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2024年(令和6年分)年末調整の書き方を図解<2>「基礎控除申告書で収入金額や給与所得がわからない」を解決! 超時短な計算方法も伝授!
「令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の記入手順
2024年10月24日 06:00
昭和から平成、筆者がサラリーマンをしていた遠い遠い記憶では、年末調整を書いたのは12月ごろ。当時は“年末の風物詩”と言われたが、昨今は10月提出の企業もあり、秋の風物詩と呼ぶべきかもしれない。前回第1回は、3枚+1枚の申告書の記入例(早見表)を掲載するとともに、“そもそも年末調整とは何か”などについて説明した。第2回となる今回は、 「令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」 という、ウルトラハイパーアホみたいに長い名称の申告書について記入手順を詳しく見ていこう。
2024年(令和6年分)年末調整の書き方を図解[目次]
- 今年の3つの変更点とは? そもそも年末調整とは?(別記事)
- 「令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の記入手順(この記事)
- 今年の変更点
- サラリーマンの所得税の計算方法
-「令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」とは
- 記入の流れを理解しよう
- 所得金額を算出する方法=年収は適当で大丈夫
- 配偶者の欄を記入する
- 年収850万円を超える人は「所得金額調整控除」
- 最後に - 「令和6年分 給与所得者の保険料控除申告書」の記入手順(別記事)
- 「令和7年 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」および「【簡易対応様式】令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の記入手順(別記事)
今年の変更点
名称が長い「給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者……」に、今年6月から実施された「定額減税」に関する記入欄が追加されている。影響を受ける人は高額所得者なので、忙しい人はこの項はスルーでよいだろう。
令和5年と令和6年の申告書を比較してみると、納税者本人の所得額の区分が6段階から7段階になっている。変更されたのは、1000万円超~2400万円以下の部分で、1000万円超~1805万円以下と、1805万円超~2400万円以下に分割された。
所得1805万円=年収2000万円で新たに区分されても、多くのサラリーマンは関係ないと思われるが、一応それぞれの区分を表で説明しよう。
表の基礎控除の列。納税者本人(この申告書を記入している人)の所得額が2400万円以下であれば、本人の基礎控除額は48万円。2400万円を超えると32万円、16万円と減り、所得2500万円を超えると基礎控除はゼロ円となる。
次に、表の配偶者控除の列。金額は、判定②・③の場合の控除額を記載してある。判定②は所得48万円以下(年収103万円以下)で70歳未満なので、多くの専業主婦・主夫やパートが該当する。納税者本人の所得額が900万円以下であれば配偶者控除は38万円、900万円超~950万円以下であれば配偶者控除は26万円、950万円超~1000万円以下であれば配偶者控除は13万円となっている。納税者本人の所得額が1000万円を超えると配偶者控除の対象外となる。
今年追加されたのが表の定額減税の列(おそらく今年限り)。定額減税の対象者は所得1805万円以下(=年収2000万円以下)なので、1000万円超~1805万円以下と、1805万円超~2400万円以下に分けられた。
定額減税の欄が追加され、それに伴いレイアウトが変更されている。会社側の年末調整の担当者は定額減税分の作業が増えるが、提出する社員はチェックを付けるだけなので、記入に際しては従来と大きな差はない。
もともと「令和5年 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」というウルトラスーパーアホみたいに長い名称の申告書だったが、これに“年末調整に係る定額減税のための申告書”が加わり、「令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」という超々長い名称となった。
サラリーマンの所得税の計算方法
年末調整の申告書を記入する際、「所得」を計算する必要がある。「収入」と「所得」ってどう違うの?という人のために、簡単にサラリーマンの所得税の計算方法を説明しておこう。
計算式は下の図のとおり。1行目の左が年収(給与の収入金額)。その右の給与所得控除は一定式で決まっていて、差し引いたのが右側の所得(給与所得)と呼ばれるもの。この年収と所得が年末調整の記入に必要となる。
2行目は、その所得から配偶者控除、扶養控除、生命保険料控除など各種所得控除が引かれ、課税所得が算出される。課税所得に、それに応じた税率を掛けると納税額が決まる。
2行目の各種所得控除は人により異なる。「専業主婦・主夫の配偶者がいる」「大学生の子がいる」「生命保険に加入している」など、差し引かれる(控除される)金額が多くなると納税額が減る仕組みだ。家族構成や生命保険などを年末調整で記入することは税金を減らす作業だと理解しよう。
会社は個人の控除額の算出に際し、扶養する配偶者の所得や親・子など扶養する家族の年齢・所得、支払った生命保険の内容と金額を知る必要があり、社員は年末調整の申告書を提出しなければならない。一般的に、毎月天引きされる“みなし金額”の所得税額はやや多めで、年末調整により12月の所得税は少なくなり(あるいは還付され)、普段の月より手取り金額が多くなる傾向がある。
「令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」とは
この申告書には従来の「基礎控除申告書」「配偶者控除等申告書」「所得金額調整控除申告書」の3つの申告書に、今年は「年末調整に係る定額減税のための申告書」が加わった。1枚の用紙に4つの申告書が含まれているが、記入作業で見ると6つのブロックに分けられる。
上段は会社名や自分の氏名、住所などを記入する欄。この申告書の主役は中段の4ブロックで、左側が自分の所得と基礎控除+定額減税、右側は上から順に配偶者の情報、配偶者の所得、配偶者控除+定額減税となっている。下段は所得金額調整控除だ。
記入の流れを理解しよう
年に一度ということもあり、「収入金額」「所得金額」の文字に「収入金額? 所得金額? どう違うの? どういうこと?」と頭を悩ませる人が多いようだ。記入を始める前に、分かりにくい中段の主役部分の記入の流れを説明しておこう。
上図において①に年収を記入し、年収から所得を計算する。ここが年末調整の天王山なので、記入・計算(・手抜きする)方法はあとで説明しよう。②に所得を記入。大半の人は900万円以下(=年収1095万円以下)となるので、③の判定に「A」と記入、④の「基礎控除の額」は48万円と記入する。所得1805万円以下(=年収2000万円以下)の人は⑤の「本人定額減税対象」にチェックを付けよう。
⑥に配偶者の年収を記入する。配偶者がパート勤めであれば103万円以下の人が多いと思われる。⑦に55万円を引いた額を記入する。⑥が103万円なら、⑦は48万円となる。判定は「48万円以下かつ年齢70歳未満 ②」となる人が多いはずだ。判定が①、②の人は⑨の配偶者定額減税対象」にチェックを付けよう。
⑧に判定結果を記入し、縦軸の区分Iが「A」、横軸の区分IIが「②」なら金額は38万円。下段の適用が「配偶者控除」なので、右側の⑩「配偶者控除の額」の欄に38万円と記入する。
最終的に判定は上記のように多くの人が書く前から決まっていそうだが、記入に際し悩ましいのは自分の収入と所得を求める点だ。
所得金額を算出する方法=年収は適当で大丈夫
実際に記入していこう。中段の左側は自分の年収から所得を算出し、区分と基礎控除の額、定額減税の対象を記入する欄だ。
真面目に記入しようとすると面倒な計算が必要だが、所得900万円以下=年収1095万円以下の人は区分A、基礎控除の額は48万円、定額減税の対象となるので、大半のサラリーマンは計算する前から「区分A、基礎控除の額は48万円、定額減税対象」と決まっている。
「以上。」で終わらせたいが、不毛な説明をしよう。まず知りたいのは今年の年収。まだ11月の給与(早い人は10月も)、ボーナス、12月の給与をもらっていないので、今年1月からの給与明細を集計しても、残業代などで毎月の給与が変動する人は年収を正確に把握するのは難しい。とはいえ「年収1095万円以下」の人は答え(=区分)は決まっているので、実際の年収と記入する年収に100万円の差異があっても実務上の問題はないので、ザックリとした予想で年収を記入しよう。ご自身の年収(年俸)を把握している人も同様だ。
自分の年収が思い浮かばない人は、もし昨年12月か今年1月の給与と一緒に受け取った「源泉徴収票」がすぐに見つかればこれを参考にしよう。前年の年収と所得が記載されているので、そのまま書き写すもよし、年収を多少増減させて記入するもよし、それらしい額を記入しよう。大手企業の人は賃上げがあったのでプラス傾向、中小企業の人は横ばい……などと想像はできるが、さじ加減はご自身の判断に委ねたい。
源泉徴収票も毎月の給与明細もすぐには見つからない人はどうするか。一般的に毎月の給与は支給額から所得税、住民税、社会保険料が引かれるので手取りは2~3割少なくなる。通勤手当が加算され、ボーナスは企業の業績などにより変動するが、100万円の差異が気にならない人は「手取り額の15~20倍」=年収としよう。
このあとの計算を考慮すると、年収はできるだけ細かな数字を避けたい。年収458万2530円よりは460万円、あるいは500万円と記入した方が所得の算出は楽になる。年収400万円の人が800万円と記入しても判定結果、基礎控除額は同じだが、提出先の担当者が見たときにクスッと笑うかもしれないし、几帳面な担当者からは訂正を求められるかもしれない。
年収が決まったら、次は所得の算出だ。年収はザックリでよいが、その額から計算する所得は計算式が決まっているので正確に行う必要がある。いくつか方法はあるので、不毛な順に紹介しよう(笑)。年収から「所得金額」を計算するのは真面目にやると微妙に面倒くさい。「令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者……」と長い名称の申告書の裏に、収入金額から所得金額を計算する方法が記載されている。
年収を11段階に区分してそれぞれの計算方法が記載されている。そもそも正確な年収を把握するのが困難な時点で161万9000円、162万円、162万2000円、162万4000円……と細かく区分して多くの国民に不毛な計算を強いるのは、律儀なのか几帳面なのか生真面目なのかアホなのか理解しがたい。できればこの方法はスルーしたい。
年収660万円未満の人は「令和6年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」を利用する方法がある。例えば年収650万円の人は「650万円以上650万4000円未満」の右側に記載された476万円が所得金額となる。
お勧めなのは、国税庁のサイトにある給与所得控除についてのタックスアンサー(よくある税の質問)のページ下段にある給与収入から所得を計算するサービスだ。これなら年収の金額が1円単位まで細かくなっていても、サクッと所得が計算できる。
最後に、筆者が最もお勧めする“超時短な裏技”は、年収を100万円単位で以下の表から選び、右側の所得をそのまま記入する方法だ。これなら数秒で作業が完了する。
さらに今年は“超時短な裏技”を少しバージョンアップした表を用意した。年収を500万円、600万円と切りのよい金額にすると、受け取った担当者に「適当に書いたな」と思われるかもしれない。これを避けるため金額を少しバラ付かせ、まぁまぁ切りのよい金額にしてみた。
過去のSNSで、この方法で記入した読者の「年収は100万円単位で丸めて良いと知り、実行したらえらく計算が楽になった」というコメントもあった一方、所得を計算できる“補助Excel”が配られ1円単位まで計算を求める会社もあるようなので、お勤めの会社の方針に沿って記入していただきたい。
所得が算出できたら、900万円以下の人は区分Iの欄にA、基礎控除の額の欄に48万円、本人定額減税対象の欄にチェックを付けて、年末調整の最大の山場は完了となる。
もともと所得2400万円を超える一部の高額所得者の増税をするため、関係のない大多数のサラリーマンが不毛な時間を消費させられる申告書なので、楽に記入する人が増えて欲しいと思う。そもそも社員全員に記入させる必要があるかさえ疑問だ。年収を早く正確に把握できるのは企業の管理部門なので、仮に勤怠の締め日が月末で給料日が翌月25日ならば11月末に12月の給与支給額は決まる。ボーナス査定が終わっていれば11月末で正確な年収が確定する。それを管理部門が記入すれば(給与システム等にインポートすれば)、社員数×数十分の時間の削減となり生産性の向上になりそうだ。
配偶者の欄を記入する
中段右側の「給与所得者の配偶者控除等申告書」の配偶者の収入金額(年収)と所得金額も、ここまでと同様の手順で記入しよう。配偶者の年収が161万9000円未満の場合は55万円を引くと所得となる。
もし配偶者がパート勤めで年収を103万円以下に調整しているなら、所得金額は48万円以下となる。年齢が70歳未満なら、判定は「48万円以下かつ年齢70歳未満=②」となる。判定が①、②であれば、新設された配偶者定額減税対象の欄にチェックを付けよう。配偶者が正社員で働いていて年収が201万6000円以上なら、配偶者(特別)控除を受けることはできない。
左側の区分Iが「A」、右側の区分IIが「②」となったら適用が「配偶者控除」なので、下段の表の該当欄の金額38万円を右側の「配偶者控除の額」に記入すると完成となる。注意したいのは、配偶者の所得95万円超133万円以下の人(=配偶者特別控除)。区分IIが「④」の人は5万円刻みで控除額が変わる(納税額が変わる)ので、ここだけは慎重に算出したい。
全体の記入例を掲載するので参考にしていただきたい。
※記入例の画像はクリック/タップで拡大。さらにPCで閲覧している場合は、拡大画像の左上にある「+」アイコンをクリックすると、より高解像度な元画像を表示できる
なお、キーボードで入力したい人は、年末調整の申告書の入力用ファイル(PDF)を国税庁のサイトからダウンロードしていただきたい(詳しくはこちら)。
年収850万円を超える人は「所得金額調整控除」
最下段の「所得金額調整控除申告書」は、注意書きに「収入金額が850万円以下の場合は、記入する必要がありません」とあるように、年収850万円以下の人はスルーしよう。
年収が850万円を超え、自分自身、配偶者、扶養親族に特別障害者がいる人や、平成14年1月2日以降に生まれた23歳未満の子がいる人は、この「所得金額調整控除」が受けられるので記入しよう。
この所得金額調整控除は、夫も妻も年収が850万円を超える場合、夫も妻もそれぞれ控除が受けられる。国税庁の「所得金額調整控除」の記載をそのまま引用すると、「この控除は、扶養控除と異なり、同一生計内のいずれか一方のみの所得者に適用するという制限がありません。したがって、例えば、夫婦ともに給与等の収入金額が850万円を超えており、夫婦の間に1人の年齢23歳未満の扶養親族である子がいるような場合には、その夫婦双方が、この控除の適用を受けることができます」。
以上で「令和6年分 給与所得者の……(中略)……申告書」の記入は全て完了となる。年収1095万円以下で「適当でいいんじゃね」と割り切れる人はあっと言う間に記入が完了するはずだ。来年以降のためにコピー、スマホで撮影、PDFで保存などをお勧めしたい。
今回はここまで。次回第3回は「令和6年分 給与所得者の保険料控除申告書」の記入手順を、生命保険料控除を簡単に計算するツールの紹介などしつつ解説しよう。
最後に
ここからは筆者の雑談だ。配偶者控除、扶養控除などで必ず出てくるのが所得48万円、年収にすると103万円という金額だ。いわゆる“年収の壁”で、所得が48万円以下であれば本人の所得税は無税となる。住民税は自治体によって異なり、非課税となる上限額は100万円以下、97万円以下、93万円以下などさまざま。おそらく所得税、住民税が非課税となる上限を意識してパート/アルバイトの時間制限をしている人は多いだろう。
特に大学生の子のバイト代が103万円を超えると痛い。特定扶養親族の控除額は所得税で63万円、住民税で45万円。子のバイト代が103万1円になると親は控除を失い、所得税と住民税の合計で納税額が10万円以上増えることとなる。
パート/アルバイトの人は壁だらけで、103万円の壁の後ろに社会保険料の負担が始まる106万円の壁(従業員101人以上の企業)、130万円の壁(従業員101人以下の企業)がある。
石破首相は2020年代に最低賃金を全国平均1500円に引き上げる目標を掲げた。2024年度の最低賃金は、全国平均で1055円。2029年まで5回で1500円を達成するためには、毎年7.3%という、過去にない引き上げ率を5年連続で達成する必要がある。
識者のコメントを見ると「不可能」「失敗する」と言われているが、仮に時給1500円(ザックリ今の1.5倍)となり、103万円の壁がそのままであれば、1人あたりの労働時間は3分の2となる。最低賃金が上がれば上がるほど人手不足・労働力不足になる。加えて雇う企業側の負担も大きく、失業者の増加、企業の倒産というリスクも懸念される。
最低賃金を上げるなら、同時に壁を後ろにズラすべきだろう。ちなみに100万円の壁が103万円の壁となったのは1995年で29年も前だ。失われた30年。給料の増えない日本では、この壁の問題は軽視されてきたのかもしれないが、所得を増やす転換点となりつつある今、年収の壁を見直す必要があると思う。
2024年(令和6年分)年末調整の書き方を図解[目次]
- 今年の3つの変更点とは? そもそも年末調整とは?(別記事)
- 「令和6年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 年末調整に係る定額減税のための申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の記入手順(この記事)
- 「令和6年分 給与所得者の保険料控除申告書」の記入手順(別記事)
- 「令和7年 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」および「【簡易対応様式】令和7年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の記入手順(別記事)