ゲームでWi-Fi 6!

ゲーミングWi-Fiルーターでゲーム環境をパワーアップ! 第1回

ゲーミングWi-Fiルーターって何なの?

 ゲームをプレーするために設計された製品を、「ゲーミング○○」と呼ぶ。ゲーミングPCやゲーミングマウスはよく知られているが、モニターやサウンド環境も大事だし、机や椅子などの家具、ゲーム配信用のマイクなどもある。

 最近はゲームプレー環境を完備した賃貸物件まで登場しており、「ゲーミング○○」が衣食住にも入り込む状況だが、今回のテーマは、ネットワーク機器であるWi-Fiルーター。

 PCや家庭用ゲーム機、スマートフォンなど、ゲームを動かすあらゆる製品がインターネットに接続する今、「ゲーミング○○」の名を冠した「ゲーミングWi-Fiルーター」も当然存在する。

 では、ゲーミングWi-Fiルーターとは一体何なのだろうか? 普通のWi-Fiルーターとどこが違うのか。「ゲーミング○○」と言えば、LED装飾でピカピカと派手に光るもの……というイメージを持つ人も多いようで、「ただ光るだけじゃないの?」なんていう声も聞かれる。

 そのイメージも間違いとは言わないのだが、「ただ光るだけ」というわけでもない。ゲーミングWi-Fiルーターの持つ特徴や長所について、様々な角度から解説していきたい。

ASUSのゲーミングWi-Fiルーター「TUF-AX3000」

 今回は、具体的な説明としてASUS製のゲーミングWi-Fiルーター「TUF-AX3000」を例にしていく。

“高性能”でこそゲーミングWi-Fiルーター

 ゲーミング向けとされる製品の多くは、一般の製品に比べて高性能であることが多い。例えばゲーミングPCなら、CPUやビデオカードに高性能な部品を使用し、ゲームをサクサクと動かしてくれる。

 ゲーミングWi-Fiルーターにおいても、性能の高さは重要になる。Wi-FiルーターにはCPUやメモリが搭載されており、小さくとも立派なコンピューターだ。大量の通信を素早くさばくには、相応の性能が求められる。ファイアウォールやポートマッピングなど、Wi-Fiルーターの機能を利用すればするほど、必要な処理は増えていくことになる。

ASUSのホームページに掲載されているTUF-AX3000のスペックの一部。かなり詳細な内容までが書かれている

 ASUSの製品を見ると、搭載されているCPUやメモリの量といったスペックの詳細が示されている。TUF-AX3000なら、CPUはトリプルコアのBroadcom 6750 1.5GHz、メインメモリは512MBといった具合だ。ゲーミングWi-Fiルーターは、高いスペックを持ったものが多い。

 どの程度のスペックがあればいいかは利用環境によるので一概には言えないが、スペックが公開されていることで製品選びの目安にできる。ゲーミングWi-Fiルーターの中には、かなり高価な製品もあるが、スペックを見ればある程度は納得できるだろう。

“多機能”でこそゲーミングWi-Fiルーター

 ゲーミングWi-Fiルーターと一般向けの製品で最も異なるのが、機能の多さ。中でも欠かせないのが、ゲームでの通信を優先する機能だ。

 Wi-Fiルーターには有線・無線問わず、さまざまな機器からの通信が集まる。もし通信量がインターネット回線の限界を超えれば、残された通信は順番待ちに入る。

 それがファイルのダウンロードやウェブブラウジングなら、少し時間がかかる程度のことで済むが、オンラインゲームで1秒も遅れようものなら、目の前にいたはずの相手がいなくなっているくらいの大事だ。

 そこで、ゲーミングWi-Fiルーターは、ゲームの通信を識別し、優先的に送りだす仕組みを持っている。ちなみにTUF-AX3000であれば、通信種別に応じて優先順位を付ける「Adaptive QoS」や、Wi-Fi接続機器からの通信を優先させる「モバイルゲームブースト」、特定の有線LANポートに接続した機器の通信を優先する「ゲーミングポート」といった機能が用意されているので、通信機器が多数ある環境でのゲームプレーにも安心感が持てる。

TUF-AX3000の有線LANポートのうち、右端の1つが「ゲーミングLANポート」となっている

 ほかにも、ゲームタイトルに合わせてポート開放の設定を選べる機能や、接続端末ごとにVPN接続先を指定する機能、セキュリティ機能やペアレンタルロック機能なども搭載している。これらはゲーマーに限った機能ではないが、「他人にIPアドレスを教える」、「子どものゲームや通信機器の利用に制限を持たせたい」など、ゲームにまつわる問題の解決につながるものだ。

通信種別を自動で見分けて優先順位を付ける「Adaptive QoS」
TUF-AX3000が持つ強力なVPN機能「VPNフュージョン」

 設定の際に使うユーザーインターフェイスも充実している。細かな設定項目があるのに加え、現在の動作状況も細やかに確認できる。もし「ネットワークの調子が悪いな」と感じたときには、設定画面でCPUやメモリの使用状況を見れば、ルーターで何か起こっていないかを確認できる。

 TUF-AX3000について言えば、設定を掘っても掘ってもいくらでも項目が出てくるという状態で、レビューなどでかなり使い込んだにもかかわらず、その全てを網羅できたとは言いがたい。筆者のような理系思考のこだわり派ゲーマーでも、カスタマイズ項目がこれだけあれば文句はない。

設定画面からCPUやメモリの使用状況を確認できる
そのほかの設定項目も極めて多彩で、自在にカスタマイズができる

“高耐久性・安定性”でこそゲーミングWi-Fiルーター

 ゲーミング向けの製品では最も重要ながら注目されにくいものが、耐久性や安定性だ。

 いくら性能が高くても、ゲームのプレー中に動作が不安定になったり、フリーズしてしまったりするのでは困る。特にゲーミング向けの製品は高性能な分、高価なものが多く、すぐに故障してしまってはたまらない。

 Wi-Fiルーターの処理能力が高くなれば、それに伴って消費電力や発熱も大きくなるため、適切な排熱処理を施さないと動作が不安定になってしまう。また、有線LANの端子は意外と壊れやすく、ケーブルの抜き差しで接点不良を起こすことがある。ゲーミングWi-Fiルーターでは、こういった部分での耐久性への配慮がなされているものも多い。

 TUF-AX3000では、湿度、入出力、高負荷、電磁ノイズに関する試験が実施されているという。外から見える部分では、有線LAN端子周辺に金属製プレートが採用されていたり、底面スリットの奥に金属製の放熱板が見えたりと、耐久性や安定性に関わる部分を手厚く対応しているのが分かる。

 こういった部分はスペックには表われず、外から見ても違いが分かりづらい。しかし、ゲーミング向け製品においては極めて重要な要素なので、製品選びの際には特に注目していただきたい。

TUF-AX3000のウェブページでは、耐久性の高さもうたわれている

ゲーミングWi-Fiルーターならデザインも

 まず、ゲーマーであれば、何より優先したいのは回線の安定性だろう。スマートフォンでゲームをプレーする際には、通信状態を少しでもよくしておきたい。

 そのためにはWi-Fiルーターとスマートフォンの距離が近く、間に遮るものがない方がいい。つまりWi-Fiルーターの設置に最適な場所は、ユーザーからとても目に付く場所なのである。

 そうなると、外見も多少は気にしたいもの。色や大きさ、形状、縦置きか平置きかなども購入前に確認しておかないと、Wi-Fiルーターだけ部屋と調和が取れず浮いた感じになってしまうかもしれない。

 そうなると、冒頭で述べた「ただ光るだけじゃないの?」という話とも関係するが、ゲーミングWi-Fiルーターの外見は、LED装飾を含めて重要なポイントになるわけだ。

TUF-AX5400では、ロゴにLEDが仕込まれている。元のデザインもユニークだ

 ASUS製のゲーミングWi-Fiルーターでも同様だが、LED装飾の有無は好みが分かれるところだろう。TUF-AX3000が装備しているのは各種のインジケーター類だけで、装飾用のLEDは非搭載なため、少なくとも「ゲーミングWi-Fiルーターだから光る」というわけではないが、例えば上位機種の「TUF-AX5400」はロゴ部分がLED装飾となっていて、色のカスタマイズも可能だ。

IPv6 IPoE対応は?

 ゲーミングWi-Fiルーターの話をすると必ず、「Wi-Fiルーターよりも元のインターネット回線の品質の方が大事」という声が聞かれる。

 ここまでに解説してきたとおり、ゲーミングWi-Fiルーターにはさまざまなメリットがある。とはいえ、ゲーミングWi-Fiルーターがインターネット回線の品質の悪さを改善してくれるわけではない。それはゲーミングであろうがなかろうが同じことだ。

 ただし、できることがないわけでもない。ポイントとなるのは、IPv6 IPoE接続だ。

 NTT東西が提供する光ファイバーインターネットサービス「フレッツ光」などでは、従来のPPPoE接続に代わるIPv6 IPoE接続サービスが提供されている。PPPoE接続では混雑する夜間帯を中心に通信速度が落ちやすいが、IPv6 IPoE接続に切り替えると、これが劇的に改善する、という声が多い。

 例えばTUF-AX3000は、IPv6 IPoE接続サービスの1つである「v6プラス」に対応している。IPv6 IPoE接続を利用するには、このサービスを提供しているISP(インターネットサービスプロバイダー)と契約し、IPv6 IPoE接続対応のWi-Fiルーターを使えばいい。

 対応ルーターはゲーミング製品とは限らないが、快適な通信環境を求めるゲーマーにとって、特に注目すべきポイントと言える。

 つまり、v6プラス対応のISPと契約していてTUF-AX3000を使っていれば、オプション契約(ISPによっては無料の場合もある)によってIPv6 IPoEでの接続が可能になるわけだ。

「フレッツ光」を使うゲーマーには必須になってきたIPv6 IPoE接続。TUF-AX3000は「v6プラス」に対応している

 なおフレッツ光ではないインターネットサービスを利用している場合は接続方法が異なるため、Wi-Fiルーター選びにおいて、IPv6 IPoE接続サービスへの対応を考慮する必要はない。

 とはいえフレッツ光の市場シェアは極めて大きいので、対象ユーザーはかなりの割合になるだろう。現状のインターネット回線の速度に不満があるなら、ISPとの契約を確認してみるといいだろう。

通信速度だけで決めればいいわけではない

 Wi-Fiルーターの性能と言うと、真っ先に通信速度が挙げられ、それ以外の要素は無視されやすい。通信速度だけで並べて比較されると、ゲーミングWi-Fiルーターはどうしても一般向けの製品より高価になるため、なかなか選ばれにくい。

 ゲーミングWi-Fiルーターの価値は通信速度の規格ではなく、処理能力や機能、耐久性といった、ほかの部分にある。そういった部分に目を向けていただき、価値と価格に納得した上で製品を選んでみよう……と思っていただけたなら、本稿の目的は完遂だ。ぜひこの先も興味を持って、ゲーミングWi-Fiルーターを見ていただきたい。

(協力:ASUS JAPAN株式会社)

石田 賀津男

ゲームなどのエンターテイメントと、PC・ネットワークなどのIT系の両方にまたがる分野を得意とするフリージャーナリスト。元GAME Watch記者で、2012年に独立。2016年より男児の育児にも奮闘中。個人ウェブサイト「ougi.net(https://ougi.net/)」