地図エンジニア達のWork From Hokkaido

第4回:北海道は土地が広い→位置情報の利用も活発!?

なぜ北海道でGISベンチャーを起業したのか――ルーツは「FOSS4G Hokkaido」

株式会社MIERUNEの札幌オフィスが入るクリエイター支援施設「インタークロス・クリエイティブ・センター(ICC)」

新型コロナウイルス感染症の流行にともなってテレワークが普及し、場所に制約されない新しい働き方が模索されつつあるなか、地方への移住が選択肢の1つとして注目されている。とはいえ、それまでの居住地・勤務地から遠く離れて新天地へ移住するのはそう簡単に決められるものではないし、不安もある。

北海道を拠点にGIS(地理情報システム)などの事業を展開する株式会社MIERUNEは、新型コロナ以前から数年にわたり、首都圏での勤務経験を持つエンジニアを受け入れてきたITベンチャーだ。実際に同社に転職し、北海道に移住したエンジニア達は、どのような理由で移住を決意し、そこでどのような生活を送っているのか? また、そもそも地方でITベンチャーとして起業・ビジネス展開するとは、どういうことなのか? 同社の3人のエンジニアと、代表取締役の朝日孝輔さんに話を聞いた。(全6回)

ルーツは「FOSS4G Hokkaido」、地理空間情報のオープンソース系イベントを北海道で開催

 東京都内から転職してくるエンジニアが年々増えているMIERUNE。同社のルーツは、代表取締役の朝日さんや、取締役の古川泰人さんらが2012年から定期的に開催しているカンファレンス「FOSS4G Hokkaido」にある。同イベントがスタートする以前、FOSS4G(Free Open Source Software for GeoSpatial:オープンソースの地理情報ソフトウェア)のイベントは東京や大阪を中心にカンファレンスや勉強会が行われていたが、朝日さん達は、これを北海道で開催できないかと考えた。

 「北海道は農業関係や野生生物の研究などにおいてGISの活用が進んでおり、土地が広いため、位置情報を活発に利用しているという土壌がありました。その当時、東京で開催されたFOSS4Gのイベントで、北海道在住者が意気投合し、『これは北海道でも開催できるよね』という話になりました。『北海道からみんなで東京に行ってイベントへ参加するのは大変だから、それなら北海道でイベントを開催して、面白いことをやっている人を北海道へ呼んで来ちゃおう』というのがコンセプトです。国土地理院の方やGISに関する研究者やエンジニアなど、さまざまな人を呼びました。北海道でも以前からオープンソース系のイベントは開催されていましたが、地理空間情報という1つの分野に絞って開催されているのは珍しいと思います。」

株式会社MIERUNEの札幌オフィスが入る「インタークロス・クリエイティブ・センター(ICC)」で開催された「FOSS4G Hokkaido 2019」
FOSS4Gに関心のある人同士で活発な交流が行われる
FOSS4GではQGISなどソフトウェアのハンズオンセミナーも開催される

オープンソースコミュニティのつながりで仕事を獲得、官公庁の仕事も少しずつ増加

 当時は旭川の地図会社である北海道地図株式会社に勤務していた朝日さんは、このようなFOSS4Gコミュニティとの関わりのなかでビジネスにつながることが増えてきたこともあり、「オープンソースソフトウェアやオープンデータを活用して、身近な問題の解決に貢献したい」という思いから、2016年にMIERUNEを創業した。

 「もちろん起業するにあたって最初は不安もありましたが、FOSS4Gコミュニティのつながりに助けられていることもあり、大きくは心配していませんでした。最初は道内の企業ではなく、道外にあるコミュニティの知り合いの企業から仕事をいただいている状態で、官公庁の仕事などが少しずつ増えていきました。開始時の課題としては、どうしても年度末をひと区切りとした仕事が多く、1年のうちで入金の時期が固まるため、そこまでどうやって資金繰りするか苦労したことですね。官公庁相手の年度末へ向けての案件だけでなく、一般企業向けのサービスをいかに展開していくかが初期の課題で、講習会などを開催して少しずつ顧客を増やしていきました。」

 MIERUNEは、2016年に創業して間もなく、GISのシステム開発やデータ分析、サポートサービスだけでなく、自ら「MIERUNE地図」という地図データの配信を開始した。これは、フリーな地理空間情報を市民の力で作る世界的なプロジェクト「OpenStreetMap(OSM)」のデータをもとに、MIERUNE独自の見やすい地図デザインを採用したものだ。OSMのデータを使用しているため安価で、オフライン使用が可能など、ライセンスの自由度が高い点が開発者に支持され、手軽な背景地図として多くのサイトやシステムなどに導入された。

第5回に続く)

「MIERUNE地図」

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報トラッキングでつくるIoTビジネス」「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。