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Adobe、サードパーティCookieレスでも新しいウェブの顧客体験を実現する「次世代リアルタイムCDP」発表

デジタルマーケティング界隈でCookieを使わずにデジタルマーケティングを実現するソリューションには注目が集まっている

 米Adobeは、同社が提供するデジタルマーケティング基盤「Adobe Experience Cloud」に関する年次イベント「Adobe Summit」を、米国時間の4月27日(日本時間4月28日未明)よりオンラインで開催する。それに先だってAdobeは報道発表を行ない、サードパーティが提供するCookie(ウェブサーバーに記録される訪問者の情報)を利用しなくても、ウェブサイトを訪問するユーザーに優れたユーザー体験を提供する「次世代リアルタイムCDP」の提供を開始することを発表した。

 ウェブ業界では現在、個人情報の塊とも言えるCookieを、自社ウェブサイト(ファーストパーティ)だけでなく他社(サードパーティ)と共有してマーケティング活動を行なっているが、それに対してプライバシーの懸念が示されており、今後は自社ウェブサイトで得られる情報(ファーストパーティCookie)をもとにマーケティング活動を行なっていくことがトレンドになりつつある。

 そうしたトレンドに対応するため、Adobeが今年の前半から提供を開始する次世代リアルタイムCDPでは、そうしたファーストパーティのデータを現在よりもうまく活用するために、「セグメントマッチ」「類似セグメント」などの新機能を提供し、ターゲットとなる顧客に対して優れたユーザー体験を提供する仕組みを実現する。

サードパーティ提供のCookieは使わない方向に舵を切りつつあるプラットフォーマー、それへの対応が必要になっている

Adobeのアサ・ウィロック氏(デジタルエクスペリエンス担当プロダクトマネジメントディレクター)

 Adobeのアサ・ウィロック氏(デジタルエクスペリエンス担当プロダクトマネジメントディレクター)は「デジタルマーケティングを担当するマーケターにとってCookieレスは大きな注目を集める話題になっている。昨今のGoogleやAppleなどの発表により、サードパーティのCookieレスでマーケティングをしなければいけない時代がすぐそこまできている。しかし、まだまだそれを完全に理解し、取り組みを開始したというマーケターは少ないのではないだろうか。Econsultancyの調査でもマーケターのうち63%がCookieレスへの理解が十分ではないと認識していると明らかになっている」と述べ、サードパーティ(他社から提供される)Cookieレスでのデジタルマーケティングに関して取り組まなければいけないという認識はあるが、まだその全貌を理解して対策まで始めている企業は多く無いと指摘した。

 CookieとはHTTPの仕様で定義されているウェブサーバーとウェブブラウザーが状態を管理する手順で、主にウェブサーバー側がユーザーの識別やセッション管理などを行なうことに利用している。例えば、ユーザーがログインしたIDのデータ(アカウント名やパスワード)やログイン時に発生される認証情報などがCookieに保存されることで、ユーザーはいちいちログインしなくてもウェブサービスを利用できるなどのメリットがある。

Cookieレスになると、これまでのデジタルマーケティングのやり方を変える必要がある

 その一方で、ウェブサーバーからすると、それらのデータはユーザーの認識にも利用することが可能だ。ウェブブラウザーが生成する固有のIDなどから、このアクセスとこのアクセスは同じPCからのアクセスだと認識することができるようになる。そうしたCookieの情報はウェブサーバーに蓄積されており、ユーザーが許可している場合などには第三者に対して個人が識別されないかたちで提供されることもある。そうした情報を「サードパーティCookie」と呼んでおり、これまでそうしたデータをもとにレコメンドなどのデジタルマーケティングが行なわれてきた。

 しかし現在では、プライバシー保護の観点からそうした行き過ぎたサードパーティCookieの利用に制限をかける動きが盛んになってきている。特にGoogleやAppleといったいわゆるプラットフォーマーがそうした動きをしており、Googleは2020年1月、「ChromeブラウザーにおけるサードパーティCookieの廃止を2年後に行なう」と発表。2年という猶予は設けられているものの、ブラウザー側がサードパーティCookieの仕組みを持たなくなるため、デジタルマーケティングでサードパーティCookieを使えなくなる見通しだ。

 また、Appleは2020年6月、Appleの端末識別ID「IDFA」のポリシー変更を発表。従来は誰でも利用できる状態から、標準ではユーザーが承諾しない限りは利用できないという設定に変更された。

 このように、世の中の潮流としてサードパーティCookieの利用は難しい方向に向かっている。このため、それに対応したソリューションがデジタルマーケティング界では必要になってきているのだ。

「次世代リアルタイムCDP」に「セグメントマッチ」「類似セグメント」などの新機能を提供

「次世代リアルタイムCDP」ではCookieレスでファーストパーティデータの利活用を促進する

 今回、Adobeが発表したのは「次世代リアルタイムCDP」と同社が呼んでいる新製品となる。CDPとはCustomer Data Platform(顧客データプラットフォーム)の略で、顧客のデータをどのように管理して、よりよいユーザー体験につなげるかという「Adobe Experience Cloud」ベースの製品となる。リアルタイムCDP自体はすでに提供が開始されているものが、今回いくつかの新機能が追加されている。

見込み顧客へのアプローチも変わっていく

 ウィロック氏は「サードパーティのCookieが利用できなくなれば、必然的にファーストパーティ(自社)のデータをどう活用していくかが重要になる。例えば、ユーザーがIDを作るときに入力してもらう電子メールや電話番号などのデータと、自社ウェブやアプリ、メディアなどを組み合わせてユーザーに対して優れたユーザー体験をリアルタイムに提供していくことが大事だ」と述べ、これからのデジタルマーケティングはファーストパーティのデータの活用が重要になると強調した。そのためのデータ基盤となるのが次世代リアルタイムCDPで、いくつかの新機能が追加されていくという。

オムニチャネル分析やAdobe Targetの活用

 具体的には、ファーストパーティCookieなどのデータを一元管理するハブ機能が用意される。見込み客が自社ウェブサイトのどこを見たのかといったデータや、ID作成時などに登録してもらった電子メールや電話番号を含むウェブデータ/アプリデータなどを組み合わせてデータを一元的に管理することができる。そうしたデータに、オムニチャネル分析(顧客が残したデータを解析する機能)、Adobe Target(機械学習などを利用して見込み顧客をスコアリングするなどして、より効果的なマーケティングを自動で行なうサービス)など既存のAdobe Experience Cloudで提供されているような機能を組み合わせることで、自社のサービスに新しく登録してくれそうな見込みユーザーに対してクーポンを発行したり、より高い割引を提案したりというターゲットマーケティングが可能になる。ウィロック氏は「Cost Per Authentication(許諾獲得単価)が新たな指標になる」と述べ、そうした新しいユーザーの許諾を得ることをできるだけ低コストで行なうことが今後は重要になるとした。

「セグメントマッチ」と「類似セグメント」

 また、新しい顧客を獲得するための機能としては「セグメントマッチ」「類似セグメント」といった新機能を提供すると説明した。

 セグメントマッチは、企業と他社がパートナーシップを結ぶことで、自社のファーストパーティデータを他社のファーストパーティデータとをシェアする機能。もちろんユーザーが許諾した場合に限られるが、例えばアパレル企業がジュエリーブランドと提携すると、アパレル企業が、顧客の一部が購入しているドレスの種類などマッチングした顧客のデータの中で、プライバシーに配慮する必要の無い顧客のデータだけ相互に融通することが可能になる。それによりジュエリーブランドはそうした顧客に対して最適なアクセサリーをレコメンドするという使い方が可能になる。従来のように、サードパーティCookieを活用する場合に比べると、より高い透明性でそうした機能を提供することができる。

 類似セグメントは、既知の顧客と似た属性を持つ顧客を特定し、その顧客層に対してセグメントマッチを利用してターゲットマーケティングが可能になる。それにより、自社のウェブサイトに来た顧客の中からサービスの利用率が高いような顧客層を類推することが可能になり、そうした顧客に対してクーポンを発行することなどが可能になる。

「次世代リアルタイムCDP」を利用することで顧客のプライバシーを尊重しつつ、透明性の高いデジタルマーケティングが可能になるとAdobeはアピール

 ウィロック氏によれば、今回発表された新機能のうち、セグメントマッチや類似セグメントなどは、キーとなる顧客によるアーリーアクセスが行なわれており、今年前半のうちに一般提供(GA:General Availability)が開始される予定とのことだ。