検索エンジンはめくるめくような世界だ。そのパワーとスピード、影響力は日増しに高まっていっている。それは単に使いやすい便利なツールというだけでなく、豊かで力強い企業群をも生み出した。10年前、あるいは15年前には、検索エンジンがいまのような隆盛を迎えることを予測していた人はほとんどいなかったと思う。だから僕もこれから検索エンジンがどうなるかということを予言するのには慎重になってしまうんだけれど、でもとりあえずはWebの進化を予感させるようないくつかのトピックは紹介できる。これらのトピックは、検索エンジンの可能性を拡大していくような話ばかりだ。
■パーソナライゼーション
あなたのためだけに作られたコンテキスト検索をイメージしてほしい。人々の興味範囲や行動パターン、人口統計などの傾向をアップロードしておけば、特定の個人に最も適合するよう調整された検索結果を受け取ることができる。
たぶん将来の検索エンジンは、自己学習機能を持つようになるだろう。年齢や性別、住んでいる場所、検索履歴、クリック履歴、キーワード広告への反応、OS、使っているISPなどに応じて検索結果を調整するというシステムは、現在でもすでに登場している。クェリーに対してただ1種類の検索結果しか返さない、というのはたぶん時代遅れになっていくはずだ。
検索エンジンがパーソナライズ化されていくのは、そうした方向性を人々が好むであろうと検索企業が考えているからだ。でも理由はそれだけじゃなくて、パーソナライズ化された検索結果の方が広告がターゲットとして捉えやすく、広告主企業がそうした方向性を望んでいるからでもある。ターゲットをきちんと絞ることができれば、投資対効果(ROI)も高まるからだ。Googleは収益のほとんどを広告に頼っているが、ユーザーの居住地域に応じて広告のターゲットを変える手法をすでに採用している。
またYahoo!も、検索結果に「block」「save」というオプションボタンがあり、検索結果に表示されたそのURLを排除するか、My Webにキープするかを選ぶことができる(これはまだ日本語版のYahoo!には装備されていないようだ)。これも検索エンジンのパーソナライズのひとつだ。
広告主はさまざまな方法で自社キャンペーンをカスタマイズして、目的のユーザーに自社の広告をうまく届くようにしていくことができるようになる。ひょっとしたら今後は、ユーザーの側が広告をカスタマイズして、見たくない広告をブロックすることもできるようになるんじゃないかな。
パーソナライズ検索というのは要するに、検索システムがユーザーの行動――Webブラウジングやその他の慣習などを観察して、ユーザーに固有のプロファイルを作成するということだ。でもこの手法には、問題点もある。例えば人々の興味は時間とともに変わっていってしまうし、複数のユーザーで1台のパソコンを共有しているようなケースだと、利用形態がバラバラになってしまっている。また「この検索結果のURLが求めていた情報だ」と思ってクリックして、その行動が記録されたとしても、実はそのURLの先にはユーザーの求めていた情報はなかった――なんていうケースも考えられる。そうなると、間違った行動パターンがシステムに記録されてしまう。
さらに問題なのは、人間というのは慣れきった行動に安住する方が楽だということだ。行動を変えるのは面倒くさい。だからパーソナライズ化が進行すると、自分が以前に興味を持った内容だけしか検索結果に表示されなくなるというバイアスがかかり、人々が新たなものに関心を示さなくなってしまう。そうすると新しい情報はこの自己循環的なサイクルを突破できなくなり、人々のところに到達できないという問題が生じてしまう。
それからもちろん、プライバシーの問題も大きい。
■セマンティックWeb
検索エンジンの未来は、セマンティックWebともかかわってくる。Webページとそのリンクだけでなく、あるものごとがいったいどこに属しているのかとか、あるいはそれにかかったコストとか、いつ始まったのかといった「意味」も重要になってくる。現在のWebは単なるドキュメントでしかないが、セマンティックWebはドキュメントに加えて、その意味の判定を与えることができる。
セマンティックWebを提唱したTim Berners-Leeは、MarketingProfsのインタビューで、こんなふうに答えている。
「セマンティックWebを理解するのにいちばんわかりやすい方法は、現行のWebと比べてみることだ。いまのWebは、人々の求めている情報が含まれているかどうかを支援する目的で構築されている。一方セマンティックWebは、そのデータが持っている情報の分類を明確にするため、データをカタログ化しようとする。だからセマンティックWebの世界では、現在のWebとは別の次元による検索方法が可能になるということだ。もっとスマートで、実用的なリソースになると考えてほしい」。
要するにWebがもっとインテリジェントになるということなのだろう。Berners-Leeはこう続ける。「検索エンジンはWebの多くをインデックス化しているが、人々が本当に求め、必要としている情報を選ぶ能力はかなり貧弱だ」。
将来は、検索エンジンがより適切な検索結果を返せるようなさまざまな仕組みを、人々はあらたに利用できるようになるのだろう。将来の検索エンジンは、文脈までをも理解して検索できるようになると思う。
■URL
セマンティックWeb(日本語版ウィキペディア)
http://ja.wikipedia.org/wiki/Semantic_Web
MarketingProfsによるTim Berners-Leeのインタビュー記事(英文)
http://www.marketingprofs.com/5/updegrove1.asp
■Web2.0
あらゆるものが今や変化しようとしている。Web2.0というのは、世界中が常時接続でつながるという巨大なネットワークが、さまざまに提供しようとしている手法だ。Web2.0に寄与しているテクノロジーは数多く、例えばブロードバンドや安価なストレージ、モバイル機器、RSS配信、Ajax、Webサービスなど数えだしたらきりがない。でもWeb2.0という言葉が示そうとしているのはそうした特定のテクノロジーではなく、プラットフォームとしてのWebだ。
より多くの人々の参加というアーキテクチャのもとでは、ネットワークは多対多のコミュニケーションへと進化していくことになる。それぞれ独立し、分散して存在しているように見える世界中の開発者たちも、実はこの大きなシステムに寄与している。例えば
WikipediaやAdSense、Flickrなんかもそうだ。つまりはWeb2.0が示そうとしているのは、ロングテールのパワーなんだ。
■URL
検索エンジンの裏側:第47回 「長いしっぽ」が世界に革命を起こす
http://internet.watch.impress.co.jp/www/column/kensaku/050304.htm
■まとめ
検索エンジンがあなたのことを知れば知るほど、あなたにうまくマッチした広告が検索結果には表示されるようになる。そして検索エンジンは、広告を販売することで収益の大半を得ている。こうした利益構造が、検索エンジンをどこに向かわせていくのかということを考えれば――ぼくはかなり懐疑的だ。検索結果があまりにも商業主義的になってしまうと、信頼性が損なわれる可能性がある。
利潤を求め続けるアメリカ企業にコントロールされない検索エンジンという将来像があればいいのかもしれない。例えば赤十字とかアムネスティ・インターナショナルなどの非営利団体が運営する検索エンジンだ。セールスプロモーションのためではなく、インターネット上の情報にアクセスできるというのは、人々の基本的人権であるという理想のもとに、そうなればいいと思う。
(2005/08/11)
【著者プロフィール】 |
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・文=ジェフ・ルート(Jeff Root)
ECジャパン株式会社のSEOチーフスペシャリスト。日本には出たり入ったりで早や10年。メールアドレスは「jeff@ecjapan.jp」。日本語もOKなので、気軽にメールをくれると嬉しい。 |
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・翻訳=佐々木俊尚
元全国紙社会部記者。その後コンピュータ雑誌に移籍し、現在は独立してフリージャーナリスト。築42年の古い家で、犬と彼女と暮らす。ホームページはこちら。 |
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