テレワーク、空いた時間でなにしてる?

【一坪農園その1】引っ越して手に入れた猫の額のような庭を「畑」にしたい!

 テレワークグッズ・ミニレビューの記事で書いたが、筆者は、半年ほど前に引っ越した。

 もともと、賃貸の3LDKのマンションに住んでいたのだが、1kmほど離れたところに屋内駐車場のあるテラスハウスを見つけたのである。築35年と古くてボロいが、ガレージがあり、書斎があり、リビングも広い。子育ても終わったので、趣味の城として、壊れてる所は直しながら住もうと思って引っ越した。

 もうひとつ惹かれたポイントが、ほんのわずかだが庭があることだ。東京に出て来て30年。アパートやマンション暮らしで、地面がなかった。わずかながらでも、地面があるというのがうれしかったのだ。

クルマとバイクと自転車を入れられる広さのあるガレージ。少しカビ臭いので、掃除しなければならないが……これでやっとバイクが買える!

やっと手に入れた(賃貸だが)1坪の『地面』

 実は、筆者は『ベランダガーデニング』に関する書籍を作ったことがある。

 もちろん、記事は専門家に書いてもらったが、多少は実体験もしたので、ベランダで園芸をする難しさもよく分かった。ベランダは、乾燥しやすく、暑くなりやすく、寒くなりやすい。しっかりと手をかけないと、上手に育てることができないのだ。

 それに対して、地面があれば、飛躍的に園芸はしやすくなる。大地と接していることにより、乾燥しにくくなり、温度の上下も減る。全体の質量が大きくなるから、いろいろなことが変動しにくくなるのだ。

 また、同じ頃、所属していた出版社で、小田原の薮を借りて、それを切り払い開拓して、小さな郊外農園を営んでいたこともあった。

 15年ほど前のことだったろうか。「何か、本のネタにしようよ」と言いつつ、何人かで、木を切り、薮を開いて、小屋を建て、畑を作ったりしていた。ちょうど鉄腕ダッシュのような感じだ。

 雑誌作りの間に、週に1回ほど行って作業しているだけだったので、野菜はあっという間に虫に食われたりして、なかなか上手くはいかなかった。畑仕事は、週1の小田原行きでまかなえるほど容易なものではないと思い知ったというわけだ。

小田原で薮を切り開いて作った畑。小屋やピザ窯も自分たちで作った

 だから、自分の家の『庭』で畑作りができるとなると、やらない手はないと思えた。ガレージがある。書斎が持てる。リビングが広い……に続いて、小さいとはいえ地面がある……というのも引っ越す理由のひとつだった。その分、家賃は上がり、駅から遠くなり、建屋はボロくなるのだが。

在宅勤務にガーデニングは最適

 説明が遅れたが、コロナ禍で在宅勤務などを経験したのと相前後して、勤務していた出版社が会社更生法適用となった。簡単にいえば倒産したのである。

 外出も不便な時期に資産を継承した会社に編集部ごと引き取られたのだが、新しい会社にはリモートワーク前提ということで自分の席もないし、居場所もないような気がして会社を辞めた。だから、リモートワークがそのままフリーランスになったというわけである。これで勤務時間に縛られる必要もないので、いつでも畑仕事をできる。

 とはいえ、仕事相手である各編集部や、取材先であるIT系企業の方々は、月~金の通常の時間に働いておられるのだから、筆者もだいたいはそれに倣って働いているし、新米フリーランスというのは気持ち的に不安なものだから、時間を問わず、ヒマさえあれば原稿を書いてしまっている。

 それでも午前中に、畑の様子を見たり、水をやったりするぐらいの時間はある。昼夜問わず、編集部に詰めっきりだった時代にはできないことだ。これはこれで幸せなことだと思う。

畑を作るのからして、なかなか大変

 さて、とはいえ、狭い土地だ。

 『庭』というよりは、無愛想な壁のベランダと、隣の駐車場のすき間のわずかな空き地である。

庭というよりは、わずかな『空き地』。奥に立つのは息子。今は、台湾の大学でコンピュータサイエンスを学んでいる

 東半分にはツツジなどの植木も植わっているので、使えるのは文字通り、一坪あるかなしか。しかし、ささやかながら、人生で初めて得た、自分が好きに使える土地である(賃貸だけど)。

季節がめぐって、ゴールデンウィーク前の『空き地』。前の住人は何も使っていなかったようだ

 庭木をある程度剪定したり、雑草を抜いたりするのも楽しみだが、やってみると地下には雑草の根と、強力なツタの根が縦横に走ってると知った。

 さらに、畑の予定地には、直径10cmぐらいだが、切り株が埋まっていることに気が付いた。放置してもいいのだが、ただでさえ少ない『耕作地』が、より狭くなる。

 根の横を掘ったのだが、掘っても掘っても根は抜けない。

小さな切り株だと思ったが、掘っても掘っても取り除けない

 何年も前に切られたであろう木の根が、こんなに深く地面に食い込んでいようとは。森や林、そして公園などで見る木は、こんなに深く地面に根を生やしてるのだ。

 日曜日の前半すべてを使って汗だくになって『木の根っこ』と格闘した。森を切り開き、薮を払って畑を作ったすべての人類がこの苦労をしてきたのだと思うが、こんなに大変だとは思わなかった。トラクターもユンボもない時代の人は、人力でこの作業をやってきたのだ。鉄の鍬やスコップでさえ、ここ数百年のことだろう。それより以前の人々がどうやって、木の根っこと闘ってきたのか、想像もつかない。

 最終的に抜けなかったので、ある程度のところでノコギリで切って、良しとすることにした。野菜を植えるには問題ないぐらいのところまで、取り除くことができたと思う。

取ったどー! という感じだが、最終的には地中深くの根をノコギリで切った

 木の根っこを取り除いてできた2m四方ぐらいの土地を『一坪農園』として、耕すことにした。

肥料の組成に、植物と動物の自然のサイクルを学ぶ

 幸いにも、筆者には師匠がいる。関西に住む妻の父、つまり義父が、定年後に家庭菜園に凝っているのだ。地方のことなので、土地は広く50坪ぐらいの土地が家の前にあり、その土地で四半世紀にわたって、家庭菜園をやっている。

 仕事一辺倒の人だったので家庭菜園も真剣で、いろいろと本を調べ、日々日誌を付け、畝で紙が切れるほどピシッとした畑を作り、孫(つまり私の子どもたち)に食べさせる野菜を作ってくれていた。仕事としてならとうてい採算が合わないほどの手間ひまをかけた野菜は、芸術品のように立派で、豊かな味がした。

「師匠! 僕も小さいながら畑をしようと思うのですが」と電話をしたら、よろこんでいろいろアドバイスをくれた。

 まず、土は十分に耕して、小石などは取る。

 続いて、基本的な土を作るために堆肥を混ぜ込み、苦土石灰を混ぜ込む。土は酸性に偏るものなのだそうなので、アルカリ性に戻してやる必要があるのだそうだ。

『師匠』に聞いてホームセンターで用意した醗酵牛ふん堆肥、化成肥料、苦土石灰。それぞれに役割がある

 筆者は、10年ほど海水魚とサンゴの飼育に関する本を作っていたのだが、水槽のリクツは園芸に通じるものがあると思う。

 水槽では、サンゴや魚を飼うために、可能な限り、窒素酸化物、リン酸化合物などを取り除こうとする。サンゴ水槽の場合は非常にシビアで、微量のそれらがサンゴを殺してしまう。しかし、魚のエサにはそれらが含まれており、窒素やリンを取らないと、魚は死んでしまう。しかし糞尿として滞留するそれらの汚れが水中に増えても魚は死ぬ。

牛ふん堆肥を土に混ぜ込む

 しかし、この窒素酸化物、リン酸化合物などが、植物にとって養分になるのだ。陸上でも、水中でも植物と動物は、お互いの要不要を交換し合って生きているのである。

土と混ぜ返す。日がな一日キーボードを叩いている身としては、身体を動かすことで肩凝りなどがほぐれる効果もあると思う

 ちなみに、水槽飼育をしているときに、水槽のろ過槽の水を別の水槽に循環させて、その水槽でアマモや、海ブドウを育てたことがある。もちろん、それだけで汚れを取るのは難しいので、プロテインスキマーなど文明の利器を活用しつつ補助的に使うことになるのだが、自然のサイクルの一部を作れたようで面白い。

なぜ、化成肥料を土に『馴染ませ』なければならないのか?

 などと言いつつ、純粋の自然のサイクルを作るのは難しいので、化成肥料を使う。窒素、リン酸、カリなどが含まれたそれを、土に漉き込む。

 ところが、この化成肥料、袋を見ると1週間ぐらい土に馴染ませてから使えと書いてある。GWのうちに苗を植えたかったので、そんなには待てない。

 小田原の畑の時の経験なのだが、時期はとても大切なのだ。当時は畑を知らず、仕事も働き盛りだったから「今は忙しいから、あとで植えよう」となっていたのだが、時期を外して植えた苗は、弱りやすく、弱ると虫に食われやすい。虫は弱った植物を排除するシステムでもあるので、旬に合って元気に育ってる苗はあまり食べないのだ。

 というわけで、『馴染ませる』とは何なのか? 化成肥料を入れてから最低限どのぐらい待たねばならないのか『師匠』に電話して聞いてみた。

 『師匠』によると、撒いたばかりの肥料が直接根に触れるのは良くないらしい。栄養ではあるが、劇薬というわけだ。根に触れると根を傷めたりするらしい。いろいろ相談して「まぁ、大量に入れ過ぎなければ3日ぐらい経ったらええんとちゃうか」という回答を得た。徐々に周りの土に染み込み、強過ぎる影響力を持たなくなるらしい。

10カ所のスペースに、いろんな野菜を植えてみた

2本の畝を作ると、がぜん畑らしくなってきた。たった1坪だけど鍬を買ってきた。趣味は道具から入るタイプ(笑)

 なぜ『畝』というものがあるの分からなかったが、実際に畑をやってみると、植わっているところと、自分が作業するスペースが必要だし、肥料を漉き込んだ土を盛り上げた方が作業がしやすい。また、おそらくある程度の水はけも必要なのだろう。畝は最初欲張って3本作ったが、どう考えても狭過ぎて作業性が悪かったので2本にした。

 そして、ホームセンターに行って、苗を買ってきた。

 筆者の家の近所にあるホームセンターは、GWに家庭菜園をする人のための苗が大量に売っていた。『師匠』によると、この季節に植えるのはナス、トマト、キュウリなどがいいらしい。

 しかし、ホームセンターで苗を見ていると、あれもこれもといろんな苗が欲しくなる。

 苗の間隔は空けた方がいいのだろうなぁ……と思いながらも、ついつい多めに買ってしまった。

 キュウリを2株。中ぐらいの玉のトマトと、プチトマトを1株ずつ。ナスを1株。パプリカを赤と黄色1株ずつ。シシトウを1株。枝豆を1株。そして、30cm四方のスペースに、スプラウトの種を蒔いた。

GWが終わろうとする夕方、やっと苗を買ってきて植えた

 バリエーションが多すぎるのは分かってるが、いろいろなのを育ててみたかったのだ。まずは1年目はいろいろやってみようと。来年からは、都合の良いものに振ってもいいかもしれないし、おそらくはもうちょっと間隔を広げなければならないかもしれない。

植えたばかりの時は、少ししなびて見えたのだが、数日して葉がしゃっきりしてきた気がする

 それぞれに合った高さの支柱も必要らしいので、それもホームセンターで調達してきた。はてさて、ちゃんと根付くのか? 上手く実は成るのか? 在宅勤務の朝のウォーミングアップとして、散歩に加えて、雑草抜きと水やりが加わった。なにか、やけに年寄りくさい気もするが、PC作業に対して、土いじりは良い気分転換になりそうだ。

朝に雑草を抜いて、様子を少し見て水を撒く。少しずつ成長するのを見るのは楽しい。数日で生えるベビーリーフは、さっそく食卓でいただいている

テレワークで余裕ができた時間を有効活用するため、または、変化がなくなりがちなテレワークの日々に新たな風を入れるため、INTERNET Watch編集部員やライター陣がやっていることをリレー形式で紹介していく「テレワーク、空いた時間でなにしてる?」。バックナンバーもぜひお楽しみください。