第1回:いつでもどんな端末でもブラウザさえあれば読める「Google eBooks」

グーグル株式会社・佐藤陽一氏


 2010年は電子書籍元年と言われる。iPad発売から電子書籍が注目を集め、日本語表現の壁からなかなか進まなかった日本語の電子書籍市場も、規格を決めいよいよ市場も本格的に立ち上がろうとしている。市場の立ち上げ期ということで、さまざまな人や企業がそれぞれ異なる分野と方向で新しい市場を作ろうと取り組み、いわば群雄割拠の時代となっている。このシリーズインタビューでは、サービスベンダー、メーカー、出版社、著作権者などさまざまな立場のキープレイヤーに話を聞き、それぞれが思い描く電子書籍市場のビジョンとアプローチをお伝えしていきたい。

 第1回は、米国で300万冊を揃えて「クラウド上に本棚が置ける書店」としてスタートしたGoogle eBooksについて、グーグル株式会社でGoogleブックス担当マネージャーを務める佐藤陽一氏に話を聞いた。

出版の幅の広さや深さを感じてもらえる品揃えが理想

Googleブックス担当マネージャーの佐藤陽一氏

―― 米国ではGoogle eBooksは300万冊を揃えてスタートしました。日本でも今後サービスの開始をアナウンスされていますが、日本ではどのぐらいの規模になるのでしょうか。

佐藤:このぐらいの規模にならないとリリースしない、といったことは考えていません。どんな規模でも、時期が来て準備ができればサービスをスタートしたいと思っています。タイトル数は、出版社側が電子書籍として販売できる本がどのぐらいあるかによりますので、こちらでは決められないんです。

 ただやはり、ユーザーから見たときには、多く並んでないとがっかりしてしまうということもあります。その時点で販売できるものは広く多く揃えたいとは思っています。

―― 大手出版社の書籍が中心になるのでしょうか。

佐藤:いえ、もちろん大手出版社の書籍も大事ですが、Googleブックスの肝は書籍の全文検索です。そのため、大手出版社さんだけではなく、中堅の出版社さんや小さな出版社さん、地方の出版社さんなど、なるべく広くご参加いただくことで幅を持たせ、さすがGoogleだと言っていただければと思います。出版の幅の広さや深さのようなものを感じてもらえる品揃えになるのが理想です。

米国でサービスが始まったGoogleの電子書籍販売サービス「Google eBooks」書籍の検索サービス「Googleブックス」には既に日本の出版社も参加している

―― 書籍の検索サービスGoogleブックスは日本でもすでに始まっています。Google eBooksで販売されるタイトルはGoogleブックスに登録されていることが前提となりますが、日本におけるGoogleブックスの対応状況は。

佐藤:国別の数字は出していませんが、IT系の出版社を中心に参加はどんどん増えていますし、もちろんIT系以外の出版社にもご対応いただけています。Googleブックスで検索できる出版社さんはこれからもどんどん増えていくと思いますし、いま検索できない出版社さんにも、Google eBooksのスタートまでにはご参加をいただけるだろうと思っています。そのままこの勢いをキープしつつGoogle eBooksの態勢を整えていければと考えています。

―― 独自に電子書籍に取り組んでいる出版社もありますが、そうした会社でもGoogle eBooksに参加するところは多いのでしょうか?

佐藤:はい。現在お話をうかがっている中では、独自のサービスを展開しつつ、Google eBooksなどのプラットフォームにも展開していきたいという意向を持っている出版社がけっこう多くあります。

ウェブ版とダウンロード版の関係

―― 電子書籍については、配信方法によって採用フォーマットも異なり、独自フォーマットを採用しているところもあると思いますが、フォーマットについてはどのように考えていますか。

佐藤:Google eBooksでは、扱えるフォーマットはEPUBとPDFになります。独自フォーマットを採用している場合でも、出版社側ではPDFは持っている場合も多いので、そのPDFを提供いただければと思います。

 EPUBについては、縦書きやルビの対応など、日本語独自の表現への対応などについても標準化の作業中ですので、状況を確認しているところです。ただ、これは少し意外だったと言いますか、縦書きにこだわらない技術書や学術書などでは、すでにEPUB形式の電子書籍も作っている出版社がけっこうあって、われわれが思っているより最初の段階からEPUBの点数もあるかなという印象を受けています。

―― すでにXMDFで出されている電子書籍についての対応は考えていますか。

佐藤:出版社がXMDFだけで持っているのか、PDFでも持っているのかなど、そうした状況はまだよくつかめていない点もありますので、これから見ていきたいと思います。たとえば、非常に多くの書籍がXMDFでしか存在していなくて、それをGoogleでも売りたいというお話をいただけるようでしたら、対応を考えたいと思います。

―― 出版社の持っているフォーマットに対応していくということでしょうか。

佐藤:そうです。また、ユーザーのニーズがどのぐらいあるのかでもあります。

―― 基本的には、Google eBooksはウェブブラウザーで読むのが中心のサービスになるのでしょうか。ダウンロードサービスはどのような位置付けになるのでしょうか。

佐藤:そうですね、ブラウザーで読めるのを大前提としつつ、出版社さんから提供いただければダウンロードもできるようになるという形です。自分が好きなビューアーで見たいというニーズ、PDFやEPUBでダウンロードできることが大事というユーザーもたくさんいると思います。そうした方々のためにも、ファイルをダウンロードできたほうがユーザーのためになるかと思います。

 ただ、ブラウザーでの表現やブラウザー自体の技術も、これからも進んでいくと思います。そのため、ダウンロードの重要性は少しずつ減じていくのではないかという気はしています。

Google eBooksの対応デバイス。Kindleは現時点で非対応

―― Google eBooksではiPhoneやAndroid向けの専用アプリも提供していますが、この専用アプリはウェブ版の電子書籍を見るものなのでしょうか、それともダウンロード版を見るものなのでしょうか?

佐藤:基本的には、ウェブ版を見る際に使い勝手がよくなる専用アプリを用意しています。

―― PDFやEPUBに対応しているビューアーならどれでもGoogle eBooksの書籍を見られるのでしょうか? たとえばKindleはどうですか。

佐藤:いまのKindleですと、DRMの方式が違うので見られません。PDFやEPUBに関してはAdobeのDRM(Adobe Content Server)を使いますので、これに互換の仕組みでなければ見られません。

 ウェブ版をPCなどのブラウザーで見るのであれば、DRMは関係ありません。基本的には普通のブラウザーであれば見られるような設計にしていますし、認証もGmailなどのほかのGoogleアカウントと同じです。DRMはファイルをダウンロードしたときだけ保護をかけるということです。

―― スマートフォン以外、日本の従来型の携帯などには対応の予定はあるのでしょうか。

佐藤:いまのところは予定していません。

―― ダウンロード版では必ずDRMが付くのでしょうか。

佐藤:DRMを付けないで出すこともできます。ファイルのダウンロードを許可する場合、DRM付きにするかDRM無しにするかは出版社が選択できます。

―― コピーの回数制限などのコントロールは可能なのでしょうか。

佐藤:細かい点は日本語版ではまだ詰めていないので、これから協議しながら考えていくことになると思います。海賊版や不正コピー流通については敏感になっているところも多く、制限などサービスイメージについての問い合わせも多くいただいています。

―― 販売地域の制限などはできるのでしょうか。

佐藤:国単位のコントロールはあります。米国でのサービスも、現在は米国内限定販売という形でスタートしています。日本でスタートするときに、日本国内の限定になるか、あるいは日本の本をグローバルに展開できるかについては、まだ調整中です。

―― キャンペーン価格などは設定できるのでしょうか。

佐藤:出版社側の管理画面から設定できます。発売後最初の1週間はキャンペーン価格で割引販売するなど、一定期間は金額を変更するといったことはできます。

―― Googleブックスで検索して出た本が縦書きだと、PCの画面では縦にスクロールしないと読めないということがあり、読みにくいと感じることが多いのですが、そのあたりは何か対処を考えていますか。

佐藤:縦書きだと読みにくいことがありますね。縦にスクロールしないで済むよう文字サイズを小さくすると、今度は文字が小さすぎて読みにくいとか。これは悩みどころでして、ブラウザー版の画面設計ではなるべく画面を広く使えるようにするといった工夫はしています。

―― Google自身が専用書籍端末を開発する可能性はありますか。

佐藤:私はハードウェア開発などの情報は持っていないので、なんとも言えません。ただ、私としては、Googleブックスはウェブブラウザーさえあればどんな機器でも読めるのが大きな特徴の1つですので、PC、タブレット、スマートフォンなどどんな端末のウェブブラウザーでも見やすいようにしていくのが、Googleブックスとしては大事だと考えています。

とりあえず販売してみるときのハードルを下げる

―― やはりどうしてもサービスとしては品揃えが気になりますが、出版社がGoogle eBooksに参加するメリットは何でしょうか。

佐藤:まず、Googleブックスとして本が検索できるようになる点があります。Googleブックスでは本を電子化し、上限20%までは試し読みができるようになっていますが、それを有料で販売するのがGoogle eBooksになります。

 たとえば古い本など、これから電子化するためのコストはかけられないといった本も多いと思います。一方でユーザーとしては、スキャンしたイメージでもいいから欲しいという場合もあるわけです。そうした紙の書籍をGoogleに送っていただければ、ページのスキャンやOCRを施して、検索できる状態でGoogleブックスでオープンにできるわけです。出版社さん側から見て、大きな投資をせずに電子書籍のラインナップを揃えることができるという利点はあると思います。

―― 紙の書籍をGoogleに送ってスキャンしてもらう場合、手数料などはどうなるのでしょうか。

佐藤:スキャンの手数料などはかかりません。無料です。

―― 無料で電子書籍版ができるなら、とくに人手が足りない中小の出版社にはありがたいですね。

佐藤:そうですね。電子書籍化というとハードルが高いと思われている出版社さんもいるでしょうし、コストをかけてまで参入するのは厳しいという出版社さんも少なくはないでしょう。そもそも、Googleブックスは本を検索可能にするためにすべてのページをスキャンしていて、それを有料で100%読めるようにするのがGoogle eBooksということですので、出版社さん側のハードルとしては低いと思います。本をお送りいただければこちらでスキャンしますので。

 ユーザーの利便性から見れば、たとえばモバイル系のデバイスで最適なフォントサイズで表示したりすることを考えると、電子ブック形式でないと使い勝手は良くないかもしれません。一方、PCで調べものをする場合に読みたい書籍などは、紙の書籍をスキャンしたものであっても、PCで見られれば十分という場合も多くあります。OCR処理をしますので、検索もできますから紙の書籍を上回る利便性もあります。できるだけ間口を広く、たくさんの書籍を提供したいと考えると、やはりPDFで提供することがコンテンツ提供側からみてハードルが低いと思います。

「Googleブックス」で検索できる書籍のうち、出版社が許可した書籍を「Google eBooks」で販売するGoogle eBooksでの販売にはGoogleブックスへの参加が必要

―― Google eBooksでも最初はスキャンした本の方が多くなるのでしょうか。

佐藤:当初は多くなるかもしれません。「出版の広さや深さ」と申し上げたのはそこで、人気のある本が電子ブック形式で販売されているのも重要なのですが、もう一方で、絶版になった本やなかなか入手できない本などが読めるというのがGoogleブックスの特徴だと思います。

―― 紙の書籍が大量に来ると処理が大変そうですが。米国では現在どのぐらいのスピードで紙の書籍をデジタル化していますか。

佐藤:通常は、紙の書籍を送っていただいてからデジタル化して検索可能な状態になるまで6~8週間、場合によってはそれ以上かかることもあります。PDFなどで送っていただく場合は、1週間から10日前後ですね。

 ですので、新刊などで書店店頭と合わせてプロモーションしようという場合ですと、PDFで送っていただかないと間にあわないケースがあります。一方、必要な人が買いに来るというタイプの本で、それほど急がなくていいのであれば、紙の本を送っていただいて、デジタル化することもできる。出版社には目的に応じて、切り分けて使っていただけると思います。

書店には本との出会いがある

Googleだけでなく、他のオンライン書店でもGoogle eBooksの書籍を販売する

―― 米国でのユーザーの反響はどのような感じでしょうか。

佐藤:Google eBooksは始まってまだ間もないのですが、ずいぶん高い評価をいただいているように思います。ひとつには、ウェブブラウザーさえあればどんな機器からも読めるという特徴が比較的受け入れてもらえているという感触があります。また、サービスの規模も、米国ではこれまでKindleが圧倒的でしたが、それにひけをとらないぐらいのラインナップを揃えられています。販売している本だけでなく、米国の場合はパブリックドメインの本が利用できるという点も大きいと思います。

―― オンライン書店との提携も発表されましたが、検索サービス以外にはどのように提携していくのでしょうか。

佐藤:Googleブックスでは、本の検索結果からその本を紙でも電子でも買えるようになります。目的がはっきりしてる人にとっては検索でもいいのですが、一方で「最近何か面白い本が出ていないかな」と思って書店に行き、最近出た本や評価の高い本、最近売れている本などを眺めるような、そういう形の本との出会いもあります。

 そうした書店での本との出会いは、ウェブの場合もGoogleブックスよりは書店サイトで起きるものだと思っています。オンライン販売をしている書店さんにGoogleブックスから誘導するというのももちろんありますが、それ以上に、本を買うという通常の流れから書店のサイトに行った人が、その中の選択肢としてGoogle eBooksの電子書籍も買えるようになっているというのが大事かなと思います。

―― オンライン書店のサイトで、「この本を買う」というボタンの下に、Google eBooksの本を買うというボタンが付いているというイメージでしょうか?

佐藤:そうです。本屋さんから見れば、紙の本にプラスして電子本を品揃えとしていただけるわけです。ユーザーにとっては、便利な方を選んで購入できるようになります。

―― 書店との連携はどのくらい進んでいるのでしょうか。

佐藤:現時点で確かな事例としては、米国で発表があった際に公式ブログで紹介していた3社(Powell's、Alibris、American Booksellers Association)しか私も把握していませんが、このあとどんどん増えていくだろうと思います。

―― 日本ではどうでしょうか。

佐藤:メジャーなオンライン書店さんとは、Google eBooksのスタートに向けて話し合って、なるべくご参加いただけるように働きかけたいと思っています。

 また、米国では中小の書店さんの連合体との連携も進めています。日本でも同じように、たとえば、社会学関係や自然科学の一分野など、特定の分野に強い書店さんと連携できると面白いなと思っています。

―― リアル書店との連携は?

佐藤:はい、連携ができるといいですね。Google eBooksではAPIも提供していますので、たとえば、書店店頭の在庫検索端末で探して、在庫がないときには電子書籍を紹介するといったこともできると思います。そのあたりは、これからいろいろやってみながら、どうすればユーザーに喜ばれるかをトライしていけるといいかなと思っています。

反発でも120%の取り組みでもなく、落ちつきどころが見えてきた

―― Google eBooksでは、出版社の取り分は売上の51%以上と発表していますが、これは低すぎるという反応もあるのではないでしょうか。

佐藤:たとえば他社さんでは70:30といった数字が出されていて、Googleは取りすぎではないかという声も中にはあります。

 51%というのは、あくまでいちばんミニマムな条件です。たとえば出版社さんから、最初にある程度の冊数を出すというコミットメントをいただける場合には、よりよい数字を提供する用意はあります。それがわれわれにとっても出版社さんにとっても、Google eBooksがユーザーに受け入れられて離陸するために大事なポイントだと思っています。

 また、紙の本をわれわれがトータルで電子化して提供しますので、そのぶんのコストもあわせてご判断いただければ、決して低くないと判断されるケースもあるかと思います。

―― 佐藤さんは出版社出身と伺っていますが、Google eBooksへの出版社側の反応はどのような感じなのでしょうか。

佐藤:最初は、「書籍のデジタル化」のメリットがそもそもよくわからないとか、あるいは価格破壊や不正コピーといった問題で脅威に感じているといった認識を強くお持ちの方も多かったですね。それも気持としてはわかります。

 しかし、ここ1年ほどで、デジタル化の流れは避けるべきものではないし、避けられるものでもないといった認識を出版社の方も強く持って、比較的積極的に対応を考える方向に完全に切り替わったと感じています。

 これは繰り返し言っているのですが、デジタル化が紙をまるまる置きかえるとは思っていません。一部については、デジタルで持っていれば紙はいらないとか、逆に紙があればデジタルはいらないという場合もあるでしょう。しかし、両方が必要な場合もいくらでもあって、おそらく市場はハイブリッドで進んでいくと思います。そのあたりの落ちつきどころが、出版社さんのほうでも見えはじめたかな、という印象はあります。

 また、これまでは「スキャンしてPDFにしただけで電子ブック?」という気持ちもあったかと思います。でも、それもアリなんだ、そこに価値を見いだす読者もいるんだという認識も生まれてきていると思います。「電子書籍」というものがものすごく大きな取り組みだというイメージも強かったと思うのですが、意外に身近な取り組みからスタートできるという認識が出てきたかもしれない。

 ともすると、紙の100%の代替物以上のものを作ろうとして、ハードルが高く感じていたかもしれません。ただ、120%の完成度の電子書籍が10タイトルあるよりも、そこまでいかなくても1000タイトルの電子書籍があったほうがいいというか、やはり本のマーケットでは幅とスケール感のほうが重要なので、出版社の考え方もそちらに少しずつシフトしている感じはします。

 大きな書店さんに行けば、何十万冊という本が並んでいる中で、電子書籍で数千タイトル揃えたといっても本当にわずかですよね。そういう意味でも、Google Booksでは深さや広さをしっかり打ちだしたいですね。

―― 最近刊行されている電子書籍ではスマートフォン向けの専用アプリも多くなっていますが。

佐藤:専用アプリにすると、将来的に管理が難しくなって困る人が出てくると思っています。Google eBooksでは、クラウドの書棚に本がどんどん入って、いつでも読めるし検索もできるし、ダウンロードもできる。本はやはり一冊二冊ではなくて、何十冊何百冊と使っていくものですよね。将来的な管理や使い勝手を考えると、専用アプリや規格の乱立などは、あまりユーザーのためにいいことではないような気がしています。

 ただ、専用アプリではコンテンツとしていろいろな仕掛けもできますので、出版社さんとお話しをしていると、Google eBooksでもそうしたことは可能ですかという相談もあります。日本でそうしたニーズが盛り上がるのであれば、考えながら対応していくことになるでしょうね。

雑誌やマンガ、アダルトは?

―― シャープの「GALAPAGOS」では、新聞や雑誌が手元に届くという点をアピールしていますが、Google eBooksでは定期刊行物は扱うのでしょうか。

佐藤:新聞や雑誌などの定期刊行物に対して、Googleブックスの枠組みの中では、特に何か対応をするという段階ではありません。

 ただ、日本の出版社さんとお話をしていると、雑誌をやりたいという希望が強いんですね。やはり雑誌はすごく面白いですし、あるいはユーザーさんにとっても、雑誌のバックナンバーは後で買うのも難しいので、引っ越しのときになかなか処分できない経験をお持ちの人も多いと思うんですよね。そのあたりを、Googleブックスの枠組みかどうかは別にしても、なにか対応できればいいなと思います。

 ただ、雑誌の場合は、出版社側の権利処理が圧倒的に大変です。また、Googleブックスの英語版ではLifeなどの電子雑誌に出版された時の広告もそのまま載っているんですが、日本では電子雑誌にするときに広告ページは抜いて出すと聞いていますので、そういったところも含めて、出版社さんの処理とかビジネス慣行が、まだ電子版に対してこなれてない感じがします。

―― 日本の市場ではマンガの占める割合も大きいと思いますが、マンガへの対応は。

佐藤:マンガも、積極的にやっていきたいと思っています。英語圏の書籍は圧倒的に文字が中心ですが、日本の場合はグラフィカルな表現も多いですし、マンガやムックなどいろいろバラエティに富んでいます。本を見るときにも、検索するときにも、とにかく書籍はすべて揃えて、快適に使ってもらえるようにするのは大事かなと思います。

―― アダルトコンテンツについてはどういう方針でしょうか。

佐藤:アダルトは、扱いが非常に難しいですね。ひとつはっきり申し上げられるのは、Google eBooksとして販売するかどうかと、Googleブックスで検索可能にするかどうかということは分けて考えています。Googleブックスの検索対象としては、アダルトだからということで受け入れを拒否することはしません。

 ただ、販売については、もちろん抑制的にですが、制限をかけざるを得ないケースも想定されるかなと思っています。どんな本でも販売しますとはお約束できない。リアルな書店で販売されているのと同じように、ある程度のガイドラインに沿って判断しながら、対応を考えていかざるを得ないと思います。

―― 米国のサービスでは年齢制限などの仕組みはあるのでしょうか。

佐藤:特に持っていません。一般的なルールとして、ユーザーから連絡があれば調べて、一般への販売に適さないようであればなんらかの対応をとる、もしくはなんらかのフラグを付ける、というような仕組みを考える必要があるかもしれないという段階です。

―― ユーザー登録の際に年齢の確認が必要になったりすることもあり得るのでしょうか。

佐藤:たとえば、リアルな書店で本を買うときに、毎回年齢を証明するものを見せろと言われることは、基本的にはないわけです。われわれとしては、GoogleブックスでもGoogle eBooksでも、リアルな環境の中で本を買うのと同じ自由度を作りたいという気持ちが、設計思想の中のすごく大きなところにあります。

―― ウェブ検索にも「セーフサーチ」のような仕組みがありますが、それと同じようなイメージでしょうか。

佐藤:いわゆるペアレンタルフィルタなど、一般の検索と同じような仕組みでできるのが、一番好ましいでしょうね。

 ウェブブラウザーさえあればPCでもタブレットでもスマートフォンでも本が読める、というのがGoogleブックス/Google eBooksの重要なコンセプトです。同時に、実際に書店に行ったときと同様に、目についた本を自由に手に取って試し読みし、気にいったら買う。できるだけ、実際の書店で自由に本に触れられる環境に近い環境を作りたいと考えています。


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(高橋 正和 / 三柳 英樹)

2010/12/20 06:00