最新ニュース

日本の「リネージュ」ユーザーは集団活動が好き~東大池田教授が実態分析

ゴメス、2003年夏期の国内・海外旅行サイトのランキングを発表

UIS、永井豪などが登場する「コミックス・アニメ祭」を開始

インターネット接続利用者数、ブロードバンド加入者が1,100万人に近づく

1週間メールのない生活は「離婚よりストレス」~Veritas調査

OCN、Web上でホームページを作れる「ホームページ簡単キット」

NTT西日本、ブロードバンド回線を活用したVPNサービス提供開始

テックジャム、9,500円の検索キーワード解析ツール

オンライン音楽市場はまだ成長の余地あり~米Jupiter調査

BIGLOBE、直販サイトを集約した「BIGLOBE STORE」を開設

テレマン、31の離島で衛星ネットを活用した常時接続環境の整備構想

感染するとIEのパフォーマンスが低下するウイルス「Bingd」

CRLの研究施設公開イベントで、今年も“無線LANラジコン”が登場

米ISS、WindowsのRPCに関する脆弱性の有無をチェックできるツール

InfoSphereに@FreeD対応の固定IP付与サービス

総務省、電波再配分の給付金算定に関する報告書を公開

情報通信審議会、携帯技術やアニメ・ゲームを活かす「日本型新IT社会」提言

ITXと有線ブロード、企業向け光ブロードバンド事業で合弁会社設

NRIら、実証実験に基づいた無線LANの設計・運用サービス

IE用の国際化ドメイン名プラグイン「i-Nav」がRFCに準拠

OCNでアクセス集中によるDNS障害が発生。現在は復旧

ソフトバンクBB、必要な機能だけを追加利用できるセキュリティサービス

日本気象協会、患者が急増している熱中症の予防情報サイトを開設

日本語ドメイン名の普及に、残る課題はアプリケーションの対応~JPRS取締役

損保ジャパン、ネット上でリアルタイムに事故対応状況を照会できるサービス

シマンテック、感染するとうるさいウイルス「Lorsis」を警告

Web上のグラフィック技術「X3D」が国際規格へと一歩前進

著名なダウンロードサイト「Download.com」が殿堂入りソフトを4本発表

ノルウェーTelenor、航空機向けに衛星経由のパケットデータサービス

【連載】検索エンジンの裏側 第10回 Yahoo!のOverture買収で浮上した3つの疑問

【特集】

ホットスポットの2.4GHz帯は誰のもの?

 今年に入り、過熱気味となっている無線LANアクセスサービス。いわゆる“ホットスポット”は、試験提供を開始する大手通信事業者や無料スポットの普及を促す機器ベンダーらの取り組みとは裏腹に、これによってエンドユーザーの利便性が向上するとは必ずしも言い切れない状況だ。セキュリティーに対する技術的な問題が指摘されているほか、果たして採算ベースに乗るのかというビジネス面の課題も残されている。

 しかしそれだけでなく、特に事業者にとってスポットの展開、すなわち基地局の設置が円滑に進められるのかという大きな疑問もある。現在、ホットスポットで主に採用されている2.4GHz帯の無線LANシステムは、ご存知のように免許なしで誰でも基地局が設置できるものだ。他社の基地局からの電波干渉を防ごうと、まるで“陣取り合戦”のような混乱も起きつつある。ファーストフードやコンビニエンスストアチェーンとの提携がその典型だ。

 さらに今年春から夏にかけては、駅構内への基地局設置をめぐって、モバイルインターネットサービス(MIS)とJR東日本で紛争が繰り広げられた。この議論は、ホットスポットにおける2.4GHz帯という周波数の位置付けについて考えさせられるものだった。本特集では、この紛争から浮かび上がってきた、特に公共性の高い空間において無線LANアクセスサービスが普及するうえでの課題について考える。

●電気通信事業法に足元をすくわれたMIS

MISが東京都世田谷区の商店街に設置している無線基地局。駅ホームの屋根にこれと同様の基地局を、さらに公衆電話横のスペースなどにルータやメディアコンバーターなどを一体化した基地局「MISタワー」を設置する計画だった。いずれもスペース的にはJR東日本の鉄道業務に支障をきたすものではないのだが‥‥(関連記事
 電気通信事業者法第73条第1項に基づき、JR東日本の駅構内における基地局設置スペースの使用権取得を求めてMISが行なった認可申請は、2002年8月、最終的に総務省に退けられる結果となった。これにより、MISの無線ネット接続サービス「Genuine」の、JR駅構内における提供計画は暗礁に乗り上げてしまったことは、すでに本誌でもお伝えした通りだ。

 ただ、注意しなければならないのは、同規定はいわば土地収用法の方向性をくんだ規定であり、MISがこの申請で狙ったのは、同規定に基づく基地局設置スペース等の「公用使用権」の取得だったという点だ。2社の間で争点となっていた電波干渉などの問題を棚上げにして、基地局を設置することだけをあせった行動だったという印象は否めない。

 確かに、同社のようなベンチャーにとって、無線LANアクセスのような新規市場でいかに早くサービスを確立できるかが事業の成否を左右する。話し合いではらちが開かず、MISが電気通信事業者法第73条第1項を拠り所に突破口を開こうとしたのもわからないではない。

 また、この申請の結果、MISに公用使用権が認められることは、無線LANアクセスの普及を考えれば、それはそれで意味があったかもしれない。実際、総務大臣が電気通信事業紛争処理委員会に諮問した6月の段階では認可する方針が示されており、MISの取締役最高技術責任者で理学博士の太田昌孝氏も、総務省が同規定の適用について時代に見合った解釈を示していたことを評価していた。

 しかし、紛争処理委員会の答申はこれを覆すもので、MISの公用使用権を認めるのは適当でないというものだった。これは、裏を返せば、そもそも同規定が無線LANアクセスの存在に対応できるほどアップデートされたものではないことを示している。答申では、あくまでもこの公用使用権を取得する資格がMISにあるかどうかという観点からの判断に止まっており、電波干渉などの問題については言及されていないのだ。

 電気通信事業者法第73条第1項というMISのとった手段は結果として、2.4GHz帯の無線LANアクセスをとりまく本質的な問題とはずれたポイントでの結論を、それも自社に不利となるかたちで導くことになってしまった。

 それでは、そもそもMISとJR東に本の間で議論のきっかけとなった問題とはなんだったのか?

●議論のきっかけは電波干渉

「駅でワイヤレスインターネット体験!」の実験サービスは当初2001年12月までの予定だったが、期間延長につき現在でも実施されている。基地局設置場所は首都圏、仙台、札幌の10駅/約20カ所。実験に参加しているISPは9社に増え、アカウントの登録ユーザーは1万1,000人弱に達した(関連記事
 MISがJR東日本に対して、駅構内への基地局設置を申し入れたのは2001年9月。その時点で36駅/266カ所が計画されていたが、JR東日本では、電波干渉と安全性という2つの理由でこの申し入れを拒否した。

 実はJR東日本でもこの直前、日本テレコムと共同で、駅における無線LANアクセスの試験サービスを開始することを発表していた。また、駅員が列車の運行情報や乗り場案内をPDAから参照できるようにするための業務用の情報システムを、2.4GHz帯の無線LANを使って駅構内に整備する計画も進んでいた。

 異なるチャンネルを割り当てることで電波干渉を回避可能だという指摘もあったが、この情報システムは駅構内のあらゆる場所をカバーしなけらばならないため、複数のチャンネルが必要になるという。さらに、MIS以外にも基地局の設置を申し入れてくる事業者が現われることも考慮した。「すでに世間に広く認知されているサービスならば早い者勝ちで基地局の設置を認めてもいいだろうが、無線LANネット接続は黎明期のサービス。今の段階でMISだけにチャンネルを割り当てるわけにもいかない」(JR東日本総合企画本部経営管理部の西野史尚担当課長)と判断した。

 もちろん2社の間で交渉が重ねられたが、合意には至らなかった。JR東日本側は、電波干渉の問題を回避しつつ、MISのユーザーも駅構内で無線LANが利用できる方法として基地局のローミングを提案。一方、MISは独自のセキュリティーと基地局間のハンドオーバーをセールスポイントとしており、これらの機能が実現できないローミング案は到底受け入れられないものだった。

 あくまで自社基地局の設置を求めるMISと、ローミングで対応したいとするJR東日本。その後、2社の話し合いが平行線をたどったことから、MISは2002年3月、電気通信事業法第73条第1項に基づく裁定を総務省に仰ぐこととなったわけだ。

●駅構内の2.4GHz帯はJR東日本のものか?

 複数の無線LANシステムが同じ空間で運用されることで、電波干渉を懸念するのは当然のことだろう。しかもJR東日本の場合、インターネット接続サービスだけでなく、PDAを使った駅員用の情報システムにも無線LANを利用しているのだ。

 その一方で、2.4GHz帯は「ISM機器からの混信を許容しなければならず、必ずしも良好な通信状態が確保されるわけではない」「特定の者が特定の周波数を占用することなく、各無線局が相互に協調して運用すべきものである」(今回の紛争を電気通信事業紛争処理委員会に諮問するにあたって、総務省がとりまとめた審査資料より)。JR東日本の本来の業務である鉄道業務に利用しているからといって、電波干渉だけを理由に排他的に保護されるべきものとは言い切れない。

 もちろん、一般企業のオフィスビルや飲食店などの空間で無線LANアクセスの基地局設置を認めるかどうか、もしくはどの事業者を選択するかについては、当然ながらそのスポットのオーナーの意向が尊重されるべきだろう。しかし、今回は駅というきわめて公共性の高い空間である。ある無線LANシステムを保護するために、他の無線LANシステムの基地局設置を拒むことが認められるのかどうか?

 しかもMISの場合、携帯電話やPHSと同様に面的エリア展開を前提としている通信事業者だという点も考慮しなければならない。そのスポットの集客力に相乗りするかたちで、あるいはスポットのオーナーからすれば集客力アップにつなげることを目的とした、いわゆるホットスポット事業者とは性格が異なっている。

 例えば携帯電話やPHSは、駅構内にも基地局が設置されている場合があり、ホームでもサービスが利用できるようになっている。「携帯電話やPHSは、広くあまねく提供されるサービス。駅だけ穴が空いたのでは公益性が妨げられるということで、JR東日本と通信事業者で互いに協力協定を結んで、駅構内でもサービスが受けられるようにしている」(西野担当課長)一方で、MISの基地局設置を受け入れないというのでは矛盾する。

 確かに、現時点ではMISが本当に広くエリアをカバーしているとは言えない。実際、同社が総務省に裁定を求めたのは、乗降客のもっとも多い東京都内の6駅のみだ。「これでは駅の集客性に着目したものとしか言えず、公益性はない」(西野担当課長)との指摘もうなずける。

 ただし、今後、無線LANアクセスが、携帯電話やPHSのように広いエリアをカバーするようなサービスとして発展することも考えられる。鉄道業務用の情報システムも含め、駅構内に自社の無線LAN基地局だけを優先するわけにもいかなくなる可能性があるが、たとえそのような段階になったとしても、「公共性が高いとはいえ、駅はJR東日本という民間企業の所有地。例えば、丸ビルの1階は公共空間と言えるかどうか? 公共性が高いかどうか、どうやって判断するのかが難しい」(西野担当課長)。

●基地局設置のルール化に向けた課題

日本テレコムとの共同実験でJR東日本が基地局を設置している場所は、待合い室や喫茶店。ホームに設置している場所が2カ所だけあるが、ここはIPv6協議会の協力要請を受けて行なった「無線LANによるインターネット接続実験@成田エクスプレス」に対応したものだという。それにあたる東京駅の総武線地下ホームと成田空港駅は、ホームの幅が広く、乗降客も比較的少ないため、流動の妨げにはならないという(関連記事
 総務省ではMISの不認可処分を発表するにあたり、「地域アクセス網における競争を促進し、利用者利便の向上を図る観点から、今後、本件のような無線LANサービスを不特定多数の利用者が往来する公共的な空間において行なうことについても、電気通信事業法第73条以下の協議認可・裁定制度の対象となり得るよう、制度整備の必要性等について検討する」(総務省の報道資料より)としている。無線LANアクセススポットの拡大ペースを考えれば、1日も早い制度整備が望まれるわけだが、これにはまだ時間がかかりそうだ。

 総務省総合通信基盤局電気通信事業部事業政策課によれば、検討の具体的なスケジュールは未定だが、仮に省内で「制度整備の必要性あり」との結論が出たとしても、法律を改正するためには次期通常国会まで待たねばならないという。

 一方、紛争処理委員会の答申では、「本来、本件無線LAN設備を設置することについては、当事者間の話し合いによるべきである」と指摘している。法改正に時間がかかるというなら、このような話し合いが円滑に進められるよう、ガイドラインや事業者間協定などのかたちで業界内の調整を促すことも必要だろう。法的な拘束力がないとはいえ、即効的な対処法としても意味があるだろう。

 ただし、いずれにせよルール化を進めるにあたっては、単に無線LANアクセスの整備を加速できるようにすればいいというものではない。例えばJR東日本は、自ら無線LANアクセスを提供している事業者であるとともに、駅という今後解放が期待されるスポットのオーナーという立場から、総務省が制度策定に取り組むのであれば「ユーザーが便利に利用できるか、駅が安全に利用できるか、事業として発展できるかという3つの観点からの検討が重要。これらを実現するためには、鉄道事業者の意向を無視したかたちで実施されてはならない」(西野担当課長)と強調する。

 先述のように、JR東日本がMISの基地局設置を拒否した理由は電波干渉と、もうひとつ「安全性の問題」があった。MISがサービスを提供しようとした場所が駅のホームとコンコースだったためで、ラッシュアワーなどにホームの基地局周辺で立ち止まってノートパソコンなどを利用されては、乗降客の流動の妨げとなるというわけだ。ルール化にあたっては、基地局を設置する場所の条件についても考慮に入れなければならないだろう。

●2.4GHz帯は通信事業者のものではない

 さて、今回の紛争の当事者となった2社に限っていえば、いったん法による裁定の場に持ち込まれた以上、「当事者間の話し合い」の場に戻るのは難しいかもしれない。それは、たとえ早急にガイドラインが策定されたとしても、法的な裏付けがないものでは効果がないためだ。2社の議論は「もう法でしか裁けない段階」に進展してしまったのである。実際、総務省の不認可処分が発表された後、MISからJR東日本に対してのアプローチはないという。

 そして、無線LANアクセスの公共的な空間における提供の可否について判断を下せるルールが存在しないまま争点が店ざらしなっていることで、わりを食うのはMISだけではない。同社の加入者もしくは加入を検討しているようなエンドユーザーであり、これは何もMISのサービスだけに限ったことではないのだ。

 無線LANの2.4GHz帯は本来、JR東日本が導入しているような業務用も含めて、エンドユーザーのものであったはずだ。しかし、今回の2社の紛争やホットスポット各社の“陣取り合戦”からは、まるでそれが通信事業者のものであるかのような印象を受ける。その結果、スポットによってエンドユーザーの2.4GHz帯利用に制限がかかってしまっている。

 通信事業者の事業を円滑に進めるだけでなく、ホットスポットの2.4GHz帯をエンドユーザーのもとに取り戻し、無線LANアクセスが本当に利便性のあるサービスとして普及するために、基地局設置のルール化が急がれる。

◎関連URL
■モバイルインターネットサービス株式会社
http://www.miserv.net/
■JR東日本「駅でワイヤレスインターネット体験!」
https://www.jreast.co.jp/musenlan/

◎関連記事
■MIS、JR東日本の駅へ無線基地局設置に関して総務省に裁定を求める(Broadband Watch)
http://bb.watch.impress.co.jp/news/2002/04/08/misjre.htm
■MISの無線アクセス、JR駅への基地局設置に黄信号?
/www/article/2002/0730/soumu.htm
■MIS、JR東日本の施設を使用する認可を求める要望書を提出(Broadband Watch)
http://bb.watch.impress.co.jp/news/2002/08/02/mis.htm
■総務省、無線アクセス基地局設置の円滑化へ向けて制度検討へ
/www/article/2002/0808/soumu.htm

(2002/10/21)

[Reported by nagasawa@impress.co.jp]

INTERNET Watchホームページ

INTERNET Watch編集部internet-watch-info@impress.co.jp
Copyright (c) 2002 Impress Corporation All rights reserved.