【連載】 【編集部から】 ●伝説のVisicalc開発者、検索エンジンに挑戦 ダン・ブルックリン(Dan Bricklin)は、パソコン業界の草創期のパイオニアとして知られる人物だ。彼のもっともよく知られている偉業は、世界で最初の表計算ソフトの開発。つまり表計算ソフトというコンセプト自体を発明したということになる。今では忘れ去られてしまったが、「Visicalc」という彼の開発したソフトは、アップルIIからTRS-80、Comodor、PET、Atari800、そしてIBM-PCなどさまざまなマシンに移植され、当時のベストセラーソフトだった。 そのダンがいま、HTMLのメタタグに置き換わる新しいスタンダードを打ち立てることに挑戦している。ご存じのようにメタタグは、もともとはそのサイトがどういう内容のコンテンツを持っているかを示すためのタグだった。たとえばパソコン直販のサイトだったら、 <meta name="keywords" content="パソコン,直販">といった感じ。昔の検索エンジンは、このkeywordsを読んでそのサイトの内容を定義付けしていた。しかし悪質なSEO(検索エンジン最適化)業者が登場し、メタタグを大量のキーワードで埋め尽くし、検索エンジンを惑わすスパム的な手法を濫用するようになった。このため大手の検索エンジンはどこもメタタグを無視するようになり、今では誰も見向きもしなくなってしまったというわけだ。しかしダンは、この状況をもう一度立て直そうとしているようだ。 彼が考えている新しいタグは、「SMBメタ」と呼ばれている。これは“Small and Medium-sized Businesses meta deta”の頭文字。つまり「中小企業メタデータ」って意味になる。企業の業務内容を、電子的なフォーマットで記述する方法を標準化する。ある企業が販売している製品やサービスはどんなものか、事務所の所在地はどこか、営業時間は――といった類の情報をXMLによって記述したファイルを作る方法を、仕様として定めようというものだ。 この仕組みのメリットは、次のようなものだ。 まあ要するに、SMBメタが作るファイルは、オンラインビジネスのディレクトリを作る助けとなるわけ。ファイルは会社のドメイン名に付加されて使われるから、GoogleやYahoo!ディレクトリなどが検索結果にこうしたディレクトリを組み込むのが簡単にできるようになる。 ダンは「SMBメタのシステムは、現在のメタタグが持っている問題を回避し、より使いやすいものにするためにデザインされた」と言っている。たとえば、こんな使い方もできる――おかしなWebサイトがでてきても、ドメインネームに直接付加されているSMBメタを見れば、問題のサイトを誰が運用しているのかをすぐに確認できるため、そのWebサイトをブロックするのが簡単にできるようになる。 今のところ、ダンはこのSMBメタという新しい言葉を、Webの開発者や中小企業に普及させようと躍起になっている、という段階。彼の努力の途中経過は、「TrellixTech.com」のblogや、「SMBmeta.org」のサイトなどで読むことができる。 僕の思うに、SMBメタはそれ自体ではたいして重要な存在ではない。しかしダンの考えていることは、オンラインショッピングの新たな第一歩を予感させるものだ。これまで、オンラインショッピングサイトはシンプルなHTMLページを作るのがベストな方法だと言われていた。しかしこれからはそうした従来の手法だけでなく、“検索エンジンに直接データを送り込む”という手法も出てくるということだ。そうした未来を予感させる代表的な例が、次に挙げるFroogleだ。
●カタログ・エンジンって何だ? Froogleは、Googleが始めた新しいサービスだ。「カタログ・エンジン」という呼び方もある。Froogleで検索した結果は、オンラインショッピングサイトの商品情報にだけ、ダイレクトにリンクされる仕組みになっている。こうした手法が普及すれば、Eコマースサイトは検索エンジンとさまざまな形で提携し、お互いにメリットのある形でデータのやりとりをすることができるようになるかもしれない。そんなビジョンにつながっているという意味で、このサービスはきわめて未来的だ。同様のサービスはGoogleだけでなく、Overtureに買収されたFASTも今年6月にベータ版のカタログエンジンをリリースするという噂も流れている。 しかし今のところは、存在しているのはGoogleのFroogleだけだ。“フルーグル”というのはずいぶん変な響きの名前だが、英単語の「frugal」から来ているようだ。質素とか倹約とかつましいとか、そんな単語だ。普通は「お金を賢く使う」っていうような意味で使う。たとえばこんな感じ――「一般論を言えば、Web企業は1998年ごろよりも2003年の今の方がずっとfrugalになっている」――。そのfrugalとGoogleを合成して、Froogleという言葉になったわけだ。 さて、ではあなたがオンラインショッピングのサイトを運営していて、「ぜひうちの商品もFroogleのカタログエンジンに登録してほしい!」と思ったとする。どうすればいいだろう? それには2つの方法がある。 (1)何にもしない。グーグルの検索ロボット「Googlebot」があなたのサイトを自動的に収集し、品物の写真と説明文を勝手に登録してくれる。 ただ、残念なことに、Froogleはまだ日本語は使えない。だが似たようなサービスを提供するサイトはいくつか現われてきている。たとえば「価格.com」。不思議なことにこのサイトには検索ボックスがない。ただ、特定の製品の価格を横断的に調べることができるその仕組みは、カタログ・エンジンに近いといえるかもしれない。ほかにもコンピュータ関連機器の「パソconeco」や、旅行関連商品を販売する「Travel.co.jp」などがある。
●サーチキング その永遠の戦い ページランクテクノロジーという言葉を知ってるだろうか。Googleが使っている重要な技術だ。あるサイトがどこか別のサイトからリンクを張られると、そのリンクは「ページランク」に数値化される。価値のあるサイト(たとえばYahoo!とか)からたくさんリンクが張られていれば、ページランクの数字は高くなる。それはつまり、そのサイトの人気度を測っているとも言えるわけで、ページランクは「リンク人気度」(link popularity)といった言い方もされている。ページランクが上がれば、Googleの検索結果ランキングでも上位に入る可能性が高まるし、当然ページビューも多くなる。 さて、そこでこのページランクをビジネスにできないかと考える人が現われた。米国人のロバート・マサ(Robert Masa)という男性が運営している「Search King」というサイトは、リンクつきのテキスト広告を販売。その際、広告を表示するサイトが持っているページランクに応じて値段を決めた。 ・ページランク9 交渉に応じて ところがその後、Googleがシステムをバージョンアップした際、なぜかサーチキングの持ってたサイトのページランクが、すべてゼロになってしまった。偶然の一致なのか、それとも何らかの意図が働いていたのかはわからない。Googleの検索エンジンのクオリティーが落ちている、という指摘をする専門家もいる。 いずれにせよ、ボブ・マサはすっかり怒り、昨年末にGoogleを損害賠償を求めて提訴した。しかしボブにとっては残念なことに、裁判所はページランクは「事実」(facts)ではなく、言論の自由を保障した米国憲法修正第1条で守られている「意見」(opinion)だとして、Google側の訴えを認めた。まだボブの戦争は終わらないけれど、Google側は重要な勝利を手にしたというわけだ。
(2003/3/25) [Reported by ジェフ・ルート&佐々木俊尚] |
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