キーワードで読み解く人工知能

第3回『AIに奪われる仕事』

AIに奪われない仕事とは(人間にしかできない仕事は何?)

【キーワード】……AIに奪われる仕事
【関連ワード】……雇用の未来、ロボット

 人工知能は、私たち人間の仕事をすべて奪うだろうか?

 確かに『AIの遺電子』[*1]の世界では、ヒューマノイド(AI)がラーメンを作り、産業用ロボットがウェイターや介護士として活躍している。それは私たち人間が生み出し、人間にしかできない仕事のはずだ。

ラーメン屋の大将もヒューマノイド(『AIの遺電子』第1巻第1話「バックアップ」より)

 2013年、オックスフォード大学のオズボーン准教授とフレイ博士が発表した「雇用の未来」という論文で「このまま人工知能が進化すれば自動化される可能性が70%を超える仕事は47%」と発表して世界に激震を走らせた。なくなる可能性が高い仕事が約半分にも迫るということは、街中にかつてない数の失業者が溢れることを意味する。

 これまでSFの世界で活躍してきた人工知能が初めて現実の世界に顔を覗かせ、かつ私たちの日常を壊しかねない存在として表れたために、多くの人が人工知能に対して悲観的になったのも無理はない。

 では、最新の研究結果ではどうなっているだろうか。

[*1]……山田胡瓜作の人気コミック。人間とヒューマノイドが共に暮らす近未来社会を舞台に、人工知能専門の医師である主人公・須堂が、ロボットやヒューマノイドが抱えるさまざまな問題を「治療」していくSF医療物語。『AIの遺電子』は全8巻(少年チャンピオン・コミックス)でいったん完結し、続編となる『AIの遺電子 RED QUEEN』が「別冊少年チャンピオン」で連載中。

最新の調査結果で否定される「雇用の未来」論文

 オズボーン准教授の論文をきっかけに、人工知能のような高度テクノロジーが雇用に与える影響の分析が世界的なブームになった。その結果はほとんどがあきらかになっている。

 まず、中短期的に見て人工知能によって50%近い職業がなくなるということはない、と研究の結果からわかってきている。「雇用の未来」では、仕事にかかる新しい技術が登場すると、その仕事自体がなくなると見ている。例えば、レベル5の自動運転技術(第2回『日本で、アウディ「A8」が走行する日は来るだろうか』参照)が試験段階で誕生したとしても、すべての運転手が失業すると見積もっているようなものだ。

 しかし実際のところ、仕事とは細かいタスクの集合体だ。1つのタスクが自動化されたとしても、そればかりが仕事ではない。仕事がなくなるというのは早急な結論だ。OECDの研究所が発表したレポートはそうした前提に立って、タスクにまで仕事を分解した上で、改めて自動化可能性の分析を行っている。その結果、国によってマチマチだが、自動化される可能性はおよそ6%~12%だと見積もった。「雇用の未来」とは大きく異なる結論だが、むしろこちらの方が正確だと見られている。つまり自動化によって仕事に大きな変化が起こるが、約半数が失業するほどの劇的な変化ほどではない

どんな仕事がこの先に残るのか?

 では、私たち人間は人工知能によって仕事が奪われる可能性を、SFの世界の話だと笑い飛ばしてよいだろうか。残念ながら違う。必要なスキルが中程度の仕事は自動化されてなくなり、高スキルと低スキルの二極しか残らないと言われている。

 ちなみに、ここで言う高中低スキルとは仕事に求められる難易度や、直ぐに仕事を覚えられるかなどを意味しており、仕事そのものにランクをつける意味では決してない。

 なくなる仕事の代表例がホワイトカラー系のルーティン業務だ。タスクの繰り返しは、ロジックに基づくプログラム化が容易で、それだけに自動化されやすい。コールセンター、株のトレーダー、事務作業の定例処理、あるいはレントゲンの検査結果から症状を発見するまで、その範囲は幅広い。資格の有無は関係なく、ルーティン業務であればほぼ自動化の対象になると考えられている

 一方で、対話や接客のようなコミュニケーションが必要な業務は、自動化されにくいと言われている。コミュニケーションはルーティンにしようがないからだ[図1]

[図1]人工知能によって増える業務・減る業務

 低スキルの業務は、個人だけでやっているサービスや肉体労働、単純作業が引き続き残るし、雇用は増えると考えられている。これらの作業は自動化されても、人の手が加わらなければ完結しないものが多いからだ。ビルの建築や屋内の清掃など、機械が進歩しても需要に応じて雇用は増えていく。ただし、この先にすべての業務を自動化するテクノロジーが誕生しないとも言えない。その瞬間、多くの低スキル業務に就く従業員は失業の危機にさらされる。

 高スキルの業務は、非ルーティンでマニュアル化が難しく、かつ高次な知識を求められる仕事が引き続き残る。人工知能を使って代替しようがないのだ。ただし、人工知能による自動化は低スキルより高スキルの方が着手しやすい。ロボットなどによる身体的特徴の再現はまだまだ先だ。したがって、肉体労働の代替より高スキルの自動化の方が再現できる。

 これから先、中スキルをもつ人々はどうすればいいのか。仕事自体が自動化されてしまうので人手が不要になるのは間違いない。したがって、高スキルか低スキルいずれかの職業へ転職せざるを得ない。実際、OECDの研究所が発表したレポート[*2]でも、高スキルへの転職が相次ぐのではないかと予想されている。

 高スキルとなると、新たにスキルや知識を学ぶ必要がある。そこで安倍内閣では「人生100年時代」と銘打って生涯学習・リカレント教育を政策に落とし込もうとしている。もはや高校や大学を卒業すれば勉強しなくていい、という時代は終わったのだ。

POINT:人間にしかできない仕事は何?

世界は知識を必要とする高スキルと、肉体を必要とする低スキルに二分されていく。いずれにしろ非ルーティン業務においては人工知能が弱い。上司の言う通りに仕事をしていたら「違うだろ! お前はロボットか!」と怒られた経験ないだろうか? あれは「お前を人工知能に代替してやろうか!」という意味と同じだ。今のところは、状況に応じて考えて仕事をする、0から1を生み出す、それが人工知能にはできなくて人間にできる仕事だろう。

※この連載記事は、書籍「キーワードで読み解く人工知能 『AIの遺電子』から見える未来の世界」の内容の一部を転載したものです。

キーワードで読み解く人工知能『AIの遺電子』から見える未来の世界

著者:松尾公也・松本健太郎(共著)
定価:1500円(税別)
発行日:2018年6月29日
ISBN:978-4-8443-6751-2
仕様:A5判・160ページ
発行:株式会社エムディエヌコーポレーション
発売:株式会社インプレス

漫画家・山田胡瓜(やまだきゅうり)氏の人気作品『AI(アイ)の遺電子』(少年チャンピオン・コミックス)、『AIの遺電子 RED QUEEN』(別冊少年チャンピオン)のキャラクターやストーリーとともに、AI(人工知能やAIのビジネス活用について楽しみながら学べる“エンタメ系ビジネス書”。「シンギュラリティ」「産業AI」などの基本的な言葉から、「AIに自我はあるのか?」「AIと恋に落ちるか」といった話題まで、AI研究や関連テクノロジーの現状を踏まえながらキーワードごとに解説している。

松本 健太郎(まつもと・けんたろう)

株式会社デコム R&D部門 マネージャー
龍谷大学法学部政治学科、多摩大学大学院経営情報学研究科卒。株式会社デコムで、インサイトリサーチとデータサイエンスを用いて、ビッグデータからは見えない「人間を見に行く」業務に従事。野球、政治、経済、文化など多様なデータをデジタル化し、分析・予測することが得意。テレビやラジオ、雑誌に登場している。近著に『グラフをつくる前に読む本』(技術評論社)、『誤解だらけの人工知能』(光文社新書)、『AIは人間の仕事を奪うのか?』(シーアンドアール研究所)。