トピック
“人流データ×リサーチ”でマーケティングの解像度が上がる
歩く方向を踏まえた屋外広告の効果測定、来店しない人への調査も
- 提供:
- ジオテクノロジーズ株式会社
2025年1月15日 06:55
スマートフォンの位置情報ビッグデータによる“人流データ”が近年、様々な分野において注目されている。人流データとは何か? どのように生成され、どのように活用されているのか? そして、ビジネスや社会の課題解決を実現するためのデータとして、どんな可能性を秘めているのか? ポイ活アプリ「トリマ」をもとにした人流データを保有するジオテクノロジーズ株式会社に詳しく話を聞いた。(全3回のうちの第3回)
[目次]
- スマホ位置情報ビッグデータで人々の動きを可視化
“人流データ”から現実世界の今が見えてくる - “人流データ”を読み解くと、こんなことまで分かる
北陸新幹線延伸の影響から、交差点の危険度の推定まで - “人流データ×リサーチ”でマーケティングの解像度が上がる
歩く方向を踏まえた屋外広告の効果測定、来店しない人への調査も(この記事)
「私はもともとカーナビのマップマッチング技術を担当していたのですが、人流データを扱うようになり、最初は1点ずつ位置情報を処理していた状態から、どんどんスケールアップして今では膨大な量の位置情報を処理できるようになりました。これだけ大量のデータを扱えるようになったことに大変やりがいを感じています。
今後は人流データをもとに、人々の日常的な行動と非日常の行動を分解して傾向を追うなど、新たな分析手法を追求していきたいと思います」
※ジオテクノロジーズの人流データはプライバシーを保護した位置情報データです。収集・使用する全てのデータは許諾の取れた情報のみを使用しています。また、匿名加工処理により、使用する情報から個人を識別することはできません。
人流データ活用の定番エリアマーケティングでの強みとは
人流データの用途として定番なのが、店舗のエリアマーケティング(商圏分析)への活用だろう。例えば、店舗が新規出店する際には、候補地において売上が見込めるかどうかを判断するために事前調査が行われる。従来は統計データをもとに周辺の人口を調べたうえで、リサーチャーに依頼して通行量調査などを行っていたが、昼夜の人口格差など実状が分かりづらく、現地調査には多大なコストがかかることが課題となっていた。
人流データを使えば、昼夜や平日・休日、季節ごとの通行量の違いを把握できるし、多大なコストをかけることなく候補地の周辺の通行量を簡単に調べられる。また、人流データに性別や年代、職業などの属性が付加されている場合は、メインとなる客層に合わせた品ぞろえの検討に役立てることも可能だ。
国勢調査などの統計データの場合、調査は数年に一度しか行われないが、人流データならば最新のデータをいち早く利用できるという点も重要だ。新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言など、社会情勢が急に変わった場合でも、変化後の人流データを使って分析を行うことにより、変化にいち早く対応することが可能となる。
人流データがあればスクリーニング不要リサーチ対象へダイレクトにアンケート調査
人流データは、他の情報やデータと組み合わせることで可能性をより大きく広げられる。ジオテクノロジーズの場合、「トリマ」のアプリ上でユーザーにアンケート調査が行える「Geo-Research(ジオリサーチ)」というサービスを提供している。
一般的なアンケート調査の場合、「京都へ行ったことのある人」「先日オープンしたショッピングモールに行ったことのある人」などと調査対象者を抽出するために、本調査に先立ってスクリーニングと呼ばれる事前調査を行う必要があるが、「Geo-Research」ではユーザーの位置情報に基づいて、「あの日、あの場所にいた人」「この場所に来たことがある人」など対象者を絞り込んでダイレクトにアンケートを取ることができる。
しかも「1カ月以内に行ったかどうか」といった時期に関することも分かるし、旅行の場合はそこで何泊したのか、日帰りなのかといった属性も含め、事実をもとに調査をかけることが可能だ。特定のイベントに訪れた人に対して感想を聞くアンケートなども可能で、紙を使ったアンケートを行う手間も省けるし、アンケート回収率も高くなる場合がある。
逆に、アンケート結果をもとに特定の属性を持つ人を抽出したうえで、その後の行動データを分析するという活用方法もある。例えば「EVユーザーはガソリン車のユーザーに比べて遠出の機会が少ないのではないか?」という仮説を検証するため、EVを所有しているかどうかアンケートを取ったうえで、所有していると回答したユーザーの位置情報の行動をジオテクノロジーズが独自に分析したところ、仮説に反してガソリン車のユーザーと移動距離はあまり変わらない結果になったという。
“来店しない人へのアンケート”で見えてきた意外な事実からスーパー「いなげや」が選択した顧客獲得施策
関東地方でスーパーマーケットを展開する株式会社いなげやは、来店客へのアンケート調査や決済データなどを活用した消費動向調査を行っており、スーパーマーケットを利用する理由の上位に「距離が近いから」があることを把握していた。では、近くにもかかわらず利用しないのは、どのような理由があるのか? そこで、Geo-Researchを使って“来店しない人へのアンケート”を行った。
調査店舗となった新座野寺店(埼玉県新座市)の周辺に居住または仕事をしている人を想定し、ある期間に「同店舗の半径2km内に10分以上滞在した」「同店舗内に30分以上の滞在がない(30分以上の滞在は関係者の可能性があるため)」の2項目を満たす条件で抽出。さらに属性として「20代から50代までの女性」を条件に絞り込み、アンケートを取ったところ、1週間で東京都や埼玉県に居住する501人から回答が得られた。
結果を分析したところ、同店舗の周辺に住んではいるものの日中は都心で働いており、スーパーマーケットで買い物をするのは仕事から帰宅する遅めの時間となること、そのため会社の近くや駅近くのスーパーマーケットで買い物をすることになること、さらに、帰宅してすぐに食事する場合は惣菜が豊富など即時性の高い商品が置いてあるスーパーに魅力を感じていることなどが浮かび上がった。そこで、平日に尽力して効果を得ようとするよりも、休日や週末に対象の年代を意識した販促を行うようにしたという。
Geo-Researchによって他社店舗に流れている可能性のある人にアンケートを実施できたことで、その結果をもとに顧客獲得のための効果的な施策を選択した事例と言える。
その人は屋外広告を目にしていたか?歩いていた方向をも考慮した効果測定が可能に
駅前の大型ビジョンや電車内の広告など屋外広告メディア(OOH広告)の効果測定に役立てる取り組みも進んでいる。この分野では、ネット広告のような正確な効果測定が難しいことが長年の課題となっていたが、人流データを活用すれば、実際に屋外広告を見られるエリアにどれくらい多くの人が滞留したかが分かるため、これを効果測定に活用できる。
さらにGeo-Researchも利用することで、単に屋外広告を視認可能なエリアにいた人を把握するだけでなく、実際に広告を視認した可能性が高い人も把握できるようになり、より高精度に効果測定を行えるようになるという。例えば、特定区間の鉄道路線に定期的に乗車している人を対象に、沿線に掲示された屋外広告を見たことがあるかどうかをアンケートで聞けば、効果測定の精度向上が期待できる。また、その広告を実際にどれくらいの人が目にして記憶に残ったのか、あるいは消費行動に結び付いたかといった、人流データだけでは分からない情報も得られる。
屋外広告に関する取り組みの一環として、ジオテクノロジーズは2024年10月、人流データによる屋外広告の接触判定技術で特許を取得したことを発表している。同技術は、人流データをもとに人の移動軌跡を詳細に分析し、進行方向および周辺視野を正確に把握することで広告との接触の有無を調べられる技術だ。
具体的には、スマートフォンのGPSが取得したある地点(N番目)と次の地点(N+1番目)を抽出することで人の進行方向を高精度に導き出し、「広告が視認できるエリア内にユーザーが訪れているかどうか」という要素を加味したうえで広告との接触の有無を確認できる。視認エリアは周辺の障害物が広告の視認性に与える影響を考慮して動的に調整する仕組みとなっている点もポイントだ。
人流データが持つ大きな可能性に期待
ジオテクノロジーズではこのほかにも、人流データをもとに交通手段を判定してCO2排出削減量の算定を行ったり、工場開設にともなう交通渋滞への影響をシミュレーションしたりと、様々な用途で人流データの利活用を進めている。
人流データのローデータは時間軸を持つ点の集合体にすぎず、そのデータを意味のある人流データに仕上げていくために、日々ひたすら膨大なデータと向き合い、様々な分析手法を組み合わせ、試行錯誤しているのだと、同社の人流データ生成・分析の担当者は言う。
ジオテクノロジーズでは、そうした人流データを、同じく同社が制作し保有するデジタル地図データと重ね合わせることで、世の中の今この瞬間の状況を把握できるようにしてきたと言える。そして、静的なデジタル地図と動的な人流データを組み合わせたうえで、さらにリサーチデータを掛け合わせて発展させることにより、現実世界をデジタル空間上に再現する“デジタルツイン”を実現し、現在の状況を把握するだけでなく、その先の未来までも予測可能になることを目指して挑戦している。
エリアマーケティングから、観光分析、広告効果測定、都市計画、交通分析による渋滞の解消や事故予防、CO2削減量の測定など、幅広い分野での活用が期待される人流データ。どのように自分のビジネスや研究に活かすことができるのか、みなさんも考えてみてはいかがだろうか。
[目次]
- スマホ位置情報ビッグデータで人々の動きを可視化
“人流データ”から現実世界の今が見えてくる - “人流データ”を読み解くと、こんなことまで分かる
北陸新幹線延伸の影響から、交差点の危険度の推定まで - “人流データ×リサーチ”でマーケティングの解像度が上がる
歩く方向を踏まえた屋外広告の効果測定、来店しない人への調査も(この記事)
片岡 義明
フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。