確定申告 意外に知らない○○の話

第1回:ID・パスワード方式の話

確定申告の「ID・パスワード方式」でできること/できないこと

確定申告期限まで残り10日と、カウントダウン状態となった。期限が迫った今、勘違いしていそうなことの再確認や、知っておくと役に立つことを集中連載でお届けしよう。

 2019年1月から「e-Tax利用の簡便化」が実施され、「マイナンバーカード方式」「ID・パスワード方式」がスタート。従来よりも電子申告(e-Tax)の利用が簡単になった。このうち注目されるのは「ID・パスワード方式」。3月15日の確定申告期限ギリギリに提出する人には“救いの神”になるかもしれない、この「ID・パスワード方式」について紹介しよう。

「INTERNET Watch」ではこのほかにも、サラリーマンと個人事業主がぜひ読んでおきたい税金に関する記事を多数掲載しています。まとめページ『サラリーマンと個人事業主の税金の話』よりご参照ください。

今年1月にスタートした「ID・パスワード方式」とは

 国税庁は個人納税者のe-Tax利用をより便利にするためシステム改修を実施、2019年1月から「マイナンバーカード方式」「ID・パスワード方式」の利用が可能となった。以下の図のように、2つの新方式によりこれまでの方式に比べe-Taxのハードルが低くなったと言えよう。

2019年1月から「マイナンバーカード方式」「ID・パスワード方式」の利用が可能となった(国税庁の資料より)

 「ID・パスワード方式」は、発行された「ID・パスワード方式の届出完了通知」に記載されたe-Tax用のIDとパスワードを利用して、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」からe-Taxによる電子申告を行うことができる。従来の方式や「マイナンバーカード方式」で必要なマイナンバーカードとICカードリーダライタは不要だ。

 「ID・パスワード方式の届出完了通知」の発行は、運転免許証など持って“近くの税務署”に行き、職員による本人確認が必要となる。この「ID・パスワード方式」はマイナンバーカードおよびICカードリーダライタが普及するまでの暫定的な対応とされていて、3年後に廃止という説もあるが明確化はされていない。

ID・パスワードは、“近くの税務署”に行けば即日発行

 マイナンバーカードは申請から受け取りまでかなりの日数を要する。これに対し、「ID・パスワード方式」の魅力は即日発行されることだ。税務署に行かなければならないが、それさえクリアすればすぐに利用することができる。税務署は住居地の管轄の税務署に限らず、全国どこの税務署でも対応してくれる。サラリーマンなら会社を休んで、管轄の税務署に行かなくても、昼休みに会社近辺の税務署で申請が可能だ。税務署の所在地は国税庁のサイトで検索できる。

 筆者は、住民票は自宅マンションのある名古屋市だが、普段はオフィス兼住居のある川崎市に在住している。管轄の昭和税務署(名古屋市瑞穂区)は何度か行ったことがあるが、川崎からはメッチャ遠い。ということでオフィス兼住居からクルマで10分ほど、新百合ヶ丘駅近くにある川崎西税務署(川崎市麻生区)に行ってみた。

川崎西税務署。今回が初訪問

 2月下旬の税務署。エレベーターで3階に上がると、目の前には長蛇の列。「確定申告相談の方は、こちらの最後尾にお並び下さい」と係の人が誘導していた(申告作業をする部屋に入るのに約1時間とのこと)。「ID・パスワード方式の申請は?」と聞くと、目の前のロビーを案内された。見ると、そこにID・パスワードの受け付けコーナーが設置されていた。

 担当の人に確認して「ID・パスワード発行申込書」に氏名、生年月日、住所、電話番号を記入。2台のノートパソコンが用意され、筆者の前に5人ほどが待っていた。10分ほど待って筆者の順番となり、免許証を提示し本人確認を行い、説明を受けながら入力作業を開始した。

ID・パスワードの申請コーナーが設定されていた
ID・パスワード発行申込書を記入して5人待ち
ノートパソコンで簡単な入力をする

 入力するのは住所、氏名、メールアドレスなど一般的な内容と暗証番号なので数分で終了した。すぐにA4用紙のプリントアウトが3枚渡され終了。待ち時間を除けば5分もかからず申請は終了する。3枚のうち、1枚はe-Taxのチラシで、残りは「ID・パスワード方式の届出完了通知」「利用者識別番号等の通知」と書かれているが、2枚の内容はほぼ同じで、「利用者識別番号等の通知」には暗証番号がそのまま記載されている。入力時の画面も暗証番号がそのまま表示されて「エッ」と思ったが、プリントアウトにも「*」や「●」はなく、全文字が記載されていて少々驚かされた。国税庁の案内には「ID・パスワード方式の届出完了通知」にパスワードが記載されると書かれているが、筆者が受け取った現物を見ると、「ID・パスワード方式の届出完了通知」にはパスワードの記載はなく、「利用者識別番号等の通知」にパスワードが記載されていた。どちらが正しいのか不明だが、実用上の支障はないのでよしとしよう。混雑度合いは税務署により異なると思うが、それほど時間はかからずにIDとパスワードの入手は可能だった。

「ID・パスワード方式の届出完了通知」にパスワードはなし
「利用者識別番号等の通知」にパスワードが記載されていた
3枚目はe-Taxのチラシ

「ID・パスワード方式」でできること/できないこと

 筆者が受け取った書類が正しいとすると、「利用者識別番号等の通知」に記載されたID・パスワードでe-Taxの利用が可能となる。ただし国税庁のウェブサイトの「確定申告書等作成コーナー」限定だ。

 サラリーマンが副収入、医療費控除、ふるさと納税などの申告をする場合や、規模の小さめな事業主が申告をする場合は「確定申告書等作成コーナー」で十分だと思うが、ある程度の規模で事業をしている人は申告ソフトを利用していると思われる。申告ソフトでe-Tax用のデータを出力して電子申告を行うときは、残念ながら「ID・パスワード方式」は使用できない。

 「なんだ、やっぱりマイナンバーカードとICカードリーダライタが必要じゃん」と思われた個人事業主もいるだろう。では、申告ソフトを使う個人事業主にとって「ID・パスワード方式」が全く役に立たないかというと、そうでもない。

 確定申告の提出期限は3月15日。当日消印有効なので郵送なら郵便局の窓口が開いている時間に駆け込めばOKとなる。地域の小さな郵便局の窓口は17時まで。昔は地域の大きめな郵便局は深夜まで開いていたが、現在はほとんどのゆうゆう窓口は20時で営業終了となる。筆者のオフィスのある神奈川県で24時間窓口が開いているのは横浜中央郵便局のみ。24時まで営業しているのは3局だけだ。

筆者の地元の麻生郵便局の窓口は20時まで
横浜中央郵便局は24時間営業
24時まで営業しているのは青葉郵便局など3局

 申告ソフトを使って3月15日の夜に確定申告書が完成。郵送するにも深夜営業の郵便局は近くにない。期限を過ぎると青色申告の65万円の控除は取り消され、所得税、住民税、国民健康保険で10万円以上の増税となる……どうする。まだあきらめることはない。申告ソフトでプリントアウトした確定申告書、決算書を見ながら、パソコンで国税庁のウェブサイトの「確定申告書等作成コーナー」で手入力による転記をすれば24時まで申告が可能だ。

「確定申告書等作成コーナー」で、決算書などに手入力で転記して24時までに送信すれば、65万円の控除を失わないで済む

 それを可能にするのが「ID・パスワード方式」だ。税務署に「ID・パスワード方式」の申請に行く時間を確定申告の作業にあてれば郵便局の窓口から発送できた、という考えもあるが、来年以降の保険として「ID・パスワード方式」の申請をしておけば、数年後の3月15日の夜に“救いの神”になるかもしれない。

 2年後、2020年分の確定申告からは、e-Taxを利用しないと青色申告特別控除の65万円が55万円に引き下げとなる。2018年12月1日現在のマイナンバーカードの普及率は12.2%(総務省の「マイナンバーカードの市区町村別交付枚数等について」)と、まだまだ高くはないが、個人事業主はそろそろ準備を始めたい。間際になると「マイナンバーカードを申請したけど、確定申告までに届かない」という心配もあるので、即日発行される「ID・パスワード方式」は、使う予定はなくても申請に行く価値はありそうだ。

「INTERNET Watch」ではこのほかにも、サラリーマンと個人事業主がぜひ読んでおきたい税金に関する記事を多数掲載しています。まとめページ『サラリーマンと個人事業主の税金の話』よりご参照ください。