ニュース

防衛省、「防衛省AI活用推進基本方針」「防衛省サイバー人材総合戦略」を策定

 防衛省は7月2日、同省におけるAIの活用促進や、サイバー人材の確保・育成の羅針盤として、「防衛省AI活用推進基本方針」と「防衛省サイバー人材総合戦略」を策定した。

 AI活用推進基本方針としては、AIの特性や各国の動向を整理した上で、「目的の探知・識別」「情報の収集・分析」など、7つの活用分野を設定し、具体的な取り組みをまとめている。サイバー人材総合戦略では、「特定」「確保」など5つの柱を設定し、施策の方向性を挙げている。

3部構成で防衛省のAI推進における方針を示す

 防衛省AI活用推進基本方針は、同省におけるAIの活用分野、AIの利用に伴うリスクへの対応、データ基盤の構築、AI・データ人材の確保・育成、研究開発などについて、防衛省の考え方を示すもの。第1部「基本方針策定の背景」、第2部「AIの活用分野と方向性」、第3部「AI活用推進に向けた取り組み」から構成されている。

防衛省AI活用推進基本方針(防衛省AI活用推進基本方針 概要2より)

「新しい戦い方」に対応できるが大きな課題

 第1部「基本方針策定の背景」では、防衛とAIに関する現状認識をまとめ、基本方針を示している。

 防衛分野において、米国は指揮統制システムへのAIの適用を検討、中国はAIを活用した無人アセットの強化に取り組むなど、AIの活用が広がっている。同省は、科学技術の急速な進展によって安全保障の在り方や戦闘様相が変化する中で、新しい戦い方に対応できるかどうかが、日本の今後の防衛力を構築する上での大きな課題であるとしている。また、人口減少と少子高齢化が進展する日本において必要不可欠な人員の効率的な活用に、AI技術が生かせる可能性があると指摘している。

 防衛省AI活用推進基本方針では、同省がAIをどのように活用する考えなのか示すことにより、対内的には個別の取組の戦略性や一貫性を担保し、対外的には国民を背景とする行政の促進、他国との協力・連携の推進、部外企業や研究機関などとの協力関係の構築を目指す。

基本方針策定の背景(防衛省AI活用推進基本方針 概要2より)

「課題を見出す」のは人間、AIは課題克服のために活用

 第2部「AIの活用分野と方向性」では、の機能と限界を見据えて、活動分野を定め、想定されるリスクへの対応策も挙げている。

 同省は、現在のAIには課題を見出す能力はないとした上で、AIの活用に当たっては、人間が具体的な課題を特定し、その課題解決のためにAIを役立てることができるか検討する必要があるとしている。AI活用に適した業務の要素として「克服すべき課題を人間が特定できていること」「正解(と思われるもの)が存在すること」「AIの機能を用いることにより課題を克服できること」「学習に必要なデータの質と量を確保できること」の4点を挙げている。

 具体的には、「目的の探知・識別」「情報の収集・分析」「指揮統制」「後方支援業務」「無人アセット」「サイバーセキュリティ」「事務処理作業の効率化」の7分野で重点的にAIの活用を図るという。あくまでAIが行うのは人間の判断のサポートであり、活用にあたっては人間の関与を確保すると強調している。

 また、AIには、一定の誤りや、学習データの偏りなどに起因するバイアス、誤用・悪用などの課題やリスクが伴うとした上で、総務省と経済産業省による「AI事業者ガイドライン」や他国の防衛当局との議論を参考にしながら、リスクの低減に取り組むという。さらに、防衛省が得た知見を共有するなど、国際的な議論やルール作りにも積極的に参加するとしている。

AI活用分野と方向性(防衛省AI活用推進基本方針 概要2より)

「AI・データ人材」の育成など、幅広い取り組みを推進

 「第3部:AI活用推進に向けた取り組み」では、データ基盤の構築や、AI・データ人材の確保・育成など、幅広い取り組みを行うとしている。

 データ基盤の構築として、全ての隊員に対する「データは任務遂行に不可欠な戦略アセット」という意識の涵養、共有が必要なメタデータの把握、データフォーマットの標準化、クラウドを活用したデータの収集・蓄積・管理、PMO(全体管理組織)を中心としたデータマネジメント推進などを行う。

 人材については、防衛省に求められるAI人材として「データ人材」「AIエンジニア」「プロジェクトリーダー」を挙げ、人材ニーズに適したAI講座の受講、またAIを利用するだけの隊員に対しても最低限の知識の修得を促すとしている。さらに、民間のAI・データ人材も活用していくという。

 研究開発については、国際的な議論の文脈で表明している一連のコミットメントの具体化に向け、ガイドラインを策定するという。また、人道上の視点と安全保障上の必要性を踏まえたバランスの取れたAI軍備管理・AI倫理に関する原則や規範の策定を目指すとしている。

 教育・研究機関との協力関係の拡大・深化や、各国の防衛当局との情報交換も実施する予定。

 そのほか、次世代情報通信技術や量子コンピューティング技術などのAIを支えるインフラとなる可能性のある先端技術については、今後の発展・進化を踏まえつつ、必要に応じ導入を検討するとしている。また、生成AIについては、リスクの低減をできる限り重視しつつ、導入に取り組んでいくという。

AI活用推進に向けた取り組み(防衛省AI活用推進基本方針 概要2より)

サイバー人材の確保から維持管理まで、長期視点の総合戦略

 防衛省サイバー人材総合戦略では、防衛省におけるサイバー人材施策を「特定」「確保」「育成」「維持・管理」「総合的な強化」という5つの柱に沿って策定している。

特定

  • 個々のサイバー人材の多様な役割や職階などに応じた、新たなスキル評価指標の検討・策定

確保

  • 入隊段階からサイバー人材(「任期付自衛官」「キャリア採用幹部」「技術曹」)としてサイバー業務に従事し続けられる制度の整備
  • 常備自衛官とともに、さまざまな任務に就くサイバーの技能を有する「サイバー予備自衛官」の拡充
  • 自衛隊奨学生制度の活用
  • 優秀な部外の人材の発掘を目的とした防衛省サイバーコンテストの開催
  • 大学、高校、専門学校などにおける説明会や、ウェブなどを通じた効果的なPR活動の実施

育成

  • 陸上自衛隊高等工科学校のシステム・サイバー専修コースの拡充
  • 防衛大学校のサイバー・情報工学科への改編、教育強化
  • 陸上自衛隊システム通信・サイバー学校の教育基盤の拡充、教育強化
  • 国内外教育機関への留学、企業研修などの充実

維持・管理

  • サイバー人材の柔軟な職種・職域などへの配置
  • 「サイバーき章」を含む人事管理方法の見直し

強化

  • 政策部局、研究機関、現場部隊などが広く参加し、省内の知見を結集して組織横断的な取り組みを推進する「防衛省サイバーCOE(Center of Excellence)」の設置
  • リボルビング・ドアの実現
  • 産官学連携の強化