キーワードで読み解く人工知能

第2回『自動運転技術』

日本で、アウディ「A8」が走行する日は来るだろうか

【キーワード】……自動運転技術
【関連ワード】……ディープラーニング、産業AI

 行き先を告げればハンドルを操作せずとも勝手に動き出す自動運転車は、未来の車の代名詞だろう。しかしこのテーマは新しいようで、実はかなり古い。

 1939年~40年にかけて開催されたニューヨーク万国博覧会でゼネラルモータース(GM)は、フューチュラマ(Futurama)と呼ばれたジオラマを展示した。中でも、電波でガイドされた自動車が前後との車間距離を保ちながら、電波の指示で自動的に目的地に向かうといった自動化高速道路は未来を先取りして話題となった。今から約80年も前の話だ。

 実際に自動運転の研究が始まったのは1950年代からで、交通事故対策が目的だった。以降、事故削減、渋滞緩和、産業競争力向上を目的に、中止と再開を繰り返しながら、21世紀にようやく研究から実用へと向かっている。しかし実際のところ、多くの人がイメージしているような、運転者がまったく操作せず、最初から最後まで何もしない自動運転車は公道を走る目処が立っていない

「自動運転技術」の定義

 自動車に搭載された人工知能が周囲の状況を認識して、安全に運転してくれるのが自動運転技術だ。ディープラーニングの登場により画像・動画認識の精度が格段に高まったため、車線に沿って運転し、適切な車間距離を保つだけでなく、ときには前を走る車を自動で追い越す。さらには目の前に何かが飛び出したら急ブレーキを作動させる動きは人間より早いと言われている。

 自動運転技術は、モビリティ(mobility)[*1]の専門家を会員とする米国のSAE Internationalという団体が細かく6段階まで定義している[図1]。上位のレベルに上がるほど、それより下のレベルは対応済と考えればよい。例えばSAEレベル3の車は、レベル0から車が動き出し、高速道路ではレベル3ではあるが、一般道路ではレベル2に切り替わるといった具合だ。

[図1]自動運転レベルの定義(J3016)の概要
出典:「官民ITS 構想・ロードマップ2017」より資料抜粋
(※ここでの「領域」は必ずしも地理的な領域に限らず、環境、交通状況、速度、時間的な条件などを含む)

 多くの人がイメージしている自動運転車は、最終形態のSAEレベル5に当たる。SAEレベル5の技術は、実は2018年3月時点で研究が成功したという発表はない。つまり自動運転車はまだSFの域を出ていないのだ。

[*1]……乗り物を用いた移動手段を指す。車もその手段の1つ。

現在、実現しつつある技術レベル

 市販されている自動運転車は、SAEレベル2以下に当たる。部分運転自動化であり、どれだけ運転をアシストしたとしても事故が起きれば責任は運転者にある。今はまだ、私たちが乗れるのは「ちょっと自動運転車」に過ぎないわけだ。しかし世界各国で自動運転技術の研究・開発は進んでいて、確実に近い未来にSAEレベル4に対応した車は市販されるだろう。

 日本では車のタイプを自家用車、物流サービス(トラックなど)、移動サービス(タクシー、バスなど)に分けて議論を進めている。

 自家用車の場合、2020年を目処に一般道路をSAEレベル3が走行、2025年を目処に高速道路をSAEレベル4が走行と期待されている。物流・移動サービスでは、限定地域や高速道路に限って2022年~25年を目処にSAEレベル4が走行と期待されている。

 政府は2030年までに交通事故死者数が人口比で世界一少ない社会を目指すとしている。車が走る凶器だった20世紀は終わろうとしている。

これからの社会の対応

 私たちが「日本」の公道を自動運転車で走行できるか、実は未定だ。なぜなら、法整備、インフラ整備、保険という大きな3つの壁がある

 一番分厚い壁は法律かもしれない。道路交通法により、自動車は運転者の制御下にある必要がある。世界で初めてSAEレベル3に対応した新型アウディ「A8」も、ドイツ議会が道路交通法を17年5月に改正して自動運転が可能になったからドイツ国内の公道を走れるが、それ以外の国では基本的には走行を許されていない。つまり法律を改正しない限り、SAEレベル3以上の技術を備えた自動車は永遠に「研究」のままだ。

 インフラ整備も追いついていない。例えば自動で車線変更しようにも、白破線が雪など何らかの影響で見づらい場合、正常に稼動しない可能性がある。さらに自動運転には高精度地図やセンサーなど、車両以外の投資が欠かせないが、誰が費用負担するのか決まっていないし、総額でいくらになるのかも計算できていない。また、自動運転車が事故を起こした場合の自賠責保険も、現行では対応しきれていない。2018年1月に国交省の有識者による研究会で、システムの欠陥による事故は自動車メーカーに損害賠償できるなどの大枠が決まったが、走行中の車のスピードやハンドル操作などを記録できる装置の整備が欠かせない。

 ちなみに、2018年中に販売されるSAEレベル3に対応した新型アウディ「A8」は、そのほかの車、例えばレベル2とは何が違うのだろうか。大きな違いは責任の所在にある。もしSAEレベル3の状態で事故が起きた場合、アウディは「責任はアウディが負います。これは一般的な製造者責任と同じ」と明言した。

 日本で、アウディ「A8」が走行する日は来るだろうか。

[編集部注]……アウディ「A8」はレベル3の機能を搭載しているが、レベル3の自動運転はドイツを含めて世界的にまだ認められていない。ドイツでは、実用化に向けて法的整備が進められている。(2018年9月27日時点)

POINT:社会が自動運転技術に追いつくのは、これから

自動運転を可能とする人工知能はすでに開発され、研究段階では人が触らずとも運転してくれる車も開発されている。しかし実用には至っていないし、公道も走っていない。今までの自動車を縛るルールでは自動運転車が対応できないからだ。人工知能の進歩に社会が追いついていない良い例だ。これから先、社会が技術の進歩を止めてしまう例はどんどん増えるだろう。

※この連載記事は、書籍「キーワードで読み解く人工知能 『AIの遺電子』から見える未来の世界」の内容の一部を転載したものです。

キーワードで読み解く人工知能『AIの遺電子』から見える未来の世界

著者:松尾公也・松本健太郎(共著)
定価:1500円(税別)
発行日:2018年6月29日
ISBN:978-4-8443-6751-2
仕様:A5判・160ページ
発行:株式会社エムディエヌコーポレーション
発売:株式会社インプレス

漫画家・山田胡瓜(やまだきゅうり)氏の人気作品『AI(アイ)の遺電子』(少年チャンピオン・コミックス)、『AIの遺電子 RED QUEEN』(別冊少年チャンピオン)のキャラクターやストーリーとともに、AI(人工知能やAIのビジネス活用について楽しみながら学べる“エンタメ系ビジネス書”。「シンギュラリティ」「産業AI」などの基本的な言葉から、「AIに自我はあるのか?」「AIと恋に落ちるか」といった話題まで、AI研究や関連テクノロジーの現状を踏まえながらキーワードごとに解説している。

松本 健太郎(まつもと・けんたろう)

株式会社デコム R&D部門 マネージャー
龍谷大学法学部政治学科、多摩大学大学院経営情報学研究科卒。株式会社デコムで、インサイトリサーチとデータサイエンスを用いて、ビッグデータからは見えない「人間を見に行く」業務に従事。野球、政治、経済、文化など多様なデータをデジタル化し、分析・予測することが得意。テレビやラジオ、雑誌に登場している。近著に『グラフをつくる前に読む本』(技術評論社)、『誤解だらけの人工知能』(光文社新書)、『AIは人間の仕事を奪うのか?』(シーアンドアール研究所)。