■検索結果をリミックスする
米Yahoo!が、検索結果表示ページ(SERP)をリミックスするというサービスをはじめた。「リミックス」っていうのは検索エンジン業界では今まであまり使われてこなかった言葉だと思うけれど、アメリカでごく普通に使われているポピュラーな用語。日本でも音楽好きな人なら、常識的に知ってる言葉だと思う。音楽やビデオ、イメージ、テキストなどを個人の好みに合わせてカスタマイズするという意味だ。たとえば音楽でリミックスというと、DJが自分の好みに合わせてアレンジし直して新しいバージョンを作ってしまうことだ。
Yahoo!リサーチラボが最近スタートさせたそのリミックスサービスの名称は、Mindset。検索結果について、広告的な要素と情報収集的な要素のバランスをユーザーが選べるというものだ。Yahoo Search Blogには、こう書かれている。
「学習テクノロジーを使ったこの新しい仕掛けは、Yahoo!の検索結果について、どの程度まで広告の要素を盛り込むのか、それともどのぐらい情報収集的な要素を盛り込むのかを、ユーザーが選ぶことができる。」
「検索エンジンを使ってモノを買いたいときもあれば、情報を集めたいときもある。でも一般的な検索エンジンの検索結果では、モノを購入するためのサイトのデータと、情報収集に役立つようなサイトのデータはごちゃ混ぜに表示されていて、自分の求める情報がどこにあるのかを探すのは面倒だ。Mindsetを利用すれば、そうした課題を解決することができる。」
「コンピュータの学習能力を高めることで、検索結果ランキングの上位100位のURLについてテキストを分類してみた。そしてその分類結果を、ユーザーのセットした好みのバランスに応じてソートするんだ。Mindsetでは直感的なスライダーバーを使ったインターフェイスを採用していて、広告的なものと情報収集的なもののバランスを視覚的に設定することができる。」
日本語はもう通るんだろうか。試しにMindsetに、「東京ホテル」というキーフレーズを入力してみた。皆さんもやってみるとわかるけれど、日本語はきちんと通る。でももう少しよく見てみると、検索結果のクオリティはずいぶん低くて、今のところは使い物にはなりそうもない。たしかにスライダーバーが表示されていて、カンタンにスライダーを動かすこともできるんだけどね。ちなみに英語のキーフレーズを入れれば、もっときちんと動作することが確認できるはずだ。
SEOのサービスを依頼するとき、多くのクライアントは検索結果ランキングを気にする。当たり前だよね。SEOは検索結果のランキングを上位に上げる、ということを売り文句にビジネスを展開してきたわけだから。でもこのリミックスが流行するようになれば、ランキングは意味をなさなくなる。そうなると、これから本当に必要になる意味のある言葉は、「ランキング」ではなく、「トラフィック」ということになるだろう。ランキングを上げるのよりも、トラフィックを上げることの方が重要になるというわけだ。だってリミックスされれば、ランキングはユーザーによってランダムに変わってしまうし、ランキングを上位に押し上げるツールなんていうのも、意味をなくしてしまう。
検索結果のリミックスは、今後も増えていきそうな雲行きだ。そしてもちろん、広告的な検索結果からも、そして情報収集的な検索結果からも、両方からきちんとトラフィックを得られるようにするのが質の高いSEOだと言われるようになるんじゃないかな。
もっとも、Mindsetみたいにスライダーバーを使うのがいちばんいいインターフェイスかどうかは、議論が分かれるところだろうね。個人的に言えば、僕の理想とするインターフェイスは1ページに検索結果が100個ぐらいは表示され、マウスのホイールを使って上下にぐりぐり移動することができて、そしてリストのどれがショッピング向けでどれが情報収集向けなのかを自分で選択できるような感じのものだ。ついでに言えばその検索結果は、できればYahoo!とAsk Jeeves、Google、MSNなどで検索されたものがミックスして表示されればありがたい。もちろん、ダブリは取り除いて。
似たようなサービスでDogpileというのもあるけれど、検索結果は20しか表示されないし、日本語も通らないのが残念。
■URL
Mindset
http://mindset.research.yahoo.com/
Yahoo Search Blogの記事(英文)
http://www.ysearchblog.com/archives/000114.html
Dogpile
http://www.dogpile.com/
■地図をめぐる戦い
検索エンジン業界のライバル同士の競争は、さまざまな新製品や新サービスを生み出している。ほとんど毎週のようにいろんなリリースがあるような驚くべきペースだ。アメリカのCNETの記者であるStephanie Olsenは最近、地図サービスに関する各社のバトルについて興味深い記事を書いた。この記事はありがたいことに日本語訳されて、CNETの日本語版のサイトで読むことができる。彼女の記事は素晴らしいものばかりだから、もしほかにも見つけたら、ぜひ読むことをお勧めしたい。
アメリカでは最近、Google Mapsを使った興味深いアプリケーションがいくつも登場している。MyGmapsというのは、データをカスタマイズして保存し、Google Maps上で表示させることができるというサイト。またChicagCrime.Orgは、警察の犯罪レポートをGoogle Maps上のシカゴの地図に重ね合わせて表示できるというものだ。このサービスを使えば、隣人が本当に危険なヤツじゃないかどうかを確認できるというわけ。それからHousingMapsは、Craigslist.orgから得た不動産情報を、Google Maps上に表示できる。
マイクロソフトやYahoo!、A9もそのうち、地図のAPIを開発者に提供するようになるといいな。
■URL
CNETの記事
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000047715,20083811,00.htm
MyGmaps
http://mygmaps.com/mygmaps.cgi/
ChicagCrime.Org
http://www.chicagocrime.org/
HousingMaps
http://www.housingmaps.com/
■Googleのマーケティングスタイル
Googleは昨年IPO(新規株式公開)して以来、ブランドや製品、サービスのプロモートの方法を若干変えつつあるようだ。同社は最近、ネットじゃないオフラインの広告にも力を入れるようになってきていて、やっぱり上場した公開企業はそういう方向になるんだな、という感を強くしている。
おまけにGoogleは最近、Dan Senorという人物をグローバルコミュニケーション戦略の副社長として採用した。このSenorという人物は前はアメリカ政府に雇われていて、Center for Media and Democracyによれば、その前はカーライルグループにも勤務していた。カーライルというのはご存じの通り、アメリカの軍需産業と深い関係を持つ会社として知られている。ちなみにカーライルは、ブッシュ現大統領の父親のブッシュ元大統領の資産運用も行なってきたことでも有名だ。ちなみにホワイトハウスのサイトによれば、Senorはイラクの前体制が崩壊後、いち早く文民としてイラク入りし、PR担当としてブレマー行政官を補佐してきたという。
戦争に反対か賛成かは別にして、あるいはブッシュ大統領を支持しているかどうかも別にして、イラク戦争のPR戦略がアメリカにとってはかなり失敗だったことは否定できない。ブッシュ政権の行動のせいで、アメリカの評判は地に落ちてしまうという結果になった。だからGoogleという企業が、こうした人物を――しかもグローバルコミュニケーション戦略の副社長という待遇で雇ったというのは、驚くほかない。
Googleの会社の理念に、「悪事をはたらかなくても金は儲かる」というのがある。Senorのこれまでの勤務経験は、この理念にきちんと合致しているだろうか?
■URL
Center for Media and Democracy(英文)
http://www.sourcewatch.org/index.php?title=Dan_Senor
ホワイトハウスのサイトにあるDan Senor氏に関する記述(英文)
http://www.whitehouse.gov/government/senor-bio.html
■ODPをめぐる噂
何年も前、ODPというのはすごく光り輝く名前だった――オープン・ディレクトリ・プロジェクト。別の名前は、Dmoz.orgという。何しろGoogleが標準のディレクトリとしてODPを採用したし、ODPのディレクトリに掲載されれば、Googleのロボットに巡回される可能性が非常に高くなったからだ。
ところがここに来て、Dmozは更新があまりされなくなってしまった。各カテゴリーへの登録はもう何カ月も止まったままだし、カテゴリーによっては編集者不在のまま、何年も放置されているものさえある。早く登録させてあげるということで、金銭を受け取っている編集者さえいるという噂も聞いた。
えこひいきの問題もあるようだ。編集者はディレクトリの各カテゴリーにほとんど絶対の権限を持っている。全体を見る編集者もいるんだけど、時間がないため、全部はチェックしきれない。そのため、自分のいいようにかってにカテゴリーを改竄し、友人のサイトの優先順位を高くしたりするケースもあるようだ。自分のビジネスのクライアントになっているところのサイトをディレクトリの中で優遇している編集者もいるっていう話も聞いた。もっとひどい極端なケースでは、ディレクトリの記述部分から重要なキーフレーズを削除してしまったり、ひどいときには競争相手の会社をURLごとばっさりなくしてしまったという話もある。
そりゃみんなトラフィックを必死で奪い合っているのだから、有利になることならなんでもしようと思うのは当然だろう。自分のを良く見せて、他人のをけなしたいというのは当然だ。
ODPはボランティアで運営されている。いろんな人が参加している。だからODPを汚そうという人もいるだろう。逆に、ODPの計画に誇りを持って、価値のあるものを作っていこうと考えている人もたくさんいる。
数年前と比べて、ODPの影響力はどんどん減少してきている。業界ではドラスティックに何らかの変革が必要だと指摘する声が少なくない。あるいはODPの使命そのものを、考え直さなければならないのかもしれない。
■URL
Dmoz.org
http://www.dmoz.org/
(2005/06/07)
【著者プロフィール】 |
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・文=ジェフ・ルート(Jeff Root)
ECジャパン株式会社のSEOチーフスペシャリスト。日本には出たり入ったりで早や10年。メールアドレスは「jeff@ecjapan.jp」。日本語もOKなので、気軽にメールをくれると嬉しい。 |
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・翻訳=佐々木俊尚
元全国紙社会部記者。その後コンピュータ雑誌に移籍し、現在は独立してフリージャーナリスト。築42年の古い家で、犬と彼女と暮らす。ホームページはこちら。 |
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