俺たちのIoT

第3回

“1アクションIoT”で身の回りの操作がシンプルに

 第1回第2回では「IoTとは何か」について説明してきましたが、今回からは具体的な製品を題材にIoTを考えていきます。まずは今回、筆者が勤めるCerevoのIoTデバイス「Hackey」をテーマに、IoTがどんなことをできるのかを紹介します。

「Hackey」

 Hackeyは、無線LAN機能を搭載し、インターネットに接続する機能を備えた手のひらサイズの鍵型デバイスです。本連載の第1回では「インターネットにつながらないIoTもある」と紹介しましたが、その点でHackeyは、本体のみでインターネットにつながる“Internet of Things”と言えるでしょう。

 鍵の形をしてはいますが、扉を開けたり閉めたりする、いわゆる「鍵」として使う製品ではありません。鍵を左右にひねることでウェブサービスや他のIoT製品を操作できるという、いわば「インターネットを操作するボタン」がこのHakceyです。

IFTTTの「this」と「that」にIoTを割り当てると……

 製品の概要だけでは分かりにくい部分もあるため、ここからはHackeyが対応するサービスの1つ、「IFTTT(イフト)」との連携を例にとって説明しましょう。IFTTTとは「if this then that」の頭文字から取られており、直訳するなら「もしこれならば、そのときはこうなる」という意味を持ったサービスです。IFTTTも非常に個性的で、一口で説明することが難しいのですが、ここでは複数のサービスを組み合わせて作業を連携して自動化できるサービス、と理解しておいてください。

 IFTTTは、「this」と「that」にそれぞれサービスを割り当てることで連携することができます。「this」にTwitterの投稿、「that」にFacebookの投稿をそれぞれ設定すると、「Twitterの投稿を自動でFacebookにも投稿する」という作業を自動的に行なうことができます。この「this」または「that」に組み合わせられるハードウェアがHackey、ということになります。

「IFTTT」のウェブサイトでは、各種サービスを「this」と「that」に設定して連携させるさまざなま「アプレット」が紹介されている。これまで「レシピ」と呼ばれていたものが、11月上旬のIFTTTのリニューアルで改名された

 例えば、「this」に「Hackeyの鍵をひねる」、「that」に「Twitterへ投稿する」を設定すると、Hackeyの鍵をひねるだけで定型文をTwitterに投稿することができます。鍵をひねる操作は左右それぞれに割り当てられるため、例えばお店の開店と閉店をお知らせするメッセージを、鍵を左右にひねるだけでTwitterへ投稿する、という使い方も可能です。

 連携できるのはウェブサービスだけではありません。Hackeyと同様IFTTTに対応したスマート電球「Hue」と連携すれば、HackeyをひねってHueの明かりをつける、という連携も可能です。

 また、Hackeyは「this」ではなく「that」として割り当てることもできます。Hackey本体の両側にはLEDが付いており、ウェブサービスと連携して光らせる、という使い方が可能です。色は5色まで設定でき、例えば天気予報サービスと連携して「天気が雨になったらLEDが青く光る」という連携や、Facebookでメッセージを受け取ったら赤く光るといった組み合わせも可能です。

 HackeyはIFTTTのほか、同様のサービスとして「Zapier」、Yahoo! JAPANが運営する「myThings」といったサービスにも対応しています。また、独自のサービスにHackeyをカスタマイズして連携する、ということも可能になっています。

スマホアプリでもできることを、あえてIoTでやる理由とは

 FacebookやTwitterに投稿したり、天気予報の結果を知る。それだけならスマートフォンがあればいいと思う人も多いことでしょう。確かにHackeyでできることは、スマートフォンがあればそのほとんどが同じことをできてしまいます。

 しかし、Hackeyの魅力は、むしろ「スマートフォンにできること」を「鍵をひねるだけ」という1アクションで実現できることにあります。Twitterで文章を投稿したいというとき、スマートフォンならまずスマートフォンを起動し、アプリを起動して定型文を入力、さらに投稿ボタンを押す、というように少なからず手間がかかります。「スマートフォンでアプリを起動するのがおっくうで、ついついメールの返事を忘れてしまった」という経験がある人も少なからずいるのではないでしょうか。面倒な作業をできるだけ簡単にして手間を省く、これがHackeyの持つ魅力の1つです。

 Hackeyとコンセプトが近い製品として、Amazonが「Dash Button」というハードウェアを発表していますが、これは「Amazonが取り扱う製品をボタンを押すだけで注文できる」というものです。洗剤やトイレットペーパーなど、定期的に買うことが決まっている商品であればいちいちスマートフォンを開かずにボタンを押すだけで注文することができます。これも同じことがスマートフォンでも実現できるものの、「ボタンを押す」という1アクションに集約したことで利便性が大きく上がったでしょう。

米Amazon.comの「Dash Button」販売ページ

 また、プライベートな要素が強いスマートフォンに対し、Hackeyのようなハードウェアは操作が簡単で「誰にでも使える」というメリットもあります。鍵をひねるだけの簡単な操作なので、子供が帰宅したときにHackeyをひねって両親に「ただいま!」を伝えたり、もしくは高齢者の安否確認としても使うことができます。

 同じことをスマートフォンでやろうとすると、毎日メッセージを送るのがついおっくうになってしまうかもしれませんが、鍵をひねるだけの操作なら非常に簡単です。また、スマートフォンでもFacebookやTwitterのメッセージが送れるとはいえ、多機能で個人情報がつまったスマートフォンを自分以外の人が自由に使えてしまっては心配です。Hackeyならば決められた機能以外は使うことができませんし、鍵を抜いてしまえばそもそも他の人が使うこともできません。

 「誰でも」という言葉は、「誰にでも」という意味も含まれています。例えばタクシー会社のアプリと連携できるようにカスタマイズし、お店やオフィスに置いておく、ということが実現できれば、誰でもHackeyの鍵をひねるだけでタクシーを呼ぶことができる、といったように、アイデア次第でさまざまな連携を作り出すことができます。

 IoTというと、何か全く新しいことが生まれるような、ちょっと遠い存在に思えるかもしれません。しかし、身の回りですでに実現していることを1アクションでシンプルにするだけで、今までにはない使い方ができたり、誰でもが簡単に使えるような世界を作り出すこともできるのです。

※次回掲載は、11月29日の予定です。

甲斐 祐樹

Impress Watch記者からフリーランスを経て現在はハードウェアスタートアップの株式会社Cerevoに勤務。広報・マーケティングを担当する傍ら、フリーランスライターとしても活動中。個人ブログは「カイ士伝」