地図エンジニア達のWork From Hokkaido

第1回:札幌は“ほどほどに都会”で移住しやすい土地?

「テレワーク時代のリアル移住」体験者の地図エンジニアに聞く

株式会社MIERUNEの札幌オフィスが入るクリエイター支援施設「インタークロス・クリエイティブ・センター(ICC)」

新型コロナウイルス感染症の流行にともなってテレワークが普及し、場所に制約されない新しい働き方が模索されつつあるなか、地方への移住が選択肢の1つとして注目されている。とはいえ、それまでの居住地・勤務地から遠く離れて新天地へ移住するのはそう簡単に決められるものではないし、不安もある。

北海道を拠点にGIS(地理情報システム)などの事業を展開する株式会社MIERUNEは、新型コロナ以前から数年にわたり、首都圏での勤務経験を持つエンジニアを受け入れてきたITベンチャーだ。実際に同社に転職し、北海道に移住したエンジニア達は、どのような理由で移住を決意し、そこでどのような生活を送っているのか? また、そもそも地方でITベンチャーとして起業・ビジネス展開するとは、どういうことなのか? 同社の3人のエンジニアと、代表取締役の朝日孝輔さんに話を聞いた。(全6回)

札幌と旭川に拠点、「MIERUNE」って何をしている会社?

 MIERUNEは、2016年に朝日さんら3名によって創業。現在、札幌と旭川にオフィスを持つ。同社が提供するのは、位置情報に関するオープンデータやビッグデータを活用したGISによる可視化・解析サービス、オープンソースGISソフトウェア「QGIS」を導入しやすくカスタマイズしたパッケージ版や有償サポート、スイス発の地図配信サービス「MapTiler」の日本版である「MapTiler.jp」など、地理空間情報に関するさまざまなサービスだ。

 FOSS4G(Free Open Source Software for GeoSpatial:オープンソースの地理情報ソフトウェア)に関する豊富な知識とノウハウを武器に、地理空間情報に関する幅広いサービスを手掛ける同社は、2020年1月、前述したMapTilerとの提携を機会にビジネスを新たな段階へと発展させた。それ以前は「MIERUNE地図」という独自の地図コンテンツを提供していたのが、グローバルな地図サービスであるMapTilerへと全面的に移行したのだ。

株式会社MIERUNEのウェブサイト

「新しい土地に行くのが好きな性格」データ解析に興味持ち転職した元CADエンジニア

 ビジネスの拡大を進めてきた同社では、エンジニアやデザイナーなど、人材の採用に積極的に取り組んでおり、ここ数年の間に、首都圏での勤務経験を持つエンジニアを何人か受け入れてきた。

 そのひとり、三宅光葉さんは、2018年10月にMIERUNEに入社。前職は建設コンサルタントのパシフィックコンサルタンツ株式会社でCADエンジニアを務めており、下水道の敷設などを担当していた。

 「人口の多いエリアに管路の敷設を優先させるなど、全体的な図面の計画を立てるのが仕事で、メインで使うのはCADでしたが、あるとき、顧客からGISのデータを渡されたことがありました。GISのデータは通常、外注で図面を作ってもらっていたのですが、たまたま自分でやってみようと思い立って、インターネットでノウハウを調べていたら、MIERUNEの社長である朝日さんのブログを見つけたのです。そのブログでMIERUNEが人材を募集していることを知り、それで興味を持ちました。」

三宅光葉さん

 折しもデータ解析に興味を持っていた三宅さんは、新しい土地に行くのが好きということもあり、2年半勤めたパシフィックコンサルタンツを辞めて、MIERUNEへの転職を決めた。

 「私は茨城出身で、大学時代に東京に住み始めたのですが、在学中は多摩地区、社会人になってからは江戸川区や板橋区など都内で引越しを繰り返していました。1つの所にずっといると、ムズムズして新しいところに行きたくなる性格なんです。札幌はやたらと公園が多くて、緑が豊富で良いところです。いわゆる“田舎”と“都会”のちょうど中間くらいの雰囲気が私の肌には合っていて、好きですね。通勤ラッシュが少ないのも魅力で、いまはオフィスまで歩いて通える範囲のところに住んでいるので快適です。札幌って“ほどほどに都会”なので、東京から来るのには移住しやすいと思います。私みたいに新しい土地への興味があるタイプの人は、地方企業への転職を楽しめるのではないでしょうか。」

 「仕事を軸に移住しているので、社外での新しい交友関係を築くのは難しいです。札幌の場合は“地域に溶け込む”というほどの規模の地域コミュニティでもないので。趣味のサークルなどに入るなど、積極的に自分から動く必要はありますね。この辺はちょっと苦労してます。」

 現在は希望だったデータ解析の業務を担当するほか、英会話が趣味という強みを生かして、MapTiler社との連携窓口となり、MapTiler.jpのセールスや、MapTilerのQGISプラグインの開発も担当している。1つの土地に長く住むと“ムズムズする”性格とはいうものの、いまは腰を据えて業務に取り組んでいるという。

 「私がMIERUNEに入ったころは、まだ会社の規模も小さくて、そこから大きくなっていく過程を見ることができたのがすごく良かったと思います。MIERUNEはいまもどんどん成長していますし、そのなかで、エンジニアが新しくやりたいと思ったことにチャレンジできるところがすごくいいと思います。」

第2回に続く)

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。