■AOLはどこへ行く?
アメリカではAOLが長い期間にわたって、膨大な数の利用者――数千万人という規模――を抱えてきている。そしてポータルサイトで利用する検索について同社は、サードパーティーの検索エンジンを採用してきた。かつて検索業界で隆盛を誇ったInktomiが力をつけた理由の1つは、同社がAOLと契約を結んで検索エンジンを提供するようになったからだ。そしてキーワード広告のOverture(現Yahoo! Search Marketing)も、AOLとの契約で大きな収益源を得た企業の1つだった。またAOLは2001年に検索エンジンをInktomiからGoogleに乗り換え、Googleもこれによって大きな利益を得ることになる。つまりはこのスケールが、AOLの大きなパワーなんだよね。
僕が以前、とあるECサイトを運営していたとき、気にしなければならないのはAOLユーザーだけだった。他の検索サイトからやってくる顧客の売り上げは、ほとんど話にならないほど小さかったのだ。この当時、もちろんGoogleやYahoo!、MSN、AltaVistaなどの検索エンジンは存在していたし、そうしたサイトからのトラフィックもあったけれども、しかしどれがきちんと売上になりビジネスになるかというと、やはりAOLからのトラフィックが圧倒的だった。それはAOLが標準検索エンジンとしてInktomiを採用していようがGoogleに乗り換えようが関係なく、そのトラフィックがAOLから来ているという事実だけが厳然としてあったんだ。
さて、2005年。もちろんAOLのパワーは今もそこにあって、検索大手各社がAOLをめぐって激しい争いを繰り広げている。Googleにとっては相変わらずAOLからの売上は同社にとっての最大の収益となっていて、何とかAOLとの契約を維持しようと必死になっている。MicrosoftはGoogleやYahoo!に対抗し、AdCenterという名称の独自のキーワード広告をスタートさせようと計画していて、AOLに対してGoogle AdWordsからAdCenterに乗り換えるよう持ちかけている。もしMicrosoftがこの営業に成功してAOLと契約することに成功すれば、AdCenterは一気に先行するGoogle AdWordsやYahoo! Search Marketingと同じ規模に達することになる。これはGoogleやYahooにとっては危機的な事態で、そこで3社の間でAOLをめぐる激しいバトルになっているわけだ。Microsoftにとっては、このAOLの戦いに勝利を収めることこそが、宿敵Googleを妨害し、士気をくじく絶好のチャンスとなっているのである。
資金の豊富なGoogleは、Comcastグループと組んでAOLを買収しようと考えている。Yahoo!も同様に買収交渉を進めていて、AOLを市場シェアを制覇するための最終兵器と考えているようだ。
Las Cruces Sun-Newsの記事はこんなふうに書いている。
「スタンダード・アンド・プアーズのアナリストであるScott KesslerはAOLの買収を、多くの人が同じ家を購入しようと競っている様子にたとえた。AOLという企業には問題もあるけれども、たとえばAIMというインスタントメッセンジャーの膨大なユーザーを抱えているといった側面があることも忘れてはならない。AIMユーザーは、広告やコンテンツ配信、IP電話ビジネスなどの潜在的な市場として巨大なパワーを秘めている。Kesslerは『AOLを巨大なトラフィックを持つ存在として評価している企業が数多くあるというのは、当然のことだ。それはすぐれた不動産、すぐれた建物を人々が求めるのと同じようなものなのだから』と話している」
■URL
Las Cruces Sun-Newsの記事
http://www.lcsun-news.com/apps/pbcs.dll/article?AID=/20051016/BUSINESS/510160304/1002
■MicrosoftのAdCenterベータ版がリリースされた
Microsoftは先ほども書いたように、AdCenterという名前のキーワード広告ビジネスを自社開発し、このホットな分野にいよいよ参戦してきた。ご存知のように、この分野ではYahoo!とGoogleが大きな収益を上げている。言ってみればこの2社が未開拓の市場を一生懸命開拓し、後から参入してきたMicrosoftに新たな巨大市場を作ってあげた――という皮相な見方もできるかもね。
最近は多くのネット広告代理店が、GoogleやYahoo!のキーワード広告の代理店ビジネスを手がけている。キーワード広告のトラフィックが大きな収益源になることを、どこのWeb管理者も認識するようになってきている。マーケットは育って大きくなり、いよいよMicrosoftのような巨大企業が参入してくる土壌が整ったということなのだろう。広告主の観点で言えば、ごくシンプルだ――OvertureやAdWordsが我々に役立つのであれば、MSNも使っていこうというのは当然の結論。第3の金儲けの選択が出てきたね、ということ。
アメリカの広告業界では、Microsoftの動向に大きな注目が集まっている。同社がどのようにして新たなキーワード広告ベンダーとしてのスケールを作っていくのかという点だ。ポータルサイトのMSNでAdCenterを提供するだけでは、Yahoo!やGoogleのライバルになるだけの規模にはなれない。同規模になるためにはもっと別の媒体が必要で、そのあたりでAOLの重要性が急浮上しているということなんだろうね。
ところでAdCenterはFirefoxでは動かないらしいんだけど……これはまあ驚くほどの話ではないかもね。
■SES China
Search Engine Strategies(SES)が、来年中国で初めてのイベントを開く。詳細はここ。誰がスピーチするのかが気になるところだね。もちろんYahoo!やGoogle、Microsoftはアメリカから講演者を送り込むだろうけれど、しかし中国の業界人の誰がスピーチするのかという情報は今のところ入ってきていない。
できればSES Chinaは、東京で開かれたSESのような退屈なイベントにはなってほしくないと思う。アメリカやヨーロッパで開かれたSESは交流パーティーの趣があり、いろんな人と知り合う良い機会となり、刺激的な環境で新しい情報やすばらしいアイデアを仕入れることができた。何かが起きそうな予感に満ちていたんだ。
でも東京のイベントは、テレビを観ているみたいだった。企業のPRと、それを受動的に聞いているだけ。ほとんどのプレゼンテーションは会社の広報宣伝で、ディスカッションもなっていなかった。Googleは、企業向けのアプライアンスのセールストークをしただけだったし……。観客の側も積極的な質問を投げかけることもなく、Googleのスピーカーも観客に新しいアイデアを投げかけるような努力は全然していないように見えた。東京で2回開かれたSESは2回ともこんな感じだったな。
僕は何も日本を批判しようとか、SESを批判しようというつもりはない。これは文化の違いだということは理解している。僕がただ言いたいのは、このイベントはワクワクするような、予想もしていなかったようなことが起きるはずのすばらしい機会だということだ。業界の人たちが一堂に集まるいい機会だし、新しい考え方を学び、次に何が起きるのかを知るいい機会なんだ。そしてそれがこのイベントの目的になっていると思う。決して片方向の情報が垂れ流されるだけのイベントにすべきではないと思うし、もっとアクティブにみんなで議論すべきだと思う。
SESは最近、アメリカのリサーチ会社であるJupiter MediaからイギリスのIncisive Mediaに4,000万ドルで売却された。IncisiveがアジアでのSESをもっと刺激的な場にしていってくれるように願いたい。セールストークはもっと減らしてもらって、パネルディスカッションをもっと増やしてほしいし、日本でのイベントに関して言えば、カリスマ性があって話のうまいエンターテイナー的モデレーターを起用して、観客の参加を促してほしいと思う。
■URL
Search Engine Strategies
http://www.searchenginestrategies.com/
SES China
http://www.jupiterevents.com/sew/china06/index.html
(2005/11/14)
【著者プロフィール】 |
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・文=ジェフ・ルート(Jeff Root)
ECジャパン株式会社のSEOチーフスペシャリスト。日本には出たり入ったりで早や10年。メールアドレスは「jeff@ecjapan.jp」。日本語もOKなので、気軽にメールをくれると嬉しい。 |
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・翻訳=佐々木俊尚
元全国紙社会部記者。その後コンピュータ雑誌に移籍し、現在は独立してフリージャーナリスト。築42年の古い家で、犬と彼女と暮らす。ホームページはこちら。 |
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