地図エンジニア達のWork From Hokkaido

第3回:「緯度による日照時間の差」が意外な悩み?

結婚を機に札幌へ移住・転職した元・楽天のサーバーエンジニア

株式会社MIERUNEの札幌オフィスが入るクリエイター支援施設「インタークロス・クリエイティブ・センター(ICC)」

新型コロナウイルス感染症の流行にともなってテレワークが普及し、場所に制約されない新しい働き方が模索されつつあるなか、地方への移住が選択肢の1つとして注目されている。とはいえ、それまでの居住地・勤務地から遠く離れて新天地へ移住するのはそう簡単に決められるものではないし、不安もある。

北海道を拠点にGIS(地理情報システム)などの事業を展開する株式会社MIERUNEは、新型コロナ以前から数年にわたり、首都圏での勤務経験を持つエンジニアを受け入れてきたITベンチャーだ。実際に同社に転職し、北海道に移住したエンジニア達は、どのような理由で移住を決意し、そこでどのような生活を送っているのか? また、そもそも地方でITベンチャーとして起業・ビジネス展開するとは、どういうことなのか? 同社の3人のエンジニアと、代表取締役の朝日孝輔さんに話を聞いた。(全6回)

東京→札幌移住の意外な悩み? 辛かった「緯度による日照時間の差」

 2019年12月に入社した茂手木愛美さんは、前職が楽天株式会社。サーバーエンジニアを担当し、都内に住んでいたが、結婚を機に札幌へ移住した。

 「夫は札幌在住で、『FOSS4G Hokkaido』の実行委員長を務めており、彼に朝日さんを紹介してもらったのが縁でMIERUNEに入社しました。この会社に決めた理由は、自分が前に楽天でサーバーエンジニアをやっていて、そのスキルを生かせそうだと思ったからです。現在は地図タイルを配信するAPIや、バックエンド部分の開発や運用を担当しています。MIERUNEはスタッフひとりひとりが大人で、それぞれ自分で考えて動ける人が集まっているので、とても働きやすいですね。」

茂手木愛美さん

 本連載で紹介するなかでは唯一、車で通勤しているという茂手木さん。大学時代は福島県の会津大学に通っていたため、雪国には慣れており、札幌での生活にはほとんど抵抗はなかったという。

 「近所にスーパーもあるし、思ったよりも暮らしやすいと思いました。車はこちらに来てから乗り始めるようになったのですが、除雪もしっかりしているし、雪道運転も毎日していたら慣れました。こちらに来てからスキーも始めましたし、以前から釣りも好きだったので、継続して楽しんでます。新型コロナウイルスの問題が起きたため、東京にいる友人になかなか会いに行けないのは寂しいですが、基本的に私の場合、友人とはSNSで交流しているので、そういう意味ではリアルな距離の近さはあまり必要ないのかもしれません。」

 一方、茂手木さんは遠く離れた土地へと移住する上での、意外な悩みについても語った。

 「東京から北海道に引越して辛かったものの1つに、緯度による日照時間の差があります。ヨーロッパの緯度に近い札幌は夏の日がとっても長いです。6月後半の夏至近くになると、東京と札幌の日照時間の長さが1時間ほども差があり、東京から来た私にはとても日の出が早く、また、日の入りが遅く感じられました。実際、朝は4時ごろに目が覚めてしまい、夜の10時ごろには眠たくなっていました。また、関東の感覚で暗くなってからスーパーへ18時ごろに行こうと思っていたら、19時半を過ぎてしまうこともしばしばでした。日照時間の関係で、体のリズムが崩れることは覚悟しておいたほうがいいかもしれません。」

株式会社MIERUNEのオフィス。現在はテレワーク導入のため、人は少ない

 茂手木さんはエンジニアの知り合いも多く、知り合いにも地方へ移住した人が何人かいるという。

 「もともと地方出身で、田舎が好きという理由で移住するエンジニアはよくいます。なかには“農業に携わるエンジニアリングをしたい”とか、目標を持って地方の企業へ転職する人もいますね。会津大学で知り合った友人で、一度東京に行ったけど、東京には肌が合わなかったために別の地方都市に行った人もいました。いったん地方に行ったあとに、東京に戻りたいと言っている人はあまり見ないですね。みなさん転職先で楽しんでいるようです。」

 第1回で紹介した三宅光葉さん、第2回の西林直哉さん、そして今回の茂手木さんの3人に共通しているのは、札幌に移住してからスキーを始めたこと。その土地ならではの趣味を見つけ出して楽しめることこそが、地方への移住に必要な資質なのかもしれない。

第4回に続く)

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。