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2024年(令和6年分)年末調整の書き方を図解~今年の3つの変更点とは? そもそも年末調整とは?
3枚+1枚の申告書の記入例まとめ【早見表】
2024年10月21日 06:00
「年末調整」のシーズンがやってきた。読者のお手元には生命保険会社から保険料控除の証明書が届いているはずだ。年末調整がデジタル化され社内システムに取り入れられて“手書き不要、前年のデータも引き継げるので楽になった”という声を多く聞くようになったが、多くの中小企業では、まだまだ手書きによる年末調整が行われているようだ。年に一度の作業で書き方を忘れている人も多いと思われるので、例年どおり、記入方法をできる限り丁寧に説明をするのでお付き合いいただきたい。
2024年(令和6年分)年末調整の書き方を図解[目次]
- 今年の3つの変更点とは? そもそも年末調整とは?(この記事)
- 今年の年末調整、変更点は3つ
-「キーボードで入力したい」人は、申告書の入力用ファイル(PDF)を活用しよう
- 3枚+1枚の申告書の記入例【早見表】
- そもそも年末調整とは
- 提出期限を過ぎた……どうする?
- 最後に - 「令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の記入手順(別記事)
- 「令和6年分 給与所得者の保険料控除申告書」の記入手順(別記事)
- 「令和7年 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」および「【簡易対応様式】令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の記入手順(別記事)
年末調整の時期は、お勤めの会社によって早い人は10月下旬、最も多いのが11月上旬から中旬、遅めの人は12月上旬と、1カ月半ほど差がある。年末調整についてのXのポスト件数を見ると、10月下旬から増え始め、11月がピーク、12月下旬まで長い山が形成されている。検索の推移も同様な傾向だ。
Googleトレンドのデータで昨年2023年10月1日から12月31日の「年末調整」の検索数の推移を見てみよう。10月下旬から上昇し、ピークは11月7日と13日が同数で、12月上旬まで大きな山となっている。
検索をするタイミングが申告書を配布されたときなのか、提出期限が迫ったときなのかは不明だ。読者の中には、転職したら年末調整が1カ月も早くて(遅くて)驚かれた人もいるだろう。一般的に社員数の多い会社は早め、少ない会社は遅めの傾向がある。
デジタル化がなかなか進まない日本社会、毎年SNSでは「面倒くさい」「分からん」「控除証明書がない」「期限を過ぎた」など悲痛なコメントが多い。この特集記事では「書き方が分からん」を解決、「期限を過ぎた」ときの対応策、超時短ができる裏技、面倒な生命保険料控除を簡単に計算するツールの紹介など、年末調整の書き方を4回に分けて図解で詳しく説明しよう。
サラリーマンは年末調整に記入した内容で所得税の納税額が決まる。それが反映されたのが源泉徴収票。源泉徴収票は各自治体に送られ住民税の納税額が決まり、来年6月に住民税の通知書を受け取る。サラリーマンの税金はこの年末調整がスタートとなる。控除の記入漏れがあると所得税も住民税も多く納税することとなるので注意したい。この時期から3月まで、年末調整、源泉徴収票、確定申告など税金の話題が増えるので、少し税金に関心を持っていただきたい。
今年の年末調整、変更点は3つ
昨年の年末調整は、一昨年から大きな変更点はなかったが、今年はいくつかの変更が行われた。
1つ目は、名称が長い「給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」において、今年6月から実施された「定額減税」(←懐かしい)に関する記入欄が追加されている(※定額減税の説明はこちら)。
定額減税の欄が追加され、それにともないレイアウトも変更されている。会社側の年末調整の担当者は定額減税分の作業が増えるが、提出する従業員はチェックを付けるだけなので、記入に際しては従来と大きな差はない。
もともと「令和5年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」というウルトラスーパーアホみたいに長い名称の申告書だったが、これに「年末調整に係る定額減税のための申告書」が加わり、「令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」という超々長い名称となった。
2つ目は、「給与所得者の保険料控除申告書」から、生命保険料控除・地震保険料控除・社会保険料控除にあった「あなたとの続柄」欄が削除された。大きな変更ではないが、記入項目が減り簡素化されたのは良いことだと思われる。
3つ目は、「【簡易対応様式】令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」という新たな申告書が用意された。従来の3種類の申告書にもう1種類の申告書が加わることとなるが、これは従来の「扶養控除等(異動)申告書」で配偶者や扶養親族に住所や所得などの変更がない場合は、氏名・個人番号(マイナンバー)・住所だけ記入し「前年の申告内容からの異動[なし]」にチェックを付けるだけでよいため、大幅な簡素化が期待できる。
【簡易対応様式】の利用の可否は以下の説明を参照していただきたい。
家族構成・生年月日・生命保険など毎年同じことを記入(=不毛な作業)する人が多い年末調整において、この簡素化は大きな改革だと思われる。「扶養控除等申告書」に続き「保険料控除申告書」も簡易対応様式が用意されることを期待したい。懸念するのは、SNSなどで「PDFで提出したら手書きで再提出させられた」など、事務部門(あるいは顧問税理士)が変化を好まない企業もあるようなので、「【簡易対応様式】令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、事前に利用の可否を社内で確認しよう。
「キーボードで入力したい」人は、申告書の入力用ファイル(PDF)を活用しよう
筆者は手書きが苦手で、宅配便の送り状など、可能なものは極力キーボード入力したいと思っている。INTERNET Watchの読者は同様な人がいるだろう。そういう人は、年末調整の申告書の入力用ファイル(PDF)を国税庁のサイトからダウンロードしていただきたい。
年末調整の記入内容は、名前・住所・家族構成・生年月日・生命保険など何年も変わらないものが多い。前年に記入したPDFを保存しておけば、毎年同じ記入内容は翌年コピー&ペーストできるので手書きするより効率アップが可能だ。
年末調整の申告書は押印不要となったので、テレワークの人はPDF提出ができれば印刷・郵送の手間も省ける。ただし、前述のようにSNSを見ると「PDFで提出したら手書きで再提出させられた」という人もいるので、念のため事前に確認しよう。
- 令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書 入力用
- 令和6年分 給与所得者の保険料控除申告書 入力用
- 令和7年分扶養控除等(異動)申告書 入力用
- 【簡易対応様式】令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 入力用
毎年お伝えしているが、この入力用のPDFの優れた点は小さな文字入力に対応していること。かつて保険会社の名称が長くて手書きで記入が困難と言われた「損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険」(現:SOMPOひまわり生命保険)も、このPDFでは自動的に文字が小さくなり記入可能だ。現在の名称が長い保険会社も試しにいくつか入力してみた。「損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険」を文字数で上回る「プルデンシャル ジブラルタ ファイナンシャル生命保険」も問題なく入力できた。
小さな文字が苦手な人はお試しいただきたい。付け加えると、翌年のために保存をしたいので、ブラウザー上で記入するより、ダウンロードしたファイルに記入することをお勧めしたい。
3枚+1枚の申告書の記入例【早見表】
各申告書の詳しい説明は次回以降となるが、「今から急いで書きたい。詳しい解説よりも記入例だけ見たい」という人向けに、3枚(プラス1枚)の申告書の記入例を紹介しよう。
- 令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書
- 令和6年分 給与所得者の保険料控除申告書
- 令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 【簡易対応様式】令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
という3枚(プラス1枚)の申告書の記入例は以下のとおり。収入から所得を算出する方法など、記入例だけでは理解しづらい部分もあるが、急ぐ人は参考にしていただきたい。
※記入例の画像はクリック/タップで拡大。さらにPCで閲覧している場合は、拡大画像の左上にある「+」アイコンをクリックすると、より高解像度な元画像を表示できる
そもそも年末調整とは
年末調整とは、サラリーマンなど給与所得者が、その年の所得税(復興特別所得税を含む)を調整・精算する制度だ。給与の支払者(会社)は、年末に社員のその年の所得が確定した時点で算出した正しい所得税額と、毎月の給与および賞与から“みなし”で源泉徴収(天引き)した納付済みの所得税額を計算し、所得税の過不足を12月の給与で還付または追加徴収をして調整・精算を行う。
所得税は「給与所得の源泉徴収税額表(令和6年分)」により毎月の給与の額から算出され、“みなし金額”がその月に納税されている。12月の給与額が決まると年収が確定する。そこから給与所得控除が引かれ、個人個人の配偶者控除、扶養控除、生命保険料控除などが引かれ、1年間の最終的な納税額が決まる仕組みだ。納税額の算出にあたり、会社は社員それぞれの扶養家族の状況や支払った保険料を知る必要があるため、12月の給料日前に社員は年末調整の申告書を提出する。
繰り返しとなるが、所得税はその年の12月に納税が完了する。その結果は住民票を置く市区町村に送られて住民税の額が決定、翌年6月から翌々年5月まで住民税が天引きされる。年末調整で扶養控除や保険料控除の記入漏れがあると、所得税も住民税も納税額が増えることとなるので、よく理解して間違いのないように記入したい。
提出期限を過ぎた……どうする?
「令和6年 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除……申告書」の裏面には「令和6年の最後に給与の支払を受ける日の前日までに提出してください」と書かれている。給料日が毎月25日なら、12月24日が提出期限となるが、多くの企業で10月下旬~12月上旬を提出期限としているだろう。
仮に社員1000人の会社で全員が12月24日に提出し、それから確認、間違いの修正、納税額の確定、給与システムに入力、振込手続きをしていたら、給与は振り込みが遅れることが想像される。社員数が多いほど管理部門の作業が増えるため早めの提出が求められる。
ご自身の業務が多忙で、一身上の都合で、単にズボラで、会社が定めた提出期限を過ぎたらどうするか? 大多数の社員が期限内に提出していれば、少人数が遅延してもリカバリーは可能と思われるので、1日でも早く担当の人に頭を下げて受け取ってもらおう。
確定申告をすればよい、と安易に先送りをしないこと。昨今、スマホで確定申告ができるようになったが、初めて確定申告をする人は、その方法を調べる時間で年末調整は書けそうな気がする。
昨年10月からインボイス制度が始まり、サラリーマンの人は経費精算の度に、領収書に記載されたTで始まる13桁の事業者番号を記入しているだろう。筆者も取材の交通費の請求で「NEXCO中日本」「エネオス」……などと、事業者番号を記入する手間が増えた。今年は6月から定額減税がスタートし、企業の担当者は給与から定額減税分の税金を差し引く作業が追加された。
小規模な企業では総務・人事・経理を1人で兼務している人がいると思われる。インボイス制度と定額減税で仕事が増え、イライラしているところに年末調整が到来する。年末調整は、提出する側より、申告書を受け取って確認・修正する側の負担が大きい。読者はこの記事を参考にして、遅れないように提出していただきたい。
そもそも年末調整は本人の税金を減らすための作業で、管理部門の人や会社には何の得もない。「早く出して」と督促されても感謝の気持ちを持っていただきたい。管理部門の人の心の声を代弁しよう……「年末調整は誰のため? あんただよ」。
年末調整の書き方についての特集記事の第1回はここまで。第2回以降は各申告書の記入方法、手抜き方法などを詳しくお伝えしたい。
最後に
ここからは筆者の雑談。近年、年末調整の記入が難しくなった。理由は令和2年の年末調整から追加された「基礎控除申告書」だ。従来はシンプルな「配偶者控除申告書」だったものが、超長い名称の「“基礎控除申告書”兼“配偶者控除等申告書”兼“年末調整に係る定額減税のための申告書”兼“所得金額調整控除申告書”」の最初の部分だ。
もともと基礎控除は年収200万円でも年収2億円でも一律38万円だったため、申告をする必要がなかった。税制改正により、所得2400万円を超える一部の高額所得者を増税するため基礎控除が一律でなくなった。
関係のない大多数のサラリーマンは、所得2400万円以下を証明するため「基礎控除申告書」の記入が強制され、年収・所得を計算する必要があり、年末調整の難易度が上がり不毛な時間を消費することとなった。このためサラリーマンの年末調整の記入時間が、仮に1人あたり20~40分増えると、日本全体の生産性を大きく下げることになると思う。
インボイス制度も、税収の増加が見込まれる一方で、企業側の事務処理は増加。定額減税も複雑な手法ゆえ、地方自治体や企業への重い業務負担が問題視された。
昨今、わずかな税収を増やすためなら、簡単に済む給付よりも歴史に残る減税をするためなら、企業に重い負担を強いて生産性が落ちても構わない風潮が目に付くことを筆者は懸念している。
2024年(令和6年分)年末調整の書き方を図解[目次]
- 今年の3つの変更点とは? そもそも年末調整とは?(この記事)
- 「令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の記入手順(別記事)
- 「令和6年分 給与所得者の保険料控除申告書」の記入手順(別記事)
- 「令和7年 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」および「【簡易対応様式】令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の記入手順(別記事)