■爆発的に増加するクリック詐欺……その理由とは
CNN Moneyの記事によると、Googleの経営幹部がこう語ったという。「わが社が提供しているキーワード広告がたいへんな勢いで荒らされるようになっており、このままでは検索エンジンのビジネス自体が窮地に立たされかねない。」
この「クリック詐欺(Click Fraud)」問題について、まず言葉の意味を簡単に説明しておこう。ユーザーが検索エンジンの検索結果に表示されるキーワード広告をクリックすると、広告主はクリック数に応じて検索エンジン側に料金を支払う仕組みになっている。クリック詐欺、もしくはPPC(Pay Per Click)詐欺と呼ばれているこのスパム手法は、この広告モデルを悪用している。要するに意図的にクリック数を増やし、それによって余計なカネを広告主に使わせてしまうということなのである。
たとえばGoogle AdWordsやOverture、Findwhatのような一般的なキーワード広告モデルは、彼らのリンクをユーザーがクリックするごとに料金を支払う仕組みになっている。騙す側は自動的にクリックするプログラム(hitbotsと呼ばれている)を使ったり、あるいは安い労働力を使ってひたすら手作業でクリックするなどの手口を使う。そうすると広告主の方は、「なんてたくさんの人たちがわれわれのサイトへのリンクをクリックしてくれているんだ! これからたくさんの客が期待できるぞ」と幻想を抱いてしまうのである。そうして大金を検索エンジンの側に支払うが、実際にはいくらクリックが増えても、広告主に利益が転がり込むことは絶対にない。
クリック詐欺犯は、どうやってカネを儲けられるのだろうか。特定の広告主に悪意のある人物――元社員だったり、ライバル会社だったり――が、広告主に無駄なカネを使わせる目的で手を染めているケースも多いと見られている。
また、クリック詐欺を使い、GoogleやOvertureなどが提供しているアフィリエイトプログラムでカネを儲けている者もいるようだ。詐欺犯はまずアフィリエイトプログラムに参加登録し、特定の広告へトラフィックを誘導し、その見返りとしてクリックごとの料金を受け取る契約にサインする。そしてその広告を自分のサイトに置くのだが、サイト自体は詐欺目的で作ったもので、コンテンツが何にもないものだ。ぽつんとアフィリエイトのバナーが貼られていたりする。そして準備が整ったらhitbotsや安い労働力を使い、大量の不正なクリックを短期間のうちにぶち込むのだ。もちろん、そのアフィリエイトから大量の料金を騙し取り、すぐに姿を消してしまうのは言うまでもない。
クリック詐欺が問題なのは、キーワード広告モデルが今やインターネット業界でも屈指の成長株ビジネスとして期待されているからだ。もしクリック詐欺に引っかかっていたことが判明したら、GoogleやOvertureは賠償金を広告主に支払わなければいけない。
Googleも、この脅威を重大視しているようだ。株式上場時の申請書の中で同社は、こんな風に書いていた。
「クリック詐欺に関して、われわれは広告主に料金の払い戻しを行なってきている。たぶん今後も続けることになるだろう。そしてもし、この詐欺をわれわれが撲滅できなかったとしたら、払戻額はどんどん大きくなっていくのは間違いない。そうなれば会社の競争力は失われ、広告主に価値を提供できなくなってしまい、挙げ句に広告を止められてしまう可能性もある。そうなればわれわれの売り上げとビジネスモデルは深刻な影響を受けることになる。」
僕はGoogle日本法人に聞いてみたが、クリック詐欺についての公式コメントをもらうことはできなかった。キーワード広告は同社の売り上げの中で最も大きな部分を占めていると噂されているし、この問題はGoogleの株価にも大きな影響をもたらすかもしれない。これからどうなるのだろうか? 日本の検索業界の人たちにも、ぜひこの問題についてのコメントを聞いてみたいと思っている。
もうひとつの問題は、クリック詐欺にあった場合、被害にあったという証明を広告主の側が行なわなければならないことだ。広告主側が被害を調べて、OvertureやGoogleなどのキーワード広告提供企業に要請しなければ、被害にあったカネは返ってこないのである。しかしOvertureやGoogleは、そうした広告主企業がクリック詐欺を調べ上げる時間もなければ、調査を行なって分析する能力を持っていないのはわかっているはずだ。それにこうしたやり方を取っていれば、キーワード広告企業の側は積極的にクリック詐欺を調べようという気持ちにはならないだろう。
1つ言えるのは、キーワード広告企業がもしクリック詐欺を撲滅させる方法を見つけることができたら、実は彼らの売り上げが減ってしまうということである。全体のクリック総数のうちのどれだけが詐欺なのか、正確な数字はわからないが、20%程度ではないかと見られている。
そう考えると、こういう言い方もできる――どこの企業が、自分の会社の売り上げを20%も減らすような方法を見つけるために積極的に投資するだろうか?
今のところ、米連邦取引委員会(FTC)はまだこの問題について何のコメントも出していない。
■URL
CNN Moneyの記事(英文)
http://money.cnn.com/2004/12/02/technology/google_fraud/index.htm?cnn=yes
■インターネットセキュリティへの脅威
最近、Washington Timesにこんな恐ろしい記事が載っていた。
「インターネットは自由でオープンな社会で、何のコントロールも責任も存在しないと考えられているから、こうした行動は論争を巻き起こすかもしれない。しかしインターネットというフロンティアは、これからはきちんと統治され、管理されるようにならなければいけない。」
この発言をしたのは、7年に渡ってCIA長官を務めていたジョージ・テネット。彼は7月に職を辞しているけれど、しかしこのコメントは相当に強烈だ。彼が言うには、インターネットが作られてきた過程そのものも問題だったのだという。オープンなアーキテクチャによって作られたことでユーザーは自由にWebサーフィンできるようになったが、そうしたオープンさが逆にシステムとしての脆弱性を生んだというのだ。だから、Webへのアクセスは、セキュリティがきちんと保たれている人たちだけに制限されるべきだとか。
いったい世界はどこへ向かおうとしているのだろう?
■URL
Washington Timesの記事(英文)
http://www.washingtontimes.com/national/20041201-114750-6381r.htm
(2004/12/8)
【著者プロフィール】 |
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・文=ジェフ・ルート(Jeff Root)
ECジャパン株式会社のSEOチーフスペシャリスト。日本には出たり入ったりで早や10年。メールアドレスは「jeff@ecjapan.jp」。日本語もOKなので、気軽にメールをくれると嬉しい。 |
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・翻訳=佐々木俊尚
元全国紙社会部記者。その後コンピュータ雑誌に移籍し、現在は独立してフリージャーナリスト。築42年の古い家で、犬と彼女と暮らす。ホームページはこちら。 |
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