被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー
それってネット詐欺ですよ!
10億2500万円くれるというのでチャットサービスに3000万円支払った件
2020年6月26日 06:00
ネット詐欺に騙されて、金銭的な被害が発生した場合、法律家に相談して被害回復を依頼することになります。弁護士法人大地総合法律事務所の佐久間大地さんのところにも、ネット詐欺の被害に遭った方が日々、相談に来ています。
進行中の案件の1つですが、3000万円もの被害に遭ったケースでは、現段階で8割に当たる2400万円の被害回復が決まっており、さらに全額を取り戻すための取り組みを進めているそうです。
今回は、ネット詐欺の現場で何が起きているのかを佐久間さんに伺いました。被害者をこれ以上増やさないために、とある方のケースを紹介します。
ある日、Aさんの元に「あなたは、10億2500万円の当選者として選ばれた」というメールが届きました。しかし、メッセージは途中までしか見られません。チャットサービスを利用し、やり取りをしようと誘われるのです。
このチャットサービスは有料で、1通送受信するごとに300~500円がかかります。大した料金ではないので、Aさんは兎にも角にもアカウントを登録し、メッセージの続きを見ることにします。
そのメッセージの実物を見たのですが、ものすごく練りに練られた文章でした。以下のように、疑っているAさんの疑問点を解消すべく、先回りして回答するような中身になっていたのです。
1.高額支援金を受け取ることは合法
2.チャットの送受信にかかるポイントは還元する
3.還元を受けられる番号はXXXXX
4.金融機関の依頼を受けているので手数料はかからない
信じてしまったAさんは、指示に従うことにします。なにせ、まだ数百円しかかかっていないうえ、お金を求められているわけではないので、気軽に始めてしまいます。
まず指示されたのは、振込口座番号などの個人情報を登録することです。その後は、いろいろな作業を指示されます。例えば、ランダムな暗号のような文字列を入力させるのです。もし合っていても、間違っていると言って、延々と作業させ、課金がかさんでいきます。
「証拠保全のためにメッセージを全て見るのですが、相当な量です。また、無意味なやり取りも、たくさんさせられていました。それで送受信料がかさんでいくのです。」(佐久間さん)
支払い方法は電子マネーでした。コンビニで売っているカードを買ってきてコードを打ち込むと、チャットサービスが利用できるようになるのです。Aさんは次から次へと電子マネーを購入し、連絡を続けました。ちりも積もれば高くなり、合計で2500万円になりました。ポイントは全額還元されるというのを信じたのです。
Aさんは、そんな中、別のメールに気が付きました。ある女性が、交通事故で大けがを負って入院しているので、「話し相手が欲しい」といった内容でした。
お金をくれとも、あげるとも言っていません。しかし、上記の高額当選詐欺と同じように、別のチャットサイトに誘導されました。
10億2500万円が手数料もなしで入金される予定があると思っているAさんは、彼女に同情し、話し相手になってあげました。こちらもメッセージのやり取りごとに課金が発生します。
しばらく会話をしていると、こちらの課金も500万円になりました。合計で3000万円ですが、高額の当選金が入金される様子もありません。ここで、Aさんは弁護士に相談することにしました。
佐久間さんは送金先を調べるために電子マネーの発行会社に通知書を送りました。すると、ある決済代行会社にたどり着いたため、連絡・交渉したそうです。送金先を調べたところ、相談時に聞いた2つのウェブサイトだけでなく、10種類ほどのチャットサービスの名前が出てきました。全て海外で運営されているサービスです。
佐久間さんは、この決済代行会社を通して海外のサービスと交渉を重ねます。
「相手のサービスが6割しか返したくないと言ってきても、ネット詐欺だから、と突き返します。何回か交渉すると8割くらいは返ってきます。訴訟しない任意交渉で8割の回収はありがたいところです。しかし、私は8割でも和解したくないのです。他にも被害に遭われている方がいるので、簡単に7~8割で手打ちをしていたら、相手にもそう思われてしまいます。そのため全額を取り戻そうと努力します。ただ、全て被害者に連絡しているのですが、金額よりもスピードを求める方もいます。その場合は交渉を中断して和解することもあります。」(佐久間さん)
今回のケースでは、すでに3000万円の被害のうち2400万の回収は決まっているそうです。佐久間弁護士はあくまでも、和解の割合を上げるのが基本方針だそうです。
高額当選詐欺は、人の心の隙を突いてきます。怪しいと思う疑問点は先回りしてつぶしてくるので、信用してしまいがちです。この手のネット詐欺が存在することを把握しておけば、水際で防止することができます。
ある程度資産があり、優しく、時間のある高齢者の方ですと、さらにリスクが高まります。ぜひ、ご両親や知人のご高齢者の方にこの情報を共有し、今後の被害を回避してください。
あなたの両親も“ネット詐欺”の餌食になっているかもしれません――その最新の手口を広く知ってもらうことで高齢者のデジタルリテラシー向上を図り、ネット詐欺被害の撲滅を目指しましょう。この連載では、「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」に寄せられた情報をもとに、ネット詐欺の被害事例を紹介。対処方法なども解説していきます。
「被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー」の注目記事
- みちょぱ、団長安田、ゴリけん…タレントが相次いで詐欺被害を告白、その手口とは
- チェーンメールで有名だった「神の手雲」が15年ぶりにLINEで回ってきた
- マイナポイント第2弾に便乗、「獲得したポイント2万円分が失効する」という詐欺メールが拡散中
- 注文した覚えはないのに? Amazonから代引き商品が送りつけられる詐欺に注意
- キャッシュカード&暗証番号を渡さなくても口座のお金が盗まれることも。自称「警察」から口座開設を求められたら要注意
- 「電話料金の未納があります」、フィリピンからNTTファイナンスをかたる怪しい国際電話がかかってきた
- Facebookで明石家さんまさん、大坂なおみさんなど著名人の写真を悪用したネット詐欺が横行中
- URLが本物そっくりな詐欺サイトに注意! 「ホモグラフ攻撃」などの手法を知っておこう
- ノブコブ吉村さんも遭遇、「PCのカメラからシャッター音! 何か撮影された!?」と驚かせる手口とは?
- SMSで不在通知が届いてもURLはクリック禁止! 偽宅配詐欺に要注意
- そのほかの詐欺事例など、この連載の記事一覧はこちら
高齢者のデジタルリテラシー向上を支援するNPO法人です。媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行っています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「dlisjapan@gmail.com」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。