特集
年末調整の「基礎控除申告書で収入金額や給与所得がわからない」を解決! 超時短な計算方法も伝授! 2023年(令和5年分)年末調整の書き方<2>
「令和5年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の記入手順を図解
2023年10月27日 06:00
この記事は、2023年(令和5年)の年末調整について説明したものです。
2024年(令和6年)の年末調整については、以下の最新記事をご参照ください。
サラリーマンの秋~年末の風物詩、「年末調整」がやってきた。読者のお手元には生命保険会社などから保険料控除の証明書が届いているだろう。前回は3つの申告書の記入例を紹介するとともに、そもそも年末調整とは何かについても説明した。2回目となる今回は、 「令和5年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」 という、ウルトラスーパーアホみたいに長い名称の申告書について記入手順を詳しく見ていこう。
2023年(令和5年分)年末調整の書き方[目次]
- 3枚の申告書の記入例まとめ(別記事)
- 「令和5年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の記入手順(この記事)
-「給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」とは
- 年収から所得金額を算出する方法=適当で大丈夫
- 配偶者の欄を記入する
- 年収850万円を超える人は「所得金額調整控除」
- 最後に - 「令和5年分 給与所得者の保険料控除申告書」の記入手順(別記事)
- 「令和6年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の記入手順(別記事)
「給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」とは
この申告書には「基礎控除申告書」「配偶者控除等申告書」「所得金額調整控除申告書」の3つの申告書が1枚に収められている。大きく分類すると3つだが、記入作業で見ると6つのブロックに分けられる。
上段は会社名や自分の氏名、住所などを記入する欄。この申告書の主役は中段の4ブロックで、左側が自分の所得と基礎控除、右側は上から順に配偶者の情報、配偶者の所得、配偶者控除となっている。下段は「所得金額調整控除」だ。
フォーマットが変更されてから4回目の年末調整となるが、年に一度ということもあり、「収入金額」「所得金額」の文字に「収入金額? 所得金額? どう違うの? どいうこと?」と頭を悩ませる人が多いようだ。分かりにくい中段の主役部分の記入の流れから説明していこう。
上図において①に年収を記入し、年収から所得を計算する。ここが年末調整の天王山なので、記入・計算(・手抜きする)方法はあとで説明しよう。②に所得を記入。大半の人は900万円以下(=年収1095万円以下)となるので、③の「基礎控除の額」は48万円と記入。④の判定に「A」と記入する。
⑤に配偶者の年収を記入する。配偶者がパート勤めであれば103万円以下の人が多いと思われる。⑥に55万円を引いた額を記入する。⑤が103万円なら、⑥は48万円となる。判定は「48万円以下かつ年齢70歳未満」となる人が多いはずだ。⑦に判定結果を記入し、縦軸の区分Iが「A」、横軸の区分IIが「②」なら金額は38万円。下段の適用が「配偶者控除」なので、右側の⑧「配偶者控除の額」の欄に38万円と記入する。
最終的に判定は上記のように多くの人が書く前から決まっていそうだが、記入に際し悩ましいのは自分と配偶者の収入と所得を求める点だ。
年収から所得金額を算出する方法=適当で大丈夫
各欄を細かく見ていこう。中段の左側は自分の年収から所得を算出し、区分と基礎控除の額を求める欄だ。真面目に記入しようとすると面倒な計算が必要だが、所得900万円以下=年収1095万円以下の人は区分A、基礎控除の額は48万円となるので、大半のサラリーマンは計算する前から「区分A、基礎控除の額は48万円」と決まっている。
「以上。」で終わらせたいが、不毛な説明をしよう。まず知りたいのは今年の年収。まだ11月の給与、ボーナス、12月の給与をもらっていないので、10月までの給与明細を集計しても、残業代などで毎月の給与が変動する人は年収を正確に把握するのは難しい。とはいえ「年収1095万円以下」の人は答え(=区分)は決まっているので、実際の年収と記入する年収に100万円の差異があっても実務上の問題はないので、ザックリとした予想で年収を記入しよう。ご自身の年収(年俸)を把握している人も同様だ。
自分の年収が思い浮かばない人は、もし1月の給与と一緒に受け取った源泉徴収票がすぐに見つかればこれを参考にしよう。前年の年収と所得が記載されているので、そのまま書き写すもよし、年収を多少増減させて記入するもよし、それらしい額を記入しよう。大手企業の人は今年は例年にない賃上げがあったのでプラス傾向、中小企業の人は横ばい、などと想像はできるが、さじ加減はご自身の判断に委ねたい。
源泉徴収票も毎月の給与明細もすぐには見つからない人はどうするか。一般的に毎月の給与は支給額から所得税、住民税、社会保険料が引かれるので手取りは2~3割少なくなる。通勤手当が加算され、ボーナスは企業の業績などにより変動するが、100万円の差異が気にならない人は「手取り額の15~20倍」=年収としよう。
このあとの計算を考慮すると、年収はできるだけ細かな数字を避けたい。年収458万2530円よりは460万円、あるいは500万円と記入した方が所得の算出は楽になる。年収400万円の人が800万円と記入しても問題はないが、提出先の担当者が見たときにクスッと笑うかもしれないし、几帳面な担当者からは訂正を求められるかもしれない。
年収が決まったら、次は所得の算出だ。年収はザックリでよいが、その額から計算する所得は正確に行う必要がある。いくつか方法はあるので、不毛な順に紹介しよう(笑)。年収から「所得金額」を計算するのは真面目にやると微妙に面倒くさい。「令和5年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者……」と長い名称の申告書の裏に、収入金額から所得金額を計算する方法が記載されている。
年収を11段階に区分してそれぞれの計算方法が記載されている。そもそも正確な年収を把握するのが困難な時点で161万9000円、162万円、162万2000円、162万4000円……と細かく区分して多くの国民に不毛な計算を強いるのは、律儀なのか几帳面なのか生真面目なのかアホなのか理解しがたい。できればこの方法はスルーしたい。
年収660万円未満の人は「令和5年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」を利用する方法がある。例えば年収650万円の人は「650万円以上650万4000円未満」の右側に記載された476万円が所得金額となる。
お勧めなのは、国税庁のサイトにある給与所得控除についてのタックスアンサー(よくある税の質問)のページ下段にある給与収入から所得を計算するサービスだ。これなら年収の金額が1円単位まで細かくなっていても、サクッと所得が計算できる。
最後に、筆者が最もお勧めする「超時短な裏技」は、年収を100万円単位で以下の表から選び、右側の所得をそのまま記入する方法だ。これなら数秒で作業が完了する。
この方法で記入した読者の「年収は100万円単位で丸めて良いと知り、実行したらえらく計算が楽になった」というコメントもあった一方、過去のコメントでは所得を計算できる“補助Excel”が配られ1円単位まで計算を求める会社もあるようなので、お勤めの会社の方針に沿って記入していただきたい。
もともと所得2400万円を超える一部の高額所得者の増税をするため、関係のない大多数のサラリーマンが不毛な時間を消費させられる申告書なので、楽に記入する人が増えて欲しいと思う。そもそも社員全員に記入させる必要があるかさえ疑問だ。年収を早く正確に把握できるのは企業の管理部門なので、仮に勤怠の締め日が月末で給料日が翌月25日ならば11月末に12月の給与支給額は決まる。ボーナス査定が終わっていれば11月末で正確な年収が確定する。それを管理部門が記入すれば(給与システム等にインポートすれば)、多くの従業員を悩ませるより効率的だと思う。
配偶者の欄を記入する
中段右側の「給与所得者の配偶者控除等申告書」の配偶者の収入金額(年収)と所得金額も、ここまでと同様の手順で記入しよう。「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」または国税庁のサイトにある計算サービスを利用すれば、簡単に年収から所得金額を算出できる。
もし配偶者がパート勤めで年収を103万円以下に調整しているなら、所得金額は48万円以下となる。年齢が70歳未満なら、判定は「48万円以下かつ年齢70歳未満=②」となる。配偶者が正社員で働いていて年収が201万6000円以上なら、配偶者(特別)控除を受けることはできない。
左側の区分Iが「A」、右側の区分IIが「②」となったら適用が「配偶者控除」なので、下段の表の該当欄の金額38万円を右側の「配偶者控除の額」に記入すると完成となる。注意したいのは、配偶者の所得95万円超133万円以下の人(=配偶者特別控除)。区分IIが「④」の人は5万円刻みで控除額が変わる(納税額が変わる)ので、ここだけは慎重に算出したい。
※記入例の画像はクリック/タップで拡大。さらにPCで閲覧している場合は、拡大画像の左上にある「+」アイコンをクリックすると、より高解像度な元画像を表示できます。
なお、キーボードで入力したい人は、年末調整の申告書の入力用ファイル(PDF)を国税庁のサイトからダウンロードしていただきたい(詳しくはこちら)。
年収850万円を超える人は「所得金額調整控除」
最下段の「所得金額調整控除申告書」は、注意書きに「収入金額が850万円以下の場合は、記入する必要がありません」とあるように、年収850万円以下の人はスルーしよう。
年収が850万円を超え、自分自身、配偶者、扶養親族に特別障害者がいる人や、平成13年1月2日以降に生まれた23歳未満の子がいる人は、この「所得金額調整控除」が受けられるので記入しよう。
この「所得金額調整控除」で興味深いのは、夫も妻も年収が850万円を超える場合、夫も妻もそれぞれ控除が受けられることだ。国税庁の「所得金額調整控除」の記載をそのまま引用すると、「この控除は、扶養控除と異なり、同一生計内のいずれか一方のみの所得者に適用するという制限がありません。したがって、例えば、夫婦ともに給与等の収入金額が850万円を超えており、夫婦の間に1人の年齢23歳未満の扶養親族である子がいるような場合には、その夫婦双方が、この控除の適用を受けることができます」。
以上で「令和5年分 給与所得者の……(中略)……申告書」の記入は全て完了となる。年収1095万円以下で「適当でいいんじゃね」と割り切れる人はあっと言う間に記入が完了するはずだ。来年以降のためにコピー、スマホで撮影、PDFで保存などをお勧めしたい。
今回はここまで。次回は「令和5年分 給与所得者の保険料控除申告書」の記入手順を、生命保険料控除を簡単に計算するツールの紹介などしつつ解説しよう。
最後に
年末調整などを記入すると出てくる“103万円”という年収の壁は長年続いている。103万円の意味は基礎控除が48万円、給与所得控除が55万円。103万円から給与所得控除の55万円を引くと(控除すると)48万円。さらに基礎控除の48万円を引くとゼロ円となり、所得税が無税となる。そのため103万円の壁と言われている。調べてみると、それ以前の100万円の壁が103万円の壁となったのは1995年。103万円の壁は28年続いている。
103万円の壁の後ろに社会保険料の負担が始まる106万円の壁(従業員101人以上の企業)、130万円の壁(従業員101人以下の企業)があり、103万円の壁の手前には住民税の課税が始まる100万円の壁がある。これらを年収の壁と呼んでいる。パート、アルバイトの人は壁だらけだ。
住民税で計算してみよう。税金が全国の中でチョット高い横浜市の場合、年収100万円までは住民税が0円。100万1円になると市民税の均等割が4400円、県民税の均等割が1800円、合計6200円の住民税が発生する(※100万円の壁は自治体で異なる)。
筆者が気になるのは、世の中で賃上げが叫ばれていて、今年の春は大手企業が近年にない賃上げを行った(らしい)。最低賃金が上がり全国平均で1004円になったのに、年収の壁はそのままなこと。
仮にパート、アルバイトの時給が1割上がったとすると、100万円、103万円の壁がそのままなら、働く時間を1割減らさないと壁を越えてしまう。賃金が上がれば上がるほど人手不足・労働力不足になると思うのだが、あまりこの点は政府も報道機関も気にしていない感じがする。
先に壁を後ろのズラすべきと考えている。分かりやすいのは120万円。毎月10万円以下なら無税。少し譲って9万円×12カ月=108万円。そこまでは住民税も所得税も無税。もしかすると壁を後ろにズラすだけで、もっと働きたい人が頑張ると、時給が上がる前に手取りが増え、労働力不足の解消になるかもしれない。
2年間の時限措置として「年収の壁支援強化パッケージ」なる政策が打ち出され、配偶者の扶養から外れても社会保険料の自己負担を補填する方向で進んでいるが、壁を後ろに下げることを考えて欲しい。
2023年(令和5年分)年末調整の書き方[目次]
- 3枚の申告書の記入例まとめ(別記事)
- 「令和5年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の記入手順(この記事)
- 「令和5年分 給与所得者の保険料控除申告書」の記入手順(別記事)
- 「令和6年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の記入手順(別記事)