被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー
それってネット詐欺ですよ!
Tinderで出会った美女姉妹にオンラインカジノに誘われ1000万円を溶かした件
2020年6月19日 06:00
ネット詐欺に騙されて、金銭的な被害が発生した場合、法律家に相談して被害回復を依頼することになります。
弁護士法人大地総合法律事務所の佐久間大地さんのところにも、日々ネット詐欺の被害に遭った方が相談に来ています。今回は、ネット詐欺の現場で何が起きているのかを伺ってきました。
進行中の案件の1つですが、被害回復が難しそうな状況になっています。世の中に、広く警告を発するために、取材に協力してくれました。
ネット詐欺に遭った方を仮にAさんと呼びます。Aさんは、2019年夏、女性との出会いを求めて、出会い系アプリの「Tinder」に登録しました。課金をすると出会えるチャンスのあるサービスで、数百万人が利用しています。そこでAさんは、ジェリーという女性のアカウントと知り合いました。やり取りは英語でしたが、Aさんも得意なので問題ありません。
相手からは「Do you want win money with me? After we win go out and celebrate the night.」というメッセージが届きました。
日本語訳にすると「私と一緒に勝って儲けて、祝杯を挙げましょう」という意味でしょうか。完全に男性を勘違いさせるようなニュアンスもあります。そして、LINEアカウントを教え合って、直接連絡を取るようになります。
「勝つ」は、オンラインカジノでの勝負に、という意味でした。LINEでオンラインカジノのURLが送られてきて、「5000円入金して、2万円勝ったら祝いましょう」というのです。早速、クレジットカードで決済して入金しました。
そのオンラインカジノでは、ビンゴやルーレット、スロット、カード、スポーツ賭博などのメニューが用意されていました。LINEで連絡を取り合いながら、一緒に賭けるのです。
しかし負けてしまいした。すると、Aさんは次の日に1万円、その次は5万円、その次は10万円と負け続けていきました。一度も勝てないまま、1カ月間で結構な額を負け続けたところで、ビットコインで送金するように言われます。そして、40万円相当の0.4ビットコインを送金します。大きな勝負をして、その時は1000円勝ちました。
ジェリーはそこで「もっと大きく勝つために、統計のプロフェッショナルのお姉ちゃんを紹介する」と言ってきました。姉のナンシーの言うことを聞けば、もっと勝てると紹介されるのです。AさんはナンシーともLINEで繋がり、連絡を取り合うようになります。
すると、大きな大会に参加しようと誘われました。エントリー費用が500万円かかるものの、勝てば大金が手に入るというのです。さすがに、Aさんは500万円はないと断りました。すると、その参加費をオンラインで稼ごうと言われ、10万円を何回も振り込み、ギャンブルして、負け続けました。
ナンシーにアドバイスを受け、Aさんは150万円をビットコインで送金。それでもダメだったので、逆転を狙って300万円のビットコインを送りました。しかし、それでも負けてしまいます。
お姉さんを紹介されて、信じているのに勝てないので、ジェリーに相談しました。すると「他のサイトもあるよ」と別のオンラインカジノのビッグゲームを紹介してきました。しかし、貯金もビットコインももうありません。
すると、ジェリーから消費者金融から借りるように指示がありました。夢を追い、指示に従って200万円を借りてしまったのです。
それでも500万円には足りませんが、なんとナンシーが残りの300万円を持つというのです。仲間意識が高まります。そして、500万円のエントリー費用がかかる大会に参加し、また負けました。
そして、もう1回チャレンジしようと言われます。次、負けたら負けた分は私が保証するとナンシーが誘ってきました。しかし、Aさんはふと気が付きました。
この数カ月で、莫大な金額を振り込んだのに、全く勝てず、もちろんジェリーにもナンシーにも会うことができません。全て、LINEとオンラインカジノでの繋がりのみです。訝しんだAさんは、法律家に相談することに決めました。もちろん、これら一連の全てはネット詐欺です。
佐久間さんはクレジットカード会社や決済代行会社と交渉を重ね、そこで被害に遭った300万円は全額返金に成功します。これは凄いことなのですが、ビットコインで送金した700万円に問題が発生しました。
Aさんが利用している仮想通貨取引所に送金先の情報を尋ねても教えてくれません。ビットコインは、その特性上、強い匿名性を持っています。送金履歴はたどれるのですが、そのウォレットを持っているのが誰なのかを特定できていないのです。
大地総合法律事務所では、新たに仮想通貨に詳しい人を雇用したそうですが、被害回復できるかどうかは分からないとのことです。ビットコインはその高い匿名性から犯罪に使われることが多いのですが、まさにその典型的な事例と言えます。
1万5000円の勝ちで女性と会うという話が、1000万円以上を失った上、会えなかったという結末になりました。第三者として顛末を聞けば、自分は騙されないと思うかもしれませんが、本当にネット詐欺を仕掛ける側は心理の隙を突くのが上手です。
今回はジェリーとナンシーはオンラインカジノを悪用してAさんからお金を巻き上げましたが、そもそも日本では賭博は禁止されています。2016年には、海外のカジノサイトでお金を賭けたということで京都府警が3人逮捕しています。個人とはいえ、気軽に賭けるのはリスクがあると考えた方が良いでしょう。
ネット詐欺でビットコインを送金してしまうと、被害回復ができない可能性が高いということも、肝に銘じておきましょう。デジタルリテラシーがないまま、暗号通貨を適当に運用すると、大きな金銭的被害が起きかねません。欲望に目がくらんでつけ込まれないように、きちんとしたデジタルリテラシーを身に付けましょう。
あなたの両親も“ネット詐欺”の餌食になっているかもしれません――その最新の手口を広く知ってもらうことで高齢者のデジタルリテラシー向上を図り、ネット詐欺被害の撲滅を目指しましょう。この連載では、「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」に寄せられた情報をもとに、ネット詐欺の被害事例を紹介。対処方法なども解説していきます。
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NPO法人DLIS(デジタルリテラシー向上機構)
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