地図と位置情報

位置情報付きの「地図アイコンNFT」発売へ。「ポイ活アプリ」海外展開も

地図会社のジオテクノロジーズ(旧インクリメントP)が新たな経営戦略

(C) GeoTechnologies, Inc.

 地図会社のジオテクノロジーズ株式会社は7月8日、同社の経営戦略について説明する記者発表会を開催した。同社の前身は、パイオニアの子会社で地図事業を手掛けていたインクリメントP株式会社で、2021年6月にパイオニアが投資ファンドのポラリス・キャピタル・グループに全事業を売却。その後、2022年1月に社名をジオテクノロジーズに変更した。今回の記者発表会では、同社の代表取締役社長CEOを務める杉原博茂氏が登壇し、今後の戦略について語った。

 杉原氏は、40年以上、IT業界に携わってきたキャリアを持ち、過去にはシスコシステムズや日本HPに在籍。2014年には日本オラクルの取締役代表執行役社長兼CEO、2017年には同社取締役会長に就任した。その後、2社の企業の代表を務め、2021年6月にインクリメントPの代表取締役に就任。2021年12月には東北大学グリーン未来創造機構の特任教授(客員)にも就任している。

ジオテクノロジーズ株式会社代表取締役社長CEOの杉原博茂氏

 杉原氏は2021年6月にパイオニアの子会社という立場から独立したジオテクノロジーズ(当時はインクリメントP)について、「28年かけたスタートアップ企業」と評している。「28年前に創業した当初は、『MapFan』がヒットし、売上も伸びましたが、その後の業績はフラットに推移しました。では、これから何をやっていくか、というのが面白いところだと思います」と杉原氏は語る。同社は中国の上海や米国のシリコンバレーなどに100%子会社を持ち、埼玉県にも子会社のグローバル・サーベイ株式会社を持つ。本社は東京都文京区にあり、岩手県にも開発センターがある。

 杉原氏は、ジオテクノロジーズのアイデンティティは“地図のメジャーカンパニー”であると考える。地図を作る会社は世界でもあまり多くない。それは、人の手によってリアルの情報をデジタル化していく作業には労力がかかること、そして、地図は今までカーナビや地図ソフトなどにしか使われていなかったため、あまり儲からないという状況があったからだと杉原氏は語る。

「膨大な地図関連データ」をもとに、新たなプラットフォームを開発

 それではこれからの時代はどうするのか。これを考えるにあたって杉原氏は、ジオテクノロジーズが現状においてどんな価値や資産を持っているのかを挙げた。

  • 40億枚の画像データ
  • 日本での携帯端末における採用累計台数は1億台以上
  • 8億アイテム以上の地図構成データ数
  • 4200万件以上の住所データ数
  • 700万kmの走行調査距離
  • 日本の道路総延長126万kmのデータ
  • スマートフォン地図データベース採用率100%
  • 1日10億件以上に上る、ポイ活アプリ「トリマ」の人流移動ログ
  • カーナビへのマーケットシェア33%
  • 社員の平均年齢37.1歳

 杉原氏は、地図作成に使うために整備した40億枚の画像データはこれまで、1回使ったら二度と使わなかったが、実はAIの教育用データ(アノテーションデータ)として使えると指摘。さらに、地図を構成する8億アイテム以上のデータをデジタルネイティブの状態で保有していることや、スマートフォン向け地図ではジオテクノロジーズ製の地図データ採用率が100%であること(筆者注:「Google マップ」およびiOSの「マップ」には、どちらにもジオテクノロジーズ製データが使用されている)などを挙げた上で、「これらは宝の山」と語った。

 同社はこのような保有データをもとに「Geo-Prediction Platform」というプラットフォームを開発し、これをさらに進化させようとしている。同プラットフォームは災害対策や環境問題、少子高齢化などさまざまな課題を解決できる可能性を秘めており、「ジオテクノロジーズが存続する価値はそこにある」と杉原氏は語る。

新たなプラットフォームを構築

目指すは「メタバースのリーディングカンパニー」、その成長戦略とは

 さらに杉原氏は、電子決済や暗号化資産、NFT、AR/XRなどの新しい技術にも言及し、ジオテクノロジーズはメタバースのリーディングカンパニーを目指すと語った。

 このような状況の中、杉原氏は2022年の成長戦略として、さまざまな要素を表した複数の球体が繋がり合う図を示した。

2022年の成長戦略

 中心には地図データを意味する「MAP CORE」があり、これを起点として、自動車業界での活用を示す「Auto Tech」、GIS(地理空間情報システム)や地図アプリなどでの活用を意味する「GIS Tech」、そして移動することで報酬を得られるM2E(Move to Earn)アプリ「トリマ」や、「Web3.0/ブロックチェーン/NFT」の最新技術、位置情報の解析ソリューションを提供する「ロケーションTech」などの分野が取り巻いている。そして、各分野から伸びる緑や水色の球体が具体的なサービスとなる。

 「1年前は『Auto Tech』と『GIS Tech』の2つだけでしたが、そこから発展して、海外市場も含めた、全てがつながっている世界観の中でビジネスを展開していくというのがわれわれの経営戦略です」と杉原氏は語った。杉原氏によると、2021年度は売上が前期比で40%増となっており、2022年度も30~45%増を目標として推移しているという。

「位置情報付きNFT」提供。ポイ活アプリ「トリマ」を提北米やアジアで供開始

 続いて杉原氏は、それぞれの戦略について具体的に説明した。

1)地図データ提供プロセスのDX

 これまでは人間の手で情報を収集し、更新を行って整備していた地図データベース「GPDB(Geo-Predictionデータベース)」を、AI/ディープラーニングとRPA(ロボティックプロセスオートメーション)、そして人間が三位一体となって更新情報を収集するやり方へと変えていく。情報の収集先はスマホなどの位置情報なども利用し、最新情報ができるだけ早く反映されるようなシステムを開発している。

地図データ提供プロセスのDX

2)位置情報が付いたNFTを提供

 地図データを活用し、位置情報を付加したNFT体験を提供する。第1弾として、日本各地の城をドット絵で表現した唯一無二のアイコン「GT Building Collection」を販売する。それぞれの城には位置情報が付加されており、同一のデザインは複数販売しない。将来的にはNFT化されたランドマークのアイコンを地図上に設置してルート検索できるようにする。

GT Building Collection
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 また、M2Eアプリ「トリマ」に登場するキャラクター「トリ丸」をモチーフとしたNFT「TORIMARU Collection」も販売する。こちらには位置情報は付加しないものの、キャラクターが身に着けるファッションの一部は新規書き下ろしで、こちらも同一デザインは複数販売しない。いずれの作品もNFTマーケットプレイス「OpenSea」内で購入できる。

TORIMARU Collection
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 このほか、オリジナルIPコレクション「推し街NFT(仮称)」プロジェクトもスタートする。これは各地域のコンテンツをNFT化して提供するというものだ。ユーザーが現地へ訪問することでNFTを獲得できるようにするなど、街を起点とした遊びやコミュニティを展開する。

「推し街NFT(仮称)」プロジェクトを始動

3)「トリマ」のグローバル展開

 移動することで報酬を得られるポイ活(M2E)アプリ「トリマ」をアジア太平洋地域や北米などグローバル展開する。米国やタイなど複数カ国に向けて10月にベータ版を提供開始し、12月に正式版をローンチする予定。トリマから得られるビッグデータにより、インバウンド訪問者向けに効果的なプロモーションを行いたい観光事業者や店舗に向けてデータを活用したり、来訪国や男女別などユーザー属性別にクーポン配布や効果検証が可能となる。

米国やAPACの英語圏を中心にシンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピン、インド、そしてローカル言語にも対応してタイにも進出する計画
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4)物流業界向けクラウドサービス「スグロジ」とドライバー向けアプリ「ジオドライブ」

 2024年4月に自動車運転業務に対して働き方改革関連法が適用されるのに伴って、時間外労働の上限規制が設けられ、ドライバー不足で日本の物流の維持が困難になる恐れがある。このような課題を解決するため、幅広い人が物流関係の仕事に就けるようにすることを目指して、物流向けの業務効率化クラウドサービス「スグロジ」を展開する。さらに、安心・安全な運転をすると報酬をもらえるアプリ「ジオドライブ」を年内に提供開始する予定。

物流業界の業務効率化を支援

5)未来の街の状況が分かる地図「MapFan 未来情報」の提供

 全国6000カ所以上の未来情報を掲載する「MapFan 未来情報」を提供中。店舗の開店・閉店情報や病院・保育所の開設情報、再開発の情報など3年先までの未来情報を掲載するとともに、デパートやショッピングモールで開催される約400件のイベント情報を地図に掲載する。

位置情報データ解析の「クロスロケーションズ」と資本・業務提携

 続いて、6月29日に資本・業務提携を発表したクロスロケーションズ株式会社の代表取締役を務める小尾一介氏が登壇し、杉原氏との対談も行われた。クロスロケーションズは、AIによる位置情報データ分析を行えるクラウド型データプラットフォーム「Location AI Platform(LAP)」を展開しており、LAPを活用することにより、スマートフォンなどから収集した位置情報をもとにさまざまな人流分析や集客を行える。

クロスロケーションズ株式会社代表取締役の小尾一介氏

 今回の提携により、クロスロケーションズが提供するLAPと関連製品に、ジオテクノロジーズが保有する地図データや地図関連技術、人流データを提供・実装し、LAPの機能の高度化やサービスの高品質化を行う。また、ジオテクノロジーズやLAPおよびその関連製品の販売も行う。さらに、両社はそれぞれの技術や経営資源などを持ち寄って新製品の共同開発と提供も行う予定だ。

 小尾氏によると、2017年の創業当時、位置情報の分析は小売店や消費財メーカーが顧客の動向を把握するために使われることが多かったが、コロナ禍によって「人の動きはどうなっているか」ということに大きな注目が集まり、来店客に限らず、全ての人の動きを可視化することが可能な、全業種・全領域でのファンダメンタルデータとして活用されるようになったと語った。

 LAPでは携帯キャリアの偏りのない、完全匿名化された位置情報ビッグデータを蓄積しており、その数は3000億レコード以上にのぼる。建物形状をピンポイントに指定して、分析対象の施設・店舗を設定することが可能で、クラウドサービスとして提供しており、ダッシュボード上にさまざまなウィジェット群を自由に配置できる。

杉原氏と小尾氏の対談

 一方、ジオテクノロジーズもまた人流データソリューションとして、位置情報を基準とした格安広告配信システム「トリマクーポン」や、位置情報スクリーニング機能付きのアンケートシステム「トリマリサーチ」などを提供している。杉原氏は、LAPとトリマクーポン/リサーチを組み合わせることで、精度の高い人流データを活用した正確なマーケティングが可能になると考えている。

 小尾氏によると、位置情報を使った広告は、従来は単純な緯度・経度しか使っていなかったが、LAPを使うことで過去の人の流れや今後の傾向などを含めた分析を行うことができるため、クーポンやリサーチを効率良く行えることに加えて、消費者の動向を調べることも可能になるとしている。杉原氏は、両社の共同事業により「未来を予測して、それに対応した施策を展開できる」と語った。

ジオテクノロジーズとクロスロケーションズの協業により、正確なマーケティングが可能に

ジオテクノロジーズしか提供できない価値がある

 杉原氏と小尾氏との対談に続いて、ジオテクノロジーズの新たな経営陣の発表が行われたのち、最後に常務執行役員CROの鈴木圭介がクロージングを行った。

ジオテクノロジーズの新経営陣

 「本日紹介したのは、われわれが持ついろいろなビッグデータや技術を使って提供できるサービスばかりであり、逆に言うとわれわれにしか提供できない価値がここにあるのではないかと思っています。地図はもともと移動するためのツールとして発展してきましたが、弊社はそれだけでなく、安心・安全、エコ、楽しみや喜びなどを付加価値として提供できる会社であると自負しておりますので、ぜひこれからのジオテクノロジーズに期待していただきたいと思います。」(鈴木氏)

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INTERNET Watchでは、2006年10月スタートの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」に加え、その派生シリーズとなる「地図と位置情報」および「地図とデザイン」という3つの地図専門連載を掲載中。ジオライターの片岡義明氏が、デジタル地図・位置情報関連の最新サービスや製品、測位技術の最新動向や位置情報技術の利活用事例、デジタル地図の図式や表現、グラフィックデザイン/UIデザインなどに関するトピックを逐次お届けしています。

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。