インタビュー

「屋内の位置情報」は急速に普及、病院や工場でも! 位置情報活用の最先端をLBMA Japanはどう見ているか?

CEATECブースには22社が集結、コンシェルジュが「?」を解決

 10月15日~18日に幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催される「CEATEC 2024」。位置情報データを活用したビジネスを展開する85社の事業者会員で構成される一般社団法人LBMA Japan(Location Business&Marketing Association Japan)のブースでは、同団体に加盟する位置情報関連企業の中から過去最大となる22社が出展し、それぞれソリューションを展示する。

 LBMA Japanは位置情報データを活用したビジネスの推進を目的とした業界団体で、スマートフォンなどから利用者の許諾を得た上で取得される位置情報データの活用に関する啓蒙活動や、位置情報データの取り扱いに関するプライバシー保護の推進活動およびガイドライン作成などの活動に取り組んでいる。

 LBMA Japanの活動内容や、昨年に引き続き今年もCEATECに出展する狙いや展示内容、そして位置情報ビジネスの最新動向などについて、同団体の代表理事を務める川島邦之氏に話を聞いた。

ビジネス規模が拡大する「位置情報データ活用ビジネス」の業界団体加盟社数は85社でこの1年で30社増

――貴団体のミッションを教えてください。

一般社団法人LBMA Japan 代表理事 川島邦之氏

[川島氏]当団体は国際団体であるLBMA(Location Based Marketing Association)の日本支部として2019年に設立した非営利社団法人で、日本国内において位置情報データを活用したビジネスを推進することを目的に活動しています。

 会員数は設立時の15社から順調に伸びており、昨年から今年にかけて約30社増えて現在は85社となりました。ここ1年で会員数が大幅に増えた理由としては、2023年10月に会員制度を変更し、設立3年以内のスタートアップ企業であれば年会費無料となったたことが大きいです。

 このような制度にしたのは、近年、位置情報ビジネスの市場が大きくなってきている中で、対象とするビジネス領域をより拡大したいという思いがあり、新たなビジネスに挑戦するスタートアップにも参加していただくことで活性化を図っていこうと考えたからです。

 当団体には、位置情報データに関連したビジネスを展開する企業や位置情報データの提供会社に限らず、位置情報データに関する研究や情報収集を目的とした会員も参加しており、特別な資格や制限はなく、あらゆる業種・業態を歓迎しています。幅広い業種に参加していただくことで、会員同士の資本提携も進んでいくことを期待しています。

位置情報で脱炭素を目指す「Location-GXプロジェクト」も開始移動は徒歩?EV?削減されたCO2はどれぐらい……?

――LBMAの具体的な活動内容を教えてください。

[川島氏]当団体では、位置情報データを活用したビジネスの推進活動や啓蒙活動として、イベントの開催やメンバーが主催するカンファレンスへの協力、会員間による意見交換会や会員限定ウェビナーなどの開催、位置情報データ活用の現状を可視化する「カオスマップ」の作成などを行っています。

 また、事業を行う上でのプライバシー保護の推進活動として、業界団体としての事業者間ルールをガイドライン化しています。法律・法令遵守はもちろんのこと、データを提供していただくエンドユーザーの方々に対して企業側が透明性を持つことで、安心してサービスを利用していただける環境作りを業界団体として推進しており、ガイドラインに準拠した組織や個人を認定する「LP認定制度」も設けています。

 さらに今年からは、位置情報データを活用して脱炭素の実現を目指す「Location-GX(グリーン・トランスフォーメーション)プロジェクト」を開始しました。同プロジェクトはLBMA Japanの加盟会員の中から7社が集まって発足した取り組みで、位置情報を活用したサービスによって人々の脱炭素に向けた行動変容を促すことを目指しています。

 現在のところ、EV(電気自動車)を購入したり、徒歩で移動したりと、人々が脱炭素に向けて行動を変容してもリワード(報酬)を感じにくい状況ですが、位置情報データを活用することで人が移動手段に車を使ったのか歩いたのかを判別することが可能となり、たとえば歩くことによって多くのポイントが貰える仕組みにすれば車を使うよりも歩くことを選択する人を増やすことができます。

 さらに、位置情報を活用することで「脱炭素に向けたキャンペーンを開催することで、どれくらい炭素排出量を削減できたのか」をクレジットとして算出することも可能となり、それによって企業がそのクレジットを購入するというエコシステムも構築できます。その場合、CO2排出量の計算方法を標準化しないとクレジットとして販売できるようにはならないため、今年5月には移動における炭素排出量の算出のロジックや方法などを定義した「Location-GXガイドライン」も発表しました。

「位置情報データの活用が浸透してきた」~イノベーションだけでなく、労働力不足への対策にも

――今回の出展にあたり、LBMA Japanとしての意図や狙いを教えてください。

[川島氏]今年のテーマは「位置情報データ活用が実装するデジタルイノベーション」です。

 昨年は「位置情報の社会実装」がテーマでしたが、今年はCEATEC自体が“デジタルイノベーションの総合展”と銘打っているのを受け、「位置情報データが活用されることで、どのようなデジタルイノベーションが実現されるんだろう?」と興味を持っていただきたいという思いで、このようなテーマとしました。

 当団体では、今年5月に位置情報データの活用をテーマとしたイベント「ロケーションビジネス&マーケティングEXPO(LBM EXPO)2024」を初めて自主開催しました。LBM EXPOは位置情報データを活用したビジネスに関心のある人が訪れるイベントであるのに対し、CEATECは幅広い業態の方が訪れるイベントです。位置情報データは業種に限らず、さまざまな分野で使えますので、多様な業種の方と話すことで、新たなニーズを掘り起こすことができます。

 当面はLBM EXPOとCEATECの2つのイベントを柱として1年間を回していこうと考えており、まずは位置情報データの活用に興味を持っていただく入口となるのがCEATECで、さらに具体的な話をしたいという方にLBM EXPOへ来ていただく、という流れを作っていきたいと思います。

――CEATECの昨年の手ごたえはいかがでしたか?

[川島氏]昨年の出展では、一昨年に比べて出展社数が10社から18社と増えて、展示スペースも広くなり、来場者数も倍増しました。

 来場者の反応としては、一昨年は「位置情報データに関するビジネスって何ですか?」というところから会話が始まることが多かったのですが、昨年ではそのような会話が減り、「位置情報ビジネスについて聞いたことはあるけど、具体的に自分のビジネスとどのような連携ができるのか」と、一歩踏み込んだディスカッションからスタートすることが増えた印象でした。

 それだけ位置情報データを活用したビジネスが浸透してきたということだし、位置情報だけでなくDXという文脈で、さまざまな分野でデータを活用していこうという風潮が高まってきたということだと思います。さらに、“2024年問題”が話題となり、労働力不足が課題となっている中で、みなさんが当事者としてデータを使ったビジネスの効率化に注目していることも大きいと思います。

今年も実施する「コンシェルジュ」で、来場者にピッタリの企業を案内出展社数は22社に増加、カンファレンスも

――今年はどのような企業が出展するのか教えてください。

[川島氏]今年の出展社数は昨年よりも出展社数が4社増えて、計22社となりました。

 今年から新たに出展した企業としては、ゼンリン社製マップに多様なデータを組み合わせたソリューションを提供する株式会社ゼンリンデータコムや、誤差数センチの高精度な測位を実現するサービス「ichimill(イチミル)」を提供するソフトバンク株式会社、日野自動車製トラックやバスから取得できるコネクテッドデータ(位置情報等)を活用したサービスを展開する日野コンピューターシステム株式会社、AIや個人情報を扱う企業にガバナンス対応をアウトソースできるサービスを提供する株式会社プライバシーテックなど、地理空間情報に関連したさまざまなサービスを扱う会社が挙げられます。

 また、IoTや屋内測位に関連したビジネスを展開する企業として、首都圏私鉄各社に導入されているエッジAIカメラ「IoTube」に搭載されたビーコンを使用したサービスを提供する株式会社MOYAIや、屋内での使用にも対応する位置測位システムを提供するサトーホールディングス株式会社(SATO)、GPSトラッカーを活用した位置情報サービス「GeoPita」やバイタルセンシングサービス「リットケア」を提供する株式会社IoTBankなどが出展します。

 このほか都市のデジタルツインに関連した展示を行う企業として、位置情報や点群データと3D都市モデルを組み合わせた活用を提案する株式会社キャドセンターや、ゲームエンジンを活用した人流シミュレーションシステムを提供する株式会社竹中工務店、リアルタイムデータを地図上に可視化・分析するソリューションを提供するESRIジャパン株式会社、今年8月に高精細なフルテクスチャー付き3D都市モデルをリリースした株式会社パスコなどが出展します。

 さらにLocation-GXプロジェクトの参加企業の中からは、位置情報の収集・分析・活用サービスを提供する株式会社ブログウォッチャーや、スマートシティへの人流データの実装に取り組む株式会社unerry、位置情報×生成AIによる商業分析レポート作成などの取り組み実績を有する経営コンサルティング会社の株式会社データインサイトが出展します。

 このほか、全ての出展企業の概要は、LBMA Japanのサイトにもまとめておりますので、気になる方は是非ご確認ください。


「来場者の悩み」に最適な企業を案内する「コンシェルジュ」は今年も実施

 昨年はLBMA Japanスタッフがブース内に常駐し、来場者とお話しした上でおすすめの企業をご案内する“コンシェルジュサービス”を提供しました。

 今年はさらにスタッフの人数を増やして同じサービスを提供する予定です。出展社数が20を超える数となり、どの企業のブースへ行けばいいのかわからないという方もいらっしゃると思いますので、とりあえず我々スタッフにご相談いただき、どのようなビジネスをされているのかお話しいただければ最適な企業をご紹介します。

「位置情報」を活用するためのカンファレンスを多数実施

――今年はカンファレンスも多く開催されますが、その内容についてお聞かせください。

[川島氏]はい、初日の10月16日(水)には会場前特設ステージにて出展企業各社による講演が行われるほか、国土交通省の位置情報推進課をゲストとして招いて「位置情報データが切り開くデジタルイノベーション」と題したカンファレンスも行います。

 さらに、10月17日(木)にはパートナーズパークのトークステージにて、「位置情報データが作る脱炭素を促す行動変容とビジネスモデル化」と題したカンファレンスを行います。このカンファレンスでは、位置情報データを活用した脱炭素ビジネスを生み出すための施策を紹介するとともに、環境省 地球環境局デコ活応援隊の中村幸弘氏をゲストに招き、環境省が主催する「デコ活」の今後の枠組みについてお話しいただきます。

 3日目の10月18日(金)にはコンベンションホールAにて、「位置情報データのビジネス活用と社会実装」と題したカンファレンスも行います。このカンファレンスでは、KDDI株式会社の山本隆広氏(経営戦略本部 データマネジメント部 部長)、ソフトバンク株式会社の長谷川誠氏(テクノロジーユニット統括 プロダクト技術本部 技術企画開発統括部 Autonomous技術企画部 部長)、株式会社NTTデータの高木弘和氏(テクノロジーコンサルティング事業本部 インダストリセールス事業部 部長)の3者による位置情報データ活用ビジネスの事例をご紹介いただくとともに、プライバシーへの配慮や今後の展望についてディスカッションを行います。

屋内測位の活用が飛躍的に進む、特に向上や病院で人や機材などの現在位置を把握し、効率を向上

――CEATEC開催日の直前に発表する、最新版カオスマップから読み取れる位置情報マーケティングサービス業界の最新動向を教えてください。

[川島氏]当団体は位置情報を活用したビジネス業界動向をまとめた「位置情報マーケティング・サービス カオスマップ」を毎年発表しており、展示ブースでも掲示する予定です。

2024年7月版のカオスマップ。

 最新動向としてまず挙げられるのは、位置情報データを活用したビジネスの拡大が進んでいることです。

 従来はデータ提供や分析、地図サービスなど、位置情報に関連したビジネスがそれぞれ単独で成り立っていた傾向がありましたが、当団体がミッションとして掲げている“共創”が進んだことにより、位置情報の活用がさまざまな分野に波及し、幅広い業種に採用されるようになってきました。

 たとえば当団体の加盟企業の中には、屋内位置情報サービス「mapxus Driven by Kawasaki」を扱う川崎重工株式会社や、高精度屋内位置測位システム「ZEROKEY」を提供する株式会社ネクスティ エレクトロニクス、IoTデバイスの開発を手がける株式会社IoTBank、位置測位システム「RTLS(Real Time Location System)」を提供するサトーホールディングス株式会社など、屋内測位を扱う企業が増えています。なぜこのように増えてきたかというと、屋内測位がビジネスになってきたからです。屋内測位はこれまでもさまざまな技術がありましたが、従来はその技術がマネタイズにつながっていなかったのが、ここ最近では明確につながり始めました。

 とくに昨年から今年にかけては、工場での屋内測位の活用が進んでいます。これは2024年問題とも関連があり、従来よりも少ない人数で効率良く工場を運用することが求められてきているためです。

 また、病院への導入もここ最近で飛躍的に伸びています。位置情報を活用することで、医療スタッフや医療機器が病院内のどこに存在するのかをリアルタイムで把握することが可能となり、効率的な医療体制を構築できます。このような人手不足に対するソリューションはこれから一層広がっていくでしょう。このほか、鉄道の車内ビジョンが普及したことにより、車内ビジョンに内蔵されたセンサーによって取得された列車内の人流データが充実してきたことも注目されます。

 もうひとつは、やはり“GX”ですね。当団体がLocation-GXプロジェクトを発足させたのも、今から早急に取り組んでおかないと、政府が温暖化ガス46%削減を目標としている2030年に間に合わないと思ったからです。今年は位置情報データ活用ビジネスの業界団体として、Location-GXの仕組み作りを始めたわけですが、来年の2月を目処に各社から実事例を出していく予定で、来年度から再来年度にかけてはマネタイズにもつなげていきたいと考えています。

扱う範囲は「屋外・宇宙から屋内の数cmまで」「何かしら興味を持てる企業を必ずおすすめできる」

――「Society 5.0」という枠組みの中で、LBMA Japanが担う役割はどういうものだと考えていますか?

[川島氏]Society 5.0の実現に向けてデジタルイノベーションを起こしていく際に、新技術の導入がどのようなインパクトを社会に与えて、どれくらいの売上を計上し、どれくらいのコストをカットできるかは重要ですが、一方でプライバシーへの配慮やGXなど、気を付けなければいけないことも多いので、当団体はそのようなことに対する枠組みや土台作りを行っています。

 位置情報データの活用によって発生する不安は当団体がしっかりと解消していきたいと考えているので、当団体の加盟企業には安心して「新たなビジネスモデルを作ってください」と言いたいし、位置情報の活用を検討されている方には「安心して当団体の加盟企業とビジネスのお付き合いをしてください」と伝えたいですね。

――最後に、CEATECの会場を訪れる方へのメッセージをお願いします。

[川島氏]当団体が扱う“位置情報”とは、GPSデータや宇宙の衛星データから、屋内のcm制度の位置精度まで、すべてを対象としています。そこにはさまざまな技術やソリューションがあり、それぞれのニーズに応じた精度の位置情報技術があります。

 昨年は「うちの会社はこういうハードウェアやデータを持っているけど、これを活用してお金にならないか」というご相談が多かったです。今回のCEATECでは、「位置情報について何も知らないけど一から知りたい」という企業から、「自社のデータやプロダクトを何か活かすことはできないか」と考えている企業や、「具体的にやりたいことが決まっているので、どの企業と組めばいいのか知りたい」という企業まで、どのような方が来ていただいても対応できるように準備をしています。

 今回は出展社数が22社と多いので、何も考えずに来ていただいても、「こういう企業がありますよ」と何かしら興味を持てる企業を必ずおすすめできると思いますので、ぜひ気軽にお立ち寄りください!