【連載】 【編集部から】 この3カ月、検索エンジンの業界では大きな合併話が相次ぎ、再編が加速している。その前の1年半と比べると、動きの素早さには驚かされるばかりだ。Yahoo!がInktomiを買収したのにも驚いたが、Overtureがかつての検索エンジンの王者、Altavistaを買おうとしているという話が浮上したときには、皆がもっと驚愕した。さらに同社が今度は超強力な検索エンジン技術を持つFASTを買うとの話が飛び込んできたときには、驚愕を通り越して業界は激しい衝撃を受けた。いったい何が起きつつあるのだろう? この連載を始めるにあたり、まずはそのあたりの再編話をもう一度振り返ってみよう。 ●Googleからの脱出口はどこに? Yahoo!の秘められた戦略 12月26日、ぼくはハワイ・カウアイ島のノースショアで道に迷っていた。カウアイは、ホノルルから飛行機で20分ほど北西に飛んだ島。むせ返るような熱帯の濃い緑に包まれた自然豊かなガーデンアイランドだ。 「知ってるかい? Yahoo!がInktomiを2億3500万ドルで買収したんだって」 2003年第1四半期に買収取引が完了したあかつきには、Yahoo!は以下のような収入を得ることになる。 ・米OvertureからのPPC料金 説明しておくと、PPC(Pay Per Click)というのは、高い料金を払った広告主のサイトを検索結果ランキング上位に入れることで、そのサイトのURLがクリックされるごとに広告主から料金をいただくというシステムだ。Overtureのスポンサードサーチや、Googleのアドワーズが有名だ。一方、PFIというのは“Pay For Inclusion”の略語。検索エンジンのインデックスに広告主のサイトを含めることで料金をいただくという仕組み。PPCと違って、ランキングのどの位置に入ってるかは問わない。そして多くの場合は年間契約になっている。 さて、Inktomi買収が完了すると気になるのは、Yahoo!がGoogleとの関係をどうするかということだ。さらに言えば、日本のヤフーはどうするつもりなのだろうか。 過去、Yahoo!はいろんな検索エンジンを使ってきた。 ・1996年から1998年まで Altavista結局のところ、Yahoo!がInktomiを買収した理由は何だろう? 僕の推測だが、それには2つの動機がある。 (1)価格が思い切り安かった。 (2)Yahoo!にとって、Googleは技術提携パートナーから本格的な競争相手に変化しつつあった。かつてのAltavistaがそうであったように。そこでYahoo!としては、Googleと組んでいる状態から少しずつ脱却し、Inktomiとの関係を取り戻そうと思ったのではないだろうか。
●OvertureとFast、Altavistaの三題噺 Overtureは最近、米Altavista(そういえば同社にはMSNも興味を持っていたという噂がある)とノルウェーのFast Search & Transfer(FAST)という、大手検索エンジン会社の検索エンジン部門を相次いで買収した。この買収で、Overtureは競争相手が両社の強力な検索エンジンを使うのを阻止することができるようになるというわけだ。パワフルな戦略だね。OvertureはFAST買収のために7000万ドル(約84億円)を現金で支払い、今後3年間の収益に応じて最大で3000万ドル(約42億円)を追加で支払うという。買収手続きは今年4月に完了する予定だ。 さて、この相次ぐ再編劇の結果、検索エンジン業界の構図は、簡単にまとめるとこんなふうになった。
Overtureのプレスリリースによれば、FASTの検索テクノロジーを実際に使うことのできるショーケース的なサイト「alltheweb」は今後、先端的な検索のアイデアを実験する場として使われていくことになるという。一方、Altavistaについては、新製品をリファインする場所として使う意図を持っているようだ。 この2つの検索エンジンサイトは日本国内ではたいしたシェアを持っていない。しかし僕の予想では、今後18カ月のうちに国内の大手ポータルサイトのどこかがFASTかAltavistaの検索エンジンを使った(あるいはその両方ともを使った)Overtureのサービスを導入することになるんじゃないだろうか。 Overtureは昨年、EarthlinkとAmerica Online(AOL)という米国の大手ISP2社との提携を失った。2社はOvertureとの提携を打ち切り、Googleと提携したわけだ。この理由のひとつは、ペイパークリック(PPC)という広告型検索エンジンしか持っていないOvertureが、Googleのような一般的なアルゴリズム型検索エンジンを提供できなかったからだと言われている。この提携解消でOvertureは、株価にかなりの悪影響を受けた。 しかし今回、同社はFASTとAltavistaを手に入れたことで、PPCとPFI、アルゴリズム型検索という3つのサービスを提供できるようになった。これでGoogleと互角に対決することができるようになったわけだ。
しかし欧米の検索エンジン業界では、否定的な見方もある。 ――確かにOvertureをめぐる買収のニュースはエキサイティングではあるけれど、検索エンジン利用総数の70~80%をGoogleとYahoo!、MSNが占める現状では、AltavistaとFASTをOvertureが買収しても影響はほとんどない。この買収で、検索エンジンのユーザーの習慣が変わるわけじゃない――確かにその意見はもっともではある。今回の買収でむしろ注目しなければいけないのは、インターネットユーザーへの影響ではなく、Overtureが先ごろ発表した広告型検索エンジンの最低入札金額の値上げかもしれない。同社はこれまで0.05ドル(約6円)だった最低入札金額を3月29日から倍に引き上げ、0.1ドル(約12円)にするという。これは英語圏での話だが、日本のオーバーチュアも追随する可能性はあるんじゃないかな。 そんなこんなでさまざまな影響や憶測を引き起こしているOvertureの買収劇だが、まだ疑問は多い。 Overtureはこんなに激しい急成長戦略を採って、企業体質が弱まってしまう可能性はないのか? 過去、買収を繰り返した挙げ句に企業体力を落としてしまったケースは、特にメディア企業を見ると枚挙にいとまがない。MSNはAltavista買収に興味を持っていたという話があるが、Microsoftは独自の検索エンジンを持つ気はないのだろうか? もしその願望があるのなら、同社はYahoo!を買収する可能性は? あるいはOvertureは? それともGoogleは? またOvertureは、Yahoo!やGoogleと対抗するため、エンドユーザー向けのポータルサイトを持つ気はないんだろうか? そんな疑問を並べてみると、今回の一連の買収劇は今後、まだまだ大きな波紋を広げていく可能性があることに気づかされる。まだドラマは始まったばかりなのだ。
(2003/3/11) [Reported by ジェフ・ルート&佐々木俊尚] |
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