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【たぶん国内初】「11ax対応のスマホ」と「11axルータ」で速度と電波の飛びを検証してみた

11axのウリ「速度」と「混雑耐性」はどうなる?海外モデルのスマートフォンで先取り検証!!

世界初の11axスマートフォン「Galaxy S10+」が海外で発売

 Samsung Electronicsが最新フラッグシップスマートフォンとして、海外で3月に発売した「Galaxy S10」シリーズは、スマートフォンで初めて、Wi-Fi 6ことIEEE 802.11axに対応するWi-Fiが搭載された製品だ。

 Wi-Fi 6対応クライアントとしても、もちろん世界初で、日本ではまだ発売されていないが、実際に11ax対応アクセスポイントに接続したとき、どういった挙動を示すのか、大いに興味のあるところだ。

 そこで今回は、Galaxy S10シリーズの上位モデルとなる「Galaxy S10+」の試用機を用いて、Wi-Fi 6対応アクセスポイントに接続した場合の挙動や通信速度をチェックしてみた。

「Galaxy S10+」は、IEEE 802.11ax(Wi-Fi 6)に対応する世界初のスマートフォンだ

11ax(Wi-Fi 6)は5GHz帯と2.4GHz帯の双方を改善5GHzの2ストリームで最大1200Mbps

 IEEE 802.11axは、規格上の最大通信速度が約9.6Gbpsに達する最新のWi-Fi規格だ。IEEE 802.11ac/n/a/g/bとの互換性を保ちつつ、変調方式として1024AQMをサポートし、帯域幅を拡大。さらに、電波の利用効率を向上させることによって、速度の向上はもちろん、同時接続時にも速度の落ちにくい仕組みも実現している。

 今回、世界初の11ax対応スマートフォンとして登場したGalaxy S10シリーズは、Wi-FiコントローラーチップとしてBroadcom「BCM4375」を採用。1024QAM変調、OFDMA、MU-MIMOをサポートしており、11axの2ストリーム接続時で、最大1200Mbpsでの通信を可能としている。

 11axでは、接続時にアンテナピクトで「Wi-Fi 6」として接続していることが分かるようになっている。実際にGalaxy S10シリーズでWi-Fi 6の対応アクセスポイントに接続すると、Wi-Fiのアンテナピクトの横に数字の「6」が表示される。ただし、11ac以下に対応するアクセスポイントに接続した場合は、アンテナピクトの横に「5」や「4」などの数字は表示されず、従来同様のアンテナピクトのみとなった。

Wi-Fi 6接続時には、Wi-Fiのアンテナピクトに「6」という数字が表示される
11ac以前の無線LAN接続時には、アンテナピクトの横に数字は表示されなかった

海外モデルの端末と、国内発売されている11axルータでテスト

 では、実際に11ax対応のアクセスポイントと、どの程度の速度で接続されるのか確認していこう。

 今回利用したアクセスポイントはASUSの「RT-AX88U」だ。こちらのレビュー記事にもあるように、11axのドラフト版に対応したWi-Fiルーターで、5GHz帯で最大4804Mbps、2.4GHz帯で最大1148Mbpsの通信に対応する。今回は、RT-AX88Uに対してGalaxy S10+をWi-Fi接続し、リンク速度や実効速度を検証してみた。

電波法の持ち込み端末90日ルールとは?

 今回利用したGalaxy S10+は海外モデルで、技術基準適合証明(技適)マークは付いていない。ただ、総務省のこちらのページにもあるように、電波法では、日本の技術基準に相当する技術基準(国際標準)に適合し、かつ、2.4GHz帯、5.2GHz帯、5.3GHz帯及び5.6GHz帯の周波数の電波を使用する小電力データ通信システムの無線局(Wi-Fi端末及びBluetooth端末)については、入国日から90日以内に限って利用可能とされている。また、利用者の国籍についての制限はない。

 今回利用したGalaxy S10+は、製品発表会が行われた2月下旬に米国で入手し、米国で開通させた上で3月上旬に日本に持ち込んだものだ。そのため、3月上旬から90日間は国内でWi-Fiを利用可能となっている。

 念のためテストに利用したGalaxy S10+は機内モードに設定した状態とし、Wi-Fiのみをオンにして検証を行っている。あわせて、同一環境でのIEEE 802.11ac/n接続時の速度と比較するため、ソニーモバイルコミュニケーションズのスマートフォン「Xperia XZ3」と、富士通クライアントコンピューティングのノートPC「LIFEBOOK UH-X/C3」でもテストを行った。

 サーバーなどの検証環境は下にまとめた通りだが、通信速度の検証には「iPerf3」を利用した。専用PCを用意してiPerf3をサーバーモードで起動しておき、クライアント側でパラメーターを「iperf3 -c [サーバー] -i1 -t10 -P10 (-R)」として検証した。

検証環境

・サーバー:自作PC
マザーボード:ASUS TUF Z390-PLUS GAMING
CPU:Core i5-9600K
メモリー:DDR4-2666 16GB
OS:Windows 10 Pro

・クライアントPC:LIFEBOOK UH-X/C3
CPU:Core i7-8565U
メモリー:8GB
Wi-Fiモジュール:Intel Wireless-AC 9560

・クライアントでのiPerf3実行時のパラメーター:iperf3 -c [サーバー] -i1 -t10 -P10 (-R)

検証に利用した、ASUSの11ax対応Wi-Fiルーター「RT-AX88U」。2019年3月時点で、国内で唯一入手可能な11ax対応ルーターで、こちらのレビュー記事では、2台を対向接続でテストとした結果、3.6Gbpsのリンク速度で、実測は有線LANがボトルネックとなる900Mbps超を記録した

5GHz帯では1200Mbpsでリンク、転送速度は実測755Mbps(同一室内)

Galaxy S10+のWi-Fi設定画面でも、1200Mbpsでリンクしていることを確認した

 ではまず、5GHz帯でのテスト結果からみていこう。テストは、RT-AX88Uを設置した同一室内、壁1枚を挟んだ隣のリビング、そして壁2枚を挟んだ玄関付近で行った。

 まず、RT-AX88Uを設置した同一室内では、Galaxy S10+で1200Mbpsと、スペックの上限となるリンク速度を確認した。実効速度はGalaxy S10+でUPが759Mbps、DOWNが755Mbpsと、11acでリンク速度が866MbpsとなるXperia XZ3と比べて150Mbps以上も高速な速度が確認できた。

 ただし、壁1枚隔てたリビングへ移動すると、リンク速度は1134Mbpsに低下。さらにもう1枚壁を挟む玄関付近では、720Mbpsまで落ち込むとともに、実効速度もそれに合わせて低下した。

Galaxy S10+を5GHz帯で接続すると、最高速度の1200Mbpsでリンクすることを確認
リンク速度(5GHz帯接続) 単位:Mbps
同一室内リビング玄関
Galaxy S10+(11ax)12001134720
Xperia XZ3(11ac)866780526
ノートPC(11ac)866.7866.7866.7

 それでも、玄関付近で、UPが558Mbps、DOWNが553Mbpsと、Xperia XZ3よりも100Mbps以上速く、11axの高速性を十分に確認できた。

 ところで、11ac接続のノートPCでは、いずれの場所でも866.7Mbpsで接続でき、実効速度もほとんど変化が見られなかった。これは、スマートフォンとノートPCとでアンテナの感度に大きな違いがあるからだろう。サイズの小さなスマートフォンでは、高性能なアンテナを搭載するのが難しいため、こういう結果となるのも仕方がないかもしれない。

ダウンロード(5GHz帯接続) 単位:Mbps
同一室内リビング玄関
Galaxy S10+(11ax)755703553
Xperia XZ3(11ac)595569420
ノートPC(11ac)635632628
アップロード(5GHz帯接続) 単位:Mbps
同一室内リビング玄関
Galaxy S10+(11ax)759707558
Xperia XZ3(11ac)600574425
ノートPC(11ac)635632628

2.4GHz帯でも速度向上、実効速度で1~6割割「届かなかったところ」にも電波到達

 次に2.4GHz帯でのチェックだ。11axは5GHz帯だけでなく2.4GHz帯にも対応しているため、5GHz帯同様にチェックしてみた。

 リンク速度については、同一室内で229Mbps、壁を挟んだ隣の部屋で216Mbps、壁を2枚挟んだ玄関付近で97Mbpsと、RT-AX88Uが対応する最高1148Mbpsでの接続は確認できなかった。また、実効速度もリンク速度と同じく、5GHz接続時よりもかなり低速となっている。

 要因は不明ながら、筆者宅は集合住宅で、周囲の部屋や近くにある店舗などから多数の2.4GHz帯のWi-Fi電波が届いている。このように2.4GHz帯がかなり混雑している点が影響していることが考えられる。

 とはいえ、リンク速度、実効速度とも同一条件での11ac(Xperia XZ3)を上回っており、条件にもよるが、おおむね1割~6割ほど実効速度が向上している。リンク速度だけでいうなら、7倍以上向上している例もある。

 なお、ノートPCでは、同一室内、隣の部屋、玄関付近と、いずれの場所でも144.4Mbpsでリンクした。また、速度は玄関付近ではわずかに低下したが、比較的安定した速度が発揮されている。とはいえ、Galaxy S10+、Xperia XZ3よりも遅い結果となった。これについては、搭載するWi-Fiモジュールの仕様によるものと考えていいだろう。

2.4GHz帯、集合住宅の1階から3階への接続状況

 ところで、今回RT-AX88Uを設置したのが部屋の窓付近だったため、Galaxy S10+とXperia XZ3を利用し、外からの接続状況についてもチェックしてみた。電波法の規制で、屋外では5GHz帯の一部しか使えないので、今回の屋外での測定では5GHz帯は使わず、2.4GHzでのみテストを実施している。

 筆者宅は集合住宅の3階だが、RT-AX88Uを設置した部屋の窓に最も近い1階屋外でのリンク速度は、Galaxy S10+が103Mbpsと、室内の玄関付近よりも高速にリンクした。ただし、実効速度はUPが29.9Mbps、DOWNが28.4Mbpsと、かなり遅くなってしまった。ただし、11n接続のXperia XZ3との比較では、リンク速度、実効速度ともに高速だった。

 また、その場所から横に10mほど移動してみても、Galaxy S10+、Xperia XZ3ともに接続はできた。さすがにリンク速度、実効速度ともに低下したのだが、それでもGalaxy S10+は10Mbps以上の実効速度が発揮され、十分に利用可能な範囲だった。

 そこからさらに10mほど移動してみたところ、Xperia XZ3では接続が切れてしまったが、Galaxy S10+はまだ接続を維持できていた。リンク速度は2Mbps、実効速度もかなり遅く、使い物にならないレベルではあるが、11nよりも遠距離まで届くことは十分に確認できた。

リンク速度(2.4GHz帯接続) 単位:Mbps
同一室内リビング玄関屋外窓下屋外窓横10m屋外窓横20m
Galaxy S10+(11ax)22921697103972
Xperia XZ3(11n)144117582613接続せず※1
ノートPC(11n)144.4144.4144.4―※2―※2―※2

※1遠距離で接続できず ※2ノートPCは使用状況を想定し、屋外でのテストは行っていない

ダウンロード(2.4GHz帯接続) 単位:Mbps
同一室内リビング玄関屋外窓下屋外窓横10m屋外窓横20m
Galaxy S10+(11ax)17210768.829.912.32.74
Xperia XZ3(11n)10474.748.720.611―※1
ノートPC(11n)71.370.859.1―※2―※2―※2

※1遠距離で接続できず ※2ノートPCは使用状況を想定し、屋外でのテストは行っていない

アップロード(2.4GHz帯接続) 単位:Mbps
同一室内リビング玄関屋外窓下屋外窓横10m屋外窓横20m
Galaxy S10+(11ax)1691036528.410.10.344
Xperia XZ3(11n)9969.843.615.15.98―※1
ノートPC(11n)7170.658.8―※2―※2―※2

※1遠距離で接続できず ※2ノートPCは使用状況を想定し、屋外でのテストは行っていない

 このように、Wi-Fi 6に対応するGalaxy S10+では、11axのWi-Fi環境において、従来よりも安定して高速な通信速度が得られることを確認できた。

 スマートフォンでは、今後5Gデータ通信への対応によって、より高速かつ低遅延でデータ通信が行えるようになる。とはいえ、モバイル通信の通信量には上限があったり、料金がかかったりするため、5Gに対応したからといって、モバイル通信で大容量データを気軽に扱えるようになるとは限らない。

 一方、安定して高速な速度が得られる11axなどのWi-Fi環境ならば、動画などの大容量データも高速に転送でき、スマートフォンにとっても魅力的な通信手段となるだろう。

 ただ、今回のテストでは、まだWi-Fi 6の実力の全てを検証できてはいない。今後、対応機種が増え、複数台接続時の性能なども検証できるようになれば、11axがスマートフォンにとってどこまで有効な通信手段となるのかが判明してくるはずだ。

 とはいえ、現状でも11acや11nよりも安定して高速な通信が行えることは間違いなく、11ax対応スマートフォンの入手に合わせて、11ax対応Wi-Fiルーターの導入も前向きに検討すべきだろう。

(協力:ASUS JAPAN株式会社)

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