インタビュー

「一気に増えたAI展示は想定以上!」今年のCEATECをエグゼクティブプロデューサーに聞く

AIはサービスからソリューション、デバイスまで幅広く……「モビリティ」との共創も

 CEATEC 2024が、2024年10月15日から18日までの4日間、千葉県千葉市の幕張メッセで開催される。25周年の節目を迎える今年のCEATEC 2024では、25周年特別テーマとして、「Innovation for All」を掲げ、経済発展と社会課題の解決を両立する『Society 5.0』の実現を目指すことになる。

 また、日本自動車工業会(自工会)が主催する「JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024」が、同じ日程で併催されることから、業界の垣根を超えた共創の場が生まれることも期待されている。

 CEATEC エグゼクティブプロデューサーの鹿野清氏は、「産業の枠を超えた新たな共創が生まれることを期待している」と語る。鹿野エグゼクティブプロデューサーに、CEATEC 2024のポイントととともに、CEATECが目指している新たな展示会の姿を聞いた。

今年のポイントは「AI」と「モビリティ」

鹿野清エグゼクティブプロデューサー

――CEATEC 2024が、2024年10月15日から開催されます。25周年の節目を迎える今年のCEATECはどんな展示会になりますか。

[鹿野氏]2000年に第1回目のCEATECを開催してから、ちょうど25年目となるわけですが、記念のお祝いをするといったことはやりません。その代わりに、25周年特別テーマとして、「Innovation for All」を掲げました。これがCEATEC 2024をひとことで表現する言葉になります。

 CEATECに常に期待されているのは、時代を先取りする展示会であるということです。

 25年前のCEATECは、家電のデジタル化などによるイノベーションからはじまりましたが、2016年にCPS/IoT Exhibitionへと舵を切り、以降、IT・エレクトロニクス産業の展示会に留まらず、さまざまな産業からの出展が始まり、あらゆる産業のあらゆる人たちが、新たなイノベーションを追求する展示会へと進化しました。

 ただ、それにあわせて、「CPS/IoT Exhibition」や「デジタルイノベーションの総合展示会」、「Toward Society 5.0」、「Society 5.0のショーケース」といったように、CEATECを表す言葉が林立しすぎたという反省もあります。

 CEATEC 2024では、「Innovation for All」という言葉に集約し、社会や産業、企業、人といったそれぞれ立場の視点から、イノベーションにつながる展示会であることを示しました。これが主催者としての25周年の思いです。

 シンプルな言葉ではありますが、大きな意味と、深い意味を持った言葉です。ただし、これがCEATECのゴールではありません。CEATECはこれからも変わり続け、自らもイノベーションに取り組んでいくことになります。


サービスからデバイス、ソリューションなど幅広い「AI」が出展

――今年のCEATECの特徴はどこにありますか。

[鹿野氏]ひとつめはAIです。

 出展企業やCEATEC AWARDへの応募を見ても、AIに関するものが一気に増えており、出展企業の半分以上がAIに関連した展示を行う予定です。これは、私の想定以上の動きです。しかも、さまざまな領域でAIを活用したり、AIを埋め込んだりといったことを、実際の展示の中でお見せすることができる点も大きな特徴だといえます。

AI関係の出展企業が大多数

 AIというと、生成AIの活用が注目されていますが、CEATEC 2024では、さまざまな角度でAIが使われていることを感じられる展示会になっています。

 たとえば、CEATECはもともと、社会課題や現場の困りごとを解決するイノベーションの展示が多く、それと同様に、AIに関しても、社会課題を解決するためのソリューションとしての展示が多くなっています。また、CEATECにはデバイスや部品が数多く展示されますが、そのなかにもAIを取り込んだものが数多く展示されます。CEATECが得意とする社会課題解決型ソリューションや、産業現場の生産性向上ソリューション、流通現場での効率化ソリューション、デバイスおよび部品へのAIの活用といったケースを目の当たりにできるというわけです。

 他の展示会でもAIの展示は多くなっていますが、CEATEC 2024では、これまでに感じたことがないAIの広がりを体験してもらえるでしょう。ここにCEATECならではのAIの見せ方があります。

 また、25周年特別企画として「AI for All」のパビリオンを、会場の中央部分に用意しました。この企画に賛同した23社/団体が出展します。AIで世界を変えていく最前線に立つ企業や団体が、未来社会や最新技術、最新ソリューションを発信することになります。これらの出展企業は、展示だけでなく、AIに関するコンファレンスやパネルディスカッションを毎日開催します。ここでの体験を通じて、「Innovation for All 」を実現する「AI for All」といったものを感じてもらえると思います。

25周年特別企画「AI for All」

 個人的には、この1年でAIに関するさまざまな開発が一気に進んだと考えています。IoTのときも、最初は「家電や産業機器がインターネットにつながる」というところから始まりましたが、IoT技術を組み込んだデバイスが増え、それを活用した課題解決のためのソリューションが広がっていきました。AIもそれと同じことが起こり始めています。



JAPAN MOBILITY SHOWとの共催で、モビリティとの相乗効果

――今年は、JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024との併催という新たな挑戦もありますね。

[鹿野氏]これがCEATEC 2024のもうひとつのポイントとなります。

 CEATEC 2024は、幕張メッセのホール2~8を使用し、JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024はホール1を使用します。会場内には、3つのゲートを用意して双方の展示会を行き来できるようにしています。来場者の登録システムも、共通にしていますし、どちらかの展示会に登録すれば、両方の展示会に参加できます。

 CEATECの主催者であるJEITA(電子情報技術産業協会)と、JAPAN MOBILITY SHOWを主催する自工会(日本自動車工業会)は、長年に渡る連携がありますし、これまでのCEATECでも、自動車で使用する部品を扱う企業が数多く出展したり、自動車メーカー自らが出展したりといった動きがありました。

 今年に入ってから、自工会から併催の提案が正式にあったのですが、私たちも「ぜひ一緒にやりたい」と即答しました。今回の併催は、モビリティ産業との連携が本格的に始まっていることを象徴する動きになると考えています。

 来場者が増加するという相乗効果があるだけでなく、モビリティ産業の人たちが、IT・エレクトロニクス産業の動きを知るきっかけにもなるでしょう。そして、多くのスタートアップ企業が出展していますから、新たなマッチングが生まれるという期待もあります。なかには、CEATEC 2024とJAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024の両方に出展するスタートアップ企業もありますよ。

JAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024との併催

 開催2日目、10月16日の一般公開終了後に、2つの展示会の出展者同士が交流するネットワーキングイベントの開催を予定しています。また、ホール2の一部は、両方の展示会の出展企業や来場者が交流できるスペースも用意します。こうしたマッチングのための後押しもしていきます。

 IT・エレクトロニクスのイベントと、モビリティのイベントが併催されるのは史上初めてのことですから、私自身もどんな相乗効果が生まれるのかが楽しみです。今年は、主催者自らも「共創」するイベントに進化したということで(笑)、出展企業の方々にも、具体性を持った結果が出ることを期待しています。

今年も生まれる「思わぬ出会い」ブース配置や「パートナーズパーク」など、今年も様々な工夫が…

ブランド価値向上を目的に、メッセージ性が強い展示を前面に打ち出すケースが増加しているのです(鹿野氏)

――CEATEC 2024の展示の見どころを教えてください。

[鹿野氏]これまでのCEATECでは、部品メーカーと、セットメーカーは別々のエリアにしていましたが、今年はそうした区分けをなくしました。さまざまな企業が分散していますから、思わぬ出会いが生まれるという期待もあります。

 また、最近のCEATECでは、電機大手企業が、出展の考え方を変えてきています。

 毎年テーマを変えたり、サスティナブルにフォーカスした展示をしたりといったことが増え、個性のあるブースづくりが進んでいます。「総合電機メーカーだから、総合的に展示する」のではなく、ブランド価値向上を目的に、メッセージ性が強い展示を前面に打ち出すケースが増加しているのです。CEATECの来場者の評価も高く、CEATECらしさのひとつだといえます。

――ここ数年、CEATECの展示会場では、パートナーズパークが大きな目玉となっています。今年も設置されていますね。

[鹿野氏]パートナーズパークは、個別の企業による単独出展ブースではなく、共通のプラットフォームや共通のインフラ、共通のサービスを提供する企業がイニシアティブを持ち、そこに多くの企業が集まり、共同で出展するエリアとなります。

 今年は、「Society 5.0」の実現を目指した18の独自テーマを設定したパビリオンが出展します。これまでは、CEATEC会場全体の中央部に設置されていたパートナーズパークでしたが、今年はJAPAN MOBILITY SHOW BIZWEEK 2024と隣接するホール2およびホール3に設置します。

パートナーズパーク

 なかでも中核となるのが、デジタル田園都市国家構想特設パビリオンで、経済産業省や総務省、デジタル庁、国土交通省をはじめ、49社/団体が出展し、昨年を大きく上回る規模となりました。

 地方自治体では、デジタル化が、実証から実装のフェーズへと入っているケースが多く、それは、多くの人が思っているよりも速く進展しています。自治体の提言に対し、企業が反応し、具体的なソリューションを実装、成果をあげている事例がこのエリアで数多く紹介されます。他の自治体が、これらの成功事例を見て「うちもやりたい」となるような動きも出てくるでしょうし、出展企業のソリューションが地域の課題解決のヒントになるといったことも起こるのではないでしょうか。

 また、海外からの来場者が日本の地方自治体の成果を見て、地域もイノベーションに関心を持ってくれることも期待しています。

 開催初日には、「デジタル田園都市国家構想による国民生活の豊かさの向上」と題したコンファレンスを実施し、事務局となる内閣官房のほか、経済産業省、総務省、デジタル庁、国土交通省の審議官や調整官などが一堂に登壇します。デジタルの力を活用して、地方の社会課題解決への取り組みや魅力を発信するとともに、各省庁での取り組みの成果などについても聞くことができます。

コンファレンス「デジタル田園都市国家構想による国民生活の豊かさの向上」

 また、農業、海洋、働き方などの新規テーマのほか、社会全体のDXのあり方や未来の暮らし、それを支えるテクノロジーを中心にして100を超える企業や団体が参画して「共創」の成果を発信します。

 ユニークな展示として、海洋DXパビリオンは、会場に大きな水槽を持ち込んで、水中光無線給電や水中LiDAR、水中光無線通信を紹介し、水中ドローンの可能性について訴求すると聞いています。

 将来は、CEATEC会場の全てが、パートナーズパークのように、複数の企業が連携し、課題解決やDXのあり方に向けた共創の姿を見せられるものになるといいなと、私は思っています。

――昨年のCEATECでは、スタートアップ&ユニバーシティーエリアとしていた展示エリアを、今年は、ネクストジェネレーションパークに名称を変えましたね。

[鹿野氏]これまでは、設立9年以下の企業と、大学および教育機関が出展の対象となっていましたが、今年のCEATECでは、社内ベンチャーや社内アクセラレータープログラムなどの成果を含む、企業内の新規事業開発部門の出展も可能にしました。

 この新たな枠によって、6社の企業や団体が出展しています。次世代を担うスタートアップ企業や教育機関、社内ベンチャーなどが、テクノロジーと研究成果、プロトタイプなどを披露して、社外からのフィードバックを得たり、共創できる企業を探索したりといった成果につなげたいですね。

 また、昨年の出展で話題を集めたアビームコンサルティングによる「ウォーキングブレスト」が、今年も行われます。

 同社のコンサルタントが、来場者の課題や関心領域を事前にヒアリングし、ネクストジェネレーションパークに出展するスタートアップ企業を対象に、ツアー形式でミーティングを設定し、アテンドし、共創機会の最大化を図ります。さらに、今年は、課題起点のマッチング創出ハブ「Biz-Board」も用意し、課題を起点としたマッチングも行います。「共創」をテーマにするCEATECの目的をより明確化した仕掛けとして注目しています。

CEATECを「1年間を通した盛り上げ」に

――2024年7月に、アビームコンサルティングとの連携で、CEATEC史上初のプレイベント「CEATEC OPEN INNOVATION DAY」を開催しました。この手応えはどうですか。

CEATEC OPEN INNOVATION DAYの模様

[鹿野氏]CEATECを10月の開催期間中だけの盛り上げで終わらせるのではなく、1年間を通じて、訴求することが大切だと思っています。

 プレイベントの開催で、ようやくその一歩を踏み出せたといえます。これまではやったことがないものですし、まずはプレイベントを開催することができたというのが成果です(笑)。今後、年間を通じて、CEATECの活動を進め、発信していきたいと思っています。

CEATEC OPEN INNOVATION DAYのプログラム。スタートアップによるピッチのほか、経済産業省のスタートアップ担当者なども登壇した。

海外からの出展は今年も多数、ラトビアからの出展も

初出展となるラトビア投資開発公社は、CEATECに高い興味を持ってもらい、今回、出展していただけることになりました(鹿野氏)

――グローバルパークでは、昨年はウクライナの出展に驚きました。今年はラトビアからの出展が予定されています。

[鹿野氏] 初出展となるラトビア投資開発公社は、CEATECに高い興味を持ってもらい、今回、出展していただけることになりました。

 また、日欧産業協力センターでは、ベルギー、スペイン、ギリシャ、スロバキア、フランス、イタリア、ハンガリー、ポーランド、セルビアから、各国の企業が出展します。さらに、在日アメリカ合衆国大使館総領事館商務部、カナダ・オンタリオ州政府、台湾情報セキュリティ協会、アラブ首長国連邦大使館が出展します。そして、ウクライナは今年も出展します。グローバルパークでは、各国の企業による最先端技術や革新的なソリューションが展示される予定です。

 CEATEC全体、およびグローバルパークでの出展国数は今後発表しますが、しっかりとした手ごたえを持っています。

OpenAI Japan長崎社長、いすゞ自動車片山会長、パナソニック津賀会長が講演「見て・聴いて・感じて・考えて・動き出す」CEATEC体験を

――主催者側では、CEATEC体験として、展示を「見て」、コンファレンスを「聴いて」、未来の社会を「感じて」「考えて」、共創に向けて「動き出す」ことを掲げています。その点では、展示会と並んで、コンファレンスが重要な柱になりますね。

[鹿野氏]今年は、コンファレンスの目玉として、25周年特別セッション「未来を創るAI:イノベーションと挑戦」を開催します。

 OpenAI Japanの長﨑忠雄社長による「Open AIが拓く未来」と題した講演は、幕張メッセコンベンションホールBで、約500人の聴講が可能です。また、「サスティナブルな社会の実現に向けて~多様なフロントランナーが思いを語る~」をテーマに、いすゞ自動車の片山正則会長CEOや、パナソニック ホールディングスの津賀一宏会長などが登壇することになります。

 さらに、「AI」や「DX」、「5G/6G」などテクノロジーに関する約200のコンファレンスを行い、主催者企画展示と連動して会場内の4つの特設ステージにおいてもセッションを行います。会場内の特設ステージは、昨年も満席が多く、今年も興味深いテーマが目白押しです。

 さらに、オンラインセッションは、10月1日から先行して公開し、来場登録者であれば、10月31日まで聴講することができます。ぜひ、事前に聴講予約をしていただき、CEATEC体験をより有意義なものにしていただきたいと思っています。

「CEATEC AWARD」でもAIに注目?

――今年のCEATEC AWARDへの応募では、どんな傾向が出ていますか。

[鹿野氏]応募数はほぼ横ばいですが、AIに関連したものが3分の1程度を占めています。また、ソリューションの応募が少し減少する一方で、デバイスや製品の応募が増加しています。コロナ禍で停滞していたデバイスや製品の開発が加速していることの証といえるかもしれません。

 大手企業だけでなく、スタートアップ企業の応募も増加していますし、グローバル部門への応募も少しずつ増えています。

今年も進む環境配慮、リサイクルできる材料なども利用が進む

――CEATECでは、環境配慮にもこだわった展示会を目指しています。今年はどんな取り組みを行っていますか。

[鹿野氏]主催者側の展示では、リサイクルできる材料を使用したり、会期中に使用する電力を削減したりといった取り組みを行っています。ラウンジや受付などに使用する電力は、再生可能エネルギーを使用しています。

 また、出展企業でも、リサイクル可能なブース設計にしてもらったり、木材を使用せずに、ファブリック素材やリユース素材を積極的に採用したりといったことをお願いしています。中央エントランスに設置するCEATECのロゴマークは、記念撮影にも使用していただけますが、初めてファブリック素材を使用して、ロゴを印刷する方法にしました。再利用ができるようにしています。環境に対しては、まだまだ取り組まなくてはならないことが多いのですが、一歩ずつ進めながら、毎年毎年進化させたいですね。

AIを「見て」「感じて」共創してほしい

AIが大切なのではなく、AIを「どう使うか」が大切です(鹿野氏)

――今年は、どんな「CEATEC体験」ができますか。

[鹿野氏]今年は、AIに関連する展示が多いですから、CEATECでしか体験できないAIを「見て」、「感じて」もらいたいですね。

 企業や人によって、必要とするAIは異なります。その振れ幅を広くカバーできるAIをCEATECで見つけてもらえるのではないでしょうか。CEATECは未来に向けた羅針盤となる展示会です。AIが大切なのではなく、AIを「どう使うか」が大切です。そこを見ていただきたいですね。

 CEATECは、来場者と出展者の出会いと共創、出展者同士の出会いと共創が鍵になります。CEATECは出展者同士の交流も盛んで、ここにCEATECの付加価値があります。

 技術やモノを見るだけでなく、来場者や出展企業が、未来の社会を「考えて」、共創に向けて「動き出す」ことを期待しています。