被害事例に学ぶ、高齢者のためのデジタルリテラシー

高齢者のネット詐欺被害を撲滅しよう!

1000万円儲かると断言する情報商材に100万円払ってしまった

 本連載では、ネット詐欺の被害に遭わないように、デジタルリテラシー向上のための情報を紹介していますが、金銭的な被害が発生した場合は弁護士に相談するケースが多くなります。実際に、どんな事例があり、どのように対処しているのでしょうか。今回は、ネットトラブルの相談を多く手がけている大地総合法律事務所の佐久間大地弁護士にお話を伺ってきました。

東京都港区浜松町に事務所を置く佐久間大地弁護士

 実際にネットでのトラブルとして持ち込まれる案件としては情報商材詐欺が多いそうです。情報商材とは、何らかの情報を動画や文章と言ったコンテンツとして販売されているものです。多くは、お金を稼いだり、異性にモテたりするハウツー系ですが、もちろん、情報商材自体は詐欺ではありません。実際に役立つ情報を提供している人もいます。ただし、中には欲望を刺激することで、大金をせしめる手合いもいるようです。

 よくある典型的な事例を伺ったところ、情報商材詐欺のパターンを教えていただきました。

 ある日、70代の男性のところに、メールマガジンが届きます。大量にばらまかれている迷惑メールではなく、オプトを取っているメールマガジンです。オプトを取る、とはメールマガジンなどを送付する許可を与えた、という意味。男性はどこかの情報サイトにメールアドレスを登録したのでしょう。

 メールの内容はオンラインカジノの利権に関する情報商材を紹介するもので、「今日から50日間で、確実に1000万円を手に入れる方法を教えます」と書いてありました。記載されているURLを開いたら、ブラウザーでランディングページが開きます。

 ばしっとスーツを着た男性の写真が現れ、メールの文面と同じ煽り文句が記載されています。「〇人が〇億円稼いだ」と書いてあり、必ず稼げるとアピールしていたそうです。

 ランディングページの最後に、LINEの友達として追加するように促されます。以前はメールを段階的に送信する手口だったのですが、最近はLINEが主流になっているそうです。LINEの友達に追加すると、すぐにメッセージが来ます。

 「50日後に1000万円を獲得できる理由」として、動画へのリンクが張られていました。動画には、オンラインカジノの利権を購入することで儲かったという人のインタビューや、大金が入った通帳といった儲けた証拠などが映っています。さらに、動画は守秘義務などの理由で転載を禁止していたそうです。動画を公開したり、第三者に相談させないようにしているのです。

 さらにメッセージが来て、今度は「もっとあなたを個人的にコンサルしたい」と言ってきます。その流れで、個人情報を明かしていくと、そのうち「動画をご覧になりましたか?」と電話が来るようになります。

 LINEや電話でのやりとりの中で、商材販売業者はどのくらいお金を支払えるのかを判断します。その上で、なんとか支払える絶妙なラインを提示してくるといいます。そして、決済のURLがLINEで送られてきて、カード決済させます。今回のケースでは100万円を支払いました。

 50日後に1000万円になると言われているので、その間はじっと待ちます。クレジットカードの引き落としも終わっています。50日後には何の連絡もありませんが、信じて待つこと半年、さすがにおかしいと思い、商材販売業者に連絡したところ、つながりません。そこで、佐久間弁護士に相談に来たのです。

 「詐欺だと確信して、連絡してくるのは半分。残りは、詐欺かもしれないといった半信半疑の状態で相談に来られます。客観的に見て明らかに商材販売業者の販売誘因方法が不自然なのですが、相談に来られる方は『このまま待っていれば儲かりますよね?』という期待をしている感覚です。ヒアリングすると、確実に儲かるという文言を使って買わせているので、消費者契約法に反しています。そのため、そもそもそのオンラインカジノ利権を得るという商材購入契約は取り消すことができるのです。」(佐久間弁護士)

 そこで、佐久間弁護士は書面で業者に対して契約を取り消す旨の連絡を行ったところ、今回は返信があったそう。「だましていたつもりはないが、返金には応じる。しかし、オンライン利権の動画を見せて、稼ぎ方を教えたつもりなので、満額は無理」という内容です。

 満額返金にこだわっていると業者と連絡が取れなくなることがあり、そうなると被害者のデメリットにもなってしまいます。そのため、5~6割で手を打つこともあるそうです。今回、業者側は5割と主張してきましたが、佐久間弁護士は9割と提案し、和解に持ち込むことができました。

 最後に、佐久間弁護士から、ネット詐欺に遭わないためのアドバイスをいただきました。

 「お金を要求されたら、あり得ないと思ったほうがいいし、家族や友人に相談したほうがよいでしょう。業者と連絡が取れなくなったり、会話があいまいに終始したり、言われていたお金が得られなかったりした場合、消費者センターもしくは法律事務所に相談することをお勧めします。」(佐久間弁護士)

 本連載でも繰り返しているとおり、あり得ないほど美味しい話などあり得ない、と肝に銘じておくべき。加えて、家庭内で気軽にこの手の内容を相談できる空気を醸成しておくことが大切です。通常のネット詐欺と異なり、人間が直接ターゲットを狙って動く場合は被害金額が大きくなりがちです。デジタルリテラシーを向上させ、怪しい話を嗅ぎつけられるスキルを身に付けましょう。君子危うきに近寄らず、です。

あなたの両親も“ネット詐欺”の餌食になっているかもしれません――その最新の手口を広く知ってもらうことで高齢者のデジタルリテラシー向上を図り、ネット詐欺被害の撲滅を目指しましょう。この連載では、「DLIS(デジタルリテラシー向上機構)」に寄せられた情報をもとに、ネット詐欺の被害事例を紹介。対処方法なども解説していきます。

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NPO法人DLIS(デジタルリテラシー向上機構)

高齢者のデジタルリテラシー向上を支援するNPO法人です。媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行っています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「dlisjapan@gmail.com」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。