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コロナ禍が落ち着きを見せる中で記者会見も変化、「リアルだけ」の会見が増えて全体の2割に
【2022年度版 オンライン会見の手引き】
2022年6月27日 16:45
コロナ禍が3年目に突入した。
だが、状況はこれまでと大きく変化している。2022年のゴールデンウイークは、3年ぶりに行動制限がなくなったこともあり、かつての日常を取り戻したかのように、多くの人が旅行や観光を楽しむ様子が見られた。
そして、ゴールデンウイーク後のオフィス街には、多くのビジネスマンが戻り、通勤電車も混雑している。ワクチン接種の広がりなどもあって重症化するリスクが減り、しっかりと感染対策を行いながら過ごす日々も定着してきた。
本誌では、2020年2月~4月にかけての3回の連載と、2021年6月に2回の連載を通じて、IT・エレクトロニクス業界における記者会見の変化をレポートしてきた。いずれも、企業広報やPR会社の担当者向けの内容とし、オンライン会見が中心となるなかで、各社の対応の様子や、参加する記者の立場からの要望などもまとめた。
正直なところ、今年は、これに続く記事を書くことはないかと思っていたのだが、リアル会場だけでの会見開催が増えたり、ハイブリッド会見が増加したりといった動きがあり、企業広報やPR会社の人たちとのやりとりのなかでも、「リアル会場での会見を開催したら、来てもらえますか」といった提案や、「他社はそろそろリアル会場だけで会見をはじめていますか」といった問い合わせが急に増えてきた。そこで、最近の会見事情を「2022年度版 オンライン会見の手引き」としてまとめてみた。
2022年に入っても会見数はコロナ前の1.2倍をキープ
手元にある各社の通知をもとに、2022年5月に行われたIT・エレクトロニクス業界における会見数を集計してみると、合計で98件の記者会見やイベント取材があった。
2021年5月の集計では110件の通知があったのに比べると1割ほど会見数は減っている。だが、これを1日平均にしてみると依然として多いことが分かる。
2022年のゴールデンウイークは、10連休を取りやすい日程となっており、ゴールデンウイーク中の5月2日(月)および6日(金)の平日は記者会見が設定されることはなかった。だが、実はこの間も、日本のゴールデンウイークが関係ない海外IT企業の年次イベントが現地で開催され、ゴールデンウイーク中も基調講演の取材にオンラインで参加することはあった。
そこで、それを除いた96件の会見を、5月9日(月)以降の土日を除いた17日間の稼働日に当てはめてみると、1日平均で5.6件の会見があったことが分かった。同様の条件として集計した2021年5月の6.1件に比べると減少しているが、2020年5月の4.2件、コロナ前の2019年5月の4.7件に比べても多い。
会見数はコロナ前の1.2倍という水準をキープしていることが分かる。オンライン会見は開催しやすいという状況が、コロナ禍でも会見数が増加している結果につながっているのは間違いない。
オンラインで参加できる会見が約8割、オフラインのみの会見も増えつつある
2022年5月の集計で注目したいのは、新たにハイブリッド会見が増加していることと、リアル会場だけでのオフライン会見がかなりの勢いで復活していることだ。
振り返ってみると、いまから1年前の2021年5月には、会場開催だけのオフライン会見や、オンラインとオフラインを組み合わせたハイブリッド会見は1件もなかった。2021年5月は、3回目の緊急事態宣言が発令されている期間であり、それによって、オンラインだけで会見が開催されていたのがその理由だ。
だが、2021年夏以降、リアルの現場での取材や、ハイブリッドでの記者会見が徐々に増加。今回、集計してみた2022年5月には、数多くのオフライン会見やハイブリッド会見が行われている。集計結果によると、98件のうち、オンラインだけで会見が行われたのは44件。それに対して、オフラインだけで開催された会見は21件もあった。残りの33件がハイブリッド会見だった。
ハイブリッド会見を含めて、オンラインで参加できる会見という観点で集計すると、8割近くの77件となる。自宅からでも、8割の会見に参加できるという状況だ。反対に、リアルの会見に参加したいと思ったら、ハイブリッド会見を含めて54件がリアル会場で開催されており、全体の5割以上に参加することができるというわけだ。
製品や施設を体験する場としてのオフライン会見が増加
リアル会場だけのオフライン会見が約2割に達するという結果に、驚いた広報関係者は多いかもしれない。実は、筆者も集計してみて、意外に多いと感じた。
では、リアル会場で行われている会見にはどんなものがあるのだろうか。
21件の内訳を見てみると、9件がハードウェアの製品発表だった。直接、製品を見せたいという広報側の意図があったといえる。
現場で音質を確認してもらいたいオーディオ製品、実際に装着することで音楽を聴くことができる眼鏡型デバイスなどの会見が、リアル会場だけで行われていた。
それに次いで多かったのが、新たな施設を公開するといった内容の会見だ。5月はこうした会見が8件も行われた。これも実際に現地で記者に体験してもらうことが重要な内容だといえる。
パナソニックコネクトでは、東京・汐留にリニューアルオープンしたカスタマーエクスペリエンスセンター(CXC)を公開する会見をリアルだけで開催。セイコーエプソンは長野県諏訪市の本社に開設した「エプソンミュージアム諏訪」のオープンニングにあわせた会見を、同じくリアルだけで開催した例などがあげられる。
5月は、こうした施設を公開するといった内容のリアル会見が多かった印象は強い。ただ、6月に入ってからも、新たな施設を公開するために、リアルの会場だけで会見を実施する例が続いている。
6月以降、オフィスへの出社制限を解除する外資系IT企業が増加していることも、施設を公開するリアル会見の増加につながっているようだ。コロナ禍の約2年間で、本社を移転したり、オフィスを大規模にリニューアルしたりした企業は意外にも多い。
IT系では、デル・テクノロジーズ、日本HP、SAPジャパン、コンカー、セールスフォース・ジャパンなどが本社を移転。日本マイクロソフトは、2022年6月に、品川本社を11年ぶりにリニューアルしたところだ。
筆者のもとにも、「新たなオフィスに取材に来て欲しい」という声を多くもらっており、これが、リアル取材の機会が増加する背景にもなっている。
感染対策ルールに則って開催されるオフライン会見
リアル会場での会見の場合、人数制限を行った上での開催が前提となっている。コロナ禍前は、事前に申し込みをしていなくても、会場に入ることができたが、いまでは「フィジカルディスタンスを十分に確保するため、事前の申し込みなしでのご来場はご遠慮ください」といった内容が書かれているのがほとんどだ。
また、「原則1媒体1人まで」、「会見の受付時に検温を実施させていただき、37.5度以上の体温がある場合は入場をお断りさせていただきます」、「職場や家族など身近に新型コロナウイルス感染者・濃厚接触者がいる方の参加はご遠慮願います」、「入場時、手指のアルコール消毒およびマスクの着用を必須とさせていただきます」といった文言も書かれている。コロナ禍でのルールに則ったかたちで、リアル会場での会見が実施されている。
ちなみに、年末年始や夏場には、大手企業が記者懇親会を開催することが多い。これは、メディア関係者と企業の経営トップが、ざっくばらんに情報交換をする場として、あるいは新たに担当になった記者などが挨拶をする場として利用できるように、広報部門が設定するものである。
ただ、対面が前提となるため、コロナ禍では開催されてこなかった。ところが、2022年6月には、一部の企業が、社長交代の節目にあわせて、対面での懇親会を開催するという通知が送られてきた。番記者が配置されている企業によるものだが、リアルでの取材機会が増加していることを示す動きのひとつともいえる。
会見形式の特徴を捉えて使い分ける広報部門
いま、企業の広報部門やPR会社が悩んでいるのは、記者会見を、オンライン、ハイブリッド、オフラインのどの形態で開催するのかという点だ。
実際に、複数の企業の広報部門トップや、PR会社に話を聞いてみたが、開催方式の選択には悩みながらも、これまでの経験をもとに、ある程度の方針が固まりつつあることが感じられた。
たとえば、ある電機大手の広報トップは、今後も、決算会見はオンラインで開催することを決めたと語る。発表内容が数字中心であり、共有する情報は決算資料だけで済むこと、その資料もオンラインであれば、ダウンロードできるURLを配信すれば済み、従来のように短時間に大量の資料を印刷する手間がなくなるメリットがある。また、会場への入場者数の制限がなくなるため、従来はバラバラだったメディア関係者とアナリストが一緒に参加でき、オンライン開催の方が、出席者数が多くなるというメリットをあげる。
確かに参加する側も、社長やCFOが決算内容について、しっかりと説明し、質疑に応えてくれるのであれば、オンラインでも構わない。むしろ、決算発表時期は、各社の発表が集中するので、オンラインの方がありがたいともいえる。
かつては、東京・汐留の富士通本社での決算会見が終わり、10分の移動時間で、富士通の隣にあるパナソニックの決算会見場に駆け込んだこともあったが、オンラインであれば、10分もあれば、バーチャル上での移動は余裕だ。場合によっては、複数のPCを使って、複数の決算会見に出ることも可能になる。
ゴールデンウイーク突入直前の2022年4月28日は、決算集中日であり、午後3時から午後6時までの間に、日立製作所、三菱電機、富士通、NEC、セイコーエプソンが決算会見を行った。さらに、この時間帯に、リコーによるPFU買収の緊急会見が飛び込んできた。
リアルの会見であれば、2件の会見に出ることが精一杯であっただろう。だが、全てがオンライン会見で行われたことで、手元の4台のPCを駆使し、録画データを活用しながら、全ての会見をカバーすることができた。
もちろん、録画データを見たり、記事を書いたりするためにゴールデンウイークの前半は、作業によって休むことはできなくなってしまったというマイナス要素はあったが、オンライン会見ならではの恩恵を受けることができたと思っている。
「オンライン会見のみ」とする外資系企業と、オンラインのみのメリット
一方、外資系IT企業の広報トップは、しばらくは、オンラインだけで会見を続ける考えを示す。
「クラウドサービスやソフトウェアなどが中心になるため、デモストレーションにおいてもオンラインの方が分かりやすいという声が多い。名刺交換やぶら下がりの機会がなくなることはマイナスと考えることもあるが、より多くの人に参加してもらうという点では、オンライン会見でいいと考えている」とする。
また、広報部門やPR会社にとって、オンライン会見ならではのメリットが生まれている。それは、紙の資料を用意しなくていいということだ。
会見場の机の上には、ニュースリリース、説明用のスライド資料のコピー、登壇者のプロフィールなどが用意されていることが多い。それらの紙の枚数はかなりの量に達する。しかも、会見直前で修正が入ったりすると、ホッチキスの針を外して、1枚だけ差し替え、また綴じ直すという作業が発生する。
ある広報担当者は、この作業を「悪夢」とさえ表現する。コピーが間に合わない場合には、他の部門のコピー機まで利用して、広報部門総出で作業をしていたという。オンライン会見であれば、こうした生産性がなく、手間とコストがかかる作業から解放されることになる。
過去2年間、オンライン会見が主流となり、会見前のバタバタ作業がなくなっていることを振り返ると、まさにこれは「悪夢」の作業だったといえるのかもしれない。今回、現場の声を聞くなかで、オンライン会見になったメリットとして、開催直前の現場のバタバタが解消された効果を指摘する声は少なくなかった。
メタバース会見に挑戦する企業も
オンライン会見では、メタバースに挑戦する企業も出始めている。
デル・テクノロジーズでは、2022年4月に開催したノートPCの新製品発表会見で、「国内初のメタバース空間での記者会見」と題して、記者をメタバース環境に招待した。アバターを操作して、会見会場を歩きまわり、メタバース空間の好きな場所で新製品の話を聞くことができた。会見後には、バーチャルで実機を体験できる展示エリアも用意。アバターを操作して、展示エリアに移動することができた。
また、NTTグループでも、3D空間で記者会見に参加できる仕組みを用意しており、決算会見などはそちらの会場に入ることもできる。
このようにオンライン空間でも新たなスタイルが模索されているが、参加した感じでは、会見内容に集中したいにも関わらず、アバターの操作が煩雑に感じること、登壇者や資料のキャプチャーが撮りにくいといった観点から、現時点では、馴染まなさを感じた。
オフライン会見では参加する記者の確保が課題に
一方で、リアルの会見を行いたいという企業が多いのも事実だ。
先に触れたように、実際に製品に触れてもらうことで、その魅力をより深く理解してもらうこと、会見の場を通じて、記者と経営トップとのつながりを深めてもらいたいと考える広報担当者にとっては、リアルの会見を行いたいと気持ちが強いことを感じる。
また、経営トップ自身が、記者との接点を持ちたいと思ったり、カメラを前にしただけのオンラインの会見では、相手の反応がわからずに「乗れない」という声もあり、リアルの会場でやりたいという声も多く聞く。いずれも前向きな理由から、リアル会見の開催を模索している。
だが、リアル会場だけの会見の開催は、広報部門やPR会社にとって、新たな不安を生むようになっている。それは記者の参加数を確保できるかどうかという点である。
日刊紙や通信社の番記者がいるような大手企業では、リアルの会見場に記者を集めることはしやすいが、新規参入の企業であったり、実績がない分野の製品発表であったりする場合、なかなかメディアの参加を得られない。これらの企業では、実際に体験をしてもらうことで、その良さが伝わるという商品でも、記者をリアルの会場に呼ぶというのは難しいのが実態だ。
広報担当者やPR会社が、記者に話を聞いてみたところ、都心部の編集部に出社している状況ならばまだしも、自宅から1時間以上かけて、現地で取材するメリットがなければ、オンラインで済ませたいという声が多いという。
もちろん手間がかかるというのもあるが、オンライン会見の数は減少しておらず、より多くの会見をカバーしようと考えると、リアルの会場に足を運ぶことの効率性の悪さも大きな要因だ。
筆者の場合も、地下鉄ならば大手町からは2駅という立地で在宅勤務を続けているが、実は、リアルの会見には全く出られていないのが現状だ。今回集計した2022年5月のデータからも分かるように、1日平均で5.6件の会見があり、オンラインで参加できる会見に限定しても1日平均4.5件という状況では、この距離感であっても、リアルの会場に行って取材するよりは、相次ぐオンライン会見に参加した方が、効率が高い。
手帳を見てみると、5月中には、1日10件以上の会見が集中した日が3日間あり、むしろ、相次ぐ会見の実施によって、出るに出られない状況なのが現状だ。もちろん、取材は会見だけではない。単独取材がこれに加わることになる。単独取材も、その多くをオンライン会見で行っているが、これもリアルの会見場に参加する時間が取りにくいという状況につながっている。
コロナ禍前には、毎月のように海外出張し、国内含めると年間40回前後の出張取材をこなしていたのだが、いまとなってはどうやってそれをこなして、原稿を書いていたのかを不思議に思うほどだ。
全体の3分の1を占めるハイブリッド会見、「事前申し込み必須」がルールに
そうしたことを考えると、リアルの会場での会見を行いながら、オンラインでも配信するハイブリッド会見は、ニューノーマル時代の会見スタイルだといえる。2022年5月の集計では、98件中33件がハイブリッド会見であり、すでに約3分の1を占めている。記者にとっても、どちらかを選んで参加できるという点ではメリットが大きい。
このメリットは広報部門やPR会社にとっても同様だ。ある企業の広報部門トップは、「ハイブリッド会見の方が、記者の参加数を増やすことができる」とし、PR会社でも「リアルで会見を開催したいというクライアントに対しては、記者の参加を確保したいのであれば、ハイブリッド会見の開催を提案している。リアルの会見だけでは、参加する記者の数が読めない」とする。
ここで、ひとつユニークなエピソードを聞いた。
会見に参加する記者は、会見参加用のURLを入手するために、開催通知をもとに、事前に登録作業をしなくてならない。ここで、オンライン会見やハイブリッド会見でのオンラインに申し込んだ記者の出席率がかなり高く、事前申込者の出席率が100%ということも、頻繁にあるのだという。
あるPR会社では、「コロナ前には、開催前日にメールや電話をして、記者に参加をお願いしても、来てくれる記者の数は申込者の6割程度が普通だった。だが、コロナ禍でのオンライン会見では、事前の登録を記者がしてくれること、しかも高い出席率になっている。これが、リアルだけで会見を開催したという企業があっても、参加するメディアを増やすためには、ハイブリッド開催を提案する理由のひとつになっている」とする。
確かに振り返ってみると、PR会社から会見への出欠を確認する連絡はほとんどなくなった。ただ、知っている広報やPR会社から、前日になって、「会見への申し込みを忘れていませんか」というメールが届いて、慌てて登録作業を行うということは何度もある。以前は申し込みなしで参加できたが、いまでは、申し込みしないと参加ができないという新たなルールが定着している。
地方開催の会見に出られるメリットも
ハイブリッド会見の良さを実感するのが、地方の記者会見に、東京からも参加できることだ。
2022年5月の会見でも、香川県、長野県、山形県において、地元紙や地方局の記者しか参加できない会見場に、東京からオンラインで参加することができた。そのひとつは、無理を言って、現場にカメラを設置してもらい、1人だけ東京からリモートで参加させてもらったというものであった。
地元紙や地方局の報道に留まる内容を、ハイブリッド会見によって、全国区のインターネット媒体で取り上げられるというメリットも生まれているわけだ。
また、国立情報学研究所(NII)が開催した「SINET6開通式」は、リアル会場だけでの取材に限定されたが、こうしたイベントは、むしろリアル取材だけでなく、ハイブリッドやオンラインで開催してもらったほうがいいかもしれない。
式典参加者がいるために、メディア関係者のスペースが限定されており、密になりやすいことがあげられたり、式典参加者への取材が禁止されたりということも少なくない。それであれば、代表取材や主催者によるカメラを使って、オンラインで取材環境を作り、関係者への取材を行えた方がいいだろう。とくに、NIIの場合は、全国規模の400Gbps超高速学術回線の開通というテーマだっただけに、その実力をオンライン会見で発揮してもらいたかったという思いもある。
一方、ハイブリッド会見の会見の特性を生かして、うまい使い分けをしている広報部門やPR会社もある。
たとえば、ひとつの取材案件でも、メディアの特性や、ライターによってフォーカスするポイントは異なる。そこに使い分けのポイントがある。たとえば、新製品の発表の場合、現物を見て、その使い勝手をしっかりとレポートしたいライターにはリアルの会場に足を運ぶことを提案し、事業戦略や経営の観点から記事化する記者にはオンラインでの参加を促すという具合だ。
結果として、会場に入る人数を制限することができ、それぞれの特性にあわせた取材対応もできるというわけだ。
余談ではあるが、5月から6月にかけては、業界団体の会長交代の時期でもあり、それにあわせて新会長会見が行われることになる。そこでもちょっとした差がみられた。
IT・エレクトロニクスの業界団体である電子情報技術産業協会(JEITA)や、コンピュータソフトウェア企業などが参加するソフトウェア協会(SAJ)はハイブリッド会見を開催し
たが、事務機器業界のビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)の新会長会見はリアル会場だけでの開催となった。業界によっても差が出ているようだ。
「やりたいが、やりたくない」手間とコストのかかるハイブリッド会見
より多くの記者に対して発信するということを考えると、ハイブリッド会見が最適解といえそうだが、現場では大きな課題がある。それは、ハイブリッド会見には、手間とコストがかかるという点だ。
ハイブリッド会見は、多くの記者を呼べる仕組みではあるものの、オンライン会見の準備とリアル会見の準備の両方を行わなくてはならない。現場には紙の発表資料を用意し、オンライン用にはダウンロードしたり、メールで配信したりといった仕組みを用意。会場の質問を受ける仕組みと、オンラインで質問を受ける仕組みも用意する必要がある。
広報部門にとっては、作業は単純計算で2倍になり、コストもかかるという状況となる。しかも、リアル会見の現場として、ホテルの会場などを使用するとその費用が加わったり、現場に映像機材を持ち込む必要があり、エンジニアを派遣しなくてはならなかったり、安定した通信環境を確保するためのテストが必要になるなど、その点でもコストと手間は膨れ上がることになる。
また、PR会社にとっても、作業は2倍になるが、請求金額は2倍にはならず、収益性が悪いという状況にもつながっている。
あるPR会社の担当者は、「記者の参加を増やすにはハイブリッド会見が最適だが、工数や手間の増加、収益性の低さを考えると、本当はハイブリッド会見の提案はしたくない」と本音を漏らす。
広報部門やPR会社は、「やりたいが、やりたくない」という、矛盾ともいえる状況が、いまのハイブリッド会見の実情といえる。
だが、これからしばらくは、ハイブリッド会見の開催は、避けては通れないものになるだろう。むしろ、ハイブリッド会見を、いかに手間や、コストをかけずに、効果的に実施できるかが、これから、長年のテーマになりそうである。
コロナの影響はプロダクトや登壇者のスケジュールにも
コロナ禍で会見のスタイルは大きく変化したが、これとは別のところにもコロナの影響が発生している。たとえば、あるメーカーは、新たなデバイスの記者会見を予定していたが、新型コロナウイルスの影響による生産現場のロックダウンにより、新製品の生産、出荷が遅れ、当初予定の発表を延期するという事態に追い込まれた。
また、ある海外IT企業では、本社からVIPが来日するのにあわせて、リアルの会見を予定していたが、急遽来日が中止になったという場合もあった。実際、5月以降、海外本社のVIPが来日し、日本で会見を行ったり、単独取材に応じるというケースが増えてきている。
だが、なかには、来日しているにも関わらず、オンライン会見に限定し、海外本社のVIPと日本法人社長が同じ画面のなかに収まって、オンラインで取材に応じるというケースもある。考えてみれば、これも不思議な感じではあるが、新たな会見のスタイルといえるのかもしれない。
午前10時スタートが最も多いオンライン会見
最後に、2022年5月の集計結果から、いくつかの傾向を取り上げてみたい。ひとつは、オンライン会見でどんなツールが使われているのかだ。
オンライン会見およびハイブリッド会見が行われた77件を分析すると、最もシェアが高かったのがZoomであり、47%とほぼ半数を占めた。昨年5月の調査でも50%のシェアを占めており、依然として圧倒的なシェアを持っている。次いで多いのがTeamsで14%。さらに、Google Meet、YouTubeという順番になっている。
また、会見のスタートする時間帯についても分析してみた。
ここでは驚くべき結果が出た。最も多いのが午前10時台にスタートする会見だったからだ。集計では、約4分の1にあたる24件が午前10時スタートとなっている。コロナ禍前にはほとんどなかった午前10時スタートの会見が、オンライン会見が一般化するに従い、定着しているのだ。
昨年5月の集計でも、午前11時に続き、2番目に多い時間帯となった。あるPR会社では、「コロナ禍に突入した当初は、午前10時スタートを嫌がる記者もいたが、いまでは午前10時の設定でも、記者からは文句は出ない」と語る。
個人的にも、午前10時スタートの会見が増えている印象はあったが、いまや最も多い時間帯になっていたことは意外だった。記者の移動時間を考慮しなくていいということもあるが、早い時間帯の方が、経営層や担当者を捕まえやすいことや、その日のうちに記事化されることが期待できることも理由にありそうだ。
実は、5月は、決算会見が多いため、いつもより午後3時以降の会見が多い。また、外資系IT企業のイベント開催も多く、それらが現地時間にあわせているため、日本時間の深夜に出席しなくてはならないこともある(ただ、最近では日本時間にあわせて再配信するケースが増えてきた)。
そこで決算会見とイベントを除いたオンラインでの会見だけを集計してみた。そうすると、実に3割が午前10時スタートということになったのだ。いまでは、記者会見が他社とぶつからないようにするには、午前10時を避けたほうがいいという結果になっている。
一方、午前8時や午前9時といった時間帯は、海外を意識した時間設定だ。
ソニーグループは、アナリストを対象にした事業説明会を午前8時からスタートしたが、これは海外のアナリストが参加できるようにしたものだ。また、午前9時台の会見では、米国本社の経営層が参加できるようにするといった配慮がある。
一方、午後6時台スタートという会見も2件あったが、ひとつは、三菱電機による品質不適切行為に関する調査報告書を受けた社長会見。もうひとつは、記者向けの勉強会としての要素が強い内容であった。勉強会などは、こうした時間帯にオンラインで開催すると、記者は参加しやすいかもしれない。
記者自身のDXもこれからの課題に
振り返ってみると、コロナ前には、現場で取材したあとに、モバイル環境で原稿を書いて、入稿するためのIT武装に投資をしてきたが、この2年間は、コロナ禍におけるオンライン会見の増加にあわせて、それに対応したIT投資を行ってきた。
だが、ハイブリッド会見の増加やリアル会見の復活といったように、ここにきて、会見や取材の形態がさらに変わりつつある。次のIT武装はなにが最適かということを、そろそろ考えなくてはいけない時期に差し掛かっているともいえそうだ。
実際、アプリを使って取材内容を文字起こしして、取材メモを作成したりといったライターも増えているようだ。こうしたテクノロジーを、取材や執筆活動の変革にどうつながるかが大切だ。
DXの価値が叫ばれ、「DXは、デジタルよりも、トランスフォーメーションが大切だ」と記事を書いている記者自身が、自らの仕事をデジタル化の範囲に留めず、トランスフォーメーションへと進化させることが必要だろう。メディア側のデジタル活用も、次の一歩へと進化させることを、改めて考える時期に入ってきたともいえそうだ。