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生体データではなく“家電の電力使用データ”が有効との実証実験結果~高齢者の健康づくり・見守り支援で計測・解析

電力センサーで計測した値はクラウド上で処理が行われ、スマートフォンで確認できる

 奈良県立医科大学発のスタートアップ企業であるMBTリンク株式会社と東京電力グループの株式会社エナジーゲートウェイは5月16日、北海道沼田町にて約3年間実施した見守りシステムの実証実験に関する結果を公表した。ここでは、生体データではなく、家電の電力使用データを活用することが健康管理と行動変容を促すために有効だったとしている。

 この実証実験では、沼田町に住む50代~60代の約25人を対象に、健康・生活・行動・嗜好などのデータを収集し、医学的知見を生かしてデータの相関関係や意味を解析。2019年の開始当初は、生体データ計測器と環境計測器で400項目のデータを収集し、分析を重ねながら必要な項目を絞り込んでいった。

 しかし、生体データを計測するためには、実証実験の参加者に計測機器を装着する必要があるため、常に生体データを取得することは難しい。このような状況で着目したのが、自宅にある家電の電力使用データだ。

 これを実証するため、電力データに関するサービス提供・開発を行っているエナジーゲートウェイが2020年に実証実験に参加した。

分電盤に設置した電力センサー。1つ1つの家電の電力使用量が把握できる

 家電の電力使用量を計測するには、一般的には各家電製品に1つずつ計測器を用意する必要がある。エナジーゲートウェイが開発した「家電分離技術」では、分電盤に電力センサーを1つ設置すると、AIが電力使用量を分析。主な家電製品の使用状況が分かる。

 電力使用データを計測すると、起床時刻のほかに、掃除を使用している時間や洗濯機の使用状況も分かるため、健康状態や生活のサイクルが見えてくる。具体的な例として、夜中に電子レンジを使うと、その時間に食事をしていることが分かる。

 実証実験では、家電を使用する場面ごとに、1)エアコン、テレビ、待機電力などは「生活スコア」、2)電子レンジ、冷蔵庫、炊飯器、IHなどは「食事スコア」、3)洗濯機、掃除機などは「活動スコア」――に分類。家電の消費電力により発生頻度、行動周期性、実施時間帯など過去の実証データをもとに「LSS(ライフスタイルスコア)」を算出した。

 LSSは、値が高いと規則正しい健康的な生活を送っているとしている。実証実験では、LSSスコアが下がったあと、実際に入院をしたり、認知症と診断されたりしたケースがあった。

 このようにLSSスコアが低下するのは、体の不調の前触れだという。実証実験は「未病」(病気を発病しているわけではないものの、健康でもない状態)の発見を1つの目的としている。

実証実験中に見られたLSSスコアの低下。1人は入院、もう1人は認知症と診断された

 参加者へのアンケートでは、「自分でも気が付かなかった季節によるライフスタイルへの影響、変化を知れ、自分の生活改善点が分かった」「ライフスタイルスコアに加え、食事、活動、生活スコアが知れ、スコアの低い行動においては、規則正しい生活をより心掛けるようになった」など、生活を改善しようという行動変容を促したことも確認できた。

 そのほかには、高齢者の見守りとして利用しているケースでは、遠方に住んでいる家族から「高齢者の家族が、アプリを通じて親のライフスタイルを確認することができて安心する」といった声や「認知傾向を心配しているが、客観的に各スコアを通じ影響度を把握できるため大変参考になる」という感想が寄せられている。