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デスクトップ業務ソフト「弥生 21 シリーズ」11月13日発売。令和2年分申告に対応、「スマート取引取込」強化
目指すは「電子化」ではなく「デジタル化」~岡本浩一郎社長
2020年11月6日 06:00
弥生株式会社は、業務ソフトの新バージョン「弥生 21 シリーズ」を11月13日に発売すると発表した。製品発表会には、同社代表取締役社長の岡本浩一郎氏が登壇。新製品の狙いを解説するとともに、主要な顧客層である小規模事業者向けの業務支援をより強化していくとの方針を示した。
「弥生 21 シリーズ」では、法令対応に加え、口座連携のAPI化が進む
弥生の業務ソフトのラインアップは、デスクトップ(Windows)と、OSを問わず利用できるクラウドの2種類に大別されるが、今回発表された「弥生 21 シリーズ」はデスクトップ向けにあたる。「やよいの青色申告」「やよいの給与計算」など複数のソフトウェア群から構成される。
パッケージ版は各ソフトともオープン価格。なお、弥生の公式サイトでは、有料の年間サポートが付帯した製品の直販を行っている。一例として、旧版となる「弥生会計 20 スタンダード」(ベーシックプラン付)は3万9800円(税別)となっており、新版についても同水準で提供する見通しという。
「弥生 21 シリーズ」では、令和2年(2020年)分の税務申告に対応。同年分から新たに適用される青色申告特別控除の改正に伴う、各種方式変更などにソフトウェアとして対応した。
法令対応以外の分野では「スマート取引取込」機能を強化した。これは、いわゆる“口座連携”の機能で、ユーザーが利用している金融機関口座とオンラインで接続し、支払いや振込の履歴をソフトウェア側に取り込むことで、記帳の手間を軽減させることができる。
口座連携は「スクレイピング」と呼ばれる接続方式で実現するのがかつては一般的だったが、セキュリティ面での問題もあるとされる。近年はAPIを用いた厳密な確認を行う方式へと移行しつつあり、「弥生 21 シリーズ」ではこのAPI対応を強化。口座連携に対応している金融機関全てとの間で、API利用を前提としたデータ連携の契約を済ませた。この結果、ユーザーが登録する金融機関口座の約90%がAPI連携の対象になったとしている。
また、従来のデスクトップ版弥生シリーズで口座連携を行う場合、クラウド版弥生の画面へいったん遷移する必要があったが、これを新バージョンでは改善。デスクトップ版アプリだけで口座連携の操作を完了させられるようになった。
業務効率化で目指すのは「電子化」ではなく「デジタル化」
11月5日には、記者発表会のオンライン中継を弥生としては初めで実施。岡本社長からは、弥生を取り巻くビジネスの状況、そして今後の方針について重点的に解説された。
弥生の決算は9月末。2019年10月の消費税増税によって会計ソフトの出番が増す一方で、2020年春以降は新型コロナウイルス感染症の問題が大きくなるなど、波乱の会計年度ではあったが、2020年9月期の売上は202億7000万円を達成。前期の194億円から順調な成長を遂げた格好だ。デスクトップ版/クラウド版アプリの登録ユーザー数についても、2019年度の191.7万人から、2020年度は220.8万人へと大幅に増加した。
「我々は過去5年以上、デスクトップアプリとクラウドアプリ両方を提供する、お客様に選択肢を提供する方針でやってきた。これが結果的に、両輪となって拡大している。」(岡本社長)
しかし新型コロナ問題は、弥生製品を利用する多くの小規模事業者にとって、極めて深刻な影響を与えていると岡本社長は危惧する。弥生として、感染防止を進めながらもどう顧客支援ができるのか。さまざまな葛藤がありつつも、公的支援窓口や行政支援に関する特設ページを設けるなどの対応を進めた。
国内の小規模事業者はコロナ禍以前から「労働力人口の減少」「働き方の多様化」といった課題に直面していた。そこへ非対面型の接客、押印の見直しなど、さらなる課題も加わることとなり、結果的に、業務の効率化は加速するだろうと岡本社長は指摘する。
「業務の『電子化』による効率アップは、小規模事業者・行政どちらも従前から続けられてきた流れ。しかし、改めて私がお伝えしたいのは、重要なのは『電子化』ではなく、『デジタル化』だということだ。」(岡本社長)
岡本社長が指摘する「電子化」(Digitization:デジタイゼーション)とは、戦後直後から長らく続く紙ベースでの業務を、部分的に電子データ処理へと移行させる方向性であり、まさに日本社会の現状である。
これに対して「デジタル化」 (Digitalization:デジタライゼーション)は、業務の根本をデジタル技術ありきで見直す、ゼロから再設計しようというアプローチだ。
「電子化は、紙を電子データへ置き換えるだけに過ぎない。本当の意味での業務効率化には、業務の在り方そのものの見直しが必要。それがデジタル化だ」と岡本社長は指摘する。
こうした動きの海外事例として挙げられたのが「電子インボイス」で、シンガポールで導入された「PEPPOL」だ。また、イタリアでは電子インボイスがすでに義務化されている。また、オーストラリアでは、給与支払い報告を国に対してデジタルかつリアルタイムに報告することを義務化する「Single Touch Payroll」制度が導入済みだ。
これらの海外事例に共通するのは、会計・税務業務をデジタル化することによって、行政側だけでなく、事業者側にもメリットが創出されている点だという。「事業者が何をやってもいいが、最終的に国へ書類を出すときは電子化して、行政の業務を効率化させろというのが今までの流れ。しかし、これだと事業者側にとっては単なる負担増になりかねない。デジタル化によって、事業者自身が圧倒的なメリットを感じてもらえるだけの仕組みでなければ浸透は難しいのでは。」(岡本社長)
3年後の「インボイス制度」導入を見据え、年内に「電子インボイス」標準仕様を策定へ
とはいえ、性急すぎるデジタル化は混乱を招く。実際にイギリスでは「3年で確定申告をなくす」という目標を政治主導でぶち上げてしまったため、「Making Tax Digital」と呼ばれる一連の取り組みには停滞感もあるという。
「(何事もスピード感が要求される)このご時世にあえて申し上げるが、『デジタル化は一日にしてならず』。1年でも無理だろう。むしろ1年でできたことは『電子化』に過ぎない。本当のデジタル化には時間をかけなければ。」(岡本社長)
この現実解の達成のため、弥生では「短中期」「中長期」という2つの視点から取り組んでいく。「短中期」であれば、まさに今回発表した「弥生 21 シリーズ」のような製品を地道に改良していくことで、着実な業務改善につなげることが該当する。9月には、紙の領収書の整理に悩む事業者・会計事務所をフォローすべく「記帳代行支援サービス」も始めた。
対する「中長期」では、電子化の先にあるデジタル化の達成に向けて、官民連携で協力していく姿勢だ。具体例としては2019年12月、弥生のほか、SAPジャパン株式会社、株式会社オービックビジネスコンサルタント、ピー・シー・エー株式会社、株式会社ミロク情報サービスの5社連名で「社会的システム・デジタル化研究会(通常:Born Digital研究会)」を発足。オブザーバーに税理士会や内閣官房を迎え、すでに提言などを発表している。
業務効率化に向けての課題が多い中、岡本氏が「大きな山になる」と評するのが、インボイス制度(適格請求書等保存方式)の国内導入だ。2023年10月が予定されており、請求書で記載すべき要件が大きく変わることから、個人事業主から大企業に至るまで、広範な影響が予想される。
そのインボイスの電子化には、「中長期」視点で臨む。推進団体「電子インボイス推進協議会(EIPA)」が弥生ら10社を発起人として、2020年7月に設立した。
「法令に基づいてインボイス対応しました、しかし、それで業務が煩雑になりました……で終わってはいけない。本当にやらなければいけないのは、電子インボイスで圧倒的に業務が効率化したというところまでもっていくこと。」(岡本社長)
現在の商取引では、見積書・発注書・納品書・請求書といった書類が紙かつ郵送でやりとりされ、金銭の収受を通帳で見て目視確認するといったシーンが少なくない。これらについて、電子インボイスを切り口に、段階的にデジタル化させようというのが、EIPAの考え方である。
約3年後のインボイス制度スタートに向けて、残された時間は少ない。「実務を考えると、制度がスタートする2023年10月の1年前には、事業者が実際の電子インボイスを利用できるようにしておくのが理想。できれば2020年に標準仕様を策定するところまでもっていきたい。」(岡本社長)
最後に岡本氏は、「お客様の業務効率改善(を手伝うこと)は、弥生のライフワーク」だと強調。「短中期」の視点で、いままさに課題解決に取り組む小規模事業者をサポートしつつ、同時に「中長期」視点で、全体最適化されたデジタル化に取り組むと述べた。