俺たちのIoT

第11回

IoTとロボットの共通点

 IoTと同様に、ITの世界で近年ホットなキーワードが「ロボット」です。もちろん、ロボットは玩具や工業用なども含めて製品そのものは以前から存在していましたが、IoTと組み合わせることでロボットの魅力はさらに広がりつつあります。今回はIoTとロボットの共通点をテーマにしながら、ロボットがもたらすIoTのメリットについて考えてみたいと思います。

筆者が所属するCerevoの製品「Tipron」。機能としてはプロジェクターだが、IoTの要素、ロボットの要素も備えている

「ロボット」と呼ばれるものの要素とは?

 まず初めに、ロボットとは具体的にどんなものを指すのかを考えてみましょう。この連載をお読みの方は「ロボット」と聞くとどんなものを思い浮かべるでしょうか。ガンダムのように人が乗り込んで敵と戦ったり、アトムのように人の形をして人とコミュニケーションできるロボットを想像する人が多いのではないでしょうか。実際に、ロボット専門のウェブメディアである「ロボスタ」のデータベースを見ても、ほとんどの製品が人型か、人に近い形をしたロボットで占められています。

 一方で、人の形はしていないものの「ロボット」と呼ばれる製品も数多く存在します。その代表的な例がルンバに代表される「ロボット掃除機」です。見た目は人や動物とはかけ離れており「道具」にしか見えないものの、ルンバのような製品を「ロボット」ということに違和感を覚える人はいないでしょう。また、ハードウェアだけでなくソフトウェアの世界でも、チャットのメッセージに対して返事をしてくれる仕組みが、ロボットを略した「ボット」という名前で呼ばれています。

 後者のように、人の形をしていないけれどロボットと呼ばれるものの共通点は「人の代わりに何かをしてくれる」ということです。ルンバで言えば人に代わって掃除をしてくれますし、ボットも人の代わりにテキストメッセージで回答してくれます。

 これらを踏まえると、ロボットと呼ばれる概念は、「人や生き物の形をして動くもの」という側面に加え、「外観に関係なく人に代わって作業してくれる」という、どちらかの要素を満たしたものが「ロボット」と呼ばれるということになります。

IoTも「人に変わって何かをしてくれる」

 ロボットとIoT、一見すると全く関係ないカテゴリのように思えるかもしれませんが、実はこの2つには密接な関係があります。それはどちらも「人に代わって何かをしてくれる」というメリットがあることです。

 第3回で取り上げた“1アクションIoT”ガジェットである「Hackey」は、ウェブのサービスを自動化できるサービスです。この回でも触れたとおり、Hackeyで実現できることはスマートフォンやパソコンから誰でもできることではありますが、それを「鍵をひねる」という1アクションにすることで、「スマートフォンで操作することを代行してくれる」のがこの製品の特徴です。「鍵をひねる」操作だけは人が行なう必要があるので、実際には全自動ではなく「半自動」ではありますが、「代わって何かをする」という点でロボットと共通点があることはお分かりいただけたでしょうか。

 IoTとロボットは「人に代わって何かをしてくれる」という共通点があるため、この2つを組み合わせることでより便利なものを生み出すこともできます。その1つの具体的な例を、筆者の所属するCerevoの製品である「Tipron」を例にとって説明しましょう。

 この製品はカテゴリでいうならば「プロジェクター」なのですが、スマートフォンから操作できる、YouTubeやウェブニュースなどの情報を表示できるというIoT要素に加え、ルンバのように家の中を自動で動き、本体が変形して壁や天井に映像を投影できるというロボット要素を備えた製品です。

 この製品の開発コンセプトは「家の中のあらゆる場所をディスプレイにしたい」という発想から生まれました。Tipronは室内を自動で移動する機能に加え、プロジェクター部が左右180度、上部に90度変形することで、キッチンでレシピ動画を見たり、ベッドに入りながら天井で映画を鑑賞したりと、好きな場所で映像を楽しむことができます。

 バッテリーで駆動するモバイルプロジェクターを使えば、家の中の好きなところで映像を楽しむことはできますが、毎回異なる場所でプロジェクターを設置するのは手間がかかります。また、設置についても表示したい場所に合わせて台を調整したり、天井に向けてプロジェクターを固定したり、という設置はさらに大変なことになるでしょう。

 IoTとロボットは厳密には異なる技術でありカテゴリーです。しかし、どちらも「人に変わって何かをしてくれる」という点では共通している、ということがお分かりいただけたでしょうか。

ロボットがIoTによって「何かとつながる」と……

 本連載では、IoTを「インターネットにつながる」という厳密な意味ではなく、センサーやスマートフォンなどを利用して「何かとつながる」ものをIoTとする、というゆるやかな定義付けをしました。こうした「何かとつながる」ことで新たな魅力を手に入れるというIoTの概念は、ロボットの分野においても同じことが起きています。

 前述のルンバも、カメラやさまざまなセンサーを内蔵することで部屋の状況からどのように掃除をするかを判断する機能を搭載、さらに無線LAN経由で外出先から操作するという、IoTの要素を搭載しました。第9回第10回で紹介したセンサーや、第6回で紹介した無線LANのメリットをロボットが取り込んだ例と言えるでしょう。

 センサーやインターネットの対応でさらに便利になるものは、まだまだ身の回りに多く存在します。全自動洗濯機は人の代わりに洗濯してくれるという意味ではロボットのように思えますが、実際には人が洗濯物を入れる必要があるため、現状は便利な「道具」といったところでしょう。しかしこれも、さまざまなセンサーで情報を取得し、洗濯かごの重さや洗濯物の状況に応じて洗濯をしてくれるようになれば、これもロボットであり、本連載でいう大きな意味でのIoTと呼ぶことができるでしょう。

 繰り返しながら厳密にはIoTとロボットは異なるものですが、お互いが持つ「代わりに何かをしてくれる」要素を組み合わせることで、お互いのメリットがより活用できることがお分かりいただけたでしょうか。現状のロボットはまだまだ人型や動物をイメージしたものが多いですが、今後IoTが普及していく中で、より「代行してくれる」という要素を重視したロボットもIoT機器で活用されていくでしょう。

 また、IoTとロボットという関係において、もう1つ欠かせないのが「AI」の存在です。このAIについては次回以降また詳しく取り上げたいと思います。

甲斐 祐樹

Impress Watch記者からフリーランスを経て現在はハードウェアスタートアップの株式会社Cerevoに勤務。広報・マーケティングを担当する傍ら、フリーランスライターとしても活動中。個人ブログは「カイ士伝」