インタビュー

Wi-Fiルーター選びの最適解は「価格」か「速度」か? 1万円超えの製品は何がすごい? TP-Linkに聞いてみた

旧規格のレンタルWi-Fiルーターには追加導入が吉!?

 PCはもちろん、スマートフォンやタブレット、携帯ゲーム機、テレビ、録画機器、さらにはスマートスピーカーをはじめとするIoT機器など、一般家庭で利用するWi-Fi機器は年々増える一方だ。これらをインターネットに接続するのが“Wi-Fiルーター”であり、インターネット接続の快適さを左右する重要な機器だと言える。

 しかし巷には、さまざまなWi-Fiルーターが販売されており、価格も手頃なものは4000円以下から、5万円を超える高価なものまである。そんな中から、何を基準に製品を選べばよいのか、悩む方も多いだろう。今回は、利用するインターネット回線や人数、接続する端末の台数やネットワーク環境、電波の到達範囲といったさまざまな利用シーンやユーザーのニーズに応じた製品の選び方について、ネットワーク機器ベンダーであるティーピーリンクジャパン(TP-Link)のプロダクトマネージャー張超凡(チョウチョウボン)氏に聞いた。

4000円以下から5万円超えの製品まで、豊富なWi-Fiルーターのラインアップから、最適な製品を選ぶ上で大切なのは?

環境に合ったWi-Fiルーターを選んで快適なネットワークを構築しよう

――まず、お伺いしたいのは、日本では、ISPからWi-Fiルーターをレンタルすることが多い点です。こうした環境でWi-Fiルーターを別に導入することにメリットはあるのでしょうか?

 契約した時期が昔であれば、対応しているWi-Fiの規格が古いことがあります。また、回線を新規に契約しても、比較的古い規格の安価なルーターを貸し出されてしまうこともあります。こうした場合は、Wi-Fiルーターを購入すれば、レンタル料を払う必要がなくなります。

 弊社の製品を見ても分かる通り、何本ものアンテナが立っています。これにより、レンタルされるWi-Fiルーターと比べて、部屋のすみずみまで速度が落ちにくいWi-Fi環境を体験できるはずです。さらに、最新の規格に対応したルーターを導入すれば、より快適なWi-Fiの環境が得られます。

 また、ハイエンド製品が中心になりますが、ルーターのセキュリティ機能である「TP-Link HomeCare」は、子どものいる家庭はもちろん、QoS機能によって上級者の方にも、より安全で快適なネットワークを提供できると思います。

TP-Link プロダクトマネージャーの張超凡(チョウ チョウボン)氏

1万円までの製品選びでは、インターネット回線の速度や自宅機器のWi-Fiと有線LANの比率が重要

――TP-LinkのWi-Fiルーター製品には、10を超えるラインアップがありますが、今回は製品を購入する際のポイントを教えていただけますか。

3000円台の低価格で11ac対応が魅力のモデル「Archer C50」

 まず、手頃な価格のメインストリームモデルから、特徴的な製品をピックアップしていきましょう。「Archer C50」は、価格を抑えたエントリーモデルで、初めてWi-Fiルーターを購入する方に最適です。3000円台の低価格モデルですが、通信速度が最大300Mbpsの2.4GHz帯に加え、5GHz帯で最大867MbpsのIEEE 802.11acにも対応しています。有線LANはWANを1ポート、LANを4ポート装備していますが、通信速度はそれぞれ100Mbpsまでとなっています。

IEEE 802.11acに対応する低価格モデル「Archer C50」。背面には最大100Mbpsの100BASE-TXに対応する有線LANポート×4を装備

――有線LANが100Mbpsでも問題はないのでしょうか。

 インターネット接続サービスは、まだ100Mbps程度が主流なので、WAN側については問題ないでしょう。一方、LAN側は確かに遅いです。ただ、デスクトップPCでこそ、1000BASE-T(1000Mbps)に対応した有線LANが主流ですが、ノートPCでWi-Fi接続するのであれば、867Mbpsで接続できるので大丈夫でしょう。さらに言えば、スマートフォンやタブレットを中心に活用する環境なら、そこまでのスペックはなくても、快適に利用できるはずです。

5000円前後で1000BASE-T対応の有線LANを備える「Archer C1200」

 1000BASE-T対応の有線LANが必要ならば、「Archer C1200」以上のモデルをオススメします。Archer C1200なら、デスクトップPCはもちろん、徐々に拡大している1000Mbpsのインターネット接続サービスにも対応できます。

――なるほど、デスクトップPCのように1000BASE-T LANに対応した機器での利用が中心ならば、一つ上の1000Mbps対応Wi-Fiルーターを選べばいいというわけですね。

 その通りです。また、さらに上位のモデルにも見劣りしない機能も、Archer C1200の魅力です。例えば「OpenVPN」への対応や、USB 2.0ポートの搭載が挙げられます。USBポートに外付けHDDなどを接続すれば、簡易NAS(ファイル共有)としても利用できます。

実売価格5000円台の「Archer C1200」。いずれも1000BASE-T対応のWANポート×1、LANポート×4と、USB 2.0ポート×1を背面に装備

高性能なBroadcom製チップ搭載、1万円でUSB 3.0も装備の「Archer C9」

 続いて、現在メインストリームで最も人気のモデルが「Archer C9」です。Archer C50も同様ですが、全体的に見てホワイトのモデルに人気が集まる傾向にあります。そしてArcher C9では、縦置きおよび壁掛けに対応していて、設置スペースが小さいことでも人気です。

 Wi-Fi機能は、2.4GHz帯が600Mbps、5GHz帯が1300Mbpsと、Archer C50やC1200から強化されています。5GHz帯で干渉が生じにくい「DFS機能」も搭載しており、5GHz帯を利用する機器が多いという家庭向けにもオススメできます。

 有線LANは、それぞれ1000BASE-Tに対応するWAN×1ポート、LAN×4ポートで、Archer C1200と同じですが、USBは2ポートになっていて、うち1ポートがUSB 3.0に対応しています。例えば高速なUSB 3.0には外付けHDDを接続して快適な簡易NASとして、遅いUSB 2.0にはプリンターを接続してネットワーク経由で利用するといった活用方法が可能です。

実売価格1万円強の「Archer C9」。1000BASE-T対応のWANポート×1、LANポート×4に加え、2つのUSBポートのうち1つはUSB 3.0に対応する

――Archer C1200に対してWi-Fiが高速化されている上、USBポートなどの機能が追加されているのですね。

 このように通信速度や機能面を充実させられるのは、搭載しているチップセットの違いもあります。例えばArcher C50ではMediatek製、Archer C1200ではBroadcom製、Archer C9ではBroadcom製のデュアルコアチップを搭載しています。これは同時接続台数の違いにも結び付いています。Archer C50は4人家族で1人3台のWi-Fi機器を想定した12台、Archer C1200は24台ですが、Archer C9は36台を推奨しています。上位のモデルであればWi-Fi接続機器の台数に余裕があり、今後、家庭にIoT機器などが増えていった場合にも対応できます。

通信速度や充実したセキュリティ、最新機器を使いこなすならハイエンドモデル

――ここまではメインストリームモデルを中心にお話を聞いてきましたが、これまででも十分にユーザーのニーズをカバーできるように思えます。その上に位置するハイエンドモデルでは、さらにどのような使い方が可能になるのでしょうか。

 ハイエンドモデルでは、何よりWi-Fiの通信速度が重視されます。日本国内のメーカーがラインアップしていないような高速なモデルを、できるだけ速やかにリリースすることを心掛けていて、その上で、各バンド(周波数帯)での最大速度を狙っています。

2.4GHz帯1000Mbps/5GHz帯2167Mbps、約1万8千円の「Archer C3150」

 「Archer C3150」と「Archer C5400」の最大通信速度は、それぞれ2.4GHz帯が1000Mbps、5GHz帯が2167Mbpsです。この2製品は、メインストリームモデルが対応しないMU-MIMOにも対応していて、最大4ユーザーへの同時通信ができるため、Wi-Fiに接続するユーザーや機器が多い環境で特に効果を発揮します。さらにArcher C5400は、2.4GHz帯の1バンドと5GHz帯が2バンドのトライバンドに対応しています。

 Archer C3150とArcher C5400には有線LAN側にも特徴があり、リンクアグリゲーション(LAG)に対応しています。対応するスマートスイッチやNASなどとの間を、2本のLANケーブルで接続すれば、2000Mbpsで接続することが可能です。PCの共有フォルダーやNASなどに、複数のユーザーから同時にアクセスするような場合には、LAGの太いパイプが混雑の解消に役立ちます。

――上位モデルは多機能であるとともに、無線・有線ともに、より快適なネットワークが得られるわけですね。

実売価格1万8000円前後の「Archer C3150」。推奨同時接続台数は48台

トライバンド対応で約2万7000円の「Archer C5400」

――Archer C5400のトライバンドは、どのようなシーンでメリットとなるのでしょうか。

 国内で利用できる5GHz帯には、屋内用の「W52/W53」と屋外用の「W56」がありますが、例えば、「Google Nexus 7(2013)」のような少し古い機器の一部や、「Fire TV」「Echo Dot」などのAmazon製のデバイスは、5GHz帯でWi-Fiへ接続する際に「W52」を指定するものがあります。

 このように1バンドしか利用できない機器をWi-Fiルーターに接続する場合は、DFS機能を用いると通信チャンネルが変わって接続できなくなることがあるため、W52に固定するしかありません。トライバンドのArcher C5400なら、1バンドをW52に、もう1バンドはDFSを利用するような使い方が可能になります。こうした海外メーカー製の機器を積極的に使いこなしている方には、トライバンドのArcher C5400をオススメします。

Google Nexus 7(2013)(左)とFire TV/Fire TV Stick(右)
実売価格2万7000円前後の「Archer C5400」LAN端子はLAGに対応する

トレンドマイクロの技術を採用したセキュリティ機能「TP-Link HomeCare」

――ところで「TP-Link HomeCare」とは、どのような機能でしょうか。

 TP-Link HomeCareは、トレンドマイクロとの協業によるセキュリティ機能です。ウイルス対策機能はもちろん、セキュリティ専業ベンダーのデータベースによって、高精度なペアレンタルコントロールや侵入防止、ノウハウを活かして通信品質を向上させるQoS機能が利用できます。例えば動画の通信では帯域を優先させるなどの処理が行えます。

 Deco M5の発売とともに提供を開始し、現在ではArcher C5400ですでに利用できます。Archer C3150では、今後数週間をめどに提供予定のファームウェアアップデートで対応する予定で、製品サイトなどでも対応状況を告知します。

 ファームウェアアップデートでは、ほかにも今後、IFTTTへの対応を計画しています。Alexaスキルにも対応予定で、例えばAlexaから「ゲームを優先して」と言うとQoS機能をオンにできたり、LEDの消灯やゲストモードの開放といった機能を音声でコントロールするようなことを想定しています。

――なるほど最新のトレンドに対応していくのも上位モデルならでは、といったところでしょうか。

 それだけではありません。上位モデルでは、家庭向けだけでなく、SOHOや中小企業、店舗などで利用いただける機能を提供しています。例えば、来社された方やお店の顧客がWi-Fiアクセスポイントに接続するときに、ウェブブラウザーにパスワード入力画面を表示するようなこともできますし、店舗であればその際の画面の背景を変えたり、店舗のウェブページへリダイレクトすることもできるので、プロモーションへの活用も可能です。

 一般的に、こうした機能を備えるのは業務向けのネットワーク機器ですが、ルーターとアクセスポイントが別の機器になっていて管理が面倒だったり、高価だったりします。Archer C5400などを導入すれば、コストを抑えることができるでしょう。

3台セットで2万8000円、すみずみまでWi-Fiの電波が届く「Deco M5」

――最後に、いち早くHomeCareに対応していたホームWi-Fiシステム「Deco M5」について教えてください。3台セットで、家庭のすみずみまでWi-Fiの電波をカバーするコンセプトの製品ですが、同様のコンセプトでは、これまでにもWi-Fi中継機がありました。そうした製品とはどこが異なるのでしょうか。

 Decoは“メッシュネットワーク”と呼ばれる機能を提供する製品です。一般的なWi-Fi中継器は、親機と中継器で別々のSSIDを用いるために、接続する機器の側でSSIDを指定しないと期待した速度が得られないようなことが起こります。しかしDecoでは、1つのSSIDにつなぐだけで接続先を自動で切り替え、家中どこでも快適な速度で通信できます。

 Wi-Fi中継器では親機から子機と繋いでいく間に、通信速度が低下することがありますが、Decoではこうした点も解消されます。また、例えば途中の1台にトラブルが生じたような場合、自動的にほかの機器を探し、ネットワーク経路を再構成する機能もあります。

――Wi-Fi機器との接続は従来と同様でしょうか。

 DecoはIEEE 802.11acに対応していて、2.4GHz帯は400Mbps、5GHz帯は867Mbpsでの通信が可能で、MU-MIMOにも対応します。有線LANポートも装備していて、「TP-Link ART(アダプティブ ルーティング テクノロジー)」によって、各Decoの位置に応じて、Wi-Fiの2.4GHz帯・5GHz帯と有線LANのうち、最適なルートを自動で選んで接続します。

ホームWi-Fiシステム「Deco M5」は、実売価格2万8000円前後の3台セットと、同1万1000円の1台セットを販売

 ただし、Wi-FiルーターがWi-Fiや有線のネットワークを通じてセットアップや管理を行うのに対し、DecoはBluetoothでAndroidやiOSなどのスマートフォンに接続して初期セットアップを行います。HomeCareにも対応するので、管理面やセキュリティ機能に魅力を感じるのであれば、1台でもこちらをオススメできます。

――Decoのメッシュネットワークが活躍するのは、どのようなシーンでしょうか?

 日本家屋のように木造の建物では、一般的なWi-Fiルーターでも電波強度の強いものであれば電波が届きます。ただし、例えば鉄筋コンクリートのマンションなどでは、特に5GHz帯を利用しようとしたときに電波が遮られ、玄関先に監視カメラなどを設置しようとした場合など、なかなか難しいことがあります。

 そうした環境では、Decoが有力な選択肢となります。場所を選ばず設置できることに加え、最大10台まで増設していけば、すみずみまでWi-Fiの電波を行き渡らせることが可能です。

――通信速度がWi-Fiルーターと比べると遅いように思いますが、接続台数などはいかがでしょうか。

 Decoは1台あたり20台、台数を増やせば最大64台程度までカバーできます。Wi-Fiに接続する側の機器でも、実際のところは867Mbpsまでにしか対応しないものが多いので、その点からも十分であると思います。Wi-Fi機器が中心で、3LDKなど広めの鉄筋家屋といった場合には、1台のWi-FiルーターよりもDecoのほうが、すみずみまで電波をカバーできる場合が多いでしょう。

(協力:ティーピーリンクジャパン株式会社)