清水理史の「イニシャルB」【特別編】

見た目はNASだが中身は別もの!! ランサムウェアにも耐えるバックアップを実現するSynology ActiveProtectアプライアンス「DP340」の正体

Synologyのバックアップ専用アプライアンス ActiveProtectアプライアンス「DP340」

 今、「バックアップ」が構造的な転換点を迎えようとしている。ランサムウェアによる被害が大きく報道されるようになって以降、「組織の存続」という文脈でデータの価値が見直されるようになり、今やシステムの復旧時間は「経営指標」の1つにもなりつつある。

 こうした状況の中、バックアップに関する現代の悩みにフォーカスを当てた新しいジャンルの製品がSynologyから登場した。NASで知られるSynologyが開発したのは、NASではなく、バックアップ専用のアプライアンス「ActiveProtect」だ。

 「NASから機能を削った製品?」、いやいや、そんな単純な話ではない。単なるデータ保護にとどまらず、リスクを構造的に封じ込めることを目的とした本製品の真の価値に迫ってみよう。

IT担当者が直面するバックアップの安全神話の崩壊と複雑化する現場の現実

 現代のバックアップ運用は、もはや従来の成功体験や過去の形骸化した仕組みだけで成立する時代ではなくなりつつある。

 データを多重化しておけばよい、という単純なバックアップの発想は、従来でも十分な有効性があるか疑問だったが、災害やセキュリティ被害なども無視でない現状では、もはや明らかに不十分だと言える。

 こうした意識は、組織全体の課題や経営層の視点として共有され始めており、冒頭で触れたように今や復旧時間が経営指標の1つとして語られることも珍しくない。組織の方針として「バックアップの強化」が謳われたり、サプライチェーンの中で取引先から厳格な対応を迫られたりすることもある。

バックアップは構造的な転換点に差しかかっている

 しかし、こうしたバックアップの意識改革が進みつつある一方で、実際に現場で稼働しているバックアップシステムは旧来のまま、何も変わっていないというケースも少なくない。特に中小の現場では、「今のバックアップだけでは不十分なのはわかっているが、具体的な対策がわからない」「運用の変化を伴う複雑なシステムは現在の人員では耐えられない」という声も聞かれる。

 実際、現場で何が課題になっているのか? その実情をもう少し具体化してみよう。よく聞かれるのは「面倒」「わからない」「安心できない」という3つの言葉だ。

現場で問題になりがちな「面倒」「わからない」「安心できない」の課題

面倒

 サーバー、OS、バックアップソフト、ネットワーク、ストレージと、バックアップと言っても必要な機材は多岐にわたり、互換性検証が煩雑でバックアップソリューションの決定打が見えにくい。運用開始後も、毎朝ログを確認し、ジョブを見直し、容量を監視する作業を個別のシステムで実施する必要があり、本来の業務に集中できない。

わからない

 バックアップは理解できるが、ランサムウェア対策を前提とした「データ保護ソリューション」と言われると、何が正解かわからない。特に「復元の確実性」や「復旧までの時間」を問われると、具体的になにから始めればいいのかわからない。

安心できない

 バックアップは成功しているが、実際に復元できるか確信が持てない。過去、実際にバックアップから復元できなかった失敗体験がある。といったように、果たして今のシステムを短時間で確実に復旧できるのかに不安がある。

 こうした課題の背景には、ハードやソフト、クラウドサービスを個別に組み合わせる自作型バックアップ構成の構造的限界がある。責任境界が曖昧になり、運用は担当者のスキルやSIerの実力に依存しがちで、時間も労力もかかる。その結果、課題が先延ばしされ続けてきた経緯がある。

 この状況を変える選択肢として登場したのが、今回、Synologyが挑戦した専用バックアップアプライアンスというアプローチだ。

ハード・ソフト・OSの完全統合という新機軸

 Synologyというと、NASを思い浮かべる人が多いかもしれない。実際、今回、Synologyから登場したActiveProtectアプライアンス「DP340」も、見た目には4ベイのNASに見える。

正面
側面
背面

 しかし、この製品は、そもそも設計思想からOS、ソフトウェアなど、NASとは異なる仕組みを持ったバックアップ専用設計の統合型アプライアンスとなっている。

 バックアップに最適化されていることは、そのスペックからも容易に想像できる。

HDDやSSDをセットで提供

 まず、本製品はHDDやSSDなどがセットで出荷される。ActiveProtectアプライアンス シリーズには容量が異なる製品ラインアップがあるが、今回レビューする「DP340」の場合、HDDは同社製の8TBモデルが4本同梱されており、キャッシュ用の400GB×2のSSDは本体に組み込み済みだ。

 これにより、ハードウェア選定の手間や時間が短縮される。性能や相性、保証などに頭を悩ませることなく、ベストなハードウェア構成ですぐに使い始めることができる。なお、初期設定時のウィザードの画面を見ると、HDDはRAID5で自動構成され、推奨バックアップ容量は14.5TBとなっている。

HDDが同梱される
SSDも組み込み済み
ストレージプールも自動的に構成される

高性能CPUと大容量メモリの理由

 本製品には、AMD Ryzen R1600(2コア)と16GB DDR4メモリが搭載されている。多機能なNASならわかるが、バックアップ専用としては過剰ではないか? と感じてしまうが、そうではない。

 本製品では、バックアップを高速に実行するための数々の工夫が搭載されており、高い処理性能が要求される。また、詳細は後述するが本製品ではアプライアンス内部で動く仮想マシンを使ってリストアの検証を実施できる。こうしたバックアップ専用の機能のために、むしろ高性能なCPUや大容量のメモリが搭載されていることになる。

デスクトップタイプのスペック表。左がDP340のスペック

高速な10GBASE-Tポートを標準搭載し、管理用ポートも別途搭載

 LANポートは10GBASE-Tとなっており、この速度を生かして大容量、多台数のバックアップをネットワーク経由で高速に取得できる。また、OOB管理用として1000BASE-Tのポートも別途搭載しており、データとは別のネットワークで帯域外管理が可能となっている。バックアップ中に帯域を損なうことなく管理できるうえ、メインネットワーク障害時でも遠隔管理が可能となる。これは、災害を想定したBCP対策として重要な設計と言える。

10Gbpsポート(ケーブルがつながっている部分)と左側にOOB管理用の1000BASE-Tポートを備える

専用OS

 本製品には、専用OS「ActiveProtect Manager(APM)」が搭載されている。一見すると、共有機能が省略されたDSM(SynologyのNAS向けOS)のようにも思えるが、そうではない。詳細は後述するが、バックアップアプライアンスにとってデータを「共有」しなくて済むことは、データ保護の観点で、むしろ大きなメリットになる。こうしたバックアップ用途を突き詰めて開発した専用OSとなっている。

 ウェブ経由での初期設定もシンプルになっており、従来のように、専用アプリからストレージを構成したり、ユーザーを追加したり、共有フォルダーを作ったりする個別の工程が必要ない。ウィザードを走らせるだけで、10分もあれば、主要な初期設定が完了し、すぐにバックアップを開始できるように設計されている。

簡単な初期セットアップ

 このようにハードウェアやソフトウェアの仕様を少し見ただけでも、そこにきちんとした理由が存在する。見た目はNASだが、設計思想がまるで違うわけだ。これだけでも、バックアップのために、あらゆる点が最適化されていることが伺えるだろう。

バックアップ専用だからこそできる「『直』イミュータブル」のメリット

 冒頭でも触れたように、現代のバックアップではランサムウェア対策を考慮しないわけにはいかないが、それを具体的にどうするのかベストなのか? という解を探すのに全国の担当者が苦労している状況だ。

 SynologyのActiveProtectアプライアンスでは、ランサムウェア対策として、「不変バックアップ(イミュータブル保護プラン)」と「エアギャップ(隔離)」という2つのソリューションを提供している。

 簡単に説明すると、不変バックアップはバックアップしたデータの削除や変更を不可能にする機能だ。これによりランサムウェアによってデータを暗号化されたり、削除されたりするのを防ぐ。

イミュータブル保護プランで保護プラン(バックアップタスク)を作成可能
イミュータブル保護プランでのバックアップは指定した期間、管理者でさえもバックアップを削除できない

 一方「エアギャップ」はバックアップ機器(つまりDP340自身)をネットワークから隔離する機能だ。あらかじめ設定された隔離期間中、全てのポートへのアクセスを拒否したり、ネットワークインターフェースカードを無効化したり、アプライアンスをシャットダウンしたりと、レベルに応じて隔離方法を選択できる。これにより、バックアップ時のみ本製品が稼働し、それ以外の時間のアクセスを遮断することで、ランサムウェアなどの被害が及ぶ可能性を低くできる。

エアギャップ設定で物理的にネットワークカードを停止することもできる

 一般的なNASの場合、データはまず共有フォルダーに保存され、そこからバックアップされる。つまり、スナップショットやバックアップがイミュータブルだとしても、共有フォルダーの段階で、いったん読み書き可能な状態で保管されることを避けられない。

 これに対して、ActiveProtectアプライアンスでは、OS管理下の保護領域に対して直接バックアップデータが格納される。つまり、「『直』イミュータブル」の状態にできるわけだ。わずかな隙も許さない厳密なイミュータブル管理と言える。

 しかも、イミュータブルに設定された保持期間内は、保管されたデータを「管理者であっても」削除や改変ができない設計となっている。ランサムウェア被害では、特権管理者の認証情報が奪取され、イミュータブルであったとしてもデータが削除されてしまうケースも珍しくないが、本製品であれば特権が奪取されたとしても、バックアップデータを保護できる仕組みになっている。

 エアギャップにしても、「共有」を前提としたNASでは、業務時間中にオフラインにすることは現実的ではないが、本製品であればむしろ積極的にオフラインにしておくことができる。

 こうしたバックアップならではの機能を実現するために専用OSを採用している、というのが本製品の設計思想だ。NASから機能を削ったのではなく、NASでは実現できないバックアップならではの課題に真正面から対峙しているのが印象的だ。

平時の運用と有事の復旧を一体化

 バックアップ専用アプライアンスとしての本製品の存在意義は、平時の運用に必要な管理機能と、有事に備えた復旧機能を一体化している点にもある。

バックアップの中央管理

 まず、レポート機能が充実している。旧来のバックアップシステム、特に個別のバックアップソフトに依存した中央管理ができないバックアップ構成の場合、果たしてどの端末がどのデータをバックアップしたのか? 正常にバックアップが完了したのか? という点を把握しにくい。

 その結果、バックアップから漏れているユーザー、サーバー、PC、仮想マシン、共有フォルダー、などが意外とある状況となっており、そうしたデータに限ってトラブルで失われがちな状況にある。

 本製品では、中央コンソールからインフラ内の全てのバックアップジョブを確認、管理可能となっており、なにが成功し、なにが失敗したのかを即座に把握可能になっている。また、ポリシーベースのバックアップ設定が採用されており、仮想マシンやSaaSアカウント(Microsoft 365サービス)などの追加に合わせて自動的にバックアッププランに追加するといったことも可能になっている。

ダッシュボードからバックアップ状況を確認できる

ファイルシステムレベルでの自動復旧

 Synologyは商用ストレージシステムのファイルシステムとしてBtrfsをいち早く採用したメーカーとしても知られているが、その長年の経験を生かしたデータの保護機能も搭載されている。Btrfsファイルシステムによって、バックグラウンドで整合性検証と自己修復が実行され、常に健康な状態でストレージが維持される。

ストレージの自己修復機能は初期セットアップで簡単に有効化できる

自動リストアテストが可能

 また、「復元できる安心」を提供する機能も搭載されている。

 バックアップしたデータは、本番環境とは別のサンドボックス環境に復元することが可能だ。バックアップイメージを内部仮想マシンとして起動し、OSの正常起動を確認。その際の様子を動画で確認したり、検証結果をレポート化したりできるようになっている。

 バックアップで常に付きまとうのは「本当に戻るのか」という不安だ。そして、ランサムウェア被害が深刻化する現在では、この「本当に戻る」という確証こそが大きな安心につながる。

 新人教育や担当者交代のケースでも、「こうなる体」で訓練するのではなく、「実際の結果」を確認できることになる。結局、万が一の際にいかに素早く動けるかが業務リスクを最小限にするには重要だが、その仕組みがActiveProtectアプライアンスなら一体化されているわけだ。

バックアップからの復元を仮想マシンでテストできる

 このほか、大規模環境、多拠点環境などに役立つクラスター管理が可能なうえ、データを節約するための重複排除機能、Active Directoryとの統合や端末制御も可能なきめ細やかな管理権限設定なども搭載される。

 中でも重複排除は、多段階で適用可能となっており、ソースサイド(サーバーや端末側)で重複を排除して送信データを減らしたり、バックアップ済みのデータからクロスプラットフォーム、クロスデバイスで重複を排除したり(グローバル重複排除)、複数サイトに展開したActiveProtectアプライアンス同士の重複を排除する(クロスサイト重複排除)などが提供される。

 バックアップでは、データをいかに減らすかも重要な観点だが、こうした機能が充実しているのもバックアップ専用アプライアンスならではの特徴と言えるだろう。

バックアップ専用だからこそ実現できる世界

 以上、Synologyが提供するActiveProtectアプライアンスについて、その詳細を紹介した。バックアップ運用の複雑さを専用アプライアンスによる統合によって解決する面白いアプローチと言える。

 特に今回紹介した中小規模の環境でも導入しやすいデスクトップタイプの「DP340」は、4ベイ構成で推奨バックアップサイズ約14.5TBなので、中小企業にとって現実的な選択肢となる。メーカー希望小売価格は64万3400円となるが、ストレージやSSD込みの価格であること、買い切りで継続的な課金が発生しないことを考えると、導入しやすい価格と言える。

 サーバー機器の償却期間は通常5年なので、5年間の利用で考えれば、年間で12万8680円、1カ月あたり1万723円ほどの価格となる。低価格で知られるイミュータブル可能なクラウドストレージサービスでも1TBあたり月額800円以上なので、14.5TBだと、むしろ月額の費用は本製品の方が抑えられる。

 バックアップを組織のリスクや負担から、設計済みの安心なインフラへと進化させる製品と言えるだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。YouTube「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」で動画も配信中