■検索企業ではM&Aが花ざかり
ここ数か月の間に、アメリカでは大規模なネット企業のM&Aが相次いでいる。
まず最初は、ニューヨークタイムズによるAbout.comの買収。About.comの日本語版は、リクルートから「オールアバウト」という名称で提供されている。米国のAbout.comは出版社Primediaの子会社で、ニューヨークタイムズはこの買収に4億1,000万ドルを支払うという。かなり巨額だが、人気サイトであるAbout.comが持っている巨大なトラフィックが大金に値すると考えられたようだ。About.comのCEOはこのインタビュー記事で、同社の価値について以下の3点を挙げている。
- 最も大きなポイントは、SEOと新しいコンテンツ。About.comのスタッフはSEOのエキスパートであるうえ、毎週3,000もの記事をアップロードしている。トラフィックが増え続けているのは、こうした努力があるからだ。
- About.comはトラフィックに関する分析にも相当な時間をかけている。検索エンジンでどのような単語が入力されたのか、トラフィックはどこからやってきたのか、前年とはどう変わったのか。About.comでは激しいスポーツ試合を行なうように徹底的に最適化を行なっている。
- 新たなコンテンツを生み出すため、Yahoo! Buzz IndexやGoogle Zeitgeist(Googleの検索キーワードランキングとトレンド分析)のようなツールを使っている。
- 正しい価格ですべてのものを提供している。
つづいては、インターネットコングロマリットのIAC(InterActiveCorp)がAsk Jeevesを18億5,000万ドルで買収した。
ForesterのリサーチャーのCharlene Liによれば、IACが買収を決めた理由は次の3点だという。
- 検索の垂直統合。IACは現在、ExpediaやCitysearch、Match.comを傘下におさめている。Ask JeevesのTeomaテクノロジを利用することで、こうしたサービスは素晴らしい検索エンジンを手にすることができる。また検索エンジンがどのように使われ、GoogleやYahoo!の検索結果で上位に入るためにはどのようなことをすればいいのかといった知識も手に入る。
- Ask Jeevesはしばらく前にBloglinesを買収している。Bloglineはブログやニュースフィードの検索、登録、発信、共有などのサービスを提供している企業で、IACはこのサービスを利用して自社プロモーションをRSSを通じて行なったり、顧客のアカウントをターゲットマーケティングに利用できるといったメリットがある。
- そして同時に、GoogleとYahoo!、MSNに次ぐ第3の検索エンジン勢力を持つことができる。
3番目の買収は、アメリカのGannet、Knight Ridder、Tribuneという新聞社3社によるTopix.netの買収。Topix.netというのは大規模なニュースサイトで、英語圏ではGoogleニュースのライバルとして知られている。Topix.netのCEOは買収に関して、こうコメントしている。「われわれが成長し続けるためには、他に選択肢はなかった。何しろGannetとKnight Ridder、Tribuneが持っている資産は巨大である。それはもちろんファイナンスの資産のことではなく、オンライン利用者やコンテンツ、掘りさげた広告データなどを持っているということだ。」
たしかにこの3社のメディアとしての資産は巨大である。この件についてのプレスリリースによれば、「Gannet、Knight Ridder、Tribuneはトータルで140以上のニュースサイトを運営し、ユニークユーザー数は毎月3,000万人にも上る。そして3社はこれまでにもShopLocal.comやCareerBuilder.comでジョイントベンチャーを行ない、協業を進めてきた。」
4番目に、Web分析企業のWebSideStoryが、CMS企業のAtomzを3,900万ドルで買収。おかげでWebSideStoryはCMSやログ解析、PPCの入札マネジメントソフトなどを幅広く提供できるようになった。僕の務めている日本企業、EC Japanにちょっと似てきた気もするね。
5番目。Webtrendが、プライベートエクイティ企業のFranciso Partnersに9,400万ドルで買収された。売却したのはNetIQで、購入したFranciso Partnersは技術系企業への専門的な投資を行なっているプライベートエクイティのようだ。
6番目は、GoogleがUrchinを3,000万ドルで買収しようとしているという話。Urchinというのは一風変わった社名だが、同社はWeb解析ツールを開発・販売している。アクセスログによってWebサイトの視聴率を解析し、月別・日別など各ページごとの視聴率やトラフィック、検索キーワード、ブラウザの種類など111種類にも上るレポートを出力できる。
Googleはこのツールを顧客に提供することで、インターネット広告のROIを上げることができると説明している。
「広告の支出に対してどの程度の投資対効果があるかという情報をサイトオーナーなどに提供していきたい。この買収によって、Googleの広告サービスに新たな価値を加えることができる」とGoogleのJonathan Rosenbergプロダクトマネジメント担当副社長もコメントしている。
ホスティング企業のパッケージを購入すると、Urchinのツールはバンドルされていることが多い。だからUrchinの買収は、最近うわさされているGoogleのホスティングビジネスへの進出にも、何か関係してくるということになるのだろうか? たぶん近々、Googleから何らかのアナウンスがあるのじゃないかと思う。
そして最後の買収は、日本の話。Yahoo!日本法人が、アフィリエイトで有名なネット広告企業のバリューコマースを買収した。
この買収によって、Yahoo!はアフィリエイト業界での地歩を強固にすることになるだろう。おまけにYahoo!はバリューコマースから、自分のところの検索エンジンの検索結果に関する詳しい情報を得られるかもしれない。何しろバリューコマースは日本国内でも名うての過激なSEO企業だから、同社の顧客がどのようなSEOによってYSTのランキング上位に入っているのかが一目瞭然になってしまう、というわけだ。
以上、最近の目立ったM&Aのケースを並べてみた。
こうやって見てみると、最近はネット企業の中でも、トラフィックをアグリゲートする企業(About.comやAsk Jeeves、Topix.net、バリューコマースなど)や、Web解析を行なう企業(UrchinやWebtrend)などを中心にM&Aが進んでいるように見える。
■URL
About.comのCEOインタビュー記事
http://www.ojr.org/ojr/stories/050307glaser/
Yahoo! Buzz Index
http://buzz.yahoo.com/
Google Zeitgeist
http://www.google.co.jp/press/zeitgeist.html
ForesterのリサーチャーCharlene Li氏のブログ
http://blogs.forrester.com/charleneli/2005/03/diller_asks_for.html
■Yahooのビジネスエクスプレス
Yahoo! JAPANへのサイトの登録について、方針が変わったようだ。こんなリリースが流されている。
「2005年4月1日より、商用(営利)目的のサイトの推薦方法は、ビジネスエクスプレスのみとなりました。なお、無料での推薦(スタンダード)は2005年3月31日をもって終了いたしました」
ビジネスエクスプレスというのは、Yahoo! JAPANのサイトへの登録の審査を速やかに行なうサービスで、審査手数料が1回につき5万2500円かかる。
■次回のサーチエンジンオーバードライブ
僕らが開いているイベント「サーチエンジンオーバードライブ」の次回のプランについてこの連載でも募集したところ、いくつかの案をいただいた。そうした案をもとに、ようやく構想が固まってきた。次回のコンセプトは、
mixer
だ。興味対象の共通した人たちが集まって、情報を交換するカクテルパーティーのイメージ。そして次回のサーチエンジンオーバードライブは、4月20日からのSearch Engine Strategies 2005 Conference & Expoのミニプレ祭という気持ちで開きたい。なにしろ本番のConferenceには安酒も音楽もないからね。
前回と異なり、今回のサーチエンジンオーバードライブにはパネルディスカッションはない。もっとも、できれば近いうちにクリック詐欺に関するディスカッションは実行に移したいと考えている。
【サーチエンジンオーバードライブ実施要項】
開催日 2005年4月14日
開催時間 午後7時から
開催場所 渋谷「The Pink Cow」 地図はこちら
入場無料
僕とリサがDJを務め、ニュージーランドのモダンソウルをかける予定。最初のサーチエンジンオーバードライブに来てもらった人だったら、あのときと同じ雰囲気だと思ってくれればいい。でもあのときほどはタバコの煙はひどくならないと思うよ。
(2005/04/04)
【著者プロフィール】 |
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・文=ジェフ・ルート(Jeff Root)
ECジャパン株式会社のSEOチーフスペシャリスト。日本には出たり入ったりで早や10年。メールアドレスは「jeff@ecjapan.jp」。日本語もOKなので、気軽にメールをくれると嬉しい。 |
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・翻訳=佐々木俊尚
元全国紙社会部記者。その後コンピュータ雑誌に移籍し、現在は独立してフリージャーナリスト。築42年の古い家で、犬と彼女と暮らす。ホームページはこちら。 |
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