清水理史の「イニシャルB」

超弩級のiMac Proはコピーも一瞬! 3GBが約3秒! 標準搭載となった10GbEの実力を試す

 Appleから新型の「iMac Pro」が登場した。構成によっては18コアの「Xeon W」も選択可能ということで話題になっているが、搭載されるLANポートが標準で10GBASE-Tに対応しているなど、ネットワーク面で注目の製品となっている。10Gb Ethernet(10GbE)を中心に、その実力を試してみた。

無線は据え置きながら、有線LANの速度を一気に強化

 プロフェッショナル向けのワークステーション、という位置付けながら、いよいよPCに標準搭載のネットワークも10Gbpsの時代に突入した。

 今回、Appleから借用した試用機は、最小構成となる8コアXeon W搭載モデルだが、ネットワーク関連のスペックはすべての構成で共通しており、IEEE 802.11acの無線LANに加え、背面に10GbEに対応する10GBASE-T有線LANポートを搭載している。

iMac Pro 27"(Late 2017)。Xeon W(3.2GHz、8コア)、32GBメモリ、1TB SSD、Radeon Pro Vega 56搭載モデル
背面のLANポートが10GbE対応の10GBASE-Tとなっている

 無線LANに関しては、IEEE 802.11ac準拠ということ以外、詳細なスペックが公表されていないが、試しに最大1733Mbps対応のアクセスポイントに接続してみたところ、システム情報でのリンク速度には1300Mbpsと表示されたため、おそらく3ストリーム対応であると予想される。

 筐体サイズが大きいので、4ストリーム対応の1733Mbps対応にしてもよさそうなものだが、同社が販売するアクセスポイント「AirMac Extreme」も3ストリームで1300Mbpsまでの対応となっているため、これに合わせたのだろう。

 無線LANに関しては、今後、IEEE 802.11axのような、より高速な規格の登場も予定されているだけに、今の段階では様子見というところと言えるだろうか。

 一方、有線LANに関しては、かなり踏み込んだという印象だ。10GBASE-Tの標準対応によって、通信速度は従来の最大1Gbpsから最大10Gbpsへと大幅に高められている。

 ここ数カ月、光ファイバーによるインターネット接続サービスの10Gbps化が話題になっているが、NASなどのストレージについても10Gbpsへの対応が進んでおり、こうした環境への対応が容易になる。

 Macの場合、Thunderbolt接続のストレージを使うという選択肢もあるため、必ずしもLANポートの高速化に頼る必要はないのだが、Windowsマシンを含めたマルチPC環境で高速なネットワークストレージを共有したり、10Gbps対応の高速なインターネット接続環境などを汎用的に利用できることを考えると、やはり標準で10GBASE-Tに対応するメリットは大きい。

 なお、Mac用には、Thunderbolt接続の10GBASE-Tアダプターも存在するが、3~4万円前後と、まだまだ価格が高い。コストの面を考えても、標準搭載されているメリットは大きいと言えるだろう。

LANチップにはAquantina AQC107を搭載

 無線LAN同様、あまり詳細なスペックが公開されていないため、一部推測となる部分もあるが、iMac Proにおける10GbEの詳細に迫ってみよう。

 まずは、搭載されているチップだが、システム情報の「Ethernetカード」の項目を見ると「Apple AQC107-AFW」と表示されるので、ほぼ間違いなくAquantinaの「AQC107」チップを搭載していると考えられる。

 Aquantinaは、2004年に設立された比較的新しいネットワークベンダーだ。データセンター向け製品からスタートした企業となるため、コンシューマー市場ではあまり知名度は高くないが、10GBASE-Tを含むマルチギガ(NBASE-T対応)製品での採用例もあり、本コラムで以前に取り上げたASUS「XG-C100C」にも採用されている。

 マルチギガは、利用する伝送媒体によって複数の速度に対応する規格だ。伝送距離や環境にも左右されるが、一般的には1Gbpsのネットワークでも多用されているCAT 5eケーブルであれば2.5Gbps、CAT 6ケーブルなら5Gbps、CAT 6Aケーブルなら10Gbpsでの通信が可能となる。このため、iMac Proで10Gbpsの通信をするには、基本的にCAT 6Aケーブルの利用が推奨される。

LANポートが10GBASE-Tに対応
搭載されるLANチップは「AQC107-AFW」

もう1Gbpsには戻れない

 それでは、実際に10GbEの実力をテストしてみよう。

 今回、テストに利用したのはSynologyのNAS「DS1517+」(メモリ16GB)だ。本体の拡張スロットにIntel X540-T2を装着し、10GBASE-Tでの通信に対応させている。搭載されるHDDはWestern DigitalのWD Red 3TB×5で、RAID 6を構成している。CAT 6Aケーブルを利用し、iMac ProをこのNASに直結し、以下の速度を測定している。

 なお、実環境での利用を想定し、ネットギアジャパンの10GBASE-T対応4ポートアンマネージドスイッチ「XS505M-100AJS」経由でも接続してみたが、ジャンボフレームを「9000」に設定した場合を含め、問題なく通信できることを確認している。テストに関しては、ほかの機器の影響をなるべく受けないようにするために、あえてスイッチを経由せず直結で実施している。

なお、ジャンボフレームの設定は手動で行う必要がある

 まずは、「BackMagic Disk Speed Test」を利用した検証だ。10GBASE-Tの環境では、ジャンボフレームなし(標準1500)の状態で読み書きともに400~450MB/s前後となったが、ジャンボフレームを「9000」に設定すると、読み込み速度は900MB/sにまで跳ね上がった。

 一方、書き込みではそこまで速度が向上しなかった。NAS側の影響だと考えられるが、それでもコンスタントに400MB/s前後でアクセスできるため、かなり高速な印象だ。

10Gbps接続時の結果。左がジャンボフレーム9000、右は1500(標準設定)

 ちなみに、NAS本体のギガビット(1000BASE-T)ポートにLANを直結した場合には、ネットワークのほぼ上限となる110MB/s前後で頭打ちとなり、ジャンボフレームの有無でも、あまり差が現れなかった。

1Gbps接続時の結果。左がジャンボフレーム9000、右は1500(標準設定)

 続いて、実環境を想定し、NASに対して3.2GBのビデオファイルと、551枚の写真、合計1.43GBが保存されたフォルダーを転送してみた。

 3.2GBのビデオファイルに関しては、ジャンボフレームの有無であまり差は見られなかったが、1Gbpsとの差は歴然で、1Gpbsでは30秒近く待たなければ完了しなかったファイルコピーを3秒台で完了させることができた。

 前述したようにRAID 6構成のHDDへの書き込みとなるため、NASの書き込み速度に関してはそこまで速くなく、時間としては1/3ほど。それでも10秒なら、「ちょっとの間」で済むため、待たされている感じはあまりない。

 本製品のようなクリエイター向けのPCの場合、数ギガクラスのファイルを扱うことは決して珍しくない。こうしたファイルをNASなどの外部ストレージから、短時間で転送できるメリットは非常に大きいだろう。

3.2GB映像ファイルコピーテスト
10Gbps(9K)10Gbps(1500)1Gbps(1500)
NAS→Mac3.663.9630.65
Mac→NAS9.829.8931.7

 一方、大量のファイル転送では、数値上は、そこまでの差は現れず、1Gbpsで15秒ほど掛かったNASからiMac Proへのファイルコピーが3秒ほどで完了した。

1.43GB(551枚)写真ファイルコピーテスト
10Gbps(9K)10Gbps(1500)1Gbps(1500)
NAS→Mac3.323.2215.71
Mac→NAS8.5312.8321.85

 しかしながら、このテストで印象的だったのは、ダイアログが表示される間もなく、ファイル転送が完了したことだ。

 1Gbpsの際は、NASの共有フォルダーから写真が含まれたフォルダーをデスクトップにドラッグすると、コピー処理の実行後、しばらくして進ちょくを示すバーが表示されるのだが、10Gbpsのテストの際は、このダイアログが表示される前に転送が完了してしまうため、ダイアログの出番がないのだ。

 大容量ファイルの転送も非常に快適で、ストレスをまったく感じさせないのは、さすが10GbEといったところだろう。

1Gbps(左)ではダイアログが表示されるが、10Gbpsはそんな間もなく終了してしまう

 なお、iMac Proに「Final Cut Pro X」の試用版をインストールし、NASに保存された4K動画(3840×2160ピクセル、H.265/HEVC、29.97fps)を扱ってみたが、メディアの取り込み時にファイルをライブラリへコピーせず、そのまま扱う設定にしても、ローカルにコピーした場合との違いは、正直分からなかった。

 これは、10Gbpsが速いという意味ではない。1Gbpsの環境では、最初の読み込み後にサムネイルが表示されるまでは若干時間が掛かるようにも思えたが、いったんデータを読み込んでしまえば、その後に再生位置を変更して映像が更新されるまでの時間を比べてみても、大きな差は感じられなかった。

 さらに、カットなどの簡単な編集作業でも、大差がないように思えた。もっとサイズの大きな動画を扱ったり、高度な編集をしたりすれば違いが感じられるのかもしれないが、アプリ側で動画をうまくキャッシュするなどの工夫がなされているのではないだろうか。

 逆に言えば、ネットワーク内のデータを普通に扱える、と言うこともできるが、申し訳ないが、筆者はFinal Cut Pro Xの動作に不案内なため、この辺りの違いがいまひとつ判断できなかった。識者の報告を待ちたいところだ。

 ただ、ファイルのコピーが速いことは間違いないので、編集作業はローカルで実施するにしても、その前に編集したいデータをローカルにコピーしたり、編集後にデータをNASに転送するといったシーンが快適になることは間違いない。

CPUより恩恵は大きいかも

 以上、10GbEを搭載したiMac Proを実際にテストしてみた。NASやスイッチなどの環境を整える必要はあるものの、やはり10Gbpsの威力は絶大という印象だ。

 CPU性能などは、使い方によって威力が発揮できるシーンが限られるが、ネットワーク通信は、現状、あらゆるシーンで必要になる。この速度が大幅に底上げされるメリットは、とてつもなく大きい。体感的には、CPU性能などよりも高速化のメリットを感じられるシーンが多いのではないだろうか。

 あらゆる面で超弩級のスペックを持つiMac Proだが、10Gbps対応も見逃せないポイントと言えそうだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。