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NEC、次世代モバイル通信におけるミリ波の課題解消へ向け「1-bitファイバー伝送方式」光ファイバー無線システムを開発
2024年6月19日 06:30
日本電気株式会社(NEC)は6月17日、安定したミリ波通信ネットワークを安価に構築できる「1-bitファイバー伝送方式」の光ファイバー無線システムを開発したことを発表した。高層ビル、地下街といった屋内を中心に、遮蔽物の多い環境で、安定したミリ波通信環境を安価に実現できることが期待される。
モバイルトラフィックの8割は屋内で発生
モバイル通信におけるトラフィックの約80%は屋内で発生しており、Beyond 5G/6Gにおいては、屋内で低遅延かつ広帯域の通信を行う技術としてミリ波技術を活用した高速ワイヤレス通信が期待されている。しかし、ミリ波帯は大きな伝搬損失と高い直進性のため、建物内で基地局と端末間の見通しを確保することが必要となる。
遮蔽物を回避するため、端末と直接データの送受信を行う分散アンテナユニット(DA:Distributed Antenna)を高密度に設置することは効果的だが、DAのサイズや消費電力と、必要量を設置するためのコストが大きな課題だった。そこでNECは、DAの小型化、低消費電力化、低コスト化を実現できる、1-bitファイバー伝送方式と、それを用いた光ファイバー無線(RoF:Radio-over-Fiber)システムを開発した。これを「1-bit RoFシステム」と呼ぶ。
既存RoFシステムの長所を兼ね備えた1-bit RoF
これまで使われてきたRoFは、「デジタルRoFシステム」「アナログRoFシステム」に分類される。
デジタルRoFシステムは、無線ユニット(RU:Radio Unit)で生成したデジタル信号を、DAにファイバー伝送する。RU-DU間での伝送に用いられる汎用電気-光変換器は汎用デバイスで対応できるが、DA内に、デジタル信号を処理するためのデバイス(DSP:Digital Signal Processor)やデジタルーアナログコンバータ(DAC)を装備する必要があるため、消費電力が大きくコストも高くなるという。
アナログRoFシステムは、RUで高周波アナログ信号を生成し、DAにファイバー伝送する方式を用いている。DAに関しては構成が簡素化される一方、電気ー光変換器には、アナログ信号向けの専用の変換器が必要となり、デバイスコストがかかる。
1-bitファイバー伝送方式は、高周波アナログ信号を1-bitパルス信号に変換してファイバー伝送する方式で、フィルタを介すことで、アナログ信号を再生することができる。
また、1-bit RoFシステムでは、デジタルRoFシステムと同様、デジタル通信向けの安価な汎用電気-光変換器を用いることが可能となり、装置の低コスト化を実現できる。同時に、アナログRoFのようにDAにDSPやDACを必要としないことから、消費電力を抑えられる。
以上から、同社では、1-bit RoFシステムは、デジタルRoFとアナログRoFの長所を兼ね備えたシステムだとしている。
信号対雑音・歪特性が低い1-bitパルス信号変調器を改善
1-bit RoFシステムの実用化に向けては、1-bitパルス信号に変換する1-bit変調器の、信号対雑音・歪特性が低いことが課題となっていた。
この課題を解決するため、ダウンリンク向けの1-bitファイバー伝送方式として、雑音・歪特性に優れたベクトル分解方式を開発した。また、アップリンクにおいては、1-bitファイバー伝送で発生する信号歪をキャンセルし、もとの信号を再生する、デジタル再生方式を開発した。
これにより、ダウンリンク・アップリンクの双方向において、1-bitファイバー伝送時の信号対雑音・歪特性の劣化の抑制に成功した。
また、同社では、今回開発した1-bit RoFシステムがモバイル通信規格へ適合することを確認するため、新たに無線ユニットと小型DAで構成される40GHz帯向け光ファイバー無線試作機を開発。実証の結果、適合が確認された。これにより、小型・低コストなDAを高密度に設置することが可能となり、また、DA-端末間の見通しが確保できるようになり、ミリ波通信環境の改善が期待できるとしている。
今回の研究の成果は、米ワシントンDCで6月16日(現地時間)より開催される国際会議「IEEE MTT-S International Microwave Symposium」において発表される。