」の語を用いた方が、指導にも幅が出るのでは?という発想だ。

 これを受け佐藤氏は「文部科学省では『プログラミング教育』という表現はあまり使っておらず、今日の開会のあいさつでも私は『プログラミング的思考』『論理的思考力を養う』などと説明した」と補足する。

 2017年の現時点では、「プログラミング教育」という言葉だけがどうしても一人歩きしがちだが、真に重要なのは「社会で必要とされる技術を子ども達に学習してもらうこと」。そのためにどんなことをすればいいのか? 政府にだけまかせておけばいいのか? さまざまな観点からの議論・検討が必要であることが、今回のセミナーからは伺えた。