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2023年(令和5年分)年末調整の書き方~3枚の申告書の記入例まとめ

今年の変更点は? そもそも年末調整とは?

年末調整の書き方【2023年(令和5年分)最新版】今年の変更点は? そもそも年末調整とは? 3枚の申告書の記入例まとめ

 「年末調整」と聞いて気が重くなる読者がいるだろう。お手元には生命保険会社から保険料控除の証明書が届いているはずだ。この証明書を見ると筆者は「そろそろか」と、この記事の原稿の執筆を始めている。例年どおり、できる限り丁寧に説明をするのでお付き合いいただきたい。

 年末調整の時期は、お勤めの会社によって早い人は10月下旬、最も多いのが11月中旬、遅めの人は12月上旬と、1カ月半ほど差がある。毎年ツイートの件数を見ると、10月下旬から増え始め、11月第2週がピーク、12月下旬まで長い山が形成されている。検索などの推移も同様な傾向だ。

「年末調整」のツイート数の推移グラフ
昨年、11月下旬にキャプチャーした「年末調整」のツイート数の推移。10月下旬から増え始め、11月14日がピークだった(Yahoo!リアルタイム検索)

 ツイートや検索をするタイミングが申告書を配布されたときなのか、提出期限が迫ったときなのかは不明だ。読者の中には、転職したら年末調整が1カ月も早くて(遅くて)驚かれた人もいるだろう。一般的に社員数の多い会社は早め、少ない会社は遅めとなるが、最近は大企業では社内システムに年末調整が組み込まれ、手書き不要、前年のデータも引き継げるので楽になったという声も多い。

 とはいえデジタル化がなかなか進まない日本社会、毎年SNSでは「面倒くさい」「分からん」「控除証明書がない」「期限過ぎた」など悲痛なコメントが多い。ここでは「書き方が分からん」を解決、「期限を過ぎた」ときの対応策、超時短ができる裏技、面倒な生命保険料控除を簡単に計算するツールの紹介など、年末調整の書き方を4回に分けて図解で詳しく説明しよう。

 初回はまず、 3枚の申告書の記入例 を紹介したい。

 サラリーマンは年末調整に記入した内容で所得税の納税額が決まる。それが反映されたのが源泉徴収票。源泉徴収票は各自治体に送られ住民税の納税額が決まり、来年6月に住民税の通知書を受け取る。サラリーマンの税金はこの年末調整がスタートとなる。控除の記入漏れがあると所得税も住民税も多く納税することとなるので注意したい。これから寒くなる時期となり、年末調整、源泉徴収票、確定申告など(心も寒くなる?)税金の話題が増えるので、少し税金に関心を持っていただきたい。

3枚の申告書の記入例

 「今から急いで書きたい。詳しい解説よりも記入例だけ見たい」という人向けに、3枚の申告書の記入例を紹介しよう。

  • 令和5年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
  • 令和5年分 給与所得者の保険料控除申告書
  • 令和6年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書

 という3枚の申告書の記入例は以下のとおり。収入から所得を算出する方法など、記入例だけでは理解しづらい部分もあるが、急ぐ人は参考にしていただきたい。

※記入例の画像はクリック/タップで拡大。さらにPCで閲覧している場合は、拡大画像の左上にある「+」アイコンをクリックすると、より高解像度な元画像を表示できます

「令和5年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の記入例
「令和5年分 給与所得者の保険料控除申告書」の記入例 1
「令和5年分 給与所得者の保険料控除申告書」の記入例 2
「令和6年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の記入例

今年の変更点は、ほぼなし。楽に申告ができそうだ

 令和2年は税制改正の影響で申告書のフォーマットが大幅に変更された。令和3年は押印が不要となった。令和4年は扶養家族などを記入する「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」がわずかに変更された。今年は右肩のQRコードが変更されただけで、ほぼ昨年と同じ。昨年記入した申告書のコピー、写真、PDFを持っている人は楽に申告ができそうだ。QRコードのリンク先が気になる人はいないと思うが、一応お知らせしておこう。

「キーボードで入力したい」人は申告書の入力用ファイル(PDF)を活用しよう

 筆者は手書きが苦手で、宅配便の送り状など、可能なものは極力キーボード入力したいと思っている。INTERNET Watchの読者は同様な人がいるだろう。そういう人は、年末調整の申告書の入力用ファイル(PDF)を国税庁のサイトからダウンロードしていただきたい。

 年末調整の記入内容は名前、住所、家族の生年月日、生命保険など何年も変わらないものが多い。前年に記入したPDFを保存しておけば、毎年同じ記入内容は翌年コピー&ペーストできるので効率アップが可能だ。年末調整の申告書は一昨年から押印不要となったので、テレワークの人はPDF提出ができれば印刷・郵送の手間も省ける。ただし、SNSを見ると「PDFにしたら拒否されて手書きで提出した」という人もいるので、念のため事前に確認しよう。

「令和5年分 給与所得者の保険料控除申告書」入力用PDFファイルの画面
「令和5年分 給与所得者の保険料控除申告書」入力用PDFファイルの画面

 毎年お伝えしているが、この入力用のPDFの優れた点は小さな文字入力に対応していること。かつて保険会社の名称が長くて手書きで記入が困難と言われた「損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険」(現:SOMPOひまわり生命保険)も、このPDFでは自動的に文字が小さくなり記入可能だ。小さな文字が苦手な人はお試しいただきたい。付け加えると、翌年のために保存をしたいので、ブラウザー上で記入するより、ダウンロードしたファイルに記入することをお勧めしたい。

「令和5年分 給与所得者の保険料控除申告書」入力用PDFファイルの保険会社等の名称欄に「損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険」と記入してみたところ

そもそも年末調整とは

 年末調整とは、サラリーマンなど給与所得者が、その年の所得税(復興特別所得税を含む)を調整・精算する制度だ。給与の支払者(会社)は、年末に従業員のその年の所得が確定した時点で算出した正しい所得税額と、毎月の給与および賞与から“みなし”で源泉徴収(天引き)した納付済みの所得税額を計算し、所得税の過不足を12月の給与で還付または追加徴収をして調整・精算を行う。

 所得税は「給与所得の源泉徴収税額表(令和5年分)」により毎月の給与の額から算出され、“みなし金額”がその月に納税されている。12月の給与額が決まると年収が確定する。そこから給与所得控除が引かれ、個人個人の配偶者控除、扶養控除、生命保険料控除などが引かれ、最終的な納税額が決まる仕組みだ。会社は社員それぞれの扶養家族の状況や支払った保険料を知る必要があるため、12月の給料日前に社員は年末調整の申告書を提出する。

「令和5年分 源泉徴収税額表」
「給与所得の源泉徴収税額表(令和5年分)」で社会保険料等控除後の給与が30万円の場合、独身(扶養親族0人)なら、その月は所得税8420円が天引きされる

 令和2年の年末調整から「令和○○年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」という長い名称になった理由は「基礎控除申告書」「配偶者控除等申告書」「所得金額調整控除申告書」の3つの申告書が1枚に収められているからだ。

 追加された「基礎控除申告書」により記入が難しくなった。従来は基礎控除は年収200万円でも年収2億円でも一律38万円だったため、申告をする必要がなかった。税制改正により所得2400万円から基礎控除が減り、所得2400万円を超える一部の高額所得者は増税となった。この増税のため、関係のない大多数のサラリーマンは「基礎控除申告書」の記入が強制され、年末調整の難易度が上がり不毛な時間を消費することとなった。

 付け加えると、所得税は12月に納税が完了し、その結果は住民票を置く市区町村に送られて住民税の額が決定、翌年6月から翌々年5月まで住民税が天引きされる。

所得税と住民税の納税タイミングの違い
所得税は毎月天引きされ12月に納税が完了、住民税は翌年から納税する

サラリーマンの所得税の計算方法

 年末調整の申告書を記入する際「所得」を計算する必要がある。「収入」と「所得」ってどう違うの?という人のために、簡単にサラリーマンの所得税の計算方法を説明しておこう。

 計算式は下の図のとおり。1行目の左が年収(給与の収入金額)。その右の給与所得控除は一定式で決まっていて、差し引いたのが右側の所得(給与所得)と呼ばれるもの。2行目は、その所得から配偶者控除、扶養控除、生命保険料控除など各種所得控除が引かれ、課税所得が算出される。課税所得に、それに応じた税率を掛けると納税額が決まる。

サラリーマンの所得税の計算式
サラリーマンの所得税の計算式

 2行目の各種所得控除は人により異なる。「専業主婦の奥さんがいる」「大学生の子がいる」「生命保険に加入している」など、差し引かれる(控除される)金額が多くなると納税額が減る仕組みだ。家族構成や生命保険などを年末調整で記入することは税金を減らす作業だと理解しよう。

 会社は個人の控除額の算出に際し、扶養する配偶者の所得や親・子など扶養する家族の年齢・所得、支払った生命保険の内容と金額を知る必要があり、社員は年末調整の申告書を提出しなければならない。一般的に、毎月天引きされる“みなし金額”の所得税額はやや多めで、年末調整により12月の所得税は少なくなり(あるいは還付され)、普段の月より手取り金額が多くなる傾向がある。

最後に

 今年の年末調整の申告書は昨年とほぼ同じだが、取り巻く環境は少し変化がある。

 筆者はアフラックから「生命保険料控除証明書切替キャンペーンのご案内」というメールを受け取った。内容は、生命保険料控除証明書をハガキの郵送から電子データに切り替えましょうというものだ。多くの生命保険会社は年末調整や確定申告に利用できる証明書の電子データ発行を始めている。郵送された証明書のハガキの裏面も同様の内容だった。

アフラックから送られてきたメールの一部
アフラックから送られてきたメールの一部
アフラックから郵送された生命保険料控除証明書の裏面
アフラックから郵送された生命保険料控除証明書の裏面

 このように徐々に電子データ化・デジタル化が進んでいることは感じられる。ちなみにメールが届くようになったのは、2021年に掲載した『「生命保険料控除証明書」を紛失してしまったら…ネットや電話で再発行してみた手順を紹介』という記事を書くため各保険会社のウェブ登録をしたためだ。

 2020年には『年末調整の電子化:国税庁が「年調ソフト」を無償提供』と題し、2020年10月から国税庁が無償提供を開始した「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア」、通称「年調ソフト」についても触れている。

国税庁の「年調ソフト」のイメージ図
国税庁の「年調ソフト」のイメージ図

 当時の記事に「今年の年末調整の大きな話題だ……ったはずだが、あまり知られていない」と記述したが、3年が経過しても普及した感じはしない。3年間、機が熟したらこの「年調ソフト」の操作手順なども紹介したいと思いつつ、なかなかその時が訪れない。

 国税庁の「年末調整手続の電子化に向けた取組について」はこちら、ページの中段にWindows用、Mac用、Android用、iPhone用のダウンロードのリンクが掲載されている。

国税庁「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア」の入手先ページ

 年末調整ソフトについて調べると、国税庁のソフトのメリットは無償であること。業務系ソフトなどを販売・クラウド提供する民間企業の年末調整ソフトのメリットは他の業務ソフトとの連携のようで、給与・勤怠などと連携したシステムとして有償販売されている。こうした年末調整ソフトを利用すれば、先ほどの生命保険会社の証明書の電子データ化が生かせる。もともと毎年同じ内容を記入することが多い年末調整はデジタル化による効率アップが期待できる。

国税庁の「年調ソフト」のインポート画面
国税庁の「年調ソフト」のインポート画面

 中小企業のデジタル化の取り組みは担当者によって温度差がありそうだ。国税庁の年調ソフトのパンフレットを社内の担当者にお知らせするなど、デジタル化の一歩を踏み出していただきたい。

 筆者はe-Taxなどを利用しているのでマイナンバーカード肯定派だが、世の中の風潮は不安・不要がまだまだ根強い印象だ。面倒な年末調整は、不人気なマイナンバー(カード)の利用価値を劇的に向上させる機会だと思っている。

 筆者の妄想は、社員は自分・配偶者・扶養親族のマイナンバーと保険等の控除証明書データを会社に提出するだけ。これで年末調整は完了だ。会社は、社員の年収が確定したら国税庁の専用サイトにこのデータを送る。専用サイトは社員の配偶者の勤め先から受け取った所得、子どものバイト先から受け取った所得、お爺ちゃんの年金所得などを照らし合わせて控除額・納税額を会社に戻す。会社は受け取ったデータを給与システムなどにインポートすれば、全て完了となる。「昔は手書きの年末調整がメッチャ面倒くさかった」と言える時代が、その気になればすぐに実現しそうだ。

 こうすれば他の社員に「○○さんの奥さんは年収が多い、息子さんはバイトで稼いでる、お父さんの年金は……」と無用な情報をさらす必要もなく、個人情報に過敏な日本人には適した方法だと思われる。

 年末調整と直接関係はないが、小規模企業の人は今年は特に年末調整を遅れずに提出したい。理由は、日本中の経理担当者に無駄な労力を課す「インボイス制度」。大手企業は経理と年末調整は別々の担当者だと思うが、十数人の会社では総務・経理などを1人で担当している人がいるだろう。10月1日から始まったインボイス制度で大量の請求書の確認作業が始まるのが10月末から。そこに年末調整が重なるのでフラストレーションがマックスになっている可能性大だ。逆鱗に触れぬよう、地雷を踏まないよう、“超時短な裏技”(第2回で紹介)を利用するなどして申告書を期限内にサクッと提出していただきたい。

「INTERNET Watch」ではこのほかにも、サラリーマンと個人事業主がぜひ読んでおきたい税金に関する記事を多数掲載しています。まとめページ『サラリーマンと個人事業主の税金の話』よりご参照ください。