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源泉徴収票の見方を図解で説明【令和5年(2023年)分】詳しく解説! 1分でも分かる!
2024年1月12日 14:10
毎年12月か1月の給与明細と一緒に受け取る「源泉徴収票」には年収・所得・納税額が記載されている。受け取った源泉徴収票を見れば、ご自身の令和5年(2023年)分の年収・所得・納税額が分かるのだが、源泉徴収票を見ても「年収」「所得」「納税額」とは書かれていない。
扶養親族の構成、生命保険の加入状況など、さまざまな情報が1枚の紙にコンパクトにまとめられた源泉徴収票だが、その見方が分かりにくく、チョットした税に関する知識がないと、書かれた数字の意味が理解できない。この記事では、今までジックリ見たことのない人に、源泉徴収票の見方を図解で詳しく説明したい。
[目次]
源泉徴収票とは
源泉徴収票とは、1年間に会社から支払われた給与等の金額や、給与から天引きした所得税の金額などが記載されている。会社側の視点なので「支払金額」と記載されているのが、ご自身の「年収」となる。年収から納税額を算出するために必要な「配偶者控除」「扶養控除」「社会保険料控除」「生命保険料控除」など、個人個人で異なるさまざまな控除も記載されているので、これを見れば納税額が算出された根拠まで分かる。退職時に受け取った源泉徴収票は1月から退職までの収入、社会保険の支払い額、納税済みの所得税が記載されている。転職した場合や、再就職をせずご自身で確定申告をする場合に必要となるので大切に保管したい。
1分で分かる 源泉徴収票
先にお伝えしておくと「この記事はメッチャ長い」。目標として、最後まで読めた人はご自身の源泉徴収票に書かれた数字の意味が理解でき、計算すると納税額がピターッと合うことを目指している。とはいえ、受け取った源泉徴収票を目の前にして「数字の意味が分からん! とりあえずどこに年収・所得・税金が書かれているかだけ知りたい」と思う人もいるだろう……ということで、まずは1分で源泉徴収票に何が書かれているかだけ分かるように説明したい。
記載例は河野一太郎さんの令和5年分の「給与所得の源泉徴収票」。家族構成(扶養親族)はパート勤めの奥さん、大学生と中学生の子、同居する72歳の父がいる。
最初の「支払金額」の欄に書かれているのが年収(紫色)。その右側の「給与所得控除後の金額」の欄が所得(青色)。年末調整で記入の目安にするのはこの2つ。1つ飛ばして右端の「源泉徴収税額」の少なめな金額が納税額(緑色:所得税+復興特別税)。最低限この3つを知ると、スルーよりは大幅な進歩となる。
ピンクの部分は控除(=税金の計算対象から差し引かれるもの)で、下から順番に、支払った生命保険料の明細。矢印の先は、それから算出した生命保険料控除の額。その左側が支払った社会保険(厚生年金+健康保険+雇用保険)、右側が地震保険の控除額。
その上の行は扶養する家族で、左端の「○」は配偶者控除(この事例では奥さん)、右がその控除額。その右側の特定欄の「1」は“ほぼ大学生”が1人。その右側の老人は爺ちゃんか婆ちゃんが1人。もう少し右側の16歳未満扶養親族の数は中学生以下の子が1人を表している。この1行で河野一太郎さんの扶養している家族の構成がおおよそ分かる。これらピンクの控除の合計額が、上段の所得と納税額の間に書かれている。これで納得された方は以上だ。「給与所得控除? 配偶者控除? 何それ?」という人は、続きを一読いただきたい。
念のために付け加えると、この図は印刷できるように解像度を高くしている。この記事をPCで閲覧している人は画像をクリックすると拡大画像が開く。さらに左上の+マークをクリックすると、より高解像度な元画像を表示することができる。INTERNET Watchの記事は何年経っても削除されないが、保存したい人はこの手順で行っていただきたい。
「源泉徴収」と「源泉掛け流し」
源泉徴収票、あるいは源泉徴収という言葉は、聞き覚えはあるもののイマイチ分かりにくい。また、納税額の欄は「源泉徴収税額」となっている。「源泉徴収税額って意味分からん」と思われた人はいないだろうか。
“源泉”と聞いて思い浮かぶのは「源泉掛け流し」だろうか。源泉掛け流しは、温泉の元(=源泉)から引いたお湯を、そのまま湯船に満たすこと。水で薄めたりしていないという意味だ。源泉徴収は、源泉=元から(←会社が従業員に給与を支払う前に)税金を徴収することを意味している。平たく言うと「あとから自分で税金を納めてね」ってすると、納税しないヤツがいそうだから、会社(=源泉)が税金分を差し引いて(=徴収)給与を支払うことを言う。源泉徴収税額=事前に(会社が代行して)納税済みの税額、と解釈しよう。
人気上昇中? 源泉徴収票
次のグラフはGoogleトレンドで「源泉徴収票」の過去5年(シーズン)の推移の結果だ。グラフの期間は2018年7月から2023年6月までの5年間。左端の山=2018年~2019年シーズンと比べると、右端の山=2022年~2023年シーズンは検索件数が増えている。人気上昇中と言うのは語弊があるが、急増とは言えないもののジワーっと「源泉徴収票」を検索する人が増えている印象だ。
同じくGoogleトレンドで細かな推移も見てみよう。期間は黄線が2021年10月1日~2022年2月28日、青線が2022年10月1日~2023年2月28日。黄線2021年~2022年シーズンのピーク日は1月25日。青線2022年~2023年シーズンのピーク日は12月23日と1月10日。ちなみに2022年12月23日は金曜日で給料日だったと想像される。この前3年は2021年1月25日、2019年12月25日、2018年12月25日と、12月と1月の給料日がピークを分けあっている。源泉徴収票が給与明細と同封で配られる企業は12月と1月で半々のようだ。グラフ線が上下に振れているのは曜日によるもので、例えば青線の12月23日は金曜日なので土日(休日)は検索する人が激減し、同様に年末年始の休暇中も大きく減少する。
最後のグラフは2018年~2019年シーズンから5年間。ただし生データを重ねるとグラフ線の上下振れで見辛いので、土日の変化をキャンセルすべく7日間移動平均とした。筆者が気になったのは11月中旬の山。2018年(黒点線)、2019年(オレンジ点線)に比べ、2020年(グレー線)、2021年(黄線)、2022年(青線)が年々増えていること。時期的には年末調整のピークの頃で、2020年は年末調整のフォーマットが変更となり、年収と所得の記入が必要となった年。この2020年以降、年末調整の記入のために源泉徴収票を参照する人が増えていると想像される。
このように世の中で源泉徴収票への関心が高まる傾向が見られる。この記事にたどり着いた読者はその1人だと思われるので、この機会に理解を深めていただきたい。
源泉徴収票と所得税の計算式を3つのパートに分けて色分けしてみた
源泉徴収票にはさまざまな数字(人数、金額)や○印が記載されているが、それらの関連性は所得税の計算方法を知らないと理解できない。所得税の計算式と源泉徴収票に記載された数字や印を照らし合わせながら、順番に説明していこう。
手元に「令和5年分 給与所得の源泉徴収票」を用意いただき、自身の源泉徴収票で実際に計算・検証してみると、より深く理解できる。ピタッーと計算が合うと“快感”だったりする。
まずはサラリーマンの所得税の計算式を確認してみよう。1行目は収入(年収)から所得を求める式。2行目は所得から課税所得(税金の計算対象となる所得)を求める式。3行目は課税所得の額に応じた税率を掛け、所得税の納税額を求める式となっている。
この3行の式を、1行目をブルー、2行目をピンク、3行目をグリーンとして、源泉徴収票の該当する部分を大まかに色分けしてみたのが下の図だ。1行目と3行目の部分はわずか。この2行は決まった式で計算できるので理解も容易だ。大きなピンクの部分は独身、既婚、扶養する子や親の有無、生命保険の支払い額……などさまざまな個人の事情により異なっている。
「収入」と「所得」ってどう違うの? 「給与所得控除」って何??
順番に式と源泉徴収票の該当する部分を見ていこう。1行目の式と源泉徴収票のブルーの部分。事例では(会社から見た)「支払金額」が650万円、「給与所得控除後の金額」が476万円となっている。650万円は給与と賞与の合計額、令和5年の(自分から見た)「収入」=年収だ。「年収は?」と尋ねられたら、ここに記載された金額を答えればよい。
右側の476万円は収入から「給与所得控除」というものを引いた金額で、「所得」と呼ばれている。2020年から年末調整の申告書に記入することとなった「収入」と「所得」の関係は1行目の式で求めることができる。
給与の収入金額-給与所得控除=給与所得
この式を見て「給与所得控除って何?」と思われた人がいるだろう。給与所得控除はサラリーマンの必要経費と言われ、「スーツ、カバン、クツ代、自腹スマホ&電話代、自腹PCなど、会社には請求できないけど仕事に必要な経費があるはず」ということで、収入に応じて一定額を「税金を払わなくていいよ」と課税の計算対象から差し引いて(控除して)くれるものだ。給与所得控除は年収に応じて以下の計算式で求められる。
給与等の収入金額(年収) | 給与所得控除額 |
162万5000円以下 | 55万円 |
162万5000円超 180万円以下 | 収入金額×40%-10万円 |
180万円超 360万円以下 | 収入金額×30%+8万円 |
360万円超 660万円以下 | 収入金額×20%+44万円 |
660万円超 850万円以下 | 収入金額×10%+110万円 |
850万円超 | 195万円(上限) |
事例の河野さんの給与所得控除を計算してみよう。年収が650万円なので「360万円超 660万円以下」に該当し、計算式は「収入金額×20%+44万円」となる。
給与所得控除
650万円×20%+44万円=174万円
給与の収入金額(年収)-給与所得控除=給与所得
650万円-174万円=476万円
源泉徴収票には書かれていない給与所得控除の174万円を年収から差し引くと、所得の476万円が算出できる。
ご自身の源泉徴収票を見ながら「支払金額は638万2000円だから、所得額は466万5600円……」などと計算すると、源泉徴収票に書かれた額と微妙に金額差が発生した人がいるはずだ。
年収660万円未満の人の給与所得控除後の金額の算出は「令和5分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」という速算表を使用してほしい。表の638万2000円に該当する部分を見てみよう。
年収638万円以上638万4000円未満の人の給与所得控除後の金額は466万4000円となっていて、年収が638万1000円でも638万2000円でも一律466万4000円となる。これが金額差の原因だ。おそらくパソコンが普及する以前、そろばんや電卓の時代には1円単位の細かな計算をするより速算表の方が便利だったと思われ、その時代のルールが今も続いているのだろう。
ご自身の源泉徴収票を正確に計算したい方は、この速算表で確認していただく方法が1つ。もう1つは年末調整の書き方の際にも紹介した国税庁の給与所得控除のページの下段にある給与収入から所得を計算するサービスだ。これなら年収の金額が1円単位まで細かくなっていても、サクッと所得が計算できる。
暗号? 嫌がらせ? 謎の「所得控除」欄を解読する
2行目の計算式は、1行目で算出した給与所得から各種所得控除を引き算して「課税所得」を算出する式だ。
給与所得-各種所得控除=課税所得
この式の各種所得控除が源泉徴収票のピンクの部分、やたら広い。源泉徴収票の大きな面積を占めていて、○印や人数、金額が混在し、少し税の知識がないと暗号化された控除を解読することができない。個人個人の納税額を左右する重要な部分であり、源泉徴収票の分かりにくさのある意味で主役、「これは嫌がらせですか」とも感じられる部分なのでジックリ見ていこう。
ピンクの部分の最上段「所得控除の額の合計額」に316万円と記載されている。その下の段には○印や数字の「1」、38万円、96万円、12万円などの金額が記載されている。これらの金額を足しても引いても合計額の316万円にはならない。隠された控除もあり、予備知識なしにこれらの関係を理解することはできない。
最初に「所得控除とは」から説明しよう。所得控除は「大学生の子がいるとお金掛かるよね」「親と同居していると生活費が増えるよね」といった感じで、扶養する家族や生命保険の支払いなどの個人個人の事情を考慮して、所得から一定額を差し引き(控除し)、課税所得(税額を算出する金額)を引き下げ、納税額を減らすものだ。控除額が増えれば納税額は減ることになる。同じ年収のサラリーマンを比較すると、養う家族が多い人は独身の人より納税額が少なくなる。
ピンクの部分が大きいのは、障害者、所得金額調整控除など、さまざまな控除の記入欄があるからだ。その中で多くの人が関係するのは配偶者控除、扶養控除といった人的控除。毎月天引きされている年金、健康保険、雇用保険といった社会保険料控除。生命保険に加入している人の生命保険料控除だろう。代表的なこれらの所得控除について順番に説明していこう。
「配偶者控除」は年末調整の判定が反映されている
左上の「(源泉)控除対象配偶者の有無等」の「有」に○印が付いていれば控除対象となる配偶者がいるということだ。配偶者とは旦那さんから見た奥さん、奥さんから見た旦那さんで、家庭によってどちらも配偶者控除の対象者となりえる。
事例は河野一太郎さんの源泉徴収票なので、控除対象の配偶者は奥さんとなり、「有」欄に○印が付いていて、その右側の「配偶者(特別)控除の額」の金額が38万円となっている。
この38万円はどこから来たか。もし年末調整で提出した「令和5年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」というウルトラスーパーアホみたいに長い名称の申告書のコピーかスマホで撮った写真があれば見ていただきたい。
事例の「令和5年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 ……(長いので略)」を見ると、河野一太郎さんの年収と河野景子さんの年収から判定された控除額が38万円となっている。年末調整で提出した申告書により控除額や納税額が計算され、その結果が源泉徴収票に反映されている。
もし河野一太郎さんの奥さん(配偶者)が正社員としてフルタイムで働いていて、年収が201万6000円(所得で133万円)を超えると配偶者(特別)控除の対象とならない。また、旦那さんの年収が1195万円(所得で1000万円)を超えると、奥さんが専業主婦でも配偶者控除を受けることができない。
「控除対象扶養親族」の人数から「控除額」を算出する
配偶者控除の右側は「控除対象扶養親族の数(配偶者を除く。)」という欄がある。先ほどの配偶者控除は控除額が記載されていたが、こちらは人数しか記載されていないので該当するそれぞれの控除額を別途算出する必要がある。
事例で具体的に見ていこう。「控除対象扶養親族の数(配偶者を除く。)」の下の「特定」に「1」、「老人」の左に「1」、真ん中に「1」となっている。右側の「16歳未満扶養親族の数」にも「1」と記入されている。
扶養控除は子や親を養っていると受けられる控除だ。対象となる親族の年齢により控除額が異なっている。かなり複雑なので言葉で説明するより、図を見ていただこう。
令和5年の年末時点の年齢が16~18歳(ほぼ高校生)であれば控除額は38万円。19~22歳(ほぼ大学生)であれば63万円。23~69歳であれば38万円。70歳以上で同居していれば58万円(同居老親等)、別居であれば48万円(同居老親等以外)となっている。かなり複雑で税の専門家でないと覚えるのは難しそうだ。年齢以外の条件もあり、控除対象となるのは所得が48万円以下の扶養親族だ。
控除が増額になっている19~22歳はほぼ大学生で、対象となる親族を特定扶養親族と呼ぶ。「大学に通う子がいるとお金が掛かるから控除を増やして税金を減らしましょう」という趣旨だ。ただし、大学に通っていることは条件となっていないので、浪人中でもフリーターでも年齢と所得の条件を満たし、生計を一としていれば(親が養っていれば)、別居でも控除の対象となる。
もう1つ控除が増額されているのは70歳以上で、老人扶養親族と呼ぶ。老人扶養親族は同居(同居老親等)なら控除額は58万円、別居(離れた実家や老人ホームなど)なら控除額は48万円となる。
事例の源泉徴収票を見ると、「特定」(特定扶養親族)が「1」となっているので、ほぼ大学生の子が1人いることが分かる。「老人」の欄は、真ん中の「1」は70歳以上の老人扶養親族が1人いることを表し、左側の「内」に「1」とあるのは老人扶養親族のうち、同居老親が1人いることを表している。もし別居の老人扶養親族がいる場合は真ん中が「1」、左側の「内」は空欄(0人)となる。
老人の右側の「その他」の欄は高校生や成人など一般の扶養親族の人数を記載する。右端の「16歳未満扶養親族の数」は16歳未満の子の人数で、所得税の控除対象とはならない。
源泉徴収票には、控除対象扶養親族の人数しか記載されていないので、その人数を控除額に換算する必要がある。事例では特定扶養親族が1人で控除額が63万円、同居老親が1人で58万円、16歳未満の扶養親族が1人で0円となる。もしその他の欄に1人と記載されていたら控除額は38万円だ。
令和5年から新ルールが加わったのでチラッと説明しよう。新たに「扶養親族のうち、30歳以上70歳未満の非居住者は控除対象から外れる」というものだ。該当する人は少ないと思うが、30歳以上の子が海外で生活していて一定の収入がある場合、国内所得がなくても扶養控除の対象外になる。
ニュースなどで耳にしている人がいると思うが、「子育て支援」の一環で児童手当の対象を18歳までの高校生などに拡大する方針が打ち出される一方、16~18歳の控除額を38万円から25万円に引き下げる(=増税)案が出ている。
「生命保険料控除」も年末調整の申告内容が反映されている
ピンクの部分の次の段は左端が「社会保険料金等の金額」。これは毎月の給料から天引きされた厚生年金、健康保険、雇用保険の合計額で、事例では96万円となっている。その右隣は「生命保険料の控除額」で12万円。その右側は「地震保険料の控除額」で1万円となっている。「摘要」の下段には12万円、7万5000円、12万円の金額が記載されている。ここでは生命保険の控除を理解しよう。
「摘要」の下段の項目名は左から「生命保険料の金額の内訳」「新生命保険料の金額」「旧生命保険料の金額」「介護医療保険料の金額」「新個人年金保険料の金額」「旧個人年金保険料の金額」となっていて、5つに分類された保険料ごとの支払った金額が記載されている。
生命保険は平成23年以前に契約したものは旧制度、平成24年以後に契約したものは新制度と分けられている。さらに旧制度は「一般」「年金」の2つ、新制度は「一般」「介護医療」「年金」の3つに分けられ、計5つに分類されている。
保険料ごとに控除額を算出し、合計した額が上段の「生命保険料の控除額」となる。ただし生命保険料控除には上限額があり、この例では上限額の12万円となっている。5つに分類された保険ごとの控除の限度額は図のとおりだ。
年間に支払った保険料と控除額の関係は以下の表のとおり。旧制度の控除額の上限は5万円。新制度の控除額の上限は4万円。事例では「旧生命保険料の金額」と「旧個人年金保険料の金額」でそれぞれ12万円を支払っているので、控除額は上限額の5万円ずつ。
新制度の「介護医療保険料の金額」に7万5000円を支払っているので、控除額は3万8750円。3つの保険の控除額は5万円+5万円+3万8750円=13万8750円だが、全体の上限額が12万円なので最上段の「生命保険料の控除額」は12万円となる。
上の図の計算式を見ると「支払保険料等×1/2+1万2500円」などと少し面倒くさい計算をしなければならない。ここも年末調整の記事で紹介した保険会社の「生命保険料控除申告サポートツール」を活用しよう。
生命保険料の控除額の右側は地震保険料の控除額。生命保険料も地震保険料も年末調整で提出した「令和5年分 給与所得者の保険料控除申告書」の結果がここに反映されている。
控除額の合計が合わない……“源泉徴収票に隠された控除”とは
ここまでの控除額を合計してみよう。合計額がピンクの部分の最上段にある「所得控除の額の合計額」の316万円になれば完璧だ。
配偶者控除 38万円
特定扶養親族 63万円
同居老親 58万円
社会保険料控除 96万円
生命保険料控除 12万円
地震保険料控除 1万円
合計 268万円
ん~かなり足りない。「所得控除の額の合計額」の316万円-268万円=48万円足りない。48万円といえば、令和2年(2020年)から改正となった「基礎控除」の額だ。事例の源泉徴収票のどこにも記載されていないが、年間の合計所得が2400万円以下の人(=ほとんどの人)は48万円の基礎控除が受けられる。この隠された自分自身の基礎控除を足すと、所得控除の額の合計額は316万円となる。
ちなみに令和2年の改正から源泉徴収票に「基礎控除の額」の欄がピンクの部分の最下段に新設されたが、多くの人は空欄のはずだ。この欄は所得2400万円を超える高額所得者用の32万円、16万円、ゼロを記入することになっている。せっかく欄ができたので、隠さず48万円と記載すれば少しは分かりやすくなると思うのだが、国としては国民に税を分かりやすくすると困ることがあるのだろうか。
「所得控除の額の合計額」の316万円が算出できた。これで2行目の式が計算可能となる。課税所得を計算してみよう。
給与所得-各種所得控除=課税所得
476万円-316万円=160万円
「控除」はたくさんある
この記事の事例で触れた控除は「基礎控除」「配偶者控除」「扶養控除」「社会保険料控除」「生命保険料控除」「地震保険料控除」。該当する人の多い控除を選んで説明しているが、これだけでも「長げ~」「面倒くせ~」と思われた読者が多いだろう。控除の種類は多く、「障害者控除」「勤労学生控除」「医療費控除」「寡婦控除」……、やや新しい控除として「ひとり親控除」、年末調整でも欄が用意された「所得金額調整控除」などもある。正確性・網羅性を重視して全ての控除を説明すると、読み切れない長さになりそうだ。それらの控除に該当する人には申し訳ないが、ご自身で検索して調べていただきたい。
参考程度に各種控除の適用者割合を見ていただこう。ソースは国税庁が令和5年(2023年)2月に発行した「令和3年分 申告所得税標本調査」。控除を受けている人の割合が最も高いのは基礎控除。2番目は社会保険料控除、3番目は生命保険料控除となっている。
各種控除名 | 令和3年分 控除適用者割合 |
基礎控除 | 96.4% |
社会保険料控除 | 94.4% |
生命保険料控除 | 78.9% |
地震保険料控除 | 37.5% |
医療費控除 | 28.4% |
配偶者控除 | 20.5% |
寄附金控除 | 18.1% |
扶養控除 | 12.5% |
小規模企業共済等掛金控除 | 12.2% |
障害者等控除 | 5.5% |
配偶者特別控除 | 3.9% |
寡婦控除 | 3.1% |
ひとり親控除 | 0.7% |
雑損控除 | 0.1% |
セルフメディケーション控除 | 0.1% |
適用者が多い医療費控除、寄附金控除(ふるさと納税)は年末調整では対象外、源泉徴収票にも反映されない。各控除の過去8年分の推移を調べると、多くの控除で適用者割合に変化はない。例えば天引きされる社会保険料控除は最大94.7%、最少94.3%(0.4ポイント差)。自分の意志で加入する生命保険料控除は最大79.5%、最少78.9%(0.6ポイント差)となっている。
その中で適用者割合が変化している控除4つをグラフにしてみた。
適用者割合(=利用者数)が急増しているのは寄附金控除。理由はふるさと納税の利用者の増加によるものと思われる。小規模企業共済等掛金控除も増加している控除。これはiDeCoの影響だろう。一方で減少しているのは配偶者控除と扶養控除。結婚しない人、共働き世帯、子どもを持たない人が増えていることが所得控除にも影を落としているようだ。
課税所得に税率を掛けて「納税額」を算出
所得税の計算式、最後の3行目は課税所得に税率を掛けて所得税の納税額を算出する式だ。
課税所得×税率=所得税
この式は源泉徴収票のグリーンの部分に該当する。グリーンの面積が小さいように内容も簡単だ。課税所得の額に応じた税率を掛ければ簡単に納税額は計算できる。まずは税率を確認しよう。所得税の税率は以下の表となっている。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超 330万円以下 | 10% | 9万7500円 |
330万円超 695万円以下 | 20% | 42万7500円 |
695万円超 900万円以下 | 23% | 63万6000円 |
900万円超 1800万円以下 | 33% | 153万6000円 |
1800万円超 4000万円以下 | 40% | 279万6000円 |
4000万円超 | 45% | 479万6000円 |
税率は課税所得の額により5%から45%まで上がっていくが、課税所得全体にその税率が掛かるわけではなく、“その金額の部分”に対する税率となる。
例えば課税所得が295万円の場合、195万円までの部分の5%と、195万円を超え295万円までの部分(=100万円分)の10%を合計した額が納税額となる。実際に計算してみよう。
課税所得295万円の所得税
195万円×5%=9万7500円 ①
100万円(295万円-195万円)×10%=10万円 ②
①+②=9万7500円+10万円=19万7500円
となる。税率表の右側にある控除額(差し引く額)を使用すると、簡単に計算することができる。
課税所得金額×税率-控除額=納税額
295万円×10%-9万7500円=19万7500円
では、事例の河野一太郎さんの所得税を計算してみよう。
課税所得×税率=所得税
160万円×5%=8万円(課税所得は1000円未満の端数は切り捨て)
源泉徴収票に記載された「源泉徴収税額」の8万1600円にかなり近づいたが、まだ1600円の差異がある……あとチョットだ。
忘れちゃいけない「復興特別所得税」
所得税の納税額は計算のとおり8万円で間違いないが、平成25年(2013年)から25年間(2037年まで)は東日本大震災の復興特別所得税が上乗せされることになっている(防衛費の財源確保でさらに20年延長となる)。復興特別所得税=「所得税の納税額の2.1%分」を上乗せしよう。
8万円+(8万円×2.1%)=8万1680円
100円未満を切り捨て =8万1600円
これで源泉徴収票の記載された金額とピッタリ一致した……“快感”。ご自身の源泉徴収票で手順に沿って計算をして、納税額が合うとかなりの達成感があるだろう。応用すれば「生命保険に加入 or 解約すると、控除と税金はどうなる?」「歳をとった親を実家から呼んで同居すると、控除で税金はいくら減る?」「子育て支援の政策で、高校生の児童手当拡充と扶養控除の38万円から25万円の減額(=増税)は差し引きいくらの得?」など、先々のご自身の税金を知ることも可能だ。
計算して微妙に違った人は以下の点を確認していただきたい。
- 年収660万円未満の人の所得は計算式ではなく速算表を利用する
- 課税所得は1000円未満の端数は切り捨ててから税率を掛ける
- 復興特別所得税は100円未満を切り捨て
事例の源泉徴収票に記載された年収から所得税算出までの流れをイメージ図にしてみた。全体を把握するときの参考にしていただきたい。
サラリーマンの税金は年末調整で記入した内容により所得税が決まり、その結果が源泉徴収票となる。次に、ご自身が住民票を置く自治体に送られ、6月より給与から住民税が天引きされることとなる。もし年末調整で控除の記入漏れがあると、所得税も住民税も納税額が増えるので年末調整は慎重に行いたい。
最後に
異次元の少子化対策として岸田内閣は「こども・子育て政策」を打ち出した。筆者は少子化対策が日本の最重要課題と思っていて大いに賛成だが、その中身には疑念を感じていて、数年後も少子化に歯止めは掛からないと懸念している。
10年以上前から少子化対策として待機児童問題が重要視されてきた。近年、その対策が進んだように思えるが、少子化の解消にはつながっていない。ようするに待機児童問題は少子化の主な理由ではなかったということだ。
少子化対策を3つのステップに分けると「結婚すること」「子どもを産むこと」「子どもを育てること」だと思う。「高校生の児童手当拡充」「3人以上の多子世帯の大学授業料支援」「育児休業取得率目標の引き上げ」……など、それぞれの提案が実施されることは良いと思うが、待機児童問題と同様に力点が3ステップ目の「子どもを育てること」にかたよっている印象だ。まずは「結婚すること」から対策が必要だと思われる。
長年言い続けているが、筆者が望むのは「結婚した方が得」「子ども増えるほど生活が楽になる」社会の実現。典型的な“バラ撒き政策”だが、例えば婚姻届を提出して1年後に100万円、5年後に500万円を給付(=結婚した方が得)。子ども手当を1人目は月額3万円、2人目は月額6万円(計9万円)、3人目以降は月額10万円(3人なら19万円)を給付(=子ども増えるほど生活が楽になる)するぐらいインパクトのある改革が必用だと思う。結婚してから20年後に恩恵があるかもしれない「多子世帯の大学授業料支援」よりは少子化対策に効果があると思っている。