インタビュー
今年のCEATECには、史上初?の「共創掲示板」が登場、プロとのブースツアーやメガバンクVC3社が集まるカンファレンスも…
アビームコンサルティングに聞く「これからの共創」
2024年10月10日 09:10
2023年のCEATECでは、「ウォーキングブレスト」と呼ばれるユニークな企画が大きな話題となったアビームコンサルティングが、今年もCEATEC 2024に出展する。
「ウォーキングブレスト」は、「共創のプロ」である同社のコンサルタントとともにスタートアップ/大学などのブースをツアー、最適な共創パートナーを探せるという無料のサービスだ。これまでにないサービスだったが、4日間の会期中に約20社の来場企業が参加。テーマにあわせて、それぞれ3社程度のブースを訪問し、延べ60回のマッチングを支援。来場者/出展企業ともに好評だったという。
「ウォーキングブレスト」は引き続き目玉企画のひとつとして実施されるが、今年はさらに「Biz-Board」という新企画も用意。これが、「ウォーキングブレスト」と並んで、「共創」を具体化する2つ目の柱になる。
今年も、これまでにない出展内容が注目を集めそうだ。CEATEC 2024のアビームコンサルティングブースの企画内容とその狙いについて、同社執行役員 プリンシパル 未来価値創造戦略ユニット長の橘知志氏に聞いた。
幅広い業界をサポートするコンサルティングファーム
アビームコンサルティングは、幅広い業種や業務に精通した専門性と、テクノロジーの知見、豊富な支援実績を通じて、さまざまな業界や組織、地域の顧客に対して、最適なコンサルティングサービスを提供する企業だ。
「Build Beyond As One.」をブランドスローガンに掲げ、戦略から業務改革、デジタルテクノロジーの導入、運用保守までをトータルでサポート。これにより、あらゆる経営アジェンダや改革テーマに対応する。1981年に設立された、日本発の総合マネジメントコンサルティングファームであるという点も特徴のひとつだ。
CEATEC 2024に出展するのは、同社の未来価値創造戦略ユニットである。同社の戦略コンサルティング事業は、製造、金融、産業、公共、商社・コンシューマーといった業界別ビジネスユニットとともに、顧客価値創造、企業価値向上、財務戦略・構造改革、人的資本経営、SCM改革、未来価値創造の6つの戦略ユニットを持つ。
未来価値創造ユニットは、従来のDXI(デジタル×イノベーション)ビジネスユニットを進化させたもので、新たな産業の振興や、社会や街に対して新たな価値を提案する役割を担う。モノづくりの未来やスマートシティの構築、サーキュラーエコノミーへの取り組みやQoLの実現、ディープテックやスタートアップエコノミーの支援などを、デジタルテクノロジーを活用し、推進していく。
課題解決へつながる手段に辿り着けるブース作り
橘氏は、「未来価値創造戦略ユニットでは、社会価値と経済価値の両立、テクノロジーによる価値創出、それを実現するためのコミュニティづくり、価値を創造するための知の変革に取り組んでいる」と語り、「未来価値創造戦略ユニットの取り組みの基本姿勢は『共創型』だ。未来の価値は、複数の企業の連携、あるいは産官学連携から生まれる。CEATECが目指しているのも『共創型』の展示会。未来価値創造戦略ユニットの事業とは、親和性が高いと判断している」と、CEATEC 2024への出展の意図を語る。
日本の展示会来場者について、同氏は次のように語る。
「海外の展示会に出展すると、そこが商談の場になることが多い。しかし、日本からの参加者の多くは会場視察で終わっている。日本企業が出展した場合も、自社製品を紹介するばかりで、商談ブースを設置していないケースも目立つ。また、日本からの来場者は、より多くの人とのネットワーキングが、将来の価値につながることを体験できていないため、そこに時間を割こうとはしない傾向がある。CEATECの展示会場でも同様の傾向が見られる」。
同社がCEATECに出展する狙いは、“展示会の正しい見方を支援すること”にもあり、共創のきっかけ作りにもつなげたいと語った。「CEATECのアビームコンサルティングブースは、その場で商談が行え、共創が始まる場にしたい。また、展示会場の正しい見方がわからないのであれば、それを支援したい。会場を視察して、スタートアップ企業のブースの前を通り、『今年は出展社数が多かったね』で終わるのではなく、どうやったら課題解決やニーズに対応したテクノロジーやソリューションに辿り着けるのかを支援するブースづくりを目指した」とする。
アビームコンサルティングが出展するのは、ホール4のネクストジェネレーションパークである。
このエリアには、スタートアップや大学研究機関に加えて、今年からは企業内の新規事業開発部門も出展が可能となり、前年の153社/団体を上回る約200社/団体が出展する予定だ。アビームコンサルティングでは、「未来価値創造」をテーマに出展。産官学や企業間、スタートアップ企業とのエコシステム連携を通じて、共創機会の創出と、共創事例やソリューションの発信を行うことになる。
昨年も好評の「ウォーキングブレスト」が全日稼働「共創のプロ」とブースツアー
アビームコンサルティングブースで、注目される企画の1つが、前述したように、昨年のCEATECでも好評だった「ウォーキングブレスト」である。
来場者が持つ課題やニーズを事前アンケートで把握。共創のプロフェッショナルであるアビームコンサルティングのコンサルタントが、CEATECの会場に出展しているスタートアップ企業を厳選してツアーのように紹介し、効率的なマッチングを行うというものだ。
CEATEC 2023で初めて実施され、4日間の会期中に約20社の来場企業が参加。テーマにあわせて、それぞれ約3社のブースを訪問し、延べ60回のマッチングを支援した。
参加した企業からは、「30分という短い時間内に、これまで出会うことが出来なかったスタートアップ企業と出会うことができた」、「スタートアップ企業と熱のある会話ができた」、「見学しているだけでは気がつかなかった共創のヒントをもらった」といった声があがっているという。
また、アビームコンサルティングのコンサルタントにとっても、4日間という短い会期期間内に20社のさまざまな業種の企業の課題に接する機会を持ったこと、課題解決につながるテクノロジーやソリューションを持ったスタートアップの企業の接点を持つなど、多くの学びを得る成果が生まれたという。
今回のCEATEC 2024の「ウォーキングブレスト」では、10月15日午後1時から午後4時まで、16日、17日、18日は午前10時から午後4時まで実施し、約30件の企業が参加できるようにする。
すでに公開されているCEATECのネクストジェネレーションパークのサイトや、ブース内に設置したウォーキングブレストの受付から申し込むと、同社のコンサルタントが、課題や関心領域のアンケートやヒアリングを行い、ツアー形式のミーティングを設定し、アテンドしてくれる。約30分の時間内に、CEATEC 2024のネクストジェネレーションパークの出展社のなかから、約3社のスタートアップ企業に訪問することになる。ミーティングをしたスタートアップ企業のなかで、より詳細な商談を希望する場合には、追加ミーティングの設定も可能だ。
参加対象としているのは、スタートアップ企業や大学、研究機関との共創に興味がある企業や個人、金融機関、自治体、支援機関などで、日本語でのみ対応する。CEATEC 2024において、スタートアップ企業との「共創」を体験できる貴重な機会になるといえよう。
「課題」を書くと「解決」につながる掲示板型マッチングサービス「Biz-Board」
CEATEC 2024のアビームコンサルティングの出展で、もうひとつの目玉といえる取り組みが「Biz-Board」である。
これは、「来場者などが自社の課題を入力すると、他の来場者がその課題に対して自社のサービスで解決策を提案する」という、いわば課題を通じて繋がるマッチングサービスだ。
企業や自治体が持つ課題と、来場企業や出展企業とのマッチングを通じて、商談機会を創出する課題発信型企画と位置づけており、同社社内では、「課題シャワーを浴びることができる新たな展示企画」と表している。
CEATEC会場内にあるピッチステージAに、大型のタッチパネルディスプレイを設置するほか、ブース内だけで利用できるiPadを複数台用意(操作画面の例や設置場所はこちらを参照のこと)。そこには企業や自治体が抱える課題が書き込まれている。来場者は、それらの課題を見て、より詳細な情報の閲覧やマッチングを希望する場合には、画面に表示されているQRコードから申し込むことができ、CEATEC 2024の開催期間中や後日に、課題を持つ企業との商談やマッチングの場が設定されることになる。
たとえば、Biz-Boardに「自社が保有するコンテンツを東南アジアで提供するにあたり、サプライチェーンを整えたい」といった課題を書き込むと、登録した企業の業種が「サービス業」とだけ表示され、企業名は表示されない。また、課題に関連する項目として、「コンテンツ」、「東南アジア」、「IP」、「クールジャパン」などといった内容が表示され、閲覧している側に対して、どんなテクノロジーやソリューションが求められているのかがわかる。
「出展社はテクノロジーやソリューションを見せ、来場者は、そこから自らの課題解決につながるものを探し出すというのがこれまでの仕組みだが、Biz-Boardでは、課題を先に出して、見える化し、そこにテクノロジーやソリューションを当てはめていくことになる。CEATECに来場する人たちは、なんらかの課題を持ち、その解決策を探している。課題からのアプローチにより、それを支援することができる」とし、「商談申し込みは、アンケート形式になっており、どんな企業が、どんなソリューションを持っているかといったことを登録できる。アビームコンサルティングが間に入ることで、広告目的などの登録を除くことができる」という。
課題の入力や課題解決の提案は、来場者だけでなく、出展社にも広く公開していく予定だ。JETRO(日本貿易振興機構)のCEATEC JETRO Global Connectionに出展する海外企業に対しても、生成AIの翻訳機能を活用して、課題に関する情報を公開する予定だという。また、併催しているJAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024に出展している企業とも情報の連携を図っていきたいとしている。
さらに、CEATEC 2024の閉会後も、課題に関する情報は別のイベントにも展開し、共創の場を拡大していくことも考えているという。「地方のイベントでもBiz-Boardを展示すれば、地方のスタートアップ企業が、首都圏の大手企業の課題を解決するといったことにもつながる。テクノロジーやソリューションを担いで展示するのではなく、課題を担いで展示ができる。日本中のイベントが課題でつながる新たな仕組みが構築できる」との考えを示している。
“カフェインを最適量に設定したコーヒー”を提供するカフェも設置
そのほか、アビームコンサルティングのブースでは、オープンイノベーションカフェが設置されることも明らかになっている。
コーヒーに関する研究、開発を行っているスタートアップ企業のストーリーラインと共同で設置。来場者同士のオープンイノベーションが生まれるカフェを目指し、来場者や出展社に新たな価値の創出の機会を用意することになるという。
ブースを回る来場者に対して、カフェインを最適量に設定したコーヒーを提供。また、生成AIの活用体験、オープンイノベーション体験なども行えるようにする。
さらに、ブース内展示では、自治体向けスタートアップとのオープンイノベーション支援、社会性と経済性を両立した官民共創ユースケース創出、デジタルIDを活用した地域共創モデル、サーキュラーエコノミー実現のためのサプライチェーントレーサビリティ体制構築、アートワークショップによる新規事業創出サービスなどのソリューションの紹介が行われる。
メガバンクVC 3社が集まるトークステージなど、ステージ企画も複数予定
一方、アビームコンサルティングの企画によるトークステージやパネルディスカッションでも、注目される企画が目白押しだ。
10月15日午後2時30分からは、「メガバンクVC 3社キャピタリストが語る、イノベーションを加速させる日本版スタートアップエコシステムとは」と題したトークステージを開催。三菱UFJキャピタル投資第三部長の西尾祐一氏、SMBCベンチャーキャピタル投資営業第一部長の中野哲治氏、みずほキャピタル営業第一グループ長の眞鍋裕亮氏が登壇。アビームコンサルティング 未来価値創造戦略ユニット/ NewTechアドバイザーの吉田知広氏がモデレーターを務める。
「国内の主要金融機関系3社のベンチャーキャピタリストが揃うのは珍しい。スタートアップエコシステムの現状と未来について議論してもらうだけでなく、組織がイノベーションを加速するための戦略的な資金調達方法などにも触れてもらう。スタートアップ企業だけでなく、大手企業にとっても示唆が得られるトークステージになる」と位置づける。
調査によると、今回登壇する3社が、全世界のCVCのなかで、投資件数でトップ3位を占めており、トップCVCによる議論は注目を集めそうだ。
また、10月18日午前10時30分からは、「アート×ビジネスが生み出す新時代の価値創造とは?」と題して、アートと経済を結びつけるビジネスを推進しているEmbedded Blue 代表取締役 CEOの片岡奨氏が登壇。同日午後3時からは、「技術力×異業種で創出する未来のモビリティ産業」と題して、空飛ぶクルマを開発しているSkyDrive取締役CSO/CHROである佐藤剛裕氏が登壇し、それぞれがアビームコンサルティング執行役員の橘氏と対談する。
「アートの世界をどうビジネスにつなげるか、新たなモビリティ産業をどう創出するかといった観点から、価値創造や社会課題解決について議論することになる」としている。
CEATEC初のプレイベントをアビームが提案し実現
実は、アビームコンサルティングでは、CEATEC 2024の開催前に、CEATEC初の取り組みを行っている。
それが、2024年7月9日に、東京・八重洲の同社本社で開催したCEATEC史上初のプレイベント「CEATEC OPEN INNOVATION DAY」である。
会場には、スタートアップ企業やベンチャーキャピタリスト、大手企業などから約150人が参加。オンラインでも参加することができた。パネルディスカッションでは、アビームコンサルティング執行役員の橘氏のほか、経済産業省イノベーション・環境局 イノベーション創出新規事業推進課スタートアップ推進室課長補佐の長谷川寛晃氏、ゼロワンブースターの代表取締役である合田ジョージ氏が参加し、「大企業とスタートアップとのオープンイノベーションに今後、必要なものとは?」と題し、それぞれの立場から事業共創における課題などについての議論が行われた。また、イベント当日は、参加者がマッチングを希望すれば、指定の登壇者に情報が共有され、後日連絡が可能となる機能を導入。共創を促進するための仕掛けも行われた。
「CEATECが、共創のためのイベントを目指すのであれば、10月の開催期間中だけに集中したイベントではなく、年間を通じて、なんらかの活動が行われることが重要だと考えた。これは、海外の大規模イベントでは一般化している取り組みだが、日本のイベントではあまり例がない。アビームコンサルティングからプレイベントの開催を提案し、CEATEC 2024の開催前のタイミングで、マッチングの場、共創の場を用意することができた。今後、年間を通じて、CEATECに関する活動を継続的に行い、より多くの情報が発信できるようになることを期待している」と語った。
今回のCEATEC 2024について、橘氏は「課題感を持った人や、共創ビジネスを進めたいと考えている人たちには、ぜひ、アビームコンサルティングのブースを訪れてほしい。そして、CEATEC 2024が、最新のテクノロジーや手触り感があるソリューションに触れる場だけでなく、名実ともに共創のためのイベントになっていることを体感してもらいたい。アビームコンサルティングも、課題を持ち込めば、一緒に悩んでくれる人を、見つけることができるイベントにしていきたいと考えている」と、CEATEC 2024の進化にも期待を寄せる。
そして、CEATECの閉幕後にも、継続的に付帯イベントを開催していく考えを示す。CEATECをきっかけに、年間を通じて課題を共有し、それを解決するという新たな文化を定着させるための取り組みもスタートすることになりそうだ。アビームコンサルティングの数々の企画は、CEATECという展示会を、次のステージに引き上げるための布石になるのかもしれない。