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日本はAIへの期待が世界最高だが、AIツールの活用は最下位―Slackがグローバルの労働環境調査結果を発表

 Slackは、働き方に関するグローバル調査レポート「Workforce Index」の内容について説明した。

 同調査によると、日本では休憩を取らない従業員が63%を占め、調査対象国中で最も多いことを指摘。調査を担当したSlack ユーザーインターフェース/ユーザー エクスペリエンス担当SVPのクリスティーナ・ジャンザー(Christina Janzer)氏は、「休憩を取らない従業員は、高い割合で『燃え尽き』を経験している」と警鐘を鳴らした。

 また、同氏は「勤務時間中に休憩を取ることで生産性があがることがわかっている。仕事に対して、より多くの時間を費やすという考え方から、よりスマートに時間を使うという考え方にシフトしてもらいたい」とも指摘。時間外労働は生産位に寄与せず、実のある時間を仕事に向けるためにはどうすべきかを考えていく必要がある述べ、安心できる企業文化、安心できる企業文化を作ることが、生産性向上には重要であるとした。

Slack ユーザーインターフェース/ユーザー エクスペリエンス担当SVPのクリスティーナ・ジャンザー(Christina Janzer)氏

 日本では、AIツールを取り入れることに一定の緊急性を感じているエグゼクティブの割合が世界で最も多いものの、AIツールで業務の生産性が向上していないとの回答では最下位になっていることもわかったという。「日本はAIに対する期待が高い。『AIに情報の要約を行わせたい』という使い方が、トップ3に入ったのは日本だけである」と指摘した。

 Slackでは、働き方に関する調査、研究を通じて、よりよい働き方を追求するためのWorkforce Labを設置しており、今回の調査は同組織が担当した。

Workforce Indexの調査方法の詳細

 Workforce Indexは、2023年8月24日から9月15日にかけて、米国、オーストラリア、フランス、ドイツ、日本、英国などにおいて、週30時間以上勤務する管理職、シニアスタッフ、専門職、経営幹部を対象に実施。1万333人の回答をもとに分析している。日本からは、1075人が回答している。

「時間外労働が常態化」が4割、プレッシャーを感じて残業している

 同調査によると、デスクワーカーの5人中2人が「時間外労働が常態化している」と回答。さらに、「時間外労働が常態化している」と回答した回答者の50%以上が、それは自らの選択で行っているものではなく、プレッシャーを感じながら残業をしていると回答したという。

デスクワーカーの5人中2人が、「時間外労働が常態化している」と回答。「時間外労働が常態化している」とした回答者の50%以上が、自らの選択で行っているものではなく、プレッシャーを感じながら残業をしているとした

 プレッシャーを感じて残業をしている従業員は、仕事関連のストレスが悪化する比率が2.1倍多く、満足度の低下が1.7倍、燃え尽き症候群に陥っている人が2倍になっているという。

 「プレッシャーを感じて時間外に残業をしている従業員は、生産性が20%低下しており、日本では、その約2倍となる37%も生産性が低下しているという結果になった」という。

日本における、「プレッシャーを感じながら残業している」とした回答者は、生産性が37%低下していると回答した

 全回答者が挙げた残業の理由で最も多いのは「1日の時間が足りない」であり、優先事項が多い、会議の時間が長い、メールに時間がかかりすぎているといったことが、時間が足りない理由になっている。

回答者の4人中1人が「会議に時間を使いすぎている」または「メールに時間がかかりすぎている」、5人に1人が「同僚と交流する時間がない」と回答した

 一方、仕事に熱中したり、やりがいを感じたり、時間外の方が集中できるといった理由で、自ら時間外に働くことを選んだ場合には、生産性は若干高くなる結果も出ている。また、支援する人がいたり、信頼できる人がいたり、安全に仕事ができる状況にあったりすることも、働く環境の改善につながり、生産性を左右するという。

 ジャンザー氏は、「基本的には、時間外に労働することは生産性を高めてはいない。仕事にどれだけの時間を費やしたのかという『量』ではなく、どれだけ『質』の高い時間を仕事に向けることができたのかという新たな思考が必要である。また、社内に信頼できる人がいる、あるいは自分が信頼されていると感じながら仕事を行う方が、生産性が2倍になるという結果も出ている」と指摘した。

燃え尽き症候群のリスクが高い「休憩を取らない」日本の労働者は世界最多

 調査では、勤務中にほとんど休憩をとらない、あるいはまったく休憩を取らないという従業員が半分に達していることがわかり、なかでも日本は、その比率が63%となり、最も多い結果となった。「15分程度、PCから離れることを休憩と定義しているが、そうした休憩が取れていない従業員が多いのが実態である。これらの従業員は、休憩を取っている従業員に比べると、燃え尽き症候群を経験する割合が1.7倍高くなっている」という。

日本では63%が「ほとんど、あるいは全く休憩を取らない」と回答。休憩を取らない従業員は燃え尽き症候群を経験する割合が1.7倍

 その一方で、定期的に休憩を取る従業員は、そうでない従業員に比べて、生産性が13%高く、ワークライフバランスを取れている従業員が62%となり、43%の従業員がストレス管理能力があると回答し、全体的な満足度を感じている従業員は43%に達している結果が出ている

 「アスリートにとっては、よく眠り、休憩することが、力を発揮するために重要なルーティンと認識されているが、デスクワーカーにとっても、一度、机から離れて休憩をするダウンタイムを取ることは生産性を高めるために有効であり、生産性に対して掛け算として影響する」と、ジャンザー氏は分析した。

定期的に休息を取る従業員は、そうでない従業員と比べて13%生産性が高いことが明らかになったという

 また、生産性は、1日中、同じ水準を維持できないことを指摘。午後3時~6時を「午後のスランプ時間」と定義し、「デスクワーカーのうち4人中3人が、午後3時~6時に勤務しているが、この時間の生産性が高いと感じている従業員は4人中1人に留まる。生産性の高い時間は個人によっても異なる。自分がどの時間が集中できるのかを知ること、仕事の内容や性質を見極めて、バーストしなくてはならない時間がどこにあるのかを捉えるべきである」と提案した。

同社が「午後のスランプ時間」と定義する午後3時~6時に勤務しているデスクワーカーは4人中3人だが、この時間の生産性が高いと感じている従業員は4人中1人だけ

 今回の調査結果から、同社では、生産性を維持できる時間の使い方「ゴルディロックス・ゾーン」を示した。これは、英国の童話「3匹のくま」にちなんだ命名だという。

「3匹のくま」は、ゴルディロックスという女の子が、大・中・小の3匹のくまが住む家に迷い込むストーリーで、3匹が家に用意していたもののうち、彼女にとって「ちょうどいい」ものを選ぶのがよい、ということを示す内容。「ゴルディロックス○○」は、「ちょうどいい○○」といった意味合いで使われる

 ここでは、デスクワーカーが集中して仕事をする理想的な時間は1日平均4時間程度であること、会議に「時間を費やしすぎる」と回答する分岐点は1日2時間を超えたところにあること、「会議に費やす時間が長すぎる」と回答しているデスクワーカーは、業務に集中する時間が充分にないと感じる割合が2倍以上になっていることを示し、「会議に出ているほど、仕事に集中できる時間が減少する。

 会議を行う際には、時間配分のバランスが重要になる。仕事に集中する時間、休憩する時間、同僚とコミュニケーションを取る時間、会議をする時間を、バランスよくとることが大切だ。エグゼクティブは、従業員が、バランスよく仕事ができるように時間管理を行うための支援をする必要がある」と提言した。

エグゼクティブの高いAI利用意向に対し、利用経験者は少ない

 AIに関する調査結果についても説明が行われた。今回の「Workforce Index」では、エグゼクティブの94%がAIツールを取り入れたいと考えているの対して、AIを仕事に使用したことがあるデスクワーカーは5人に1人、AIツールを使用しても、業務の生産性が向上していないとの回答が80%以上に達したことがわかった。

 ジャンザー氏は、「AIツールを仕事で使うには、まだまだ改善が必要な状況が浮き彫りになった」と総括した。

AIを仕事に使用したことがあるデスクワーカーは5人に1人、AIツールを使用しても、業務の生産性が向上していないとの回答が80%以上

 日本の調査結果をみると、AIツールを取り入れることに一定の緊急性を感じているエグゼクティブは100%であり、AIツールの導入に対する危機感が極めて高いことが浮き彫りになる一方、AIツールを導入しても業務の生産性が向上していないとの回答が91%に達し、調査対象国のうち最下位となった。エグゼクティブが考える緊急性と、デスクワーカーの生産性の向上の遅れという点で、もっともギャップが大きいことがわかった。

日本で、AIツール導入に緊急性を感じているエグゼクティブは100%。一方、AIツールを導入しても業務の生産性が向上していないとの回答が91%

 AIツールが価値をもたらすと期待している用途では、グローバルでは「会議の議事録作成」、「文章作成の補助」、「ワークフローの自動化」が上位3項目となった。対して、日本では、「会議の議事録作成」、「情報の要約」、「文章作成の補助」の順となった。

 「情報の要約」がトップ3に入っているのは日本だけであり、ジャンザー氏は、「日本では、会議の要約だけでなく、情報も要約して欲しいと考えている。自分たちの作業をAIで軽減することに対して、AIへの期待値が高いことがわかる」と分析した。

AIツールが価値をもたらすと期待する用途のトップ3に「情報の要約」が入っているのは日本だけ

 SlackでもAI機能の搭載を進めているが、現在は実験段階であることを示しながら、「Slackでは、チャネルの内容を要約してくれるAI機能、スレッドのサマリーをまとめるAI機能、そして、検索におけるAI機能の実装について検証をしている。今回の調査結果からは、地域ごとに特有のAI機能を搭載しなくて済むことがわかった」と、ジャンザー氏は述べた。