■100ドルパソコンは開発途上国の子供たちを救えるか
マサチューセッツ工科大(MIT)のメディアラボが、開発途上国の子供に向けて独自の低価格パソコンを提供しようと考えている。今回、メディアラボはその第一歩として、One Laptop per Child(OLPC)というNPOを設立した。OLPCは開発途上国の政府にパソコンを購入してもらい、子供たちに配布してもらうことを計画している。
そのパソコンがどんなものなのか――OLPCのWebサイトを見ると、デザインスケッチが公開されている。MITメディアラボの所長で共同創設者であるNicholas Negroponteによると、ブラジルと中国、エジプト、南アフリカ、タイの各国がこのパソコンを最大100万台購入し、子供たちに配布することを決めているという。
Search Engine Journalで、Loren Bakerが興味深い記事を書いている。
「平均的なxDSLの料金は、ブラジルテレコムでは月額38ドルだ。それに加えて、ISPに月額10ドル程度を支払わなければならない。さらにモデムも必要で、ISPから130ドルほどで購入する必要がある。しかしブラジルの平均的な世帯の所得は月額220ドルから330ドル程度で、xDSLはブラジルの平均的な家族にはとうてい支払えない金額のサービスなのである。じゃあダイアルアップ接続はどうかといえば、こちらの方がさらに高価だ。なにしろ利用者は、電話会社とISPの双方に従量制料金を支払わなければならない。公共無線LANはサンパウロやリオデジャネイロの一部地域で提供されているが、それらの地域は上流・中流階級の住んでいる場所で、無線LANを本当に必要としている人たちの居場所には提供されていない」
ところでGoogleは、人々にもっとオンラインサービスを利用させようと熱心に働きかけている。最近のニュースを見れば、そんな話がいっぱい報道されているからご存知だと思う。
「Googleはグローバルな無線LAN――GoogleNetなどと呼ばれるサービスを開始するのではないかと言われている。無線LANが実装されているMITメディアラボの安価なパソコンが今後、開発途上国で普及していくことを考えれば、GoogleNetにはかなりの期待がかかっている」
GoogleがAdWordsなどの広告から上がっている莫大な収益を使って、開発途上国の人々をインターネットに接続させていくという将来像は、非常に興味深い。そしてこのビジネスモデルはもちろん、Google自身のマーケットシェアや収益もさらに増やすことができるというわけだ。
インターネットの帯域が高速化されるのに従って、Webベースのアプリケーションが動作速度などの点でデスクトップのアプリケーションに匹敵するようになってきている。例えばSun MicrosystemsとGoogleは共同し、Microsoft Officeに対抗できるWebアプリケーションを作っていこうという動きを見せ始めている。
CNETのこの記事では、以下のように書かれている。
「ここ何年もの間、コンピュータ業界では、デスクトップアプリケーションが特定のオペレーティングシステムと関連付いていることが常識となっていた。だが、過去8年間にわたって標準化が進められてきた開発技術AJAXが、より洗練されたWebアプリケーションインターフェイスを実現し、こうしたスタイルを変えようとしている。AJAXの支持者らは、こうした傾向が進展すれば、強大なマーケットリーダーであるMicrosoft Officeなどのデスクトップアプリケーションの支配力をそぐことができるとして、期待を募らせている」
Microsoft Officeに対抗できるWebベースのアプリケーションというのは、フリーランスや小規模な企業の経営者にとっては非常にありがたいアイデアでもある。
前出のGoogleNet関連でいえば、Googleは先日、サンフランシスコ全域に無料の無線LANホットスポットサービスを提供するという計画を提案している。
そうなるとこのサービスを利用する人のオンライン上の全行動はGoogleに把握されることになり、そのうちGoogleは利用者がネット上でどのような行動を取ったのかという細かいデータベースを構築することができるようになるだろう。Googleはこのデータベースをマーケティングリサーチのような会社に販売することもできるし、あるいはアメリカ政府が監視目的などでこのデータベースにアクセスするということもあるかもしれない。実際、政府はすでにISPのアクセスログなどを入手して特定利用者の動向を調べるといったことを行なっている。とはいえ、Googleがこうした計画を実行すれば、影響力はとてつもなく大きい。彼らはサンフランシスコ以外にこの計画を拡大するつもりはないと言っているが、しかし僕の思うに、そんなのは時間の問題だろう。つい3年前を思い返してみれば、当時の彼らは検索結果をユーザーに提供するという以上の計画は何も持っていなかったんだから。しかし今じゃ……ということだ。
僕が気になるのは、Yahoo! BBをはじめとする日本のISPはこのGoogleの動向にどう反応するかということだ。間違いなく、Googleの新ビジネスは既存のISPにとっては脅威となるからだ。
■URL
One Laptop per Child(OLPC)
http://laptop.media.mit.edu/
OLPCのデザインスケッチ
http://laptop.media.mit.edu/laptop-images.html
Search Engine Journalの記事
http://www.searchenginejournal.com/index.php?p=2279
CNETの記事
http://japan.cnet.com/news/ent/story/0,2000047623,20088137,00.htm
■Googleが求人広告に参入
求人広告代理店であるClassified Intelligenceのプレスリリースによると、Googleが求人広告への参入を計画しているという。求人広告の表示をオーガニックな検索結果に統合させるのか、それともイメージ検索や商品検索のFroogleのようにユニークなインターフェイスを持たせるのかについては、Googleはまだ何も語っていない。
アメリカでは、地方の新聞は収益の多くを求人広告に頼っている。もしGoogleがこの市場に参入することになれば、地方紙の多くはビジネスモデルを変更するか、もしくは市場からの退場を余儀なくされる事態にまでなるかもしれない。
「ブログ 世界を変える個人メディア」(日本語訳は朝日新聞社刊)の著書であるDan Gillmoreは最近来日し、東京での講演で、テクノロジーがいかにジャーナリズムに影響を与えるかということについて話していた。この本のPDFバージョンは、O'REILLYのサイトで読むことができる(英語版)。あなたがLawrence Lessigの本のファンだったら、Gillmoreの本も楽しく読めると思う。
それにしても、検索エンジン業界が我々の世界、我々の日常生活にどんどん入り込んでいっているさまは、まさに驚異的と言うしかない。一時代前だったら、こんな業界が登場するなんてだれも想像さえしていなかったはずだ。これからの時代、いったいどこまで行き着いてしまうのだろうか? 僕らの生活のうちどれだけの割合が、こうしたメディア企業の中に取り込まれていくようになるのだろうか?
■URL
「ブログ 世界を変える個人メディア」(原題・We the Media)のPDF版
http://www.oreilly.com/catalog/wemedia/book/index.csp
Lawrence Lessigの書籍(Amazon)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/search-handle-url/index%3Dbooks-jp%26field-author %3D%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%83 %83%E3%82%B7%E3%82%B0
(2005/10/12)
【著者プロフィール】 |
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・文=ジェフ・ルート(Jeff Root)
ECジャパン株式会社のSEOチーフスペシャリスト。日本には出たり入ったりで早や10年。メールアドレスは「jeff@ecjapan.jp」。日本語もOKなので、気軽にメールをくれると嬉しい。 |
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・翻訳=佐々木俊尚
元全国紙社会部記者。その後コンピュータ雑誌に移籍し、現在は独立してフリージャーナリスト。築42年の古い家で、犬と彼女と暮らす。ホームページはこちら。 |
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