地図エンジニア達のWork From Hokkaido

第6回:地方は住宅事情はいいが、給料は……

移住・転職は「どこでも行けるよ」くらいの覚悟で!

株式会社MIERUNEの札幌オフィスが入るクリエイター支援施設「インタークロス・クリエイティブ・センター(ICC)」

新型コロナウイルス感染症の流行にともなってテレワークが普及し、場所に制約されない新しい働き方が模索されつつあるなか、地方への移住が選択肢の1つとして注目されている。とはいえ、それまでの居住地・勤務地から遠く離れて新天地へ移住するのはそう簡単に決められるものではないし、不安もある。

北海道を拠点にGIS(地理情報システム)などの事業を展開する株式会社MIERUNEは、新型コロナ以前から数年にわたり、首都圏での勤務経験を持つエンジニアを受け入れてきたITベンチャーだ。実際に同社に転職し、北海道に移住したエンジニア達は、どのような理由で移住を決意し、そこでどのような生活を送っているのか? また、そもそも地方でITベンチャーとして起業・ビジネス展開するとは、どういうことなのか? 同社の3人のエンジニアと、代表取締役の朝日孝輔さんに話を聞いた。(全6回)

コロナ禍のテレワーク環境のなかで始まった毎日の朝会と昼回

 新たなサービスとして「MapTiler.jp」がスタートし、「MIERUNE地図」を利用していた顧客も新サービスへと移行して順調な滑り出しを見せた2020年春、新型コロナウイルスの問題が起こった。MIERUNEでは4月から5月にかけては、ほぼ全てテレワークとなり、現在も週の多くはテレワークとなっている社員が多い。

 このテレワーク期間中に新たに毎日の恒例行事として始まったのが、朝9時から始まる「朝会」と、午後3時から行う「昼会」だ。朝会は全員参加で、昼会もミーティングなどと重ならない限りは、できるだけ参加するように呼び掛けている。この会合では、注意事項を共有したり、スケジュールを確認したりする。また、司会をサイコロで決めて、休日の思い出や気になったことなど、自由に小話を話す機会も設けられている。

 「オフィスが札幌と旭川で離れていることもあり、全員で顔を合わせてミーティングするのは2週間に1回の全体ミーティングだけだったのですが、朝会と昼会を始めてからは、必ず毎日全員で顔を合わせるようになり、なかなか新鮮でした。朝会文化ができたのは、テレワークになって良かった点の1つです。」(第3回に登場した茂手木愛美さん)

コロナ禍の前はオフィスでランチパーティーを開催することもあった。現在はこのような集まりが朝会・昼会に置き換わっている。

 「それまでは朝の出勤時間もスタッフがそれぞれバラバラだったのですが、テレワークになってからは『出勤しなくてもいいから、朝は顔を合わせましょう』ということになりました。ただし、完全にリモート環境だけでは難しい部分もあります。私自身、面白いと思ったことはどんどん人に共有するようにしていて、それに対して誰かが食いついてくれればいいと思っていますが、リモート環境ではみんなに熱量が伝わらないこともあります。だから、週に一度くらいは、みんなが集まってディスカッションするとか、そのような文化は残していきたいと考えています。」(朝日さん)

「テレワーク移住」時代、競争にさらされる地方のベンチャー。地域密着か、技術で売るか――の選択が大切

 オープンソースソフトウェアのコミュニティとのつながりを武器に、グローバルな地図サービスの提供へと一歩を進めたMIERUNEに、これから地方都市への転職を検討している人に向けたアドバイスを聞いてみた。

「地方への転職となると、やはり首都圏に比べて給与は減ることが多いです。地方の方が住宅事情はいいですが、それ以外ではそんなに生活費は変わらないかもしれません。地元企業としては、テレワークを取り入れる首都圏の企業が増えてくるなかで、それと同等とまではいかなくても近い金額を出せるビジネスモデルを作って行かなくてはいけないと考えています。また、これから地方への転職を考えている人は、違う土地への移住や転職に対して、期待しすぎるのも良くないと思います。『日本国内ならどこにいっても環境はそんなに変わらない』と考えるくらいでいいのではないでしょうか。『どこでも行けるよ』くらいの覚悟がある人の方がうまくいくと思います。」(朝日さん)

 一方、地方において起業を検討している人へのアドバイスとしては、以下のように語る。

 「テレワークやオンライン会議が一般的になってきており、企業が地方にあることのハンデは小さくなってきています。ただしその分、厳しい競争にもさらされることになるので、ローカル企業は地域に密着するのか、ニッチな分野でいいので技術で売るのか――の選択が大切になります。私の場合、オープンソースのコミュニティを活用しましたが、起業に際しては、全国的なネットワークのなかで『この人・企業は何ができる』ということを広められると楽にスタートできると思います。」(朝日さん)

株式会社MIERUNE代表取締役の朝日孝輔さん

 MIERUNEの社員数は現在13名で、人材を募集中だという。募集している職種は、ウェブデザイナー、地図デザイナー、フロントエンドエンジニア、地図データ配信エンジニア、QGISエンジニアなど多岐にわたる。

 「ブログでもいいし、GitHubでもよくて、何かしらアウトプットがある人が良いですね。たとえオープンにしていなくても、『こういうことをやった』と言える人が欲しいです。札幌のIT企業は、東京の企業の下請けをやっているところも多いのですが、当社としては地図タイルのような独自の製品を出していかなくてはいけないと考えているので、それを踏まえて自分で考えて動ける人を必要としています。ここ数カ月の間、リモート環境でも仕事を回せることが分かってきたので、ぜひ日本中の方に応募していただきたいと思います。」(朝日さん)

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。